2012.07.04
「ふくしまインドアパーク」の活動について ―― 放射能の影響で外で遊べない福島の子どものために
東京のNPOが始めた、福島の屋内公園
2011年12月8日、福島県郡山市にて、放射能の影響で外で遊べない子どもたちのための屋内公園「ふくしまインドアパーク」がオープンしました。運営をしているのは東京に本部をおく、NPO法人フローレンス(代表理事:駒崎弘樹)です。フローレンスは、2005年から病児保育問題解決のための訪問型病児保育事業を行なっている団体です。病児保育事業だけでなく、2010年から待機児童問題解決のための小規模保育園事業を、2011年から孤育て(孤独な子育て)問題解決のための子育て支援施設の運営など、保育に関する様々な社会問題解決ための事業に携わっています。
ふくしまインドアパーク設立のきっかけは、代表理事の駒崎弘樹の妻の実家が福島県須賀川市にあり、実家の家屋が震災により大きく壊れ、避難してきた親戚を駒崎家に受け入れたところから始まります。親戚から震災の現状を聞くにつれ、須賀川市含めて、福島の子どもたちはどのように過ごしているのだろうか、そのことが駒崎の頭の片隅から離れなかったといいます。
そうした中、須賀川に住む子どもを持つ友人との話から、「放射能の影響で外で遊べない」「毎日家の中にいなくてはならず、子どもも親もストレスが溜まっている」「体を使っていないので、体力の低下が心配」と、子どもの遊べない実情を知りました。そして、これまで当たり前だった「外で体を使って遊ぶこと」ができなくなってしまった福島の状況にとても心を痛めました。遊びは子どもにとって、欠かすことのできない心の栄養であることを知っていたからです。
保育事業をしている者として何かできることはないか……フローレンスのスタッフとのディスカッションを重ねていく中で、フローレンスが東京都中央区で行なっている子育て支援施設「グロースリンク勝どき」にある屋内公園のノウハウを活用すれば、効率的かつ迅速に屋内公園を提供できるのではないかという結論となり、2011年7月にふくしまインドアパークプロジェクトが始まりました。
課題を打開したきっかけはソーシャル・メディア
プロジェクトが始まり、最初に行ったのは、現地の親御様の屋内公園に対する考えを聞くことでした。東京から来たNPOが決まりきった構成の遊具を置いた公園を作ったとしても、利用者から「自分たちの公園」と愛着を持ってもらえません。郡山市・須賀川市にお住まいの数組の親子に集まってもらい、震災前は公園にどれくらいの頻度で行き、どんな遊具で、どれくらいの時間遊んでいたかや、屋内公園ができるとしたらどんなスペースや料金体系を望むかといったことを聞き、どんな遊具を配置するかを固めていきました。
一番難航したのが、物件探しでした。
屋内公園に適した物件があり、ここでインドアパークを作ろうと契約を進めようとしたところ、市の担当者から電話がかかってきました。
市担当者:「もしもし、×××市 ×××課のものですが、おたくが契約しようとしている物件は都市計画法により屋内公園では使用できません」
今給黎:「3月の震災から5ヶ月経った今、子どもが外で遊べません。遊べる場所をどうしても提供したいので、なんとかならないでしょうか?」
市担当者:「法律なので無理です」
今給黎:「市の屋内遊び場施設も震災で壊れて、子どもが遊べない状況だと思うのですが、市ではどのようにお考えなのでしょうか?」
市担当者:「それは、本件とは関係ない内容です。ともあれ、この物件は法律なので無理なことをご理解の上で別の場所を探して下さい」
今給黎:「……」
次に、不動産業者から某店舗の跡地が候補地として紹介されました。
不動産業者:「店舗の跡地なので駐車場完備で広さも充分です」
今給黎:「この物件は、国道沿いでアクセスしやすくていいですね。ここを検討したいのですが賃料はいくらでしょうか」
不動産業者:「月100万円で1年契約で更新時に家賃が上がります」
今給黎:「月100万円は予算的に払えないので、地主さんにこの事業の社会性についてご理解頂いて賃料を下げられるように交渉してもらえないでしょうか?」
不動産業者:「ここの地主さんは、どんな事業であっても値引きはしませんし、1年契約と更新時に家賃を上げるやり方は変えません」
今給黎:「地元の子どもが放射能の影響で遊べない状況を訴えてもだめでしょうか?」
不動産業者:「地元の子どもの状況と、資産の運用は関係がないとお考えの方です」
今給黎:「……」
このあとも、他の物件がないか複数の不動産業者に問い合わせしましたが、震災直後で物件数自体が少なかった上に、使用する前に大規模に改装しないといけなかったり、山間部でアクセスに難があったりと、なかなか見つかりませんでした。
そこで、屋外に倉庫用テントを作って、その中に遊具を置いてみようとも考え、現地の親御様に提案してみました。
今給黎:「なかなか適した屋内の物件が見つからない状況ですので、空き地にテントを立ててその中に、アンケート結果でご意見頂いた遊具を配置したいと思っていますが、いかがでしょうか?」
現地の親御様:「屋外にテントだと放射能値が外と変わらないと思います。そのような場所で開園されるなら、小さい子どもがいる私はいかないです。その案はやめたほうがいいですよ」
今給黎:「ご指摘ありがとうございました……」
と結局、テント案はボツとなりました。
こうした行き詰まった状況の中、急転したのはTwitterがきっかけでした。フローレンスの活動に共感してくださった坂之上 洋子さん(@sakanoue)が物件を探していることをTwitterで呟いたところ、西友の方から連絡があり、副社長をご紹介して下さいました。そこから、ザ・モール郡山店(合同会社西友様)からの空きテナント情報を頂くことができ、現在の場所に確定しました。
資金面では、ハタチ基金、東日本大震災復興支援財団、グラクソ・スミスクライン株式会社といった財団や企業から支援を受けることができ、人材面では、地元の保育士・幼稚園教諭の方の求人ご応募があったことで、2011年12月8日にオープンにこぎつけました。
どんな屋内公園であるべきか
郡山にはニコニコこども館、Pep Kids郡山といった自治体で運営している大規模な屋内公園が複数あります。また近隣のショッピングセンターの中にも子どもの遊び場があります。こうした屋内公園が多い郡山の環境で、どんなインドアパークにすればよいのか。フローレンスの考える安全・安心・楽しさを検討しました。
・安全:
ふくしまインドアパークは40坪の広さのため、体を使って遊ぶ屋内公園としては少し狭いです。そのため、よそ見をして走ってぶつかる、遊具から飛び降りてぶつかるといった、不意な衝突や転倒で大きなけがにつながるリスクが他の屋内公園よりも高くなります。それを軽減するために、床と壁にウレタンマットを敷設したり、什器の角に緩衝材を設置しました。また、子ども用のAEDをパークの中に準備することで緊急時に使用できるようにしています。
・安心:
保育士や幼稚園教諭の資格を持っていて、地元の保育園や幼稚園で勤務経験のある現地スタッフがパークリーダーとして常駐しています。このことで、非常時の対応(たとえば突然の嘔吐や怪我など)や育児上の相談などをすることができます。利用者からも「親以外に子どもを見てくれる専門スタッフがいてくれると安心」というお声を頂いています。
また、体を使って遊ぶ「Kidsスペース」、ままごとやプラレールをする「知育スペース」、赤ちゃん向け玩具のある「Babyスペース」と、目的別にスペースを区切ることによって、子ども同士の衝突を防いでいます。
・楽しさ:
どんな立派な遊具を置いても「飽きて」しまうことは避けられません。いつ来ても楽しい屋内公園を実現するために、定期的に入替えられる遊具を設置しています。たとえば、12月に設置したトランポリンを、1月に滑り台のエア遊具に変更したり、ミニカーをプラレールに変更したり、定期的に絵本を入替えたりしています。
「500円の価値ない」来場者からのコメント
2011年12月8日に以下の内容で、オープンしました。
FacebookURL:http://www.facebook.com/fukushima.indoorpark
場所:福島県郡山市長者1-1-56 ザ・モール郡山 2F
広さ:40坪(約132平米)
時間:10:00~18:00
定休日:月曜日
対象年齢:6ヶ月~6歳の未就学児
料金:互助会員・・・500円/月で何度も遊び放題
ビジター・・・500円/回
その他:保護者の付添い必要
オープン時から来場者に満足度調査のアンケートをとっていました。オープン当初に多かったのは「新しい遊び場を提供してくれてありがとう」という感謝のコメントと、「遊具が少なくて500円の価値はない」といった現実的なコメントの大きく2種類でした。
当初、走り回れるスペースが必要という認識から、距離的に余裕をもって遊具を設置したのですが、利用される親御様からみて、その余裕は寂しい感覚を与えてしまったようです。現実的なコメントを下さった方々にも価値が感じられる公園にしていくために、遊具毎のアンケートを取り、人気のない遊具の撤去と、アンケートで要望のあった遊具の追加を迅速にしていくことで、12月28日の時点でお子様の累計来場者が1,000人を超えました。
さらに、毎日実施する15分のプログラム(絵本読み聞かせ、エプロンシアターや制作など)を1日数回パークリーダーが行うことで、インドアパークに来れば何かしらのプログラムが体験できるようにしました。
また、定期的にイベントを開催することで、毎日実施しているプログラムとは異なる楽しさも提供しています。たとえば、チャイルドタッチケアーのママ向けの講座や、どうぶつ将棋体験イベント、ホスピタル・クラウンによるバルーンアートやジャグリングなどのパフォーマンスイベント、カワイ体操教室様提供の2歳児のための体操イベント、学研ほっぺんくらぶ様提供の七夕イベントなど、様々な団体や個人からのご協力を得ながら無料で提供しています。
こうした遊具というハードと、毎日のプログラムやイベントといったソフトを組み合わせることで、多くのお子様が来場して下さり、2012年6月5日現在で累計来場者が7,000人を超えました。
ふくしまインドアパークは「1年間で1万人の福島の子どもたちを笑顔に」を目標に活動しており、順調にいけば9月には達成できそうです。ふくしまインドアパークで元気に体を動かして遊んだ子どもたちが健やかに成長し、新しい福島を創る存在になっていくことが最終的な目的です。
公園デビューの場としてのふくしまインドアパーク
ふくしまインドアパークに娘さんを連れて遊びにいらしたお母様からお話を伺いました。かつては、娘さんにはよく一緒に遊ぶお友達がいました。しかし、そのお友達は放射能の影響を懸念して引越しされてしまったそうです。それは娘さんにとっては一緒に遊べるお友達がいなくなることを意味していました。
さらに、いつも遊んでいた外の公園は除染作業の計画はされているものの、いつ実施されるかもわからず、たとえ除染されたとしても、放射能の影響が不安で外で遊ばせたくないと、お母様は考えていました。そんな時に、このふくしまインドアパークがいつも行くショッピングセンターにできたのです。
この施設は、友達がいなくなってしまった娘さんと、安心して遊べる場所を探していたお母様にとっては、まさに「天からの贈りもの」のようであったとおっしゃってくれました。
放射能の影響による避難や転勤、引越しにより、地域の人や友達などのつながりは減少しています。ふくしまインドアパークは、ショッピングセンターという日常的に訪れる場所に安心して遊べ、気軽に話ができる環境を提供していることで、インドアパークで知り合い、友達になるケースも多くあります。
「公園で遊べなくなった現状で、どのように公園デビューしたらいいでしょうか?」「この子は生まれてから外で遊んだことがないのですが、大丈夫でしょうか?」こうした不安をパークリーダーに相談する保護者の方も多くいらっしゃいます。日々の子どもの成長状況や病気の話、予防接種のスケジュール、放射能への対応方法など気軽に話し合えるママ友の存在は重要です。こうした友達を欲しがっている方同士をパークリーダーが仲介し、積極的に「公園デビュー」を推進しています。
福島の子どもを笑顔にし、自分も笑顔になるボランティア活動
インドアパークの運営をしていた2012年1月に、横浜で美容院を経営されている方からインドアパーク内でのキッズヘアカットイベントのご提案がありました。この方は、ご自身の美容院でチャリティイベントを開催し、その収益金を寄付して下さっていた方でしたが、寄付だけでなく実際に郡山の子どもたちに触れ合いたいとのことで、4月17日にインドアパーク内でイベントを行い8名のお子様のヘアカット&アレンジをして頂きました。
郡山から遠く離れた横浜から来て2時間という短い時間ですがヘアカットをしにボランティアで来てくださり、ヘアカットした方もされた方もニコニコで帰っていった姿が印象的でした。
さらに、運営にご支援頂いているグラクソ・スミスクライン株式会社の社員様が2012年3月から毎週土日に2名いらして下さっています(6月現在も継続中)。ボランティアにもかかわらず、10時~15時までの時間のために北は北海道、南は沖縄まで全国からいらして下さっています。皆さんご自身の意志でいらして下さっているので、本当に熱心に子どもたちと遊んでくれています。
バルーンアートや手品、紙芝居など特技のあるかたはそれを披露し、ない方もじゃんけん大会や制作イベントなどをして子どもたちと楽しく遊んでいます。いつもいるパークリーダー以外の大人が積極的に遊んでくれることに子どもたちもよろこびますし、親御様も多くの人たちに支えられていることがわかって嬉しいと言って下さいます。
ボランティアで参加して下さった方からのコメントを紹介します。
☆ ☆ ☆
「非常に楽しいひと時を過ごさせていただきました。
震災後、自分にできることはないかな? と考えていたのですが、子供(小学校1年生)がおりまして、何もできず本当に悶々としておりました。
子供のお世話でしかも日帰りでできるボランティアならば、私のような立場でもお役にたてると喜んで伺わせていただきました。
同じ親として…
東京にも子供の城や、いくつかの遊びの施設があります。でも都内にいて、お金を支払っているとサービスが当然と考えがちの場合が多いかと思います。だけど、ふくしまインドアパークにうかがわせていただき、本当に皆様が感謝を言葉にしてくださることが私自身すごくうれしく、そして皆様の心の美しさを感じ、見習うことが多かったと思っております。未来を担う子どもたちのために、私たちにできることがあるならば、これからもぜひお手伝いさせていただきたいと思っております。
最後にスタッフの方々が、子どもたちの名前を覚えていてくださっていることは、私は素晴らしいと思いました。自分の名前を呼んでくれることは子どもたちにとって本当に嬉しいことだと思います。笑顔で一生懸命働いていらっしゃるスタッフの方々にもどうぞよろしくお伝えください。これからも、子どもたちのために頑張ってください。
☆ ☆ ☆
コミュニティの場としての拡がり
当初、ふくしまインドアパークは体を使って思いっきり遊ぶ場として始まりました。しかし、運営を継続していく中で、単なる遊び場だけでなく、子ども同士、親同士がつながれる場であったり、被災地支援をしたいと思っている方々とつながれる場であったり、様々な方々をつなげるコミュニティの場として役割が拡がっていることに気付きました。ここにくれば何かしら人とのつながりを感じることができる。こうした安心感が今の福島の子どもたち、親御様たちに求められていることだと実感しています。
こうした郡山でのふくしまインドアパークの活動を知り、見学される方も多くいらっしゃいます。そして、「私の地域でもふくしまインドアパークをつくって欲しい」とのお声かけを頂くこともあります。その中で、今年の夏、南相馬での2園目をオープンする準備を現在進めております。南相馬は住民の4割が避難している状況で、父親だけが南相馬に残り、母子が避難している「逆単身赴任」などの、家族がバラバラな状況が多い地域です。また、市内に家族で安心して楽しく遊べる場所が少ないため、週末になると仙台まで出向く家族も多いです。地元で家族一緒に安心して過ごせる屋内公園を南相馬でも実現するべく活動をしています。
パークサポーターによる継続的な支援のかたち
ふくしまインドアパークにはパークサポーターという定額寄付会員制度があり、毎月継続的にご支援をして下さっています。
<パークサポーター>
つみき組:500円/月 すなば組:1,000円/月 ぶらんこ組:1,500円/月
現在30名程のパークサポーターがいらっしゃるのですが、皆さん毎月寄付するだけでなく、Facebookの記事にコメントをくれたり、友達にシェアしてくれたり、Twitterの記事をリツイートしてくれたりと日々関心を払って下さいます。そして、こうしたソーシャル・メディア上での協力だけでなく、実際にふくしまインドアパークに来て下さったりもします。
こうしたパークサポーターの方々の熱意に応えるべく、特典もパークの子どもたちの様子を体感してもらえるものにしています。
<パークサポーター特典>
・パークサポーター限定メールマガジンの発行
パークで開催されたイベントの報告や、寄付金で購入した遊具のご報告、子どもたちが楽しく遊んでいる写真などのご紹介をしています。
・子どもたちの制作物のプレゼント(すなば組、ぶらんこ組限定)
子どもたちが感謝の気持ちを込めてつくった制作物を定期的にプレゼントしています。
・ふくしまインドアパーク現地でのボランティア(ぶらんこ組限定)
特定の日にふくしまインドアパーク内でのボランティアを行うことができます。
・パークサポーターのネームプレートを掲示(ぶらんこ組限定)
パーク内にネームプレートを掲示します。
郡山園の継続的な運営や、南相馬園の新規開園にまだまだ多くの方からのご支援が必要な状況です。こうしたふくしまインドアパークの活動に共感して下さるかたのパークサポーター入会をお待ちしております。
<パークサポーター入会サイト>
http://fukushima-indoorpark.jp/park-supporter/