2011.05.27
「クールスポット」をつくろう
福島第一原子力発電所の事故は、収束へ向けた工程表が発表されはしたものの、次々といろいろなことが起きたりわかったりして、依然として人々の不安をかきたてている。懸念事項はいろいろあるが、大きな関心事のひとつになっているのは、放射性物質の拡散問題だろうか。
政府方針では、原発からおおむね同心円状に避難地域などが設定されているが、どうもそれでは実態にあわない、といった批判が出ている。この関係の情報は詳しくフォローしていないが、風や地形などの影響で、原発から比較的離れた場所でも放射線量の高い「ホットスポット」が発生するといった情報が、一部週刊誌やネットなどでは飛び交っていて、不安が広がっているようだ。
当局が充分に情報を開示していない、という不信が根強いのはわかる。実際のところどうなのか確たることは知らないが、深刻な不信をもたれること自体問題ではあるし、実際、開示を控えたり隠していたりしている部分もありそうな気はする。混乱しているなかで下手に情報を出したら、過剰に心配する人が出てきてかえって混乱を招くのではないかといった懸念もあるのかもしれないが、そういう人は何がどうあっても過剰に心配するので、情報を出さずに招く混乱を避けることが先決ではないかと思う。
一方で、電力不足による停電や節電の影響については、一時期ほどの切迫した関心事ではなくなってきているように思われるのは気のせいだろうか。もちろん状況はまだまだ不確実だが、一部の人たちが煽りたてていた大規模停電のリスクはそれほど大きくはないということのようだし、心配されていた計画停電も、企業や家庭における節電努力でカバーされることを前提として、基本的には必要ないということになっている。
ひょっとするといまは、「いまこそエネルギー大量消費型の日本人のライフスタイルを変えるべき時である」とか、「節電グッズの売れ行きが好調」といった、どちらかといえば「前向き」の取り上げられ方をされることの方が多いくらいかもしれない。
しかし、問題が去ったとはいえまい。むしろこれからはじまるところだ。いうまでもないが、一般的にいって夏は暑い。暑くなれば、熱中症にかかる人が増えることは避けられない。とくにこの夏は、昨年ほどではないにせよ、平年並みかそれより暑い夏になると予想されているようだ。そこへこの節電ブームでエアコン「自粛」の動きが広がると、がまんすればいいというレベルではすまなくなるおそれがある。
「今そこにある危機」
軽くみられがちだが、熱中症は恐ろしい健康障害だ。周りの温度に体が対応することができず、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能がうまく働かなくなったりして起きる。症状が軽ければ、水分をとったり休んだりすることで回復できるが、重くなれば命にかかわる。
実際、日本では毎年、熱中症で多くの方が亡くなっている。とくに昨年、つまり2010年は、統計を取りはじめた1898年以降もっとも暑い夏だったらしい。気象庁によると、昨年の6月から8月の全国平均気温は平年より1.64度高く、8月は各地で最高気温が35度を超える猛暑日が相次いだ。
この結果、消防庁によると、5月31日から9月12日までの間に、熱中症で医療機関に搬送された人は5万4,386人。搬送時に重症だった人は1,824人で、搬送直後に死亡が確認されたのは170人だったそうだ。一方、厚生労働省「人口動態統計月報」(平成22年9月)は、2010年7~9月に熱中症で死亡した人数を1,648人としている。2007年の同期間には842人、2008年は530人、2009年は187人が亡くなったとのこと。
要するに、昨年は平年より暑く、熱中症の発生件数もかなり多かったというわけだが、仮に平年並みだったとしても決して少ない数ではない。しかも、この人数は、トレンドとしては近年増加傾向にある。比較のためにあげると、昨年1年間に交通事故で亡くなった方は4,863人で、この数字は年々減りつづけている。熱中症の方は3ヶ月間の数字であることを考えれば、これは少なくとも、交通事故に匹敵する程度には重大な問題だという認識が必要ではないかと思う。
2011年5月25日に発表された、6~8月の3ヶ月予報によれば、関東甲信越地方では、平年並みかそれより高い気温となる確率が6、7月は80%、8月は70%となっている。東北地方では6、7月が70%、8月が60%だ。昨年ほどではないかもしれないが、それなりに暑い夏になりそうだ。となれば、熱中症に対してはふだん以上の警戒をしておかなければならない。何せ、今年は「節電の夏」だからだ。
福島第一原発の事故を受け、今や各地の原発に厳しい目が向けられるようになっている。運転休止中のものは運転再開のめどがたたず、浜岡のように運転中でも停止となったものがある。事情はどうあれ、電力需要が年間のピークを迎えようというこの時期に原発の多くが使えないというのは、やはり痛い。不足分は火力その他でカバーできるとする意見もあり、専門外なのでそれを否定する材料を持ちあわせているわけではないが、常識的に考えて、電力需給のピークを迎えるにあたり、「そんな装備で大丈夫か」と聞かれて「大丈夫だ。問題ない」と胸を張れる状況ではさすがにないだろうと思う。
苦しい電力需給をなんとか切り抜けようと、官民各所で節電の取り組みが行われ、提唱されている。たとえば、資源エネルギー庁が出している「家庭の節電対策メニュー」というパンフレットには、「夏の日中(14時頃)には、在宅世帯は平均で約1,200Wの電力を消費しており、そのうちエアコンが約半分を占めています」とある。この「約半分」というのは、オフィスビルでも店舗でもそう大きくは変わらないようだ。つまり、電力需要が1日のなかで、そして年間でもピークとなる夏の昼間のエアコンの電力消費をどのように抑えるかは、否が応でも節電対策の「目玉」にならざるをえないということだ。
いくつかの資料をみるかぎり、エアコンに関しては、「室内温度を28度にする」というのがおおむね共通の指針となっている。熱中症予防の観点から「室温が28度を超えないようにする」とされていることと呼応するものだろう。
当然ながらこれは、人がいる場所での室温を指しているわけだが、よほどきちんと設計された空間でもない限り、室内の全体にわたって、一定の室温を保つことは難しい。実際には、エアコンの設定温度で調節することになるだろう。最近の機種では、さまざまなしくみできめ細かい室温調節が可能なものもあるが、必ずしもそういう機種ばかりでもないし、フィルタが詰まって効率が低下している場合もあるだろう。そもそも調節といっても限界がある。設定温度と室内温度にある程度のずれが生じることは避けられまい。
「ホットスポット」は身近にある
原発事故以前も、毎年夏は電力需給が逼迫していたから、多くの場所でエアコンの設定温度を28度にしようといった取り組みは行われてきた。今年はそれがさらに厳格に行われることになろうし、オフィスや工場向けの指針にあるように、換気をよくするなどの対応をしつつ28度より上に設定したり、あるいはさらに踏み込んで、需要ピーク時にエアコンを止めたりすることなども「自主的に」行われたりするだろう。結果として、わたしたちは室内においても、28度より気温が高いという意味での「ホットスポット」に遭遇する事態をより多く覚悟しなければならない。
いうまでもないが、熱中症による死亡者の数は、暑いほど増える傾向にある。真夏日(最高気温が30℃以上の日)の日数が多い年ほど、あるいは熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上の日)の日が多い年ほど多くなるらしい。しかし、熱中症に関係しているのは気温だけではない。人が感じる暑さ寒さの感覚には、環境条件としての気温、気流、湿度、輻射熱の4要素が影響する。
熱中症を予防するため、これらを反映し温熱環境を総合的に評価する指標として広く使われているのが、WBGT(Wet-bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)だ。「暑さ指数」とも呼ばれるこのWBGT温度が28度(簡易な換算方式によるとおおむね気温31度ぐらいに相当するらしい)を超えるあたりから熱中症による死亡が増えはじめ、さらに高くなると死亡率が急激に上昇するという。エアコンの調整がうまくいかない場合、設定温度が28度であっても、一部で室温が31度を超える状況は充分にありうる。そういう意味での「ホットスポット」は、エアコンがついている室内でも生じないとはかぎらない。
もちろん、エアコンのない屋外では、熱中症のリスクははるかに高い。とくに都市部では、いわゆるヒートアイランド現象の影響もあり、かなりの高温になる場合がある。今夏、いっせいにエアコンが止まったらこれが多少緩和されるかもしれないという噂も聞いたが、そう大きな期待を抱けるほどではなかろう。
さらに気をつけなければならないのは、暑い日がつづく真夏ばかりが危険というわけではないということだ。実際にはむしろ、梅雨の合間に突然気温が上昇した日や梅雨明けの蒸し暑い日など、身体が暑さに慣れていないときに、熱中症患者が増えることが知られている。同様に、冷夏では暑さに慣れていないため、気温がそれほど上がらなくても熱中症が発生しやすい。また、スポーツ中など、体を動かしていたりすれば、気温30度以下でも充分発生しうる。熱中症のリスクは、一般に考えられているより身近にあるのだ。
もうひとつ、忘れてはいけない視点として、個人差がある。熱中症で警戒すべきは高齢者と子ども、というのは、比較的よく知られているだろう。実際、昨年7~9月に熱中症で救急搬送された人の約半数は65歳以上の高齢者だった。高齢者は暑さを自覚しにくいうえに熱への耐性が低く、こまめな水分補給を億劫がったりすることも少なくないし、健康状態もばらつきが大きい。
また、18歳未満の子どもの熱中症患者は同期間内で全体の12%とさほど多くはないが、炎天下の自動車内に残されて熱中症で死亡する子どもについての悲しいニュースを、わたしたちは毎年否応なく聞かされつづけている。子どもは体温調節機能が未発達で、体調を適切に把握し伝えることができない場合も少なくない。また、身長が低く地面に近いため、大人が感じるより高い気温にさらされていることも、忘れてはならない。
こうしたいわゆる「弱者」に対する配慮は、このような個人差のある問題への対処として当然だ。政府も、東京電力、東北電力の管内で発動する電力使用制限令について、病院や福祉施設など一部の施設などの制限を緩和する方針を打ち出している。当然の措置といえるだろう。
「電力使用制限、病院や鉄道は例外 30分野で緩和」(47news 2011年5月25日)
・・・病院、老人や障害者のための福祉施設、新幹線などは昨年夏と同じ水準まで電力使用を認める「0%削減」を認めた。・・・電力制限を適用しないのは、患者を治療中の救急病院、被災地の避難所、東電福島第1原発周辺の避難地域の企業など。昨年夏を上回る自由な電力使用を認めた。
http://www.asahi.com/politics/jiji/JJT201105250122.html
弱者が弱者の顔をしているとはかぎらない
しかし、ここでとくに問題にしたいのは、そういうみえやすい「弱者」ではない人たちへの配慮の必要性だ。繰り返すが、暑さ寒さに対する感性や耐性は人によって異なる。そしてそうした差は、健康な大人の間にも当然ながらある。世間ではこれまで、なぜか寒さへの耐性の低さは憂慮すべき健康の問題と考え、暑さへの耐性の低さは無視していいわがままのように考える傾向があったように見受けられるが、その当否はさておき、体温調節能力が低い人が熱中症になりやすいのは事実であり、わがままとかいう類の問題ではない。一見健康にみえる成人だとしても、油断は禁物だ。
一般に、スポーツに親しんでいる人は熱への耐性がより高いが、そういう人でも体調が悪いときはある。病気にかかっているとき、疲れているとき、睡眠が不足しているときなど、ふだんは健康でも、注意を要すべきときはある。さらに危険なのは、さまざまな理由で我慢を強いられ、不調を訴えられない、あるいは訴えづらい状況におかれた人たちだろう。個人的には、職業柄からか、スーツ姿で街を走り回る就職活動中の学生たちが心配でならない。
「就活もクールビズで 企業呼びかけも学生鈍く」(産経新聞2011年5月22日)
節電対策で各企業がクールビズを前倒しで導入しているが、これに乗れないのが就職活動中の学生たちだ。東日本大震災の影響で、大手企業を中心に選考を先送りしており、暑い中でも就活は長引きそう。こうした中、学生にクールビズでの面接を呼びかける企業や、就活用にも“クールビズスーツ”を打ち出すメーカーも出てきた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110522-00000101-san-bus_all
就活学生たちがクールビズに踏み切れないのは、意識の問題などではなく、ひとえに彼らが「弱い立場」におかれているからだ。学生は、仮に会社が公式には「服装は自由」と表明していても、それが建前にすぎず、実際の面接現場では通用しないかもしれないというリスクを「肌」で感じ取っている。
就職難のなか、わずかなチャンスも逃したくない彼らにとって、クールビズの意義など理解しない意識の低い面接担当者に当たって落とされるリスクを回避できるなら、とりあえずリクルートスーツを着ておくという選択肢をデフォルト戦略にするのはむしろ当然のことだ。企業が連携して(少なくとも財界ベースで)、よほど強く、「スーツ禁止」ぐらいはっきりといわないかぎり、スーツ姿の就活生が消えることはないだろう。彼らは、汗を抑えるため水分を控えようとするだろうし、少々気分が悪くても黙ってがまんしようとするだろう。
もちろん就活学生だけでなく、現役の働き手世代も同様のリスクにさらされている。労働災害における熱中症は30代~50代に多く、死亡者の発生は14~16時前後に集中している。労働中、あるいは休憩後に労働を再開した直後などが典型的なケースだ。熱中症による死亡者に男性が多いのは高齢者を除けば他の世代でも共通だから、よく揶揄される男性ビジネスマンの「暑苦しい服装」のせいばかりではなかろう。
これまでは、いわゆるホワイトカラー職より、屋外などの現場作業が多いブルーカラー職が多い傾向があったが、今年は、ホワイトカラー職も安閑としてはおられまい。緊急の顧客対応を迫られたとき、チームで共同作業を行うとき、あるいは業務上重要な局面に立たされたとき、責任感のあるビジネスマンが体調を理由に休みたいとはなかなかいえないだろうことは想像できる。こうした、一見弱者に見えない、「隠れた弱者」への配慮が、今年の夏はとくに必要になるのではないか。
「クールスポット」という対策
熱中症予防策の「一丁目一番地」は、なんといっても、「暑さを避けること」にある。その観点で、エアコンの適切な使用はまちがいなく重要な課題だ。具体的には、「人がいる場所での気温が28℃を超えない」ことが望ましいとされている(ただし、エアコンの設定温度が24度を下回るなど低すぎる場合も、外気温と室温の差が大きくなりすぎ、体に負担を与えるとされる)。節電計画でいわれる「28度、あるいは風通し等に注意しつつそれより上へ」とのちがいに注目いただきたい。
もちろん事情は、人によって異なる。そこがポイントだ。一律の基準設定は、実施を徹底させたい向きには望ましいかもしれないが、それぞれの現場の実情をふまえないやり方は危険だ。不調を訴えられる立場にない人の存在、不満をいえない空気が、大きなリスク要因になる。節電は必要だとしても、それが「節電マッチョ」による「節電ファシズム」のようなものになってはいけない。みえる弱者と同様、みえない弱者にも配慮した、柔軟な運用が求められる。
その意味でひとつ提案したい。それぞれの場所で、温度を一律に28度かそれ以上にしようとするのではなく、ところどころに「クールスポット」(と勝手に名づけてみた)、つまり、冷房を少しだけ強めにした場所をつくっておいてはどうか、ということだ。暑さが平気な人には不要な場所かもしれないが、そうでない人、そうでない状態の人には、健康を保つ「砦」のような存在になるのではないか。また、そこまで差し迫った状態ではなくても、暑がりの人々にとっては、「少し涼しい場」はひとときの憩いの場となろう。それが全体でなく一部にとどまれば、全体としての節電の取り組みに大きな支障は与えまい。
具体的には、たとえばこうだ。大きな施設、公共的な施設には、一部に少しだけ冷房が強めに設定された場所をつくっておく。電車などでは、最近は「弱冷房車」が設定されているところが多いが、今年はそれを逆に「強冷房車」にすればいい。大きな会社なら、オフィスや工場などの一部、たとえば一部の休憩室の冷房を強めにする。官公庁や役所など、あるいは商業施設でも同様だ。
一般家庭や小さな商店などは、もともと電力使用制限令の対象とはなっていないが、節電自体は推奨されている。協力したいと考える人も少なくないだろう。しかしやはり、事情は個々に異なる。なかには必要に迫られ、個々の判断で冷房を強くしている人たちもいるだろう。そうした人たちに対して過剰なバッシングなどをしたり、節電への協力を過度に求めたりするのは控えたい。もちろん、節電に協力できる人はどんどんすればいいが、同調を強要することは危険だ。
もちろん、こうした「クールスポット」が意味あるものになるためには、それに関する情報が可能な範囲でできるだけ幅広く共有され、そうした場を必要とする人々が気軽に利用できるものとなっていてほしい。こうした一連の取り組みを通して、熱中症のリスクやその対処法に関する認識が広まり、熱中症患者、そして不幸な犠牲者がひとりでも少なくなればと期待する。
たかだか少々暑いくらいのことで、ここまでする必要はないと考える人もいるかもしれない。それほど暑くはならないかもしれないし、それほどの節電は必要ではないかもしれない。もちろんわたしも、こんな懸念が杞憂であってほしいとは思う。
しかしわたしたちは、「最悪の事態」を想定した備えがいかに必要か、この震災と原発事故を通じて学んだばかりではないか。弱者への配慮が必要、強者の論理はだめだと皆こぞって叫んできたではないか。この問題だけ急に、冷房に頼ろうとするなど軟弱でわがままで反エコだといわんばかりの、平然と弱者を犠牲にしてがまんを強いる発言ばかりがまかり通るのは、どうにも理解に苦しむ。
熱中症による健康被害は、ここしばらく毎年必ず百人単位で人命を奪ってきたという意味で「明確かつ切迫したリスク」ではあるが、地震リスクのように一度に巨大な損害を生むわけではなく、また低レベル放射線による健康リスクのように未知の存在でもない。リスクマネジメント的には、発生確率が高くその被害規模が比較的小さい、交通事故リスクに似た性格のものとして位置づけられよう。
一般的にこの種のリスクは、対策が比較的容易かつ安価にできる。熱中症対策としての「クールスポット」の設置などはまさにそうだろう。だからこそ、この「いまそこにある危機」を無視し、むざむざ犠牲者を増やすリスクを冒すことは罪深いと、声を大にして主張したい。
推薦図書
熱中症に関する知識を得るという点でいえば、わざわざ本を買わずとも、環境省が公開している「熱中症環境保健マニュアル2009」がある。熱中症になるしくみや発生動向、対処法から予防法までコンパクトにまとまっている。
環境省(2009)「熱中症環境保健マニュアル2009」
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html
書籍ということでは、熱中症からは離れるが、この本をあげておく。
リスクに関する意思決定についての理論的説明と、具体的な指針の策定手順などをコンパクトに解説した本だ。記述自体は若干堅めで、あまり一般向けとはいえないが、環境リスクのマネジメントを念頭においた書かれ方をしているので、取り上げてみた。そのなかで、原子力安全委員会が2003年に策定した「日本の原子力施設の定量的安全目標」なども紹介されているのだが、「広く国民との対話を進め、社会として継続して幅広く議論を深めていくことが重要といえる」とコメントされていて、それがその通り行われていたら、という思いにとらわれる。
プロフィール
山口浩
1963年生まれ。駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授。専門はファイナンス、経営学。コンテンツファイナンス、予測市場、仮想世界の経済等、金融・契約・情報の技術の新たな融合の可能性が目下の研究テーマ。著書に「リスクの正体!―賢いリスクとのつきあい方」(バジリコ)がある。