2026.02.13

若い政治家ほど、次世代のために投資する――新しいリベラルの担い手像

橋本努 社会哲学

政治

現代の日本には、「新しいリベラル」と呼びうる人たちが存在する。日本の人口の23%を占める最多数派だ。シノドス国際社会動向研究所で試みた大規模なアンケート調査から、その存在が明らかになった。(橋本努/金澤悠介著『新しいリベラル――大規模調査から見えてきた「隠れた多数派」』ちくま新書、2025年、参照。)

新しいリベラルは、従来型のリベラルとは違って、日米安保問題については、現実的な対応を求めている。その一方で、非核三原則や女性の活躍を支持し、次世代に投資すべきだと考える。

では、新しいリベラルは、どの政党を支持するのか。これが悩ましい。どの政党も、次世代への投資(子育て世代の支援)に本腰を入れていないように見えるからだ。

ただ、地方自治のレベルにおいては、一つのヒントがある。市町村長(知事や区長などを含む首長)の選出に際して、若手の候補者を選んだ方がいい、という示唆だ。ハーバード大学のチャールズ・マクリーン研究員の研究で、明らかにされた(Charles T. McClean “Does Youth Representation Matter for Social Spending?” Conditionally Accepted at The Journal of Politics, July 22, 2025)。

マクリーン氏によると、日本において、50歳未満の市町村長は、次世代のためにいっそう投資する傾向があるという。具体的に、育児休業給付、出産・保育支援センターへの支出、保護者への補助金、障害児給付への支出を増やす傾向があるという。しかも、若手の市町村長は、高齢者のための福祉サービスを犠牲にしない、というのだ。

若い政治家の方が、子育て支援策に好意的

これは興味深い研究成果である。

子育て支援を充実させると、出生率は上がるだろう。子育て中の女性の就業率も、上がるだろう。反対に、子育てよりも高齢者への支援を優先すれば、出生率は上がらないだろう。子育て中の女性の就業率も、上がらないだろう。

マクリーン氏は、研究に際して、次のようなシンプルな仮説を立てた。「若手の市町村長のほうが、子育て支援政策を支持する」のではないかと。氏は、2006年から2019年までの6,371回の選挙に立候補した、12,191人の市町村長候の補者のデータを調べた。

(2020年以降は、コロナ感染への対応のため、政策の優先順位が大きく変更されたと考えられるため、分析の範囲に含めなかったという。また、1999年から2005年までの期間は、市町村の合併が続いたため、政策の優先順位が大きく変更された可能性がある。そのため、分析の範囲に含めなかったという。)

まず、2006年から2019年の期間に、50歳未満の若手の市町村長は、どれだけ選出されたのか。若手の市町村長が選出された割合は、全体の10%程度だった。また、50歳未満の市町村長が少なくとも一回選出された自治体は、全国1,741の自治体のうち、341の自治体だった。つまり、約20%の自治体で、若手の市町村長が選ばれた。

さて、分析の結果、若い市町村長は、保育所などのインフラに投資する傾向があることが分かった。その一方で、高齢者のための福祉支出を削減しない傾向にあることも分かった。

もちろん、若者が多い自治体では、若い市町村長が選ばれる可能性が高い。反対に、高齢者が多い自治体では、高齢の市町村長が選ばれる可能性が高い。「若い市町村長は、子育て世代を支援する」と言っても、背景にある有権者の人口構成を考慮すれば、ある意味で当然なのかもしれない。

しかし、当然とは言えないケースもある。有権者の年齢は、必ずしも市町村長の年齢を規定しない。そこでマクリーン氏は、分析の手法を練った。回帰不連続設計(RDD)という統計手法を用いて、若手の候補者と高齢の候補者が拮抗するケースを調べてみた。例えば、上位2人の候補者の得票率の合計が50%以上で、どちらの候補者が勝利するか、予測できないとしよう。二人は僅差で争っているとしよう。しかも、一方の候補者は50歳未満で、他方の候補者は50歳以上だとしよう。

このようなケースで、若い市町村長が選出された場合、そうでない場合と比べて、どんな政策を優先するだろうか。このようにケースを絞って分析してみると、50歳未満の候補者を市町村長として選出した自治体は、50歳以上の候補者を選出した自治体と比較して、子育て支援の支出を36%増加させる、という結果が出た。

また、50歳未満で、しかも子育て中の市町村長は、児童福祉への支出を、55%増加させることが分かった。加えて、50歳未満で子供がいない市町村長は、児童福祉への支出を、22%増加させることが分かった。

50歳未満で子育て中の候補者を選出すれば、子育て支援策にいっそう多くの予算がつく。そのような傾向が統計学的に示唆されたのだ。

世代と代表の関係はゆがんでいる

ここで少し視点を変えて、考えてみよう。若い世代の人たちは、自分たちの政治的要求を代弁する政治家を見つけることが難しい。日本の有権者の平均年齢は、約50歳である。これに対して市町村長の平均年齢は、62歳である。この年齢差に注目すると、大雑把に言って、50代後半から70歳にかけての人たちは、自分たちの世代の要求を、市町村長を通じて実現できる可能性が高い。反対に、80代以上、あるいは50歳未満の人たちは、自分たちの世代の要求を、市町村長を通じて実現できる可能性が低い。市町村長は、自分と同世代の有権者たちの要求を優先してしまいがちだからだ。

2006年から2019年にかけて、60歳から65歳までの市町村長の数は、2,088人だった。これに対して、30歳未満の市町村長は3人、40歳未満の市町村長は113人、50歳未満の市町村長は、569人だった。

ということは、日本の地方自治体において、50代後半から60代にかけての人たちの利害は、過剰に代表されている。その一方で、20代、30代、40代、50代前半、80代以上の人たちの利害は、過少に代表されている。

これはつまり、ちょうど子育てが終わって、しかもこれから年金生活を送る世代の人たちは、政治的に有利になるということだ。反対に、子育て世代の利害は、政治に反映されにくい。このように、選出された市町村長の年齢に注目すると、世代間で、不公平な処遇が生まれる可能性があることが分かる。子育て支援よりも、高齢者への福祉サービスのほうが、優先されてしまう可能性があるのだ。

日本の有権者の平均年齢は、約50歳である。そこでもし、50歳の市町村長が選ばれると、子育て世代に対して、公平な政策を期待できるのではないか。あくまでも可能性にすぎないが、世代間で公平な福祉サービスを提供するためには、どんな市町村長を選べばいいのか。マクリーン氏の研究は、この問題に一つの示唆を与えている。

プロフィール

橋本努社会哲学

1967年生まれ。横浜国立大学経済学部卒、東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、北海道大学経済学研究科教授。この間、ニューヨーク大学客員研究員。専攻は経済思想、社会哲学。著作に『自由の論法』(創文社)、『社会科学の人間学』(勁草書房)、『帝国の条件』(弘文堂)、『自由に生きるとはどういうことか』(ちくま新書)、『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社メチエ)、『自由の社会学』(NTT出版)、『ロスト近代』(弘文堂)、『学問の技法』(ちくま新書)、編著に『現代の経済思想』(勁草書房)、『日本マックス・ウェーバー論争』、『オーストリア学派の経済学』(日本評論社)、共著に『ナショナリズムとグローバリズム』(新曜社)、など。

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