2016.07.02
政党・候補者の地方政策を評価する、5つのポイント
6月22日公示、7月10日投開票の第24回参議院議員選挙。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから最初の投票となります。シノドスでは「18歳からの選挙入門」と題して、今回初めて投票権を持つ高校生を対象に、経済、社会保障、教育、国際、労働など、さまざまな分野の専門家にポイントを解説していただく連載を始めます。本稿を参考に、改めて各党の公約・政策を検討いただければ幸いです。今回は、地域政策の視点から木下斉さんにご寄稿をいただきました。(シノドス編集部)
はじめに ――何事も「早すぎる」なんてことはない。
18歳の皆さんの多くは参議院議員選挙が初めての選挙かと思います。
少しだけ私の話をすると、高校三年、18歳の夏というのは、人生で初めて会社経営を任された年でした。全国から1245万の出資金を集め発足した、商店街の活性化を目指すための会社です。実は、地域分野の事業や政策に高校1年の頃から携わってきました。
「18歳の高校3年生に会社経営を任せるなんて早過ぎる」なんてことを、山程言われました。もちろん、順分満帆どころか前途多難かつ山谷激しい経験ではありましたが、18歳の時に経験できたからこそ、様々なことを感じ取ることができ、今の仕事に生きています。つまりは、何事も「早すぎる」だなんてことはないのです。
決して若いから考えが浅いなんてことはありません。むしろ、若い感性が、社会の進歩には極めて大切です。ぜひ18歳の皆さんには、周囲の大人たちに臆すること無く、堂々と政策議論をし、自分たちの判断に自信を持っていきましょう。
今回は、参議院議員選挙などの国政選挙とともに、今後皆さんの住む自治体などの各種議会選挙において、地域政策に関して候補者や政党を選ぶ際のポイントについて整理します。私の一意見に過ぎませんが、一つの判断材料として読んでいただければ幸いです。
(1) 「お金」と向き合っているか否か。
地方が衰退していく原因の第一位は、「お金」です。
衰退している地域の多くは、「お金」と向き合わない、「心あたたまる地域づくり」だとかそういうぼやっといた話ばかりをしています。
お金は一つの道具にすぎませんが、今の社会における価値交換の基本となる極めて便利な道具です。この道具をうまく使いこなし、地域の生活水準を向上できるか否か……これが地域政策の基本となります。
地域政策における「お金」について考える上で意識すべきなのは、「稼ぎ」と「消費」という2つの側面です。
まずは、「稼ぎ」について考えましょう。
地域が発展していくためには、まずその地域の人たちの「稼ぎ」がなければなりません。いくら絆がある、自然があっても、それを稼ぎに変えられなければ、人は生きていけません。だからこそ、地方の衰退は続いてきました。
ですので、地域政策の中核は「どのような産業で人々は飯を食っていくのか」にあります。しかも、今は職業選択、居住選択は自由なため、単に仕事があればいいわけではありません。いくら地域に仕事があるといっても、ブラックな環境で酷使させられるような仕事に誰でも就きたくはないでしょう。都市部よりも「相対的に有利な仕事」が地域になくてはなりません。一人あたりの平均所得を向上できるような生産性の高い地域産業を一つでも多く作り出せるかどうかにかかっています。
たとえば、漁業一つとっても、単に従来のように魚をとって市場に卸して……というだけではなく、地方にある空港を活用して、朝取れ魚を都内に直接出荷する。こうすれば、従来は安くしか買われなかった魚が、倍以上の金額で買ってもらえることも出てきます。つまり、従来と同じ仕事を同じようにやるのではなく、もっと稼ぎが増えるやり方に変えていく必要があります。そのモチベーションを生むような仕掛けが地域政策には求められます。
さらに、今ある仕事だけではなく、未来に向けて「新たな仕事を作り出す」ことが掲げられているかどうか、が極めて重要です。
もう一つは「消費」の話です。
儲かる仕事が地方にあるからといって、それだけで地域は繁栄しません。せっかくお金を稼いでもつかう場所が地域になければ、その稼いだお金は地元でつかえず、地域外にいってつかうことになります。つまり、地元にお金をつかうまともな場所がないといけません。
同時に、そのような消費の場が、地元の人たちの店であるかどうかも重要な要素です。もしチェーン店であれば、そこでの儲けは常に本社のある地域に流出してしまいますし、全国一括で材料などを仕入れられてしまって地元生産者や卸業者にはお金は落ちません。
それではどうしたらいいでしょうか。「プレミアム商品券」のようなものを配っても意味はありません。一時のカンフル剤にはなるかもしれませんが、根本の解決にはならないからです。
一方で、地域にある公園や図書館、河川沿いなどの公共施設に、地元のセンスある若者がやるカフェなどの飲食店を入れる策などもあります。何か地元で新たな消費の場が作られるということは、新たな仕事が地域に誕生することでもあります。
つまり地域が栄えるためには、地域が外から「稼ぐ仕組み」と地域で皆が「つかう仕組み」の両方を作り出すことが重要になります。
そもそもとして「お金の話」が地域政策の中に入っているか否かがまず大前提になるわけです。しっかりと政治家が「地域のお金の問題」と向き合っているか否か、そこに注目することが大切です。そして、地域が「稼ぐ」ための政策を話をしているのか、もしくは地域内で「消費」できる仕組みを提案しているのか、そこに目を向けましょう。
(2) 流入増加、循環促進、流出抑制の3つに寄与するか否か。
これで、「稼ぎ」と「消費」という側面から地域政策を見れるようになりました。
次は、具体的な政策が地域に寄与するかどうか判断しましょう。地域活性化に繋がるための地域政策のポイントは、3つあります。
流入増加「地域外から新たなヒト・モノ・カネを引き入れられるものなのか」
循環促進「地域内でのヒト・モノ・カネが回る仕組みなのか」
流出抑制「地域外に出て行っていたヒト・モノ・カネを抑制できるものなのか」
つまり、地域のヒト・モノ・カネを、外と内から「増やして」、効率的に「回し」、さらには流出を「絞る」必要があります。
この3つに該当するような政策であれば、少なからず地域にとってプラスになります。繰り返しますが、「緑あふれるまちづくり!」みたいなスローガンでは、全く地域は良くなりません。「地域活性化」として挙げられているマニュフェストが、上記の3点に該当するものであるかどうかを検証しましょう。
(3) 自治体と民間のお財布を一体的に捉えているか否か。
さらに進んで重要なのは、自治体と民間の財布を一体的に考え、「地域がプラスになっているかどうか」を見極めることです。
これまでの地方政策は、民間のお財布、自治体のお財布をバラバラにしていました。民間のお財布では黒字だけれども、実は役所のお財布で負担していて大赤字なんてことがあるのです。
役所が国から5億円の予算をもらってきて、自治体が5億円負担して(つまりは市民の皆さんの税金)、10億つかった施設を作ったとします。さらに毎年その施設に3000万円の維持費がかかるとすれば、10年で3億円の自治体予算がつかわれることになります。もし、民間がその施設を活用して儲ける場合、どれだけの利益を出したら、建設費5億円+年間維持費3000万円という税金が自治体に戻っていくでしょうか。
これまでは、「自治体が赤字を垂れ流す」のが当然という考え方でした。ですので、自治体の借金が膨れ上がり、あげくの果てに粉飾決算などを行うなどが横行し、夕張市のように財政が破綻してしまって、若い人が住み続けることが極めて困難になる自治体まで出てきています。
つまり、自治体が赤字をして民間にカネを配る、だけでは、地域は繁栄しません。国の支援をとり、自治体が借金をすれば地域が繁栄するのであれば、先の夕張はもとより全国各地の地方は半世紀近くそれをやってきているわけですから、すでに活性化していないとおかしいわけです。しかし、実態は衰退が極まってきている。つまりそのやり方では構造的な問題は解決しないのです。
しっかりと、自治体と民間の財布を一体的に捉えて、地域にとって全体として「プラス」になるような事業に取り組まなくてはなりません。結局はその負担は、若い世代の人たちが負うことになり、負いきれない場合は地元を離れるしかなくなっていきます。
自治体の大盤振る舞いだけでは地域は再生しない。半世紀近くへて今の地方をみればよくわかる実情がそこにあります。
(4) 地域を潰しかねない巨大投資を計画しているか、否か。
役所が大きな事業を計画したがゆえに、大失敗をしている事例は全国各地で跡を絶ちません。
地域経済はこれまで説明したような、「稼ぎ」と「消費」、「流入増加」と「循環促進」「流出抑制」などに寄与することをやらなくてはなりませんが、その主体は民間です。
民間が新たな事業に取組み、消費機会を作り出し、流入を増やせるような営業をし、地域内で取引を拡大させ、さらに地域から出て行くものを防ぐ必要があります。
役所にできるのは、前述のような公共資産を活用して民間をサポートしたり、規制緩和などで今までできなかったことを許可してあげることです。
しかしながら、従来のやり方には限界があります。行政が巨額の支出をしてしまうと、これからの人口縮小社会においては税収の著しい増加は期待できないため、後々維持費などで税金が食われてしまい、公共サービス予算が切迫することになってしまったりします。
たとえば、青森県青森市では地方再生のために「アウガ」という巨大な施設を建てました。
しかしながら、経営は開業した初月から大赤字。この施設を維持するために自治体は15年ほどで208億円以上を費やしたものの、運営会社の経営が傾き、市にさらなる支援を求めています。周辺地域もこの施設の低迷に引きずられて衰退してしまうわけです。地域再生どころか、衰退加速という結果を引き起こしています。
200億円の市税があれば、青森市でどんな政策ができたか、と考えれば、これは単に無駄になったのではなく、その分別の公共サービス予算がなくなったと考えることもできます。 約8000人の青森市中学生を50万円かけて海外への短期留学に行かせたとしても1回40億円にしかならないわけです。選抜組の100人に絞ればもっと長期間にわたり継続できたわけです。つまりこの200億円は単なる無駄ではなく、他の公共サービスの可能性の犠牲の元に成り立っています。
これらの事業には、「国の税金」と「地方自治体の税金」の両方がつかわれています。つまり、成果の出ない事業に国民全員が税負担をし、さらに地方市民もさらに税負担をして実行されているわけです。注意すべきは、これらは違法でもなんでもなく、正しく法律に則って、議会で予算が通っているのです。つまり、広い意味では、我々市民が選択した結果でもあるわけです。
さらに、このような無駄な事業や施設は税金をつかってしまうだけではありません。地域の民間企業の人々は、マトモな経済活動ではなく、税金をもらうことばかり考えるようになってしましまう。
このように、地域をダメにすることも政治は難なくできてしまうわけです。このように、将来に負担を残すような巨大な開発などは、厳しい営業実績を事前に問い、採算計画を精査して、規模をしっかりとコントロールする必要がりあります。
もしも、「巨大な施設建設を推進する」といっているような政治家がいれば、それが本当に地域に新たな稼ぎを作り出し、行政と民間を一体的に捉えた際に地元にお金が残る話なのか、問うてみましょう。
(5) 交付金・補助金より「地方分権」を進めているか否か。
沢山の税金が地方に配られた結果、一時的には様々なものが整備されました。その反面、肝心な「独自に自分たちで考える」という力が大人たちが失われてしまいました。結果として、国の予算をもらいながらも、もらった以上につかってしまうために、地方はどんどん衰退してきたと言えます。
地域政策について国政選挙で求められるのは、従来型の予算中心の地方支援ではなく、「分権」です。国の機関を地方に移転するよりは、国の権限、特に全国各地に所在している出先機関などを統合し、地方自治体につけかえるなどの施策のほうが重要です。
国にいちいちお伺いをたてるからこそ、国としても全国のバランスをみた施策をすることになります。地方がみずから政策を考え、民間が事業と向き合い、それぞれのやり方で取り組んでいくことが重要です。
選挙だけではない政治参画を。
このように5つのポイントから各政党、各議員の地域政策を評価して、支持、不支持を考えるのが地域政策という点からは有効であると思います。
ポイント1 お金について語っているか
ポイント2 流入増加、循環促進、流出抑制に寄与する政策を掲げているか
ポイント3 役所の負担に依存せず、民間が稼ぎやすい環境をつくる政策か
ポイント4 無謀に大きな事業を行政が仕掛けようとしていないか
ポイント5 地方分権を進めようとしているか
以上の点から地方政策を評価しましょう。
さらに重要なのは、単に選挙の時だけ政治や政治家とお付き合いするのではなく、地元政治家と普段からお付き合いしたり、地域における諸問題について議論することです。
また単に政治家と話をするだけでなく、自ら地域で上記の5つのポイントに寄与できるような民間の取組みを興していくことも大切です。民間がしっかり自立して稼がず、行政負担に依存しつづけるかぎり、地域の発展は望めません。
地域政策は単に政治の責任ではなく、むしろあるべき選択肢を政治が選択できるような民間の担い手、実績が必要ということでもあります。
政治に変化を求めるとともに、それ以上に自分たちが地域を変えていくことも大切なのです。
プロフィール
木下斉
1982年7月14日東京都生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房 地域活性化伝道師。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業等。著書に『まちづくり:デッドライン』(日経BP、共著)『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)『稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則』 (NHK出版新書)など。公式サイト http://www.areaia.jp/ ( twitter : @shoutengai )