選挙に行くことがなぜ平和につながるのか――安全保障をめぐる争点

6月22日公示、7月10日投開票の第24回参議院議員選挙。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから最初の投票となります。シノドスでは「18歳からの選挙入門」と題して、今回初めて投票権を持つ高校生を対象に、経済、社会保障、教育、国際、労働など、さまざまな分野の専門家にポイントを解説していただく連載を始めます。本稿を参考に、改めて各党の公約・政策を検討いただければ幸いです。今回は、安全保障の視点から植木千可子さんにご寄稿をいただきました。(シノドス編集部)

 

 

岐路に立つ日本

 

日本は、いま、重要な岐路に立っている。平和憲法の下、限定的な武力行使に留めるのか。それとも、武力行使しやすくして、これまでよりも積極的に安全保障に関わっていくのか。選挙の結果によっては、憲法改正の手続きが始まる可能性がある。

 

日本の安全と平和、そして世界の安定と平和のために、どちらの道の方が良いのかを判断して投票する必要がある。選挙は、国民が政治に参加して、私たちの代表を選ぶ作業だ。選挙には、この日本の将来がかかっている。

 

 

安全保障から見ても歴史的な選挙

 

2016年7月10日投票の参議院選挙は、18歳以上が投票できる歴史的な選挙だ。今回の参院選挙で初めて投票するという人も多いだろう。20歳以上に選挙権が認められたのは1946年のこと。70年ぶりの変更だ。

 

安全保障・防衛政策の面でも、歴史的な選挙だ。今年3月に施行された新しい安全保障関連法は、戦後70年にわたって日本が封印してきた集団的自衛権を解禁した。

 

安全保障に関して、今度の選挙で問われていることは、大きく分けて3つある。

(1)集団的自衛権の解禁をこのまま認めるのかどうか。

(2)さらには、もう一歩進めて、憲法も改正して全面的な集団自衛権行使に踏み切るのか。

(3)あるいは、逆に集団的自衛権行使には、ノーを突きつけ、安保法の廃止を目指すのか。

 

安全保障に関連して、いま、どのような点が問題にされているのか、どのような意見の違いがあるか、について考えてみたい。そして、今後の日本、そして世界の将来のために考えなくてはならないことを紹介したいと思う。

 

 

3つの選択肢

 

それでは、まず3つの選択肢をもう少し詳しくみていこう。

 

(1)このまま集団的自衛権の解禁を認める

 

第1の選択肢は、現状の追認で安倍政権のこれまでの政策を支持することを意味する。投票するのは、与党である自民党・公明党の候補者ということになる。

 

ここで少し注意しなくてはならないのは、現状維持だと思って自民党・公明党に投票した場合でも、結果的に、憲法改正に必要な議席数を与えると、意に反して(2)の選択肢を選ぶことになるという点だ。実は、今回の参院選挙で安全保障に関して現状維持を掲げている政党はいないのだ。

 

さて、第1の選択肢に話を戻すと、この選択肢は「このままでいいよ」とお墨付きを与えるのだから、その前提として、今年3月から導入された新しい安全保障関連法案の内容を理解しておく必要がある。大きな変更点は、4つある。

 

まず第1に、集団的自衛権の行使を可能にした点。これによって、日本は攻撃されていなくても、他の国が攻撃されている場合、日本も武力を使って反撃できるようになった。これまでは、日本自身が直接攻撃を受けた場合にだけ、日本は武力を使って守る体制だった。(これは、「個別的自衛権」と呼ばれている。)

 

つまり、日本が戦争する範囲が広くなった。日本が攻撃されたときにだけ戦争するという規定が、日本にとって大事な国が攻撃されていれば戦争できるようになった。

 

 

個別的自衛権

個別的自衛権

集団的自衛権

集団的自衛権

 

 

想定されるのは、次のようなケースだ。韓国が北朝鮮から攻撃され、アメリカや日本に助けを求めてきた場合、日本も韓国と一緒になって北朝鮮に対して反撃する。これまでは、日本は韓国を直接助けることや、韓国を防衛する米軍と一緒に戦うことはできなかった。

 

できたのは、米軍を戦地から離れた後方で支援することだった。例えば、米軍の軍艦へ自衛隊が給油する場合などだ。

 

第2に、一緒に戦う国が増えたことも大きな変化だ。これまでは、日本が共に戦うのは、米軍だけで、それも日本を守るときだけだった。日本が同盟(日米安全保障条約:日米安保)を結んでいるのはアメリカだけだ。

 

新しい法律の下では、日本は「密接な関係にある」国と一緒に戦える。これに当てはまるのは、アメリカを始め、オーストラリアや韓国だ。しかし、政府が密接な関係にある、と判断すれば、どの国とでも一緒に戦うことは可能になった。

 

第3は、自衛隊が日常的に他国軍と行動できるようになったことだ。戦争が起きていないときでも、いざという時に一緒に戦うためには日常的に訓練をしないといけないという理由だ。

 

平和な時から(「平時」という)、実戦を想定して訓練をする。これがどういう意味を持つかというと、実際に戦争で一緒に戦うための訓練なので、自衛隊と米軍の連携はより深まり、情報の共有なども増す。実戦に沿った訓練をすることによって、安全保障上の協力が増す。

 

政府は、それを他の国々にも見せることによって抑止力を高める効果を期待している。たとえて言えば、日頃から一緒に行動することによって、「こんなに仲がいいんだから、手を出すなよ」と、けんかを売ってくるようなヤツをけん制しているようなことだ。

 

最後に、大きな違いは、これまでの体制が法律で武力行使を制限していたのに対して、新しい制度は政治の判断に委ねている点だ。これまでは、法律でできないことを多くしていたが、今は、政府の判断によって戦争に加わるか否かを決められるようになった。

 

つまり、新しい制度において、平和を維持するためには、正しい判断ができるかどうかが非常に重要になる。では、どうしたら、正しい判断ができるのか?このことについては、あとで、詳しく考えてみたい。

 

(2)憲法を改正して、もっと積極的に軍事活動できるようにする

 

2番目の選択肢は、憲法を改正して、武力行使の制限をさらに少なくするというものだ。この選択肢に賛成な場合は、改憲賛成党の候補者に投票することになる。改憲に賛成なのは、自民、公明の与党2党に加えて、「おおさか維新の会」と「日本のこころを大切にする党」だ。

 

今回の参院選で、これら4党が78議席を取れば、憲法改正に必要な3分の2に達する。逆に、憲法改正に反対なのは、民進、社民、共産、「生活の党と山本太郎となかまたち」の野党4党だ。野党4党は、今回の参院選で安倍首相の下での憲法改正阻止を掲げて共闘を組んでいる。

 

政府の中には、新しい安全保障法制は、まだまだ不十分だ、と考えている人が少なくない。集団的自衛権を行使して、他国と一緒に戦えるようになったが、まだ、「限定的」だからだ。なにが限定的かというと、日本が集団的自衛権を使えるのは、日本の存立が脅かされている場合に限られているからだ。

 

日本の存立が脅かされていなくても、他国を助けるために戦争に参加するためには、憲法改正が必要となる。アメリカが日本から離れたところで攻撃されている場合、日本の存立が脅かされている、とは言えない。また、国連平和維持活動などにも自衛隊は十分に参加できていない。

 

憲法改正の推進者には、3通りの理由がある。1つは、現行憲法の解釈の範囲内では、制約が多く、アメリカに十分に協力できない、というもの。その結果、同盟の機能が制限され、引いては潜在的な攻撃国に対する抑止力も十分に発揮できないというもの。

 

アメリカから協力を要請されても応えられないことが多いと、アメリカに見捨てられるのではないか、という不安もある。日米同盟をさらに強化するためには憲法改正が必要だという考え方だ。憲法の制約をかいくぐって行動しようとすると煩雑すぎる、という効率性を重視する安全保障・防衛担当者らの中にもこのような考え方はある。

 

2つめは、日本が「普通の国」になるべきだ、という考えに基づく。これは、安全保障からみて問題があるから、というよりも「そうあるべきだ」という主義に基づく。

 

個別的自衛権も集団的自衛権も国際社会の中で国家に認められた権利だ。国連憲章で、武力の行使が認められているのは、他国の侵略を撃退するときだけだ。自分の国だけで守り反撃する場合が個別的自衛権、他の国を一緒に守り反撃する場合は集団的自衛権で、どちらもすべての加盟国に認められた権利だ。日本にも認められている権利なのに、それを憲法で制限しているのはおかしい、という考え方だ。

 

3つめは、国際社会の一員としての役割を果たすために、憲法改正すべきだ、という考え方だ。国連は、加盟国間の相互不可侵を誓約し、どこかの国がそれに違反して侵略行為を行った場合、加盟国全体で被侵略国を助け、侵略国を制裁する。これを「集団安全保障」と呼ぶ。集団的自衛権と似ているので混同しやすいが、集団安全保障は自衛ではなく、侵略に遭った国をみんなで助けるという仕組みだ。そして、集団安全保障への参加は国連加盟国の義務だ。

 

日本政府は、集団安全保障への参加は憲法で許容する「必要最小限度の範囲」を超えるので許されない、という立場だ。国際社会の一員としての責任を全うするためには憲法を改正する必要があるという理屈になるが、こう主張しているのは少数に過ぎない。現在の改憲推進派は、国連での活動については、あまり強い関心がないようだ。安倍政権も、国連の下での集団安全保障には消極的だ。

 

集団的自衛権の行使容認に先立って、安倍首相の諮問を受けた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、集団安全保障は国連加盟国の義務で、そもそも憲法上の制約を受けないと主張したが、安倍首相はこの部分の答申を受け入れる姿勢はまったく示さなかった。

 

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自民党の憲法改正草案を見ると、憲法9条を改正して国防軍の設立を盛り込んでいる。制限がなくなり、制度的には日本は他国と一緒に国際安全保障のために戦えるようになるということだ。しかし、一方で、草案は現行憲法に比べて、個人の権利が制限され公の利益や公の秩序を重んじる内容になっている。個人の自由は誰にも侵すことができない、という考えに立っていない。

 

これは、世界の潮流に逆行する。世界は、現在の憲法が施行された1947年当時から大きく変化し、個人の権利がはるかに重視されている。個人の人権を守るためには、国際社会は主権を侵してでも介入すべきだという考えが主流になっている。政府が個人の権利を侵害する場合は、国際社会にその個人を保護する責任がある、と国連は決議している。

 

安倍政権は、アメリカ、EUなどの自由主義先進諸国との連携を安全保障面でも強化する方針だが、人権に対する考え方は一致していない。世界は、武力を使ってでも個人の人権を守るという方向に進んでおり、日本は一緒に戦えるようになっても、そもそも守るべき大事なものが同じではないという矛盾を生む。

 

憲法を改正すべきかどうか、と考える時、私たち国民は、守るべき大事なものは何なのか、と問うてみる必要があるだろう。命を掛けてでも守ろうとしている大事なものは何なのか?日本人の命か、日本の領土か。あるいは、自由か。日本人の自由は大事だけれど、他の国の人の自由は大事でないのか。あるいは、大事ではあるけれど、武力を使って守るべきでないと考えるか。これらへの答えが、安全保障のあり方の答えにもつながる。

 

(3)新しい安全保障法を認めず、元に戻す

 

この選択肢は、今年3月に施行された安全保障関連法に反対し、元の制度に戻すことを目指す。今回の参院選では、安保法の廃止という目標で一致して野党4党は協力している。4党は、民進、社民、共産、「生活の党と山本太郎となかまたち」だ。共産党は、これまでの選挙では全選挙区に候補を立ててきた。それが、今回の選挙では、全国の32の1人区で野党は統一候補を立てて協力している。

 

安保法について反対の理由は、集団的自衛権の行使容認は、憲法違反だというものが主だ。政府は一貫して現行憲法の下では集団的自衛権は違憲だと説明してきた。ところが、2014年7月に安倍政権は、これまでの憲法解釈を転換して集団的自衛権を認め閣議決定してしまった。日本の存立を脅かす事態(存立危機事態)には、集団的自衛権を行使できる、という新しい説明だった。

 

これに対して、憲法に違反すると野党は安保法の廃止を求めている。とくに、ホルムズ海峡に機雷が設置された場合なども存立危機事態にあたると、政府は説明しているため、集団的自衛権を行使できる範囲が広すぎる、と野党は問題にしている。このようなケースが存立危機事態に当てはまるのならば、際限なく広がる恐れがある、という主張だ。【次ページにつづく】

 

 

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