2013.12.09
2013年12月9日 安倍内閣総理大臣記者会見全文文字起こし(成長戦略、日本版NSC、特定秘密保護法)
2013年12月9日、第185回国会(臨時会)が閉会されたことを受けて、安倍内閣総理大臣記者会見が行われた。特定秘密保護法の成立などが話題となった本国会だが、安倍総理は、この55日間をどのように振り返るのか。成長戦略、日本版NSC、特定秘密保護法などが触れられた記者会見の様子を全文文字起こしした。(シノドス編集部註:一部文章を整えています)
第185回国会を振り返る
安倍 昨日55日間にわたる臨時国会が閉会を致しました。「この国会は成長戦略の実行が問われる国会である」、国会の冒頭わたしはそのように申し上げました。
民間投資を喚起するための産業競争力強化法。規制改革の突破口となる国家戦略特区法、電力自由化のための電気事業法を変えて、再生医療を促進する法律、そして農業の構造改革を進めるための農地集積バンク法、成長戦略の柱であるこれらの重要法律の成立は、回復しつつある日本経済がさらに力強く飛躍する礎となると確信をしております。特定秘密保護法ばかりが注目されましたが、まさに成長戦略実行国会と呼ぶにふさわしい国会になったと考えています。
さらにこれらの成立にあたっては、与党のみならず野党の皆様にも広範なご協力をいただくことができました。とくに産業競争力強化法、国家戦略特区法、そして農地集積バンク法については、国会審議を通じて与野党で協議が行われ、法案の修正を合意されたのちに成立を致しました。国家国民のため、与野党の違いを越えて、国会総がかりで、成長戦略を次善する、その強い意志を内外に示すことができた国会ではなかったかと考えます。
これは成長戦略関連法案だけではありません。日本の外交保障政策の司令塔たる、いわゆる日本版NSC、国家安全保障会議を設置する法案については、民主党、日本維新の会との協議を通じて修正を行い、みんなの党にもご賛同をいただいて成立をいたしました。
先般、中国によって力を背景とした一方的な防空識別圏の設定が行われましたが、日本をとりまく安全保障環境が一層厳しさを増している現実があります。他方でいかなる状況にあっても国民の生命と財産は断固として守り抜いていかなくてはなりません。こうした点について、与野党の立場をこえて認識を共有できたからこそ、幅広い合意のもと、法案を成立させることができたと考えています。
国家安全保障会議はさっそく先週発足いたしました。今後このNSCが各国のNSCとの間で情報のやりとりを活発に行ってまいります。今年一月のアルジェリアでの人質事件の際には、イギリスのキャメロン首相から情報提供を受けましたが、こうした情報交換を進めることが国民の生命と財産を守ることに繋がると確信しています。NSCの新たな事務局長にはすぐにでも各国NSCとの連携を密にするため、一月から世界を飛び回ってもらわなければならないと考えております。
しかし世界各国では国家秘密の指定、解除、保存などには明確なルールがあります。そのため我が国がこうした秘密情報の管理ルールを確立してならなければそうした外国からの情報を得ることはできません。さらに提供された情報は第三者に渡さないのが情報交換の前提であります。いわゆるサードパーティールールです。その上で、チェック機能をどう作るかが課題となりました。
日本を守っている航空機や艦船の情報が漏えいしてしまうという事態になれば国民の安全が危機に瀕することになります。また人命をまもるためにはなんとしてでもテロリストへの漏えいを防止しなくてはならない。そういう情報があります。国民の生命と財産を守るためには、国家安全保障会議の設置とあわせて一刻もはやく特定秘密保護法を制定することが必要でありました。
国家審議を通じて、日本維新の会、みんなの党など与野党で幅広いご議論をいただいた結果、12の論点について法案修正がなされたことは大きな成果であり、よい法律にすることができたと考えています。
審議過程では、秘密が際限なく広がる、知る権利が奪われる、通常の生活がおびやかされるといった懸念の声もいただきました。しかし、そのようなことは断じてありえない。いまでも政府には秘密とされている情報がありますが、今回の法律によりいまある秘密の範囲が広がることはありません。そして一般の方が巻き込まれることも決してありません。
報道などで友達から聞いた話をブログで書いたら民間人でも厳罰とか、映画などの自由な創作活動が制限されるといった話を耳にして不安を感じておられる方々もいらっしゃるかもしれません。しかしそういうことは決してありません。むしろこれまでルールすらなかった特定秘密の取り扱いについて、この法律のもとで透明性が増すことになります。そのことは明確にしておきたいと思います。
外交安全保障政策を国民の皆さんと情報を共有しながら、透明性を確保したうえで進めるべきことはもとより言うまでもありません。今後とも国民の皆さんの懸念を払しょくすべく、丁寧に説明をしていきたいと考えています。
先週、5.5兆円の経済対策を決定いたしました。景気の回復を所得の上昇に繋げ消費をおしあげる。そのことがさらなる景気回復に繋がる、こうした経済の好循環を実現するためにはこれからが正念場です。成長の実感を国民の皆さんへ。全国津々浦々まで広げていくことができるよう、さらに努力を積み重ねてまいります。
今年も残りわずかとなりましたが、来年度予算の編成に全力をあげてまいりたいと考えています。私からは以上であります。
特定秘密保護法の批判と施行について
司会 これから皆様からの質問をお受けいたします。
記者 特定秘密保護法についてお伺いいたします。特定秘密保護法についてはですね、成立後も、国会での審議が不十分だったという批判が強く、報道各社の世論調査でもそれは現れていると思います。総理はこの法律について、批判はどこに原因があるとお考えになりますか。もう一点、法律の施行日は公布の日から起算して一年を越えない範囲で定めるとされています。総理はすでに発足したNSCを有効に機能させるためにできるだけ早い時期の施行を目指すお考えですか、それとも世論の批判を配慮してできるだけ一年に近い準備期間を設けるお考えでしょうか。
安倍 まず厳しい世論については国民の皆さんの叱声であると謙虚に真摯に受け止めなければならないと思います。私自身がもっともっと丁寧に時間をとって、説明すべきだったと反省もいたしております。しかし先ほど話をしましたように、今までの秘密について秘密の指定、解除、保全ルールがなかった、そこに問題があるんです。例えばいわゆるあの日米安保についての密約の問題。私は官房長官や総理を経験しましたが、その私も、あのいわゆる密約と言われた事柄について説明を受けなかった。
しかし今回はこの法律ができたことで、今後は変わります。総理大臣は今後、特定秘密について、情報保全諮問会議に毎年毎年報告をしなくてはなりません。ですから当然、項目に用意した特定秘密について説明を受けます。受けた説明を、この諮問会議に説明をします。そして諮問会議はその意見を国会に報告すると、これが大きな違いです。ですからいままのように総理大臣も知らないという秘密はありえない。そして誰がその秘密を決めたかも明らかになります。そういう意味においては、まさにしっかりとルールができて、責任者も明確になるということは申し上げておきたいと思います。
またいまある、例えばいまある特別管理秘密、42万件あります。この42万件のうち9割は衛星情報です。みなさんご存じなかったと思います。私も知らなかったんですから当たり前ですよね。そこに問題があるんです。これからはこういうカテゴリが明らかになります。9割が衛星情報。そしてそのあと多くが暗号です。そしてさらにはそれぞれの自衛隊の、艦船等、細かい性能も秘密になっています。そういうものがカテゴリとして明らかになっていく。どういうカテゴリになっているかについては、透明性は増して行くということになります。
42万件も総理大臣が管理できるのか、という批判もありましたが、まさにそういう中に置いて9割は衛星写真なんですから、それは衛星写真というカテゴリになります。この解像度自体がどれだけ精密に撮れているかということ事態が秘密ですから、それはそれでひとくくりになっていく。あとは暗号、武器の性能、そして残りについてはカテゴリがわかれていくことになっている。それを総理大臣は把握をしますから、格段に、そういう意味ではルールのもとで指定が行われ、解除が行われ、さらには誰が責任を持っているかも明らかになっているということははっきりと申し上げておきたいと思います。
廃棄においてもルールはできます。いままで4万件の廃棄されたもののうち、3万件が民主党政権時代、たった3年間のうちに防衛機密廃棄されました。どうして廃棄されたのか、だれが責任があったのか、これも明らかではない。こういうこともこの法律によって行われなくなるわけですから、つまり格段に透明性も責任もルールも明確になるんだということははっきり申し上げておきたいと、このように思います。こういう説明をしっかりしていけば、必ず私は国民の皆様のご理解をいただけると思います。
そしていつ施行していくか。これはまず1年ありきということでもありませんが、しっかりとですね、チェック機能も含めてこの制度設計を行っていく。今申し上げたみたいな説明をしっかりと行っていく。その上に置いて、しかるべきときに施行していきたいと、このように考えております。
日中・日韓関係について
記者 日中・日韓関係についてお聞きします。総理も先ほどお触れになったように中国による防空識別圏の設定に関連しまして、不測の事態を回避すべきための方策、メカニズムは必要だとお考えでしょうか。それから第二次安倍政権発足からまもなく1年になりますが、中国・韓国との首脳外交は行われておりません。対話のドアは常にオープンと総理はおっしゃっていますけども、首脳会談実現に向けた具体的な対応についてお聞かせください。
さらに総理は日中関係等に配慮するかたちで靖国神社の参拝を見送ってこられました。年内の参拝は行わないお考えでしょうか。
安倍 アジア太平洋地域の平和と繁栄のためには、日本と中国、韓国の間で意思の疎通を図っていくことは有意義であります。中国、韓国との首脳会談については、現時点で見通しがあるわけではありませんが、困難な問題があるからこそ、前提条件を隠すことなく、首脳同士が胸襟を開いて話し合うべきだと思います。
対話のドアは常にオープンであります。中国、韓国側にもぜひ同じ姿勢をとってもらいたいと思います。
防空識別圏の設定についてはですね。政府としてはこれに毅然かつ、冷静に対処していきます。同時に日中間で無用の誤解や摩擦を減じ、不測の事態の発生を避けるため、防衛当局間の連絡体制を強化することが必要であると認識しております。第一次安倍政権の際に、日中首脳会談において、防衛当局間の連絡体制の強化をし、不測の事態を防止することで一致を致しました。その後、具体的な連絡メカニズムについて大筋合意を致しました。
しかし残念ながら中国はいまだその運用開始に合意をしていません。政府としては引き続き連絡メカニズムの運用を早期に開始することを中国に働きかけていきます。中国がこれに応じることを期待したいと思います。
靖国参拝については、国のために命を落とされた方々に尊崇の念をひょうすることは当然のことであります。同時にこの問題が、政治問題、外交問題化することは避けるべきだというのが私の考えであります。私が靖国神社に参拝するか否かについては、いま申し上げるべきではないとこう考えております。
菅政権下で起きた中国漁船衝突事件について
記者 秘密の規制解除のルール化に関連してひとつお伺いいたします。国民が国政について正しい判断を下し、評価するには、政府から正確で適切な情報の開示が必要です。一方最近では菅政権が中国漁船衝突事件の映像を恣意的に隠ぺいし、国民から判断材料を奪い、さらに???(聞き取れず)した事例がありました。総理はこれについてどうお考えになり、あるいはどのように対処されていくお考えかを、改めてお聞かせください。
安倍 菅政権が隠したあの漁船のテープは、もちろん特定秘密にはあたりません。問題は、あのときにも発生したわけなんですが、誰がその判断をしたのか明らかではありませんね。菅総理なのか、仙石官房長官、福山官房副長官なのか、誰が本来公開すべき、国民の皆様にも公開し、世界にも示すべきですね、日本の立場の正しさを示すテープを公開しなければならないのに、公開しなかった。間違った判断をしたのは誰か、このこともわからないじゃありませんか。
しかし今度の法律によってですね、そもそもこれは特定秘密にはなりませんが、もし特定秘密としたのであれば、その責任もすべて所在は明らかになるわけでありますし、5年ごとにですね、それはこの指定が解除されるかどうかについてもチェックされることになるわけであります。大切なことはですね、しっかりとルールを定めて保全をしていく、保全はきっちりとしていくことではないかと思うわけであります。
そして当然そうした特定秘密もそうなんですが、秘密文書は、歴史の判断を受けなければなりません。いつまで国立公文書館にスムーズに移管される、そのルールも今度はちゃんとできあがるわけでありまして、現在の状況よりもはるかに私は改善されるとこのように思っております。
ですからこの法律が施行されれば、菅政権で行った、誤った、政権に都合のいい情報の隠ぺいは起こらないということは断言してもいいと思います。
これからの成長戦略について
記者 総理は本国会を、成長戦略実行国会と位置付けていらっしゃいましたが、海外の投資家のあいだでは、減税や規制緩和がなかなか進まない中、アベノミクスの三本目の矢の弱さを指摘する声も聞こえております。とくに法人税減税がなかなか行われないことに対して批判がありますが、復興法人税廃止よりも踏み込んだ減税への、総理のコミットメントはどのようなものかをお聞かせください。国家戦略特区での、減税の見通しについてはどうお考えでしょうか。
安倍 まずこの国会において産業競争力強化法、また国家戦略特区法、こうしたものも成立をいたしました。また農業を成長産業にするために、40年以上続いてきた米の生産調整を見直し、いわゆる減反の廃止を決定いたしました。農業分野において、減反の廃止なんて絶対に自民党はできないといわれてきた、これを私たちはやるということを決めました。
法人実効税率についても、来年度から2.4%引き下げることを決めました。さらにその後の法人税率の上げ方についても、グローバル経済の中での競争力等も考えながら検討を進めていきます。また国家戦略特区における税制措置についても、研究開発や設備投資に関する税制含め、現在、税調において議論をしていただいております。
安倍政権の改革に終わりはありません。年明けには今後実行する成長戦略関連政策を、実行計画として閣議決定し、実施時期と担当大臣を明らかにしていきます。あわせて成長戦略のさらなる進化をはかるために、雇用、人材、農業、医療、介護といった分野のさらなる構造改革にとりこんでいきます。
日本版NSCについて
記者 日本版NSCについてお伺いします。日本版NSCは外交安全保障の司令塔として、首相官邸主導の外交安全政策ということが狙いだと思いますけど、ここをもう少し具体的に、外交安全保障政策の構成、立案、そして関係国、アメリカなどとの調整が、どのように変わるのか、どのように変えるつもりかお伺いしたいと思います。それに関連して、事務局となる国家安全保障局、これがまだ未設置ですけども、局長の人選ですね、谷内官房内閣参与の名前もあがっていますけど、その人選をいつごろまでに終えるのかお考えでしょうか。
安倍 国家安全保障会議を、安全保障政策の司令塔として最大限活用し、政治の強力なリーダーシップのもとに、国家と国民を守り、世界の平和と安定により一層積極的に貢献していくための外交安全保障政策を推進していく考えであります。国家安全保障局長には、谷内内閣官房参与を任命する予定であります。谷内局長のもとに、国家安全保障局を、年始にも発足をさせ、本格稼働させたいと考えております。国家安全保障局が発足した暁には、谷内局長には、ただちに世界を飛び回っていただきまして、米国をはじめとする主要各国のNSCを訪問し緊密に連携させていきたいと思います。
いわば日本を守るために、よりよい外交安全保障の政策を立案をしていくためには、正しい情報の収集と分析が必要であります。日本が持っている情報だけでは不十分であります。政策を立案していく上においてもですね、政策協議をしながらアドバイスをうけていく必要もあるでしょう。そういう意味においてはですね、谷内参与にですね、米国、米国はもちろんではありますが、そういう国々との意見交換、情報交換、情報の提供を受けていくことをしっかりやっていただきたいと思います。すでに各国のNSCから、日本のNSC、そしてNSCとの局長とそうした意見の交換を行いたいという話も来ていますし、また情報についてはまだ施行されてはいませんが、日本の秘密をしっかり管理していくという意思を確かめることができたので、今まで以上に情報を提供しやすくなるという声も伝わってきております。
司会 以上をもちまして記者会見を終了いたします。
会見の様子はこちらからご覧いただけます。