2014.07.13
科学者もまた人間である――『背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか』他
『背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか』(講談社)/ウィリアム・ブロード ニコラス・ウェイド著 牧野賢治訳
クラウディオス・プトレマイオス、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン……私たちが「偉人」と信じてやまない数多くの科学者の功績に、実は不正の疑惑があることはご存知だろうか?
今年1月末の発表、そして直後の論文の捏造・改ざん疑惑を端に発したSTAP細胞に関する一連の騒動は、いまでは科学者個人に留まらず、研究機関あるいは科学そのものへ嫌疑の目が向けられつつあるように感じる。とはいえ、まだ初期の段階では、今回の不正は、非常に特殊な科学者による非常に特殊なケースとして受けとめていた人も多かったためか、科学者個人をただ叩いている人がいまでも少なからずいるように見える。
もはや今回の問題は、単に科学者個人の問題として受け止めるだけでは十分でないだろう。論文の捏造は決して、ごくまれな特殊なケースではなく、ありふれたよくあることの可能性が十二分にあることを、本書は書き示している。紹介される不正行為は、プトレマイオスから現代まで、他人の論文をおよそ60編も盗用し科学者面していた詐欺師から、データが正確すぎることで不正に気付かれた科学者、教科書にのっているような偉大な科学者の不正行為まで、ありとあらゆるものだ。
競争が激化することで、論文が立身出世のための道具に過ぎない状況が生み出される。数多くの功績をのこした科学者と無名の科学者では、その評価にばらつきが生まれる。データから自分の希望通りのものを見出してしまう。社会の偏見がデータに投影されてしまう。師匠と弟子という絶対的な関係……。
どんなに偉大な科学者であろうと人間であることにかわりはない。なんらかの強烈な誘因が働くことで、あるべき科学の道から足を踏み外してしまうことは誰にでもありえる。そして、その誘因を働かせるような制度的な問題があり、行われた不正を十分にチェックしきれない制度的な問題がある。
まっとうに研究を行っている科学者がいるなかで、不正行為を行う科学者が問題視されるのは当然のことだ。だが、ただ科学者個人を叩くだけでは、同様の不正を防ぐ十分な対策にはならないのではないか。
今回の騒動を受けて緊急再刊された本書。今後、一連の報道をどのように見守っていくべきか、その道しるべとなってくれるに違いない。この機会にぜひ手に取っていただきたい。(評者・金子昂)
『かいけつゾロリの大まじんをさがせ!!』(ポプラ社)/原ゆたか
累計3200万部売れている、驚くべき児童書がある。その名も『かいけつゾロリ』シリーズ。読んだことがなくても、一度はその名を目にしたり耳にした人が多いはずだ。今回オススメするのは、その最新作『かいけつゾロリの大まじんをさがせ!!』である。
児童書なんて、いまさらオススメされても……と、思う人もいるだろう。しかし、『かいけつゾロリ』は大人になっても楽しめる本であること間違いなしだ。
ちなみに、私は小学生から、かいけつゾロリシリーズの大ファンである。東京に住んでいる伯母の「東京に来たら、どこに行きたい?」という問いに、真っ先に出版元である「ポプラ社!」と答えていた。夢の国に行けば、ねずみのキャラクターに会えるように、ポプラ社に行けば、ゾロリに会えると思っていたのだ。伯母が微妙な顔をしていたのを今でも覚えている。私が伯母でも微妙な顔をするだろう。
それから、段々と成長していくにつれ、出版社にゾロリがいないことも分かってきたし、かいけつゾロリ自体に対する興味も薄くなってきた。成長と共にゾロリ離れが起こってしまったのだ。児童書であるし、それは仕方ないことのような気がしていた。
しかし、成人してから、たまたま手に取った『かいけつゾロリ』を読み、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。なんて面白いんだ!!! ところどこに張り巡らされた伏線の数々は上手に回収されていくし、時事ネタも適度に取り入れている。さらに、ピンチの時にはおならやオヤジギャグで切り抜ける馬鹿馬鹿しさ。ページをめくるのが止まらなかった当時の感覚が鮮烈に思い出された。かいけつゾロリには、子供のころに面白いと思っていたものが、全部詰め込まれている。
最新作『大まじんをさがせ!!』では、大まじんの策略によって、ランプに閉じ込められてしまったゾロリたちが、大まじんを探す冒険を描く。これも、ページをめくる手が止まらない良作だ。さらに本書には、「1まいでは きれないのに、たくさん あると きれるもの」がプレゼントとしてついてくる。それが何なのかわくわくして気になった方は、ぜひ手に取って確認してもらいたい。あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず吹き出してしまうはずだ。(評者・山本菜々子)
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