2018.02.22
「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)児童の対応に関する調査」への反響と今後の展開
一般社団法人レインボーフォスターケア(以下、「RFC」)は、2016年11~12月にかけて「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)児童の対応に関する調査」を実施した(岩本健良・金沢大学人文学類准教授、白井千晶・静岡大学人文社会科学部教授、渡辺大輔・埼玉大学基盤教育研究センター准教授と共同調査)。全国の児童養護施設に対して、性的マイノリティ児童についてアンケートを実施するのは全国初の試みであり、その調査結果は大きな注目を集めた。
調査結果の報告書は、昨年5月27日に開催した調査報告会当日にHP上にアップ(※)しており、本論考は、その内容の詳細よりも調査前後に届いた声や状況の変化を交えて記していきたい。
(※)児童養護施設におけるLGBT児童調査報告書(詳細版Ver.2)
https://rainbowfostercare.jimdo.com/児童養護施設におけるlgbt児童調査/
1.調査結果へ届いた「多すぎる」の声
昨年5月の報告会の後、多くのメディアがその内容を報じた。以下が調査結果に関する記事である。
・「『LGBTの子経験』45% 児童養護施設調査」
(2017年05月29日東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017052902000113.html
・「LGBT 児童養護施設の4割に 『入浴』『からかい』悩む 個室なく配慮困難、職員知識不足」
(2017年05月30日毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20170528/ddm/041/040/120000c
・「養護施設の半数がLGBTの子供受け入れ経験 さいたまの社団法人調査」
(2017年06月12日産経ニュース)
http://www.sankei.com/smp/life/news/170611/lif1706110034-s1.html
本調査においては、全国の児童養護施設に、「性的マイノリティの児童の有無」(過去も含む)について尋ねている。しかし、子どもの頃の性のあり方はその後変化することもあり、また、そもそも他者が本人の性的指向や性自認を決めつけることができないことから、調査の目的に合わせて、次のような尋ね方をしている。
子ども時代に性的マイノリティの傾向があっても成長とともに性的マジョリティと自覚する場合や、その逆のケースもある。本調査においては、児童が現在感じている生活上の不都合や悩みなどについての対応に焦点を当てることを目的とし、「現時点で、性的マジョリティと異なる傾向が見受けられる児童」について質問し、「性自認・性的指向が“一般的”“典型的”な形とは違う『性的マイノリティの児童(もしくはそうだと推察される児童)』はいましたか」という表現を用いて質問した。
このような質問による調査であるため、施設職員が当該児童を性的マイノリティであると推察した場合でも、本人は異なるアイデンティティを感じている場合がある。また逆に、施設職員が性的マイノリティであると捉えなかったが、児童本人はマイノリティ性を自覚している場合もある。よって、本調査はあくまでも施設職員の認識に基づいた調査である。
さて、そのような方法で「性的マイノリティの児童の有無」を尋ねたところ、以下の結果となった。
【性的マイノリティと思われる児童の有無について】
「現在いる」(過去にいたとは回答していない施設)が10.5%、「現在いて過去にもいた」が5.9%で、合わせて16.4%の施設に現在いる。「過去にいた」が28.6%、「これまで一人もいなかった」は、55.0%であった。職員が把握しているだけでも、半数近い施設で現在いるか過去にいたと職員が把握している。また、ひとつの施設に2名以上いる(いた)施設もあり、在籍のべ人数は144名(現在40名、過去104名)となっている。
%は回答した220施設に占める割合を示す。
この「『いる』『いた』を合わせると45%」の部分がクローズアップされ、先に挙げた記事では「45%」「4割」「半数」が見出しになっている。
ところが、調査結果の報道後、予想しなかった意見や批判が届いた。
この「45%」について「多すぎるのではないか」「そんなにいるはずがない」、との声だ(一部、全国の児童養護施設に在籍する児童の「45%」と勘違いした人もいたが、多くの人が「回答施設の45%」と正確に認識したうえでの意見だった)。
なかにはRFCが「同性カップルの里親」推進の活動もしていることから、「児童養護施設の性的マイノリティ児童を意図的に多く見積もり、同性カップル里親が必要だという意見につなげたいのでは」との穿った見方まであった(ちなみに、RFCは「児童養護施設のLGBT児童にはLGBTの里親が必要」とは主張していない。LGBT児童に必要なのは「LGBT児童に理解のある里親」という主張である)。
この反応に私たちはかなり戸惑った。国内における性的マイノリティの割合は各調査によると人口の約5~8%などと言われている。現在、児童養護施設で暮らす児童は27,288名(※)であり、そのうち5%が性的マイノリティだと仮定すれば、1,364名ということになる。これに対して、本調査では、「現在いる」との回答数は40名に過ぎないのであり、単純に計算すれば、予想される性的マイノリティ児童数のおよそ3%しか認識されていないともいえるのである。
(※)厚生労働省HP
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/01.html
この数値は、まだ自己のセクシュアリティを自覚していない児童を差し引いたとしてもかなり低いのではないだろうか。むしろ、この調査結果から推察されるのは、施設で暮らしている性的マイノリティ児童の大半が、そのセクシュアリティやそれに伴う困難について施設職員から見過ごされている可能性があるということなのだ。
昨年、ある交流イベントで来日したアメリカのフォスターユースたち(社会的養護当事者の10~20代の若者)に、本調査の「『いる』『いた』を合わせると45%」の数値について説明したところ、彼らから「嘘だろう?」「きちんと調査したのか?」など、驚いた反応が返ってきた。彼らの驚きの理由は、日本でのそれとは違い、「(LGBT児童が)こんなに少ないはずがない」「全部(100%)の施設にいるはずだ」といったものだった。なかには「施設職員が彼らの存在に気づかないのは、知識がないからではないか」といった意見もあった。
私たちはこの反応の違いに、日米における性的マイノリティへの理解の差を感じた。アメリカにおいても性的マイノリティへの差別は存在するが、多くの人たちが「性的マイノリティはどこにでもいる」と感じている。他方、日本では、まだまだ性的マイノリティの存在が見えていない。本調査に対する「そんなにいるはずがない」という声には「いや、それ以上の数がいるはずです」と答えたい(ちなみに、本調査での1施設あたりの在籍児童数の平均は43.1名である。性的マイノリティの割合が5%と仮定すれば、平均的な在籍児童数がいる施設には約2名の該当児童がいることになる)。
そもそも、本調査に関わらず、性的マイノリティに関わるさまざまな調査や記事に対して「そんなにいるはずがない」と言い出す人は「この街にはいないだろう」「家族や友人にはいないだろう」という自分の「肌感覚」を根拠にしているのではないか。本当は「いない」のではなく、当事者が「言い出せない」「言い出しにくい」という現状が、彼らの存在を見えにくくしているのだ。
繰り返し強調したいのだが、性的マイノリティ当事者はどこにでもいる。学校や会社にもいれば、同じ屋根の下にいる可能性だってある。もちろん、児童養護施設にだっている。子どもと関わる大人は、性的マイノリティ児童が「どこにでもいる」ことを前提に子どもたちを見守らなければ、その子自身の内面の苦悩に気がつくことはできないだろう。この調査結果を受けて、施設職員の方々には「うちの施設にもいるかもしれない」と意識しながら子どもたちと向き合ってほしい。
2017年5月の調査報告会の様子
2.調査に至った理由
少し話を戻して、なぜそもそもこのような調査を実施したのか、について記したい。
RFCの当初の活動の目的は「同性カップルなどLGBT当事者が里親として社会的養護の担い手になること」であった。しかし、これをテーマに活動していたところ、「社会的養護と性的マイノリティ」に関わる悩みや課題がさまざまな関係者から届けられるようになった。「どこにでもいる」と書いたように、性的マイノリティは社会的養護の世界のどのセクションにもおり、固有の悩みを抱えている場合がある。
トランスジェンダーであることを職場でカミングアウトすべきか迷っている施設職員。60代の母親とともに里親をしているが、将来同性パートナーと里親を続けたいと願う30代のバイセクシュアル女性。望んでいない性交渉後に出産した赤ちゃんを乳児院に預け、同性パートナーとともに赤ちゃんとの面会にやって来るレズビアン。ゲイの職員からカミングアウトを受けた施設長。
そんな彼らの固有の悩みを聞くなかで、もっとも多かったのが施設職員の「うちの施設に性的マイノリティと思われる子どもがいるけれど…」という悩みだった。
児童養護施設は、さまざまな事情により家庭で暮らすことのできない子どもが集団生活をする場所である。近年、施設の「小規模化」が進められ、少人数のユニットなど家庭に近い環境づくりが進みつつあるが、いまだに複数の児童が過ごす寝室があったり、集団入浴の運用を続けている施設もある(財政的な制約もありすぐにはハード面を変えられない事情などが背景にある)。
施設職員は、そのような集団生活において性的マイノリティ児童と向き合い、「『自分は男の子だ』と言っている女の子がいるのだけど、この子を『男の子フロア』で暮らせるようにしたほうがいいのか」「ゲイだとカミングアウトしてきた高校生がいるのだが、どう受け止めたらよかったのか」等の悩みを自分たちで抱えてしまっていた。
このような悩みを聞きながら、私たちは性的マイノリティの子どもたちのことを思った。集団生活のなかで自己のセクシュアリティゆえに苦悩を抱えて生活を続ける状況は、その児童にとって「毎日が『修学旅行』」のようなものではないだろうか、と。
性的マイノリティに関するさまざまな関連記事や手記にあるように、「修学旅行がしんどかった」という意見は多い。とりわけ、トランスジェンダーにとっては、自身が認識している性別と異なる性別の集団のなかで裸になって風呂に入り、一緒に眠るという行事は苦痛そのものになることが多い。修学旅行は年に一度の行事であるが、児童養護施設は毎日の生活の場であり、そのような困難を回避することができない。具体的にどのような困難が存在するのか、また、その困難に気づいた施設職員はどのような対応をしているのか。このような現状を明らかにし現場に返していきたい…、それが調査を始めるきっかけだった。
3.調査結果の注目ポイント
調査を始めるにあたって、もっとも不安だったのが「回答してくれるのか」という点だった。知り合いの施設職員たちに聞いたところ、「児童養護施設にはたくさんのアンケートが送られてくるけれど、忙しいのでほとんど答えられない。ましてや『性』の問題となると…」という反応だった。
不安を抱えながら調査票を送ったところ、601施設中、220施設が回答を寄せてくれた。これは、児童養護施設全体に「性的マイノリティ」への関心が高まっていることや、固有の課題として意識し始めている施設が多いことが背景にあるのだろう(その証拠として、自由記述欄に文字がぎっしりと書き連ねられた回答が多かった)。
調査結果の詳細についてはHPに掲載しているので割愛し、ここではいくつかの注目すべき項目をピックアップして記していきたい。
●寝室・入浴について
【寝室のタイプについて】
%は220施設中、無回答・非該当を除いた割合を示す。
(N=小学校低学年215、小学校高学年216、中学生216、中学校卒業以降215)
「その他」には、低学年・高学年などこの表での区分でなく年齢等で区分している場合を含む。
【入浴環境について】
%は220施設中、無回答・非該当を除いた割合を示す。
(N=小学校低学年216、小学校高学年215、中学生215、中学校卒業以降216)
「その他」には、きょうだいで入浴、同性の職員と入浴、(同性の)仲良しで入浴、などを含む。
この項目では、年齢が上がるにしたがって、個別就寝と個別入浴が実施されるようになるという傾向が見受けられた。学校をはじめ、子どもが過ごすさまざまな場所では、年齢が上がるとともに児童の羞恥心に配慮がなされ、性を含めたプライベートの空間を確保する運用がされており、児童養護施設もその例外ではない。
しかし、「学校の中の『性別違和感』を持つ子ども 性同一性障害の生徒に向き合う」(岡山大学大学院保健学研究科中塚幹也教授 2013)によれば、岡山大学病院を受診し性同一性障害の診断を受けた1167名を対象とした調査で、FTM(※)のおよそ7割が小学校入学前に、MTF(※)のおよそ6割が小学校高学年までに性別違和を自覚したという。
(※)「FTM」(Female to Male)身体的な性別は女性として生まれ、性自認が男性の人。
(※)「MTF」(Male to Female)身体的な性別は男性として生まれ、性自認が女性の人。
また、『LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書 』(いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン)(※)によれば、 自分がLGBTであるかもしれないと気づいた学年については、全体的にはいわゆる思春期において自覚がなされていることが多いものの、「性別違和のある男子」の場合、「25%は小学校入学前に自覚があり約半数が小学校卒業までに自覚した」と回答している。
(※)『LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書 』
http://endomameta.com/schoolreport.pdf
以上の調査結果から、児童養護施設で暮らす性的マイノリティ児童のなかには、小学校入学前や小学校低学年時点で自己の性別への違和感を持ち、集団就寝や集団入浴に強い嫌悪や恐怖を感じる児童が存在することが予想される。実際に、本調査後、小学校低学年を児童養護施設で過ごしたFTX当事者(※)から、「複数での入浴や、女児と同じ部屋で着替える生活そのものが苦痛でした」との声が届いた。
(※)「FTX」(Female to X)身体の性別は女性として生まれ、性自認が無性・中性の人。
また、性的マイノリティ児童でなくとも、集団就寝や集団入浴はどの児童にとってもストレスとなる可能性がある。子どもにとっては、「今」が大切であり、早急に施設のハード面の改善や運用の見直しが求められる。
●性的マイノリティ児童について
【施設職員からみた具体的ケース】
MTFと思われるケース
・女の子の遊びや女児用の衣服、女の子同士との遊びを好む傾向が強くなり、入浴の際も自分の裸を見られるのを恥ずかしがる発言があり、他の男児と一緒に入浴させることに配慮が必要かどうか困った。
・女性ものの指輪や、ネックレスを好みつけたがる。しゃべり方やしぐさが女性っぽい。第二次性徴の体の変化(声変わり、ひげ、毛が濃くなる)に嫌悪感を抱くなどがある。本児から自分は昔女だったかもしれないという言葉が出たこともある。
FTMと思われるケース
・中学生に進級し、セーラー服着用を拒否し続け、学校とも連絡をとり合い、体操服での登校を認められるも不登校となってしまった。
・高校生女児。「男になりたい」「男に生まれたかった」。スカート・タイツ・ストッキングへの嫌悪。 一人称が「オレ」。「女子が好き」という発言。
・入所当初より男らしい歩き方や話し口調。男になりたいと言っていたが、卒業後、本当に男に性別変更した。
・髪型を短くし、行動も男の子っぽくする仕草が見られた。制服(スカート)を嫌がり無理に着て登校をしていた。退園後に自分の性に違和感があり、病院に通院し性同一性障害と診断をされた。その後性別変更を行い、男性として生活を送っている。
・制服のスカート以外ははかなかった。卒園後、数年してから性同一性障害の診断を受け、身体的治療を受けた。戸籍の名前の変更は済んでいるが性別変更は条件を満たしていないため、していない。
同性愛(両性愛)的な傾向があるケース
・男子児童が男子職員に対しての強い思いがあり、その職員が結婚したことがわかるとショックを受け、落ち込む等の姿が見られた。
・(男子)中学生の頃、野球部の男子に告白をしている。そこから心理面談が始まり、「女性よりも男性が好き」であることを話している。
・高校生女子生徒。交際相手が社会人女性だった。
・(女子)高校生になると女の子を「彼女」と言って職員に紹介する様子があった。
・女子高に通う。高3 の時、同級生を好きになり、他の生徒に知られる。部活に参加できなくなり、その後退学した。
具体的ケースにおいては、かなり詳しい記述があった。「不登校」「退学」のように、当該児童が心理的に追い詰められているケースも見られた。
ところで、本調査においては、性的マイノリティ児童について、まずは「性的マイノリティの児童の有無」を聞いたあと、上に挙げた「具体的ケース」を聞いている。ケースには、卒園後に性別変更したりカミングアウトがあったという明確なものもあれば、施設職員の推察に基づくものも含まれている。
推察による回答ではあっても、「男児との入浴を嫌がる」などの一点の事象のみをもってそう判断しているわけではなく、例えば「男児との入浴を嫌がる」「女児の遊びを好む」「男児だがスカートを好む」といった複数の事象を長期的に見て、施設職員は「そうかもしれない」と判断している(繰り返しになるが、この判断は施設職員の推察に基づいたものであり、本人がその判断と異なるアイデンティティを感じている場合が含まれる)。
本調査後、施設職員たちの意見から、この「そうかもしれない」という見守り方は非常に重要であることがわかってきた。彼らによると、子どもと接する仕事をしていると、「想定と対応の引き出し」を増やして子どもを見守ることが重要という。子どもはあらゆる物事にさまざまな反応を示し、時には、不快や嫌悪、悲しみや怒りなどの反応を見せる。そういった児童の様子によって、施設では、職員会議を開いたり専門家へつないだり個別面談を実施したりする。
その時、一つでも多くの「想定」をしながら、一つでも多くの「対応」やその準備をすることが、一人一人の児童へのきめ細やかなケアにつながるという(例えば、児童養護施設への措置理由が「(実親の)精神疾患」だとしても、施設入所後に実親からの性虐待が判明する場合がある。その児童の反応によって、「性虐待をうけている『かもしれない』」との想定が、その児童への適切な対応につながることがある)。
実際に、性的マイノリティ児童が在籍した施設からは、「(そうかもしれない)児童の存在をきっかけに職員たちが性的マイノリティについて考えるようになった」「当該児童が性的マイノリティかどうかはわからないが、カミングアウトに備えていろいろ本を読んだ」との声が届き、子どもと関わる職員たちの想定の引き出しに「性的マイノリティ」が加わることで対応の幅が広がる様子が伝えられている。
本調査では、性的マイノリティと思われる児童が在籍した施設のうち約7割の施設で、職員会議で情報共有をしたり児童の相談や希望に応じたりして、何らかの対応をしている。その対応の結果については、以下の内容である。
【対応の結果、どのような変化があったか】
・本人はカミングアウトによって周囲に否定されなかったことで気持ちが楽になったと話す。
・性的マイノリティであっても良いことや安心感が本児のなかに生まれた。
・認められたことによって逆に生き生きしているよう。
・もともと自分の気持ちを語る子ではなかったが、この件をきっかけに自分の気持ちを語るようになった。
・当時は LGBT についての告白はなかったが、卒園後に職員に告白してくれた。本人のありのままを受け止めることで、相談できる関係ができていたと思われる。
このように、施設職員が児童の心情を汲んで適切に対応を行うことで、児童が心を開き、安心して、生き生きと生活していける様子が書かれている。この結果は、実際にその児童が性的マイノリティであるかどうかに関わらず、職員が「そうかもしれない」との想定を持ちつつ児童の気持ちに寄り添って対応していくことが、児童の生活にとって良い影響を及ぼすということを裏付けている。
また、複数の施設職員から「この調査をきっかけに性的マイノリティについて深く考えるようになった」との声が届いており、本調査自体が「想定と対応の引き出し」を増やすことに役立った様子が伝えられている。
4.今後について
本調査の報告書の一部は、2017年6月13日、参議院厚生労働委員会で参考資料として配布され、同年8月、厚生労働省が児童福祉主管課に対して「児童養護施設等におけるいわゆる性的マイノリティの子どもに対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を出すことにつながった。国が「児童養護施設の性的マイノリティ」についてその存在を認め、通知を出したことは大きな一歩である。
・「性的少数者 児童養護施設での配慮 自治体に周知へ」
(2017年06月13日 毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20170614/k00/00m/010/037000c
しかし、「きめ細かな対応」とは具体的に何なのか。その問いの答えについては、今後、児童福祉関係者などで情報交換をしながら考えていく必要がある。RFCでは、昨年秋より、全国の児童養護施設に対して性的マイノリティ児童やその対応についてヒアリングを開始している。昨年の調査結果では判明しなかった性的マイノリティ児童のより具体的な様子や、施設のきめ細かな対応についての情報が得られつつある。
また、児童養護施設を経験した性的マイノリティ当事者から「施設においてどういう対応をしてほしかったか」という経験に基づく貴重な意見についても拾い始めたところだ。これらの情報や意見はしっかりと分析し、現場に届けていきたい。
RFCは、児童養護施設関係者のみならず子どもに関わるすべての人に「想定と対応の引き出し」を増やしてもらうために、今後も調査研究や情報発信の活動を続けていくつもりだ。より多くの方に関心を抱いていただき、多様な子どもたちのための環境づくりが前進することを願っている(ヒアリング結果については今年夏ごろに公表予定)。
プロフィール
藤めぐみ
法務博士(専門職)。 1974年豪州・シドニー生まれ。大阪府育ち。大阪大学文学部卒業、関西大学法科大学院修了。衆議院議員公設秘書、自治体職員などを経験。2013年、LGBTと社会的養護の問題について考える団体「レインボーフォスターケア」を設立。同年9月、IFCO世界大会(IFCO=家庭養護の促進と援助を目的とした世界で唯一の国際的ネットワーク機構)にて唯一LGBTをテーマにしたワークショップを開催。司法・立法・行政の各分野に携わった経験をもとに、さまざまな分野の専門家と意見交換を行いながら、LGBTと社会的養護に関する発信や提言をしている。
一般社団法人レインボーフォスターケア
http://rainbowfostercare.jimdo.com/