共謀罪、政府与党の主張を徹底検証!

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既存の法律で可能なテロ対策

 

荻上 政府は(1)犯罪組織が殺傷能力の高い化学薬品を製造した上で大量殺人を計画し、その原料の一部を入手した場合(2)犯罪組織が飛行機を乗っ取り高層ビルに突入する計画を立て、そのための搭乗券を入手した場合、(3)犯罪組織がウィルスプログラムを開発し大都市のインフラを麻痺させてパニックに陥れることを計画し、そのウィルスの開発を始めた場合、という3つの事例に関しては現行法では対応できないと主張しています。これらは本当に現行法で対応できないのでしょうか。

 

高山 対応できます。今の3つの事例は全て「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」、通称「テロ資金提供処罰法」で処罰できます。テロ資金提供処罰法律自体は以前から存在し、2014年に大きな改正がありました。組織的なテロを目的とした金品の入手や役務提供行為が包括的に処罰の対象となったのです。(1)の化学薬品の原料入手、(2)の搭乗券入手は両方とも物品の入手になりますので処罰対象です。(3)はウィルスの開発を始めていますから役務提供に当たります。従って、全てがこの法律のもとで処罰できる。さらに(1)と(2)に関しては現行法で最高裁が詐欺罪の既遂になるとする判例に当てはまります。

 

荻上 どういう理由で詐欺罪と考えられたんですか。

 

高山 本当の使用目的を知っていたら、売却側は取引に応じなかったであろうと考えるんです。使用目的に嘘をつかれて原料をだましとられた、搭乗券をだまし取られた、という考え方ですね。

 

荻上 現行の法律でもかなり広く取り締まられているんですね。

 

高山 ええ。物の入手に関しては詐欺罪ですし、他にも違法な目的を持ってどこかに入ると建造物侵入罪で処罰されています。こちらも最高裁での判例です。

 

荻上 テロ資金提供処罰法は2013年の五輪開催決定後に改定が行われているとのことですが、この議論の際はテロ対策も踏まえていたのでしょうか。

 

高山 そうですね。この法律の内容はこれを以てテロ対策は完了と取れるものです。共謀罪と五輪開催やテロの関係も、当時は全く関係のないものとして扱われていました。共謀罪とテロや五輪開催が関連付けられて議論されるようになったのは実は最近のことなんです。

 

荻上 国会答弁では立法事実、つまりなぜその法律が必要なのかを問いただす場面もありました。

 

高山 本来刑罰による処罰は人権の剥奪です。本当に必要な場合に限って認められるもので、処罰のための正当な理由がなければならない。立法事実がないのに処罰規定を設けるとか、罰則を作るけれども使わない、ということは認められないわけです。処罰の網だけを広げるのは、憲法との関係でも問題があると思っています。

 

荻上 犯罪の共謀も現行法で取り締まれるということですが、そのための法律はどのくらいあるのですか。

 

高山 数え方によりますが、予備罪などの準備的行為というかたちで処罰されているものが70くらい存在します。他に武器や化学薬品、ドローンなどの取り扱いは危険犯という犯罪類型で取り締まられていて、こちらが数百あると思います。危険なものが出てくるとその都度現行法で対処していますし、逆に危険がないのに処罰をしてはならないのが日本の基本的な原則です。

 

荻上 今回共謀罪が成立すると、そうした刑法の基本的な原則が崩れてしまうということですね。

 

高山 そういうことになります。犯罪の計画を合意しただけでは、頭の中の観念を共有しているだけですので、まだ何も危険物質や手段は用いられていない段階です。今までの考え方では、何を処罰しているんだということになります。

 

 

限定のない定義に問題

 

荻上 共謀罪の議論ではさまざまな用語の定義が議論されています。例えば政府は「組織的犯罪集団」の定義については「テロ組織や暴力団、薬物密売組織など犯罪を目的とした組織的犯罪集団に限定している」として、一般の民間団体や労働組合は共謀罪の対象にならないと主張しています。こうした定義に関しては一部で曖昧であると指摘もされていますが、いかがでしょうか。

 

高山 私は曖昧だとは考えていません。というより、曖昧どころか、限定がないことが問題だと考えています。条文には「テロリズム集団その他」と書かれています。「その他」の中には何でも入ってしまう。従って、民間団体や労働組合も入ります。政府の説明には「一般の」民間団体と説明されていますよね。つまり一般でない民間団体や労働組合は当然対象になるという前提です。

 

国会の参考人質疑にいらっしゃる先生方の中には、条文の中に非常に狭い定義で組織的犯罪集団の定義が定められているかのように説明される方もいますが、実際には何も限定がないんです。ですから、犯罪を行う合意をしていると疑われれば、捜査の対象になる。オウム真理教がそうだったように、もとは宗教団体やヨガの団体としてスタートしても、一部の人が犯罪を始めたら処罰の対象になります。条文の通りの解釈だと、「一般人」というものが後付で説明されることになりかねない。疑われた人は一般人ではなくなるんです。

 

荻上 実際にこの法案が通った場合、誰がどうやって、何をもって組織的犯罪集団と定義するのでしょうか。

 

高山 捜査機関の判断に全てが任されている状況です。

 

荻上 政府説明では共謀罪により捜査の権限が拡大することはないとのことですが、この点はいかがですか。

 

高山 事実に反する主張ですね。捜査権限は縦にも横に大幅に拡大します。まず犯罪として定義されるものが277とか316増えるわけですから、その分捜査権限は拡大します。加えて準備段階の処罰が始まることで、時間軸も大幅に拡大します。

 

荻上 「準備行為」という言葉の定義はどうでしょうか。

 

高山 例としては、お金を引き出すことや、場所を下見に行くこととなっていますが、条文には「その他」と記載がありますので、行為であれば何でも該当します。今までの日本の処罰体系では、予備的・準備的行為を処罰する犯罪類型であっても、その行為に一定の危険性がないと処罰の対象にはならないと考えられてきました。TOC条約の規定も、「計画した犯罪を推進した行為」とあり、一定の危険性がなければ取り締まらないとする対応で十分です。しかし、今回の法案では、危険性のない行為でも処罰対象になりかねない。

 

荻上 何をもって準備行為とみなすのかという問題に関しては、金田法務相が花見の時に双眼鏡と地図を持っていたり、写真をとりながら公園を歩いたりしていると準備行為を見なすことができると発言し、物議をかもしましたね。

 

高山 最近はスマホがあるから四六時中職務質問になってしましますよね(笑)。日本野鳥の会の人も困っているということです。

 

荻上 先ほど捜査権限は拡大されるとお話がありましたが、冤罪の危険性はどうでしょうか。

 

高山 共謀罪により新たに300近い犯罪が創設され、しかも客観的に危険な行為でなくても準備段階と見られたものが摘発の対象になるということなので、冤罪の可能性は飛躍的に上がると思います。

 

荻上 冤罪だけでなく社会の監視が進むことや、表現の自由が脅かされるのではないかといったことも懸念されています。

 

高山 法務大臣は将来通信傍受の対象に共謀罪を含める可能性を否定していませんし、今回与党と維新の会から提出された共謀罪の修正案でもGPSを使用した捜査の検討が盛り込まれています。すでに監視自体は存在しますが、今後推進する気が満々という感じです。

 

表現の自由に関しても、話の文脈を見ないでその部分だけ切り取って捜査対象とすることが懸念されています。例えば私のように犯罪の手口を研究している者や、作家が犯罪に関する創作物を作成するときに他人と話し合ったりすると、一部分だけ切り取れば、犯罪の計画が話し合われているように聞こえることがあり、摘発の対象になるかもしれません。理系だと新しい物質や技術の開発で引っかかるかもしれませんね。さらに極端な例だと、最近ゲームで強盗ゲームというのがあるのですが、若い方がその話をしていても、部分だけ切り取って捜査対象になってしまう可能性がある。

 

荻上 こうした問題を解決するために、共謀罪法案の中には取り調べの可視化が盛り込まれています。しかし取り調べの可視化は共謀罪に限らず対応されなければならない問題ですよね。

 

高山 どうしてもこの法律で処罰範囲を広げたいのでしょうね。とにかく共謀罪を立法したいので、取り調べの可視化も盛り込んで、いいイメージを作ろうとしている、という印象を受けます。

 

荻上 与党の参考人からは、法の拡大解釈や不当捜査の可能性については、共謀罪に限らず他の法律にも言えることだと反論の声もありました。

 

高山 ええ。しかし対象となる犯罪の数が数百増えるのですから、それだけ不当捜査の可能性も増えるということになります。

 

荻上 元の共謀罪法案では676あった新たな犯罪対象が、今回277に減らされました。この選別についてはどう思われますか。

 

高山 当初の法案には過失犯や予備罪の共謀のようなナンセンスな対象が入っていましたので、それらは当然省かれるべきたったと思います。しかしそれ以外の選別には、大きく疑問の余地が残っています。政府説明では、組織的犯罪集団の関与が現実的に想定されない罪を外したとなっていますが、実際には組織でないとできないのではないかと思われる犯罪の方が除外されているんです。これは冒頭にあったTOC条約締結のためという理由づけにも疑問を呈します。

 

荻上 どのような点で疑問が湧くのでしょうか。

 

高山 TOC条約の趣旨としては、公権力に対し不当な影響力を与えようとする行為と、不正に経済的な利益を得ようとする行為が中心的な取り締まり対象です。しかし今回の対象犯罪の絞り込みでは、特別公務員の職権乱用や、公職選挙法違反、政治資金規正法違反、政党助成法違反など、まさに公権力に対して不正な影響力を及ぼそうとしていると思われるものが除外されています。

 

組織的経済犯罪の文脈でも、民間の収賄罪の類型はことごとく除かれています。税法の領域では、所得税法や消費税法が対象になっているのに対し、相続税法や石油石炭税など、お金持ちや大企業でしか行われないと考えられる犯罪類型が対象から除外されていますし、独占禁止法も対象外です。公用文書や公用電磁的文書の毀棄といった重大な犯罪も対象外になっていて、TOC条約に沿うようにという主張とは逆の取捨選択が行われています。

 

荻上 政治を縛るような刑罰については除外されていて、民間の処罰範囲はとても広くとらえられていますよね。

 

高山 民進党と自由党が対案を出していますが、これは組織的詐欺罪や人身売買罪に予備罪を設けようという内容で、日本で現に組織的犯罪として最も問題になっている類型だけに対応するものです。一定の合理性があると思います。これに対して与党案を通そうとしている人たちの頭の中では、自分たちや財界の仲間たちは組織的犯罪集団予備軍には入らないことになっているとしか思えない選別ですね。

 

荻上 これからの共謀罪の議論、世論やメディアに期待することはありますか。

 

高山 一般には「テロ等準備罪」という名前で誤解をしている方が多いと思います。法案のどこを見ても、テロ対策は書かれていないんですよ。むしろ漫画の二次創作などがターゲットに入ってくるような内容です。こうしたことを知識として多くの人に共有していってほしいですね。

 

荻上 そうした議論を広めていきたいです。高山さん、ありがとうございました。

 

 

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