2011.11.29
AMP MUSIC、アフリカのインディーズ音楽を世界で販売するという挑戦
アフリカから、世界へ。
「これはフェアな方法だ。だって自分たちの音楽であろうとマイケル・ジャクソンであろうと、同じように並ぶんだろう?」
今年2月、わたしたちはAMP MUSIC(アンプミュージック)という音楽レーベルを立ち上げた。アフリカのインディーズミュージシャンの音楽を、インターネットを通じて、世界中の音楽ファンに届けようというものだ。
第一弾として売り出したのは、ケニアの首都、ナイロビの東端にあるKorogochoスラム(通称Koch:コッチスラム)の若いミュージシャンたちの音楽。10代後半から20代の22組だ。彼らは、日雇いや小商いや臨時の仕事をして生計を立てながら、それぞれ売るあてもない音楽をつくってきた。
彼らのつくる音楽は、人びとがアフリカと聞いて思い浮かべる伝統音楽とは違い、ローカルのいまどきの若者たちが生活のなかで楽しんでいるポップスやヒップホップだ。ナイロビは、周辺の東アフリカ諸国からミュージシャンたちが夢をもって上京してくる音楽集積地で、クラブも音楽スタジオもたくさんあり、新しいアフリカ音楽が生まれる土地である。伝統音楽をベースにしながら、文化的に関係深いインド、アラブの音楽、そしてグローバルな音楽の影響を受けたケニアンポップスは、そのミクスチャー具合が独特でとても面白い。新しい音楽を探している音楽ファンにはたまらないものだろう。
音楽のネット販売は、iTunesのような売り切り販売型だけでなく、Spotifyのような定額購買型のサービスが普及しはじめ、Facebookやgoogleも参入している現在ホットな分野である。日本で使われているiTunesとamazon以外にも、世界には約400の、インターネット上で音楽を合法的に販売するサイトがある。AMP MUISICはこれらのほぼすべてで販売を行っている。つまり、Kochのインディーズミュージシャンたちは、世界デビューを果たしたのだ。冒頭の言葉はKochで聞いた言葉。その通り、売るあてもなかった彼らの音楽はいまや、アメリカからもイギリスからも、マイケル・ジャクソンと並んで選ばれ、買われることができるようになった。
「スラムには、音楽と夢がある。わたしたちはそれを世界へ届ける。」
音楽が売れない、音楽でミュージシャンが生活するのは難しい、とされている。デジタル化による低価格化、購買行動の変化、それに比して重厚な業界構造によるものだ。CDの売価のうち、ミュージシャンに分配されるのは通常10%程度に過ぎない。CD販売数が減少しているからこそ、業界は確実に売れる人にのみ資本を投下して確実な回収を目指す。新しい多様なミュージシャンが世にでて、生活できるだけの収入を得るのは難しい状況にある。これは、多様な音楽を聴きたい音楽ファンにとっても不幸なことだ。
Kochのミュージシャンたちの場合はさらに、スラムの住人だという偏見や信用欠如、市場アクセスへの障壁も加わる。彼らは「だって俺らはghettoの人間だから」と言う。
彼らの曲は、メッセージ性が強いものや、実生活にもとづいたものが多い。音楽というものが、生活や人生にとって強く必要とされている、彼らの生活環境が反映されている。
あるミュージシャン(Ghetto ExaltersのCharles)がドラッグを使いはじめたのは、6歳だったという。「周りもみんな使ってたよ。でも13歳のとき、一番大事な友達が、死んだ。それ以降、俺はドラッグはやめたんだ、と言う。ドラッグを使えばつらいことを忘れられるし自由になれると、みんな言う。それはうそだ。ドラッグなんか使うな、ということを伝えたくて音楽をやってるんだ。クールな音楽にしたら、みんな耳を傾けてくれるだろう?」
彼も売るあてもないのに、日雇いの工事労働などをして貯めた金でスタジオ代を払い、CDを製作していた。ゴスペルとヒップホップのミクスチャーという意欲的な作品だ。すでに音楽をつくることができる彼に必要なのは、ただ、代わりに信用保証をし、市場へのアクセスを開くディストリビュータだ。
あるミュージシャン(Philip Noldan)は、音楽で身を立てると決心してから、9年が経っている。24歳。亡き父はリンガラ(東アフリカ特有の音楽ジャンル)のギター奏者、母はシンガーである音楽一家に生まれ、兄弟6人はみな音楽に関わっていたが、いま音楽をつづけているのは彼だけだ。他の家族は、生活の失意や絶望でドラッグやアルコールで身を崩したり、あきらめたりしてしまったからだ。
彼は仲間とサッカーボールや靴、Tシャツを製造販売する商売をして、生計を立てている。スラムでは雇用を得るのが難しいため自営業者が多いが、収入は不安定で十分でなく、働いて暮らしのあてをつけるだけで精一杯になる。よって、彼らは意外と忙しい。そのような暮らしのなか、彼は朝5時に起きてランニングをし、1日3時間を歌の自主レッスンにあててきた。ドラッグはもちろん、酒もタバコもしない。音楽を仕事にし、家族を持てる日を夢にみている。
「ナイロビのラジオ局に売り込みに行ったことは何度もあるよ。まずレセプションで相手にされない。ようやく会えても、彼らは曲を流して欲しいなら口利き料を払えというんだ。断ったよ。自分は、自分の音楽の良さで認められたい。」
インディーズのミュージシャンたちが望んでいるのは、彼らの音楽が人の耳に触れ、評価を受けることだ。下駄を履かせて欲しいわけではない。結果は受け入れる。音楽で判断される、市場ベースのフェアな勝負をしたいのだ。
聴き手の方でも、新しい音楽を聴いてみたい、欲しいという人は世界中にいるだろう。つくれる人がいて欲しい人がいながら、それが届かないのは、誰にとっても非効率なことだ。
だからわたしたちは、iTunes等音楽販売サイトを通じて彼らの音楽を世界へ届けられる道筋をつくった。売上を手にできるかどうかは、ミュージシャンのつくる音楽と販促を請け負うわたしたちへの顧客からの評価次第というものだ。インターネット販売をベースにすれば、中間に入る事業者を絞ることで利益率を上げ、ミュージシャンに通常より多い分配率を払うことが可能になる。ミュージシャンは得た売上を生活の安定や、次の作品づくりに費やすことができる。ミュージシャンが勝負に参加できる入り口をつくったのだ。
インディーズのミュージシャンが、世界で戦えるモデルをつくる
アフリカのスラムの人びとに対しては、いろんな支援プログラムがある。エンパワメント、能力開発、生計獲得、起業支援プログラムなど数多い。しかしまず正すべきは、彼らの能力よりも、市場の非効率ではないだろうか。穴を埋め市場を効率化するビジネスを、わたしたちはやりたい。
デジタル化されてしまった音楽という商品は、いままでと違う売り方をしていかなければいけない。音楽ビジネスはいま難しい局面を迎えており、わたしたちもいつまでもiTunesで売っていればよいとは思っていない。音楽は、デジタル商品になると在庫コストもなければ輸送コストもほとんどいらない。製造工程が不要で不良品も発生しない。プロモーションのコストは下がっている。ロングテール商品で、言語国境を超えることができ、世界という規模を市場とするから大外しはしない。ファンができればリピーターとなる。リスクが小さく継続的に売り上げられる、新しいビジネスモデルを今後、つくっていけるはずだと考えている。
そしてわたしたちは、できるだけ多くのミュージシャンの音楽を扱っていきたい。いままで発売した3枚のアルバムがすべてコンピレーションアルバムなのもだからだ。幸いなことに、ミュージシャン候補はいくらでもいる。先日Kochで説明会をしたら、次から次へとミュージシャンがやってきて、わたしたちの手元にはすでに50曲近いストックがある。別の地域で新たに契約したいという話もきている。求める人が潜在的に存在したビジネスだったんだと思う。
福島で活動している人が、アルバムを買ってくれた。子どもたちのために開いている補習学習会で、AMP MUSICの音楽をかけてくれているという。Kochスラムの光景が浮かぶ。学校に行けず働く若者たち。音楽が好きで、音楽に希望を託して生きている。その彼らがつくった音楽が、福島で戦っている子どもに渡る。音楽は、人種も思想も距離も超えて届く。
わたしたちとミュージシャン、現地パートナーのあいだで、合言葉にしているのは、「タレント(能力)のある人に、タレントに応じた適正な対価がわたる仕組みを」だ。インディーズのミュージシャンが、世界を相手にビジネスを行っていけるようなモデルをつくりたい。そしてそれは、つくる人と欲しい人を効率的につなげられるような、音楽ファンにとっても便益があるモデルになるはずだ。
AMP MUSIC(アンプミュージック)
アフリカ発のインディーズ音楽をインターネットを通じて世界で販売する音楽レーベル。現在のところコンピレーションアルバム3枚(JOY、STREET、MOON)を販売中。これから1月までのあいだに、ソロアルバムを2枚(1枚は本文で紹介したPhilip Noldanのレゲエアルバム)と、4枚目のコンピレーションアルバムを新たに発売する予定。
公式サイト:http://amp-music.net/ (わたしたちがこのようなビジネスをはじめた理由や音楽、ミュージシャンたちのプロフィール紹介があり、試聴もできます)
Twitter: @ampmusic_jp
iTunes:http://bit.ly/nYrQlp (検索ワードは”Koch musicians”)
amazon.co.jp:http://amzn.to/qSyMDw
YouTubeチャンネル:http://www.youtube.com/user/ampmusiclabel
プロフィール
梅本優香里
AMP MUSIC共同創設者、経営コンサルタント、開発学系大学院在学中。アフリカを軸に、コンサルタントとしては日本企業のアフリカ事業立ち上げ支援を、大学院生としてはアフリカの職業訓練、労働市場、産業育成をテーマとしている。「しごとをつくる」が関心領域。