2013.11.07
稼ぐインフラ ―― 人口縮小社会における公民連携事業
本コラムでは、人口縮小、産業衰退にともなう地方自治体における財源の枯渇と、公共インフラ全般の更新問題について取り上げる。現在主流となっている「縮小する財政にコスト削減によって最適化して」という方法論だけでなく、とくに近年見られる「公共インフラの一部を民間で利活用することによって稼ぎを生み出し、その収入で公共サービスを支える」という方法論について検討したいと思う。
従来の公共観念からすれば、公共資産の一部で稼ぐということはタブー視されてきているが、一方で収入がこれ以上見込めないからすべて削減していくという方法しか考えられない公共のあり方では、財源の枯渇によって「提供すべきサービスも提供できない」という論理しか展開できずにいる。
今後は、従来の公共インフラに対する考え方を再検討し、新たに「稼ぐ機能」を公共インフラの一部に付随させることによって公共サービスを充実させることが一つの方法論である。実際に、道路の利活用から、学校施設の活用などさまざまな公共資産が新たな方法で活用され、その収入の一部が公共に還元されている。
財源の枯渇と公共施設更新のダブルパンチ
地方普通会計における道府県の歳入のピークは、1998年の48.9兆円であった(総務省自治財政局財務調査課「地方財政統計年報」)。その後、交付税などで政府によって地方自治体の経営を下支えしているものの、全体として財源が減少していくトレンドは変わっていない。それに対して社会保障費は増加しており、財政は極めて切迫しているのは長らく言われている問題である。
このような状況下で問題となっているのが、既存公共インフラの更新問題である。東洋大学根本祐二教授が『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)で指摘したように、現在我々が利用している、学校をはじめとした公共施設、道路などの公共インフラは戦後高度経済成長期以降に作られ、すでにその多くが更新時期を迎えようとしている。単純計算で現在の公共インフラを維持しようと考えれば、年間約8兆円、総額330兆円のインフラ等の更新費用が必要となる。
財源が減少するにもかかわらず、膨大な更新費用が必要となってくる。しかしどう想定しても、得られる税収と公共インフラの維持・更新費用との乖離は大きく、従来通りに公共インフラを更新することは無理である。だからこそ、公共インフラの今後の更新を”どのように”行うか、というのに注目が集まっている。
減少する収入に合わせるか、稼ぐ策を考えるか
まず、現在いくつかの自治体では公共施設の今後の更新費用に関する維持管理・更新計画を策定している。総務省も「公共施設及びインフラ資産の将来の更新費用の試算」という指針と計算用アプリケーションの提供などを行っている。これによって公共インフラの統廃合などを実施するべき基準が見込めるのである。
これは将来の予想される税収をもとに維持可能な公共インフラ規模を逆算するという方式であり、コストベースで公共施設を考え、税収に合わせてコストをカットしていくという考え方である。しかし計算をした上で示される、「公共インフラ30%を削減すべし」といったような目標数値や、それに基づく公共インフラの統廃合などの具体的実施に関しては、当然ながら政治行政的なプロセスを必要とするため、簡単には計画を執行できない現実がある。
他方として、まだ多くは聞こえないが「稼ぐ公共インフラ」という考え方も出てきている。
その1つが、公共インフラ自体に商業機能などの稼ぐスペースを生み出すことによって、従来はフルコストであった公共インフラの一部をマネタイズする方法である。図書館にカフェを併設したり、道路上に商業施設を建設するといったケースは全国各地で生まれている。
もう1つは、インフラシステムそのものを海外などに輸出して稼ぎ、その収入で地元のインフラを支えるという考え方である。日本でも上下水道や地下鉄などのインフラをアジアなどの新興国に売り込み、そこからの収入を得ていこうとする取り組みが始まっている。
減少する収入に併せてコストを削減していくやり方と、新たな収入を生み出してその分でサービスを充実させていくという考え方の2方向で公共インフラの更新問題の解決に向けた取り組みは展開され始めている。
稼ぐ公共インフラを支える公民連携事業事例
具体的事例の一つとして、岩手県紫波郡紫波町のオガールプロジェクト( http://www.ogal-shiwa.com/ )のオガールプラザをモデルとして用いることとする。オガール紫波株式会社の前マネジャーであり、現在は中核施設のオガールプラザ株式会社の社長を務める岡崎正信氏は、私と共に一般社団法人公民連携事業機構の理事も務め、全国にオガールモデルの普及啓発を行っている。
同プロジェクトは、長い間放置されていた町有地の上における公民連携型の開発プロジェクトである。すでにネット上でもさまざまな情報が掲載されているため、その一部を紹介したい。
参考WEB
・公民連携で産直、カフェ、図書館が一堂に(ケンプラッツ)
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/news/20120723/576710/
・岩手県紫波町・オガールプロジェクト「Uターン青年と経営者町長が塩漬けの町有地再生に挑む」
http://diamond.jp/articles/-/20820
・【動画】紫波オガールプロジェクト〜先進的まちづくり〜
・民間提案活用型PPP (岩手県紫波町公民連携事業)(内閣府)
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/re-infra-invest/shiryou/4kai/sankou3_3.pdf
オガールプロジェクトの中核施設の一つであるオガールプラザは、民間のテナントと紫波町が運営する情報交流館で構成される「官民複合施設」である。2012年にオープンし、オープンから1年で図書館を含む情報交流館に30万人、同施設内に併設されている民間のテナントである産直紫波マルシェに21万人が訪れている。町役場新庁舎、完全民間開発棟オガールベース、分譲住宅オガールタウンなどの建設もすでに動き出しており、複数連鎖型の開発で実行されているプロジェクトだ。
一見すると従来型の開発事業のように見受けられるが、これらの事業自体が従来の開発先行型のプロジェクトとはまったく異なり、公共と民間の垣根を超えた、公民連携事業という形式で稼ぐ公共インフラをエリア全体で実現している。
この他にも、千代田区内の利用されなくなった公園と学校を活用し、年間100万人以上の来館者が訪れる民営アートセンターとして再生した「3331 Art Chiyoda」も注目を集めている実例である。公共資産を活用しカフェやレンタルスペースなどの人が集まる機能と新たなアーティストたちの文化芸術の活動の場という公共性のあるサービスを拡充しながら稼ぐという事例の一つである。同施設を経営する合同会社コマンドAの代表を務める清水義次氏は公民連携事業機構の代表理事も兼務している。
その他にも、「東京おもちゃ美術館」( http://goodtoy.org/ttm/ ) も廃校を活用し、子どもたちが安心して遊べるという公共に資する機能を民営で実現し美術館であり、多くの人々が利用している素晴らしい実例である。また、和歌山県の「秋津野ガルテン」( http://agarten.jp/ )も廃校を利用して、地元農業者たちからなる運営会社が経営する農業法人が地元の食材を用いたレストランや地域づくり、農業体験拠点として地元の人々の生活を支える産業拠点として、またコミュニティ拠点として運営されている。
また、道路利活用のケーススタディも拡大してきており、今年度から実施されている事例として、札幌大通まちづくり株式会社が主体なって、大通地区の国道沿いに設置された「すわろうテラス」がある。一般公道上のスペースを活用して、テラス店舗を事業者にレンタルしていくという形式で、道路の一部を活用して稼ぐ床を作り出し、道路維持管理やエリアマネジメント全般に活用していくという試みである。
従来のような「道路は通路であって、そこで商業などをやるのはけしからん」という方向から大きく転換し、都市再生整備計画に位置づけられた事業において、国交省は国道における道路占用料を一部減免する特例措置も設けている。札幌大通まちづくり株式会社は一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)のパートナーエリアであり、同法人の取締役兼統括マネジャーの服部氏はAIAの理事も務め、全国各地にこのようなエリアマネジメント手法の普及に尽力している。
このように新規開発型のオガールプロジェクトから、廃校などの公共資産を再活用するという点も含めて地域内で稼ぎを生み出しながら公共性のある事業も併せて実行するものや、道路などの公共インフラ上の空間の一部を利活用するケースまで、多様に「稼ぐ公共インフラ」を通じた公共財源の新たな捻出並びに公共サービスの充実を併せて実行しているものが出てきている。
今回は数あるケースの中から、岩手県紫波町におけるオガールプロジェクトに見られる、「稼ぐ公共施設」の開発手法を確立する上でのポイントを以下の7つに分けて解説する。
ポイント1 : 単独機能だけの公共施設から、複合型公共施設へ
従来の公共施設の多くは、単独機能によって建てられてきた。学校はあくまで学校、公民館はあくまで公民館、図書館はあくまで図書館、役所はあくまで役所といったように、施設の建設を設定し、それに即した予算を組み立て、単独機能で開発し、維持管理していくという方式であった。
人口が急増、必要となる公共サービスが急拡大し、開発スピードが求められる場合には、仕様策定などでもシンプルであることから、単独機能施設の方が適していたと考えられる。しかしながら、一つの施設で共通する機能をまかなうといった「共通化」の方法が取られていないことから、施設内に空間的な余剰を抱える場合が見受けられる。
このような状況を打破するためには、単独機能で公共施設を開発する方法をとりやめ、複数の公共機能をもたせた複合機能化を果たすことが有効な方法と考えられている。
オガールプラザにおいては、図書館を中核施設としながらも、町民が利用できるキッチンスタジオ、音楽スタジオ、子育てステーションなどさまざまな公共施設が複合的に作られている。
ポイント2 : 公共施設だけではなく、公民連携施設へ
従来の公共施設は、あくまで公共が保有し市場からは切り離されてきた。
もちろん、税収が潤沢な場合には、公共施設をすべて税財源で開発・維持していくことがふさわしく、それが不可能な施設は開発しないという判断を下すのが正解であっただろう。しかしながら、現在では必要なものでさえ開発、もしくは更新することが不可能な公共インフラが出てきている。
この際には、従来のように公共施設の運営費はすべて税金でまかなわれるという前提を打破し、公共施設と商業施設との合築という一つの方法が考えられる。
公共施設には多数の利用者が訪れる。役所の窓口でも、運動場でも、図書館でも、延べ人数で年間数万人から数十万人がそこに訪れるだろう。公共施設利用者を顧客と考えることに抵抗がある人もいるだろうが、これらの利用者ももちろん、喉も乾けば、お腹も空く。明治神宮の表参道周辺に商店が立ち並んだのと同じように、公共施設でも十分に利用者の方々を対象とした事業を展開する可能性はあったのだが、いま述べたように、公共施設としての単独機能性、市場から切り離して純化することに公共性があるという従来の概念もあり、実行されてこなかった。
とはいえ、中途半端な公共施設に付随する売店や自販機などは、一部分が利権化されていたりと、不透明な方法で利用者から収入を得ている場合もある。しかしだからといってそれらを一切禁止するのではなく、むしろここは積極的に透明性を確保した上で収益を生み出し、しっかりと公共施設維持やサービス財源として利活用することが検討される状況にきているのではないか。これらの商業機能は公共施設の利用者に利用を強制させるものではない。収入源を確保することで、公共施設機能やサービスの質と量を共に拡大する可能性があり、またそのようなものである必要がある。
オガールプラザでは、前述のような公共機能と共に、カフェ、産直施設、学習塾、クリニック、居酒屋が併設されている。詳細は後述するが、これらからの家賃・管理費によって施設全体の維持費の多くをまかなうことを可能とし、公共施設部分の集客性を活かしながらも維持費軽減に繋げている。
ポイント3 : 高値の公共発注ではなく、民間開発による開発費の適正化
さらに、従来の公共施設整備予算の増大の問題には、プロセスを重視し過ぎたために開発費が高くつくという問題がある。地方では、公共開発というだけで民間開発よりも多額の費用をかけるのが当たり前であるという考え方がある。さらに公共発注特有の膨大な仕様設計などを通じて、開発コンサルタントなどに支払う費用などが膨大にかかり、民間が同じ施設を建てるのに比べて費用が高くつく、と言われている。
具体例をあげよう。従来型の建築仕様設計主義から入った開発事業では、公共施設特有のスペックを事業内に押し込む傾向がある。例えば不必要なほどに広い通路共有部などを前提としていたり、寒冷地にもかかわらず、都市部と同様の広い開口部のデザインを仕様として指定したり、そもそも開発費抑制や運営費抑制が困難な仕様で入札に出されたりするケースが散見される。民間資金を活用した公共インフラの開発、もしくは民間企業のマネジメントに関するノウハウを活用して効率的な公共インフラ整備・運営を行うPFI(Private Finance Initiative)手法を用いても、地元議員や地元行政マンが、建設コンサルティング会社などが事務局をつとめる委員会等に仕様設計段階で参加し、前述のような公共施設特有の仕様を盛り込んでしまう場合もあるため、開発や運営面で民間ノウハウを活用できることは極めて限定的になる。
かつては公共事業費を増額することによって、地方で公共事業を展開し、雇用を下支えするなどの狙いもあったのだろう。しかし現在では、この方法では公共施設を整備・更新できない自治体も多数あり、この問題を解決する必要がある。
その解決方法の一つが、民間主導型の公共施設整備である。
民間が施設全体を開発し、その一部に公共施設が入居する、もしくは買い取る形式で公共施設開発を推進していく開発方法が今後増加していくことが想定できる。
オガールプラザの開発に関しては、第三セクター方式で設立されたオガール紫波株式会社が、株式会社として民間開発手法で施設開発を行い、図書館などの公共施設部分、商業などの民間施設部分での多少の開発費の違いはあるが、内装費込みで坪約40万円〜約70万円で開発している。施設全体をオガールプラザが開発、その施設の一部である図書館部分を紫波町に開発後に売却し、それ以外の貸出部分についてはオガールプラザが保有し一般的な不動産ビジネス同様に運営していく方式である。
民間事業者による開発という形式のため、公共施設入札のような方法ではなく、開発算定を事前に行い、算出された妥当金額に対して、見積もりを複数社からとり、決められた予算金額の中で最大限の品質を実現するための協議を共に行って開発されている。
もちろんさまざまな課題がある。例えば従来の公共施設開発とは異なり一義的には民間施設開発のため、都道府県税である不動産取得税が公共施設部分についてもかかってしまう。こうした課題に対処するため、今後は公民連携施設開発を前提とした税制などが検討される必要もあるだろう。
ポイント4 : 先に客付けを行う逆算方式での開発規模の決定
建設費算定に関しても、公共施設部分に関しては税財源で捻出可能な基準を設けつつも、さらに商業施設部分から見込める家賃・管理費を算定して適正化を図る。
しかしこの時に注意しなければならないのは、商業施設部分に関してもすべて客付けを完了していることである。開発前にすべての入居者を決め、事業的に無理のない家賃・管理費を明確にし、それに開発費を従わせるのである。実際にオガールプラザの場合にも、当初は3階建ての施設構想であったが、実際の客付けなどを行った上で公共施設維持費などの観点を考慮し、最終的には2階建ての施設に変更している。しっかりと維持可能な規模に設定する上でも、客付けを完了し、その上で開発計画を組み立て、できるだけ開発費を抑制することを徹底する。開発費を抑制すれば、その分安く床を貸し出しても利益が出る構造が可能となり、結果的にリーシングする上でのさまざまな業種業態を選択できる余裕が生まれる。
一方で、従来の公共施設開発では「仕様」を設計し、それに合う入居者を決定していく方式を採用している。しかしこれでは、開発した後に市場に対応していないことが判明して入居者がいないという問題と直面することが多い。失敗している公民合築施設の多くは、この方式であった。
ただでさえ開発費が高額となる問題を抱える公共施設開発の手法をそのままに、商業施設の開発仕様にまで適応して開発した結果、多くの商業者はその施設に入居して経営が成り立たない水準の家賃・管理費設定にするしかないという問題がある。実際に公共施設開発では、仕様を決めて、開発費を決めて、その後に床面積で家賃設定をするという方法を用いるケースが多く、さらに衰退地域の場合にはすでに空き店舗が多いにもかかわらず、それらの不動産オーナーが示している根拠なき「相場家賃」をベースとして、妥当な家賃設定を判断している。空き店舗であるから、不動産オーナーたちの言う家賃設定は市場では認められていない金額であるため、新規開発をしてもそのような金額で貸し出そうとすれば空き床になることは必然でもある。
つまり公民連携施設を従来の方法で作れば良いというものではなく、開発段階で、従来からすれば「逆算」とも言える方式を用いて、開発計画の確実性を叩きに叩いていく必要があるのである。
さらに、このような「逆算」方式は、施設開発費を圧縮することによって、維持費にも効果が跳ね返ってくるという効果もある。先のように、不必要な共有部ばかりの施設設計や、過剰な開口部などを抑制するなどを開発段階に行うことで、維持費は飛躍的に削減される。その結果として、限られた財源でも公共施設を維持運営していくことが可能となるのである。
そして作られた施設を利用する人々にも非常に低廉な価格設定で施設利用をしてもらうことが可能となる。一部自治体では、公共施設を無料で貸し出しているところもあるが、その裏側では税負担をしているということである。財政が悪化していくことを勘案すれば、維持費が膨大な施設を無料で利用者に貸し出すためには、それだけの税金が必要になる。そもそもの施設開発・維持費が抑制されることによって、税負担が少なくとも多くの人が利用できるという環境作りが極めて重要であることは言うまでもない。
現在では、将来的な用途変更が容易な施設を計画することも必須事項である。当初の計画では維持可能な施設であったとしても、10年も経過すれば、当初の計画を変更して新たな用途で貸し出すことが不可欠になる可能性がある。公共施設でも商業施設でも、周辺自治体に新たに開発された施設が競合関係にあれば、利用者が減少していく可能性は十分にあり、見直しを図らなければいけない場合も多々あると考えられるからである。
どちらにしても、「公民合築すれば先に開発してしまってもオーケー」というわけではない。あくまで開発規模の最適化は、先に民間床側のテナントなどをすべて決定し、公共床は将来の財政規模で支払う可能な金額を割り出しながら、民間床からの収入部分を勘案して設定する。ここの順番と原則を間違えては、公民連携事業であったとしても、従来の公共施設開発の失敗と同じ轍を踏むことになる。
実際に、公共主導型の再開発事業の多くでも、公共施設と民間施設を合築しているケースは多数あるが、国からの交付金などをあてにして超巨大な施設開発を行い、民間床の客付けは開発費から逆算した家賃で実施した結果、入居者が乏しく民間床が開いたままになり、最終的に公共が買い取るという事態になり政治問題化しているものが全国にある。
逆算方式を無視して開発先行でのプロセスを採用すれば、公民連携は名目だけとなり、事業としては失敗する。
ポイント5 : 公民連携施設内だけでなく、外部空間を利用して価値にレバレッジをかけるエリアマネジメント
本コラムは財政と向き合うという視点で書かれているため、大変世知辛い内容のようにとらわれがちであろう。しかし限られた予算でも、公民連携施設内の価値を増大させるために外部空間も統合的に活用するといった方式もあり、決してケチケチした内容というわけではない。施設内に機能を入れないことで、施設維持費は最低限にとどめつつも、しかし施設だけでは不十分な機能を施設外にもたせて、さまざまな企画の拡張性を担保する方式をとることも可能なのである。
オガールプロジェクトでは各施設の間に緑の大通りと呼ばれる広場空間を作り、複数施設で共有している。道路や公園ではなくあくまで「広場」とすることでさまざまな規制を回避することができ、バーベキューなどの企画も多数開催されている。また、オガールプラザ内の各飲食店舗も小規模なものが多いため、来客が多い場合にはこれら広場空間に机や椅子を出して客席にしたりするなど、ファジーな空間運営をしている。
また音楽を聞く、ワインを飲むといった文化性を醸成するような企画も開催されている。何事も施設内に留めるという発想ではなく、常に使うわけではない機能は、維持費の極力かからない形で共有部を設け、複合目的で常に変化する形式で維持していく方式が有効なのである。
ポイント6 : 地価の上昇による波及効果
これらの公民連携事業による公共施設・民間施設が融合した空間自体が、利便性が高く、高品質な空間を提供できることによって、他の地域とは異なる価値を生み出していく。結果として、地価の上昇を実現することで、まちづくりプロジェクト投資費用を回収していくことが可能になっていく。日本におけるまちづくりは市民活動ベース、もしくは行政の市民参画誘導が中心で取り組まれてきたが、海外での一般的なまちづくり分野は、土地の価値上昇を生み出していく複合開発にその目的がある。実際に、オガールプロジェクトを展開している紫波中央駅周辺の地価は上昇している。これによって固定資産税収入が拡大、今後分譲するオガールタウンなどの住宅売買価格にもプラスに影響し、周辺での民間投資も喚起される。
稼ぐ公共施設の概念は、従来とは異なる機能をまちに生み出し、多くの人たちをひきつけることで、今後の公共施設更新を過度な公共事業でもなく、かといって縮小均衡型だけのネガティヴな集約合意形成でもない道を切り開いていける新たなまちづくりのあり方を生み出す可能性を秘めている。
ポイント7 : 良い点だけでなく、注意点も含めて公民連携事業の正しいスケールアウトが必要
オガールプロジェクトのような、その地域でロールモデルとなったプロジェクトをベースにスケールアウトが発生し、「公共施設更新」という一つの問題を契機に、地域における課題解決手法が変化しようとしている。
このような先進的事業は、確実に地元だけでなく他地域からも注目を集め、複数地域へのコンサルティング、場合によっては直接的な事業輸出などの機会を生み出していくことが極めて大切であると考えている。成功事例の誤った紹介によって、表面的な字面だけが真似され、結果的には過去の再開発手法などがそのまま用いられることになり、地方に問題施設を増加させることになっているものも少なくない。公共インフラを活用して稼ぐはずが、単に運営主体が変わっただけで、指定管理などで公共支出を続けているものも多く存在している。もちろん、必要があるものはそのような運営形式もあって然るべきであるが、常に複合機能で運営をバランスさせていく試みはより積極的に試行されていく必要がある。
そのためにも、良い点だけでなく、注意すべき点も含めて正しい情報を伝えて、より精度を上げていく必要がある。今回はあまり注意すべき点には触れてこなかったが、途中で触れたように名目だけ「公民連携事業」と銘打って、結果的には過度な施設開発を行ってしまうケースもあることから、重要なのは逆算など含めたプロセスであり、その困難をともなう(予算を確保して建てるだけであればだれでもできる簡単なプロセス)先行する営業活動などを抜きにして正しい規模設計などはできないということから逃げてはいけないのである。そのような注意点は数多存在している。
これまでのように国などから事例集を発行したり、何らかの表彰が与えられ、それを見た他の地域の人達が視察見学などの表面的な情報だけを得て、模倣させるのでは危険である。具体的には、公民連携事業に必要なサービスを基礎として、コンサルティングもしくは適切な研修事業などをしっかりと行うなどスケールアウトのありかたと向き合うことが極めて大切であると考えている。海外では成功した社会事業系団体に各種財団が支援を行い、リプリケーション(他地域への移転)を目的としたセンターを設立するなど、スケールアウトに向けた専門的な取り組みが行われたりする。日本でもこのような公民連携事業においては民間がしっかりとこのような取り組みを行うべきであると考えている。
だからこそ、国や自治体との適切な連携は不可欠であるが、そこにすべてを委ねるという受け身な姿勢ではなく、民間側のまち会社や地域組織だけでなく、ディベロッパーやゼネコンなどの開発側の事業者においてもしっかりとした公民連携事業に対する理解を深めて実践していくことが期待される。
公共からの変革と、民間からの変革が合致してこそ、新たな公共性と市場性を融合した、新たな公共インフラの維持のあり方が生み出されていくのである。
おわりに
いま見てきたように、公民連携事業によって、公共施設は地元の税財源の重荷になるのではなく、商業機能などを併設すること等で地元での新たな産業創出にも繋がり、税収増を生み出したり、民間が公共的サービスを提供することも可能になる。結果として、地価の上昇などの資産価値向上による税収改善を見込むことも可能になる場合もある。
冒頭触れたような財政の問題と公共インフラの更新問題は今後より多くの場面で言われるだろう。この問題は例えば、単純にすべての公共施設などをなくせば解決するわけではない。だからこそ財源が足りない中でも開発・維持可能な施設開発方法を公民連携事業によって生み出すというアプローチはより検討されていく必要があると考えられるのである。
さらに、これに民間施設を併設したことによって生まれる新たな魅力が重要だ。上質なテナントを開発前に客付けし、その産業効果での家賃・管理費・雇用というセットによって拡大する施設維持費や税収面での効果。公民双方の機能が組み合わさってその施設の魅力を醸成することが達成されれば、さらなるプラスも達成される。
ある意味で欲張りな事業であるが、複合化によって達成されるのは単純な足し算ではない。ときに掛け算が可能になるように知恵を絞るのが、我々のような各地でまち事業を自分たちも投資して主体的に推進するプレーヤーの狙いである。コーディネートやワークショップばかりではまちは変わらない。積極的に新たな方法を生み出し、課題を解決していくリスクを負う主体者に自分たちがなってやっていくことが必要であると思っている。
我々は今後、現在以上に多くの地域で多くの仲間と共に自ら事業にチャレンジすることによって、知見を養い、現在解決不可能なまちの状況の高いに寄与できるように努力したいと考えている。その可能性を公民連携事業は持っているのである。
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■公民連携事業の最前線「稼ぐ
2013年1月に公民連携事業機構のスタートに際したシ
◯登壇予定
一般社団法人公民連携事業機構 清水義次、岡崎正信、木
その他ゲスト。
◯参加費 無料
詳細はこちらのページより
プロフィール
木下斉
1982年7月14日東京都生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房 地域活性化伝道師。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業等。著書に『まちづくり:デッドライン』(日経BP、共著)『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)『稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則』 (NHK出版新書)など。公式サイト http://www.areaia.jp/ ( twitter : @shoutengai )