「一強多弱」の政治をどう見るか

政権交代の起きる国と起きない国

 

メキシコでは7月1日の大統領選挙の結果、国民再生運動のロペスオブラドール氏が当選し、政権交代が起きることになった。制度的革命党の一党長期政権が2000年まで続いた同国でも、その後、2012年と今年と、18年間で3度目の政権交代が起きることになり、選挙による与野党の交代が定着してきたようである。他にも、強大な与党による長期政権が見られた韓国・台湾・インドでも、近年は定期的な政権交代が起きるようになってきている。

 

一方、日本では2009年と2012年に政権交代が起きたものの、その後は自民党の一党優位体制に戻ったようであり、再び政権交代が起きる兆候は見えない。

 

安倍晋三首相は2012年から総選挙で3連勝中であるが、ある党首が党を総選挙3連勝に導いたのは、過半数確保を勝利の基準とした場合、我が国憲政史上の新記録である。第一次政権(2006年9月~2007年9月)と合算すると、安倍政権の任期はすでに戦後3位の長さであり、もしこの9月の自民党総裁選で3選を果たせば、2019年11月には、戦前も含めての首相在任記録を更新することになる。

 

日本では2006年から2012年の間、毎年首相が交代し、世界から不思議がられたものだが、2012年からは一転して安定した長期政権になり、政権交代が起きそうにない状態が続いている。

 

筆者は、選挙制度や政党間競争などを研究対象とする比較政治学者で、日本政治の分析と民主主義諸国の多国間比較を並行して行っている。ここでは、これまでの研究で発見したパターンなどを用いて、近年の日本政治の動向を説明したい。なお、筆者はあくまで分析を専業とする研究者であり、本稿において特定の政党を応援したり、安倍政権を擁護または批判したりする意図はないことをあらかじめ断っておきたい。

 

 

野党陣営の分裂が与党を助ける

 

2017年総選挙では、選挙の約一ヶ月前から投票日まで、内閣支持率が不支持率を下回る状態が続いていた。普通に考えれば与党が敗北するところであるが、蓋を開けてみれば、与党は3分の2の議席を維持した。理由は簡単、野党が乱立したからである。最大野党が選挙直前に分裂し、9つの野党が候補を立てるような状態では、与党批判票が分散し、与党を利するのは自明である。

 

また、野党票が分散しただけでなく、野党票の総計も野党陣営の分裂によって押し下げられた可能性がある。

 

筆者が2010年に“Divided We Fall: Opposition Fragmentation and the Electoral Fortunes of Governing Parties”と題する論文の中で、議院内閣制17カ国のデータを用いて示したところによると、失業率が与党得票を下げる度合いは、野党陣営が分散しているか統一的であるかによって左右される。ここでは失業率は政権のパフォーマンスを測定する指標である。

 

野党がバラバラだと、失業率が高くても与党得票が下がるという証拠は見られない。しかし、野党陣営がひとつにまとまっていると、失業率と与党得票変化の間に明確な負の関係が現れるのである。

 

筆者の考えでは、これは、主力野党の存在が有権者の意識にアピールし、与党を罰したいと思った有権者に分かりやすい選択肢を与えるためである。

 

二大政党体制の国では、ある政党が嫌な場合、残りはひとつしかなく、誰でもその選択に行き着くわけだが、政党が多数ある国では与党から野党への票の移動はそのように単純ではない。政権党を罰したいが、ではどの党に投票すべきか、他の人々がどの党に入れるのか予想しつつ考えなければならない、という思考の負担が有権者にかかるのである。そのため、野党の数(分散度)は与党の選挙パフォーマンスを変えるのだと考えられる。山田真裕「自民党一強の強みと弱み――安倍内閣支持の急落で問われる野党の政権担当能力」では、有権者が野党に政権担当能力を認めるかどうかという視点から自民党の強さが説明されたが、筆者は若干それと異なり、野党の数(分散度)に注目している。

 

2012年を境に、短命政権の連続から長期安定政権に切り替わったことは、野党の分散度によって説明がつく。

 

2006年から2012年の短命政権期には、主力野党が存在していた。自民党政権に対しては民主党が、民主党政権に対しては自民党が、それぞれ最大野党として睨みをきかせ、明確な選択肢を有権者に提示し続けていた。その他の野党も存在したが、その議席数は非常に小さく、それらを政権党に対する代替政党とは誰も見ていなかった。

 

野党陣営に主力野党が存在する状態では、前述のように、与野党間での票の大きな移動が起きやすくなる。そのため、首相の人気が下がると与党議員は「次の選挙で落選するかも」という不安に陥り、首相(党首)を取り替えようとした。2006年から2012年の間、毎年「安倍おろし・福田おろし・麻生おろし・鳩山おろし・菅おろし・野田おろし」が起きたのはそのためである(その前の小泉政権は首相支持率が高いままで推移したので、小泉おろしは起きなかった)。

 

中選挙区制時代は、党首の人気・不人気に関わらず、候補は自分の後援会や支持組織をガッチリ押さえておくことで当選できたが、小選挙区選挙においては、政党と党首の人気が各候補の命運を大きく左右するようになった(この傾向については、2009年の筆者の論文“Has the Electoral System Reform Made Japanese Elections Party-Centered?”を参照されたい)。その環境下では、各議員は自分の党首の人気に敏感にならざるをえない。英国で1990年にサッチャー首相が党内の反乱によって退陣を余儀なくされたのと同じ仕組みである。

 

一方、2012年以降は野党陣営が分散し、それが安倍政権を助けている。

 

2012年に下野した民主党は、「第三極」各党の躍進のため、明確な主力野党の位置を占めることができず、しかも2017年には分裂してしまった。代わりになりうる政党が存在しないのだから、自民党が選挙で勝ち続けるのは自然な結果である。「安倍の次は誰」という話にはなるのに、「自民の代わりに○○党」とはならない。内閣支持率が下がっても、与党議員たちの間で「次の選挙で負けるかも」という危機感が起きない。小池百合子東京都知事の新党構想が注目を集めていた2017年6~7月には内閣支持率が激減したが、その後再び、「自民党のライバル」と目される政党が存在しない状態に回帰した。

 

一般論として、与党に対抗できる強力な野党が存在しないことは、与党批判者だけでなく与党の政策位置を支持する国民をも含めて、全国民にとっての「不幸」だと考えられる。なぜなら、「次の選挙で負けるかも」という想像が現実的でない場合、どうしても政府与党の政治家たちは緊張感を失い、有権者の期待に添おうとする意識も下がってしまうだろうからである。

 

二大政党体制が伝統になっているいくつかの国では、最大野党のことを「公式の野党(Official Opposition)」と呼ぶ。強力な野党が与党をチェックし、与党にプレッシャーを与え、与党に取って代わるか、少なくとも与党に緊張感を与える役割は、公的な仕事と考えられているのである。

 

「安倍政権断固支持」という人々にとっても、強力な野党に緊張感を注入された安倍政権の方がきっと望ましいのでは、と筆者には思えるのだが、同意していただけるだろうか。

 

 

なぜ野党陣営が分裂するのか

 

それでは、なぜ日本の野党はひとつにまとまれず、分裂しているのだろうか。

 

筆者は2015年に発表した“Determinants of Opposition Fragmentation: Parliamentary Rules and Opposition Strategies”という論文の中で、先進18カ国のデータを分析し、どのような状況で野党が分散化するのかを調べた。そこではいくつかの一般的傾向が発見されたが、筆者の見るところ、日本には日本に特有の要因が存在して、野党陣営を分裂させているように思われる。それは、憲法9条・防衛政策における意見の相違である。

 

戦後これまで、日本社会における最大の政治的争点が憲法9条とそれに関連する防衛政策であったことは多くの人が認めるだろう。左右(保革)のイデオロギーについて憲法を抜きに語ることはまずないし、護憲派・改憲派という分け方をする際には、9条と特定しなくても、普通我々は9条のこととして理解する。その重要にしてシンボル的争点において、左派野党と中道野党の間には埋められない溝があり、その争点がいわば野党を分断する楔の役割を果たしている(ちなみに、この楔という比喩は、アメリカ政治の分析においても「ウェッジ・イシュー(wedge issue)」という用法でよく用いられる)。

 

野党支持者の中にもその分断は存在し、左派野党支持者からすると、9条改憲(加憲)に与する中道野党は「自民党と同じ」と見えるし、中道野党支持者からすると、日米安保体制の堅持などは最低限絶対譲れないため、日米同盟を傷つけかねない左派政党に政権を委ねることは論外になる。

 

これは1960年に社会党から民社党が分裂して以来、ずっと日本の「非自民」陣営が抱え続けてきた問題である。民社党に始まり、新生党、新進党、そして昨年旗揚げされた希望の党などは、自民党とは異なる選択肢、ただし防衛政策などの基本的な問題については自民党とあまり違わない路線を有権者に提示した。

 

一方、社会党・共産党などは、まさにその基本的な問題について自民党と真っ向から対抗する路線を行き、それを求める左派有権者から支持された。

 

「非自民」の政党の中でこれまでで最も成功したのは民主党であるが、民主党は党内に幅広い意見を抱え込んだため、党の基本方針を明確に打ち出すことができず、ついには分裂した。「非自民」陣営に統一的な政党を打ち立てることの困難さがそこに現れているといえる。

 

2009年の政権交代で成立した鳩山由紀夫政権の迷走も、その困難さを裏付けている。

 

2009年総選挙で地滑り的圧勝を収めた民主党は、それまで自民党に投票していたような右派または中道の有権者と、昔は社会党に投票していたような左派有権者の両方から票を集めたわけだが、それぞれが民主党に異なる役割を求めていた。

 

鳩山政権がまず精力的に取り組んだ沖縄の米軍基地移転問題は、左派有権者が熱心に望んだ課題であったわけだが、右派・中道の有権者からするとそれは重要な問題ではなく、しかもそれが失敗に終わり日米関係をギクシャクさせたことによって、民主党は完全にその支持を失った。しかし、仮に鳩山政権が米軍基地移転問題で自民党の方針を踏襲していたなら、左派有権者はそっぽを向いたことだろう。

 

このように、「非自民」陣営には、安保・防衛の基本的政策において大きな考えの違いが存在する。それが自民党のライバルたりうる強力政党の出現を妨げているのだと考えられる。

 

別の例を挙げよう。時事通信の報道(2018年2月24日)によると、社民党の定期党大会で吉田忠智党首(当時)が来年の参院選における一人区での野党候補一本化を訴えた。立憲民主・民進・共産・自由の4野党の党首もそこに出席していたが、「希望の党は憲法観の違いを理由に招待しなかった」。つまり、憲法の問題がネックになって、「野党候補一本化」を訴えていながら、一部の野党は最初から相手にされていないのである。

 

一本化することが選挙に有利と全員が分かっていても、基本政策の違いから一本化が不可能な状況である。また、仮に無理に一本化したとしても、かつて民主党が内部に抱えたような路線対立が政党間に起きるのは必至だろう。

 

そして、参院選ならまだしも、衆院選で野党候補一本化をしようとするなら、選挙後の政権構想を語ることを避けるわけにはいかず、共産党を含めて選挙協力することの難しさが表面化するだろう。しかし、だからといって、「共産党を除いた野党協力」をしようとすると、共産党が各選挙区に立てる(だろう)独自候補との間で票が割れ、再び自民党を利する結果に終わる。

 

 

「一強多弱」は永遠か

 

それでは、日本の野党は永遠に分裂したままなのだろうか。自民党と対等に伍するような政党は今後も現れないのだろうか。メキシコ・インド・台湾・韓国が経験した変化は日本には起きないのだろうか。

 

未来のことは誰にも分からないが、思考実験として考えてみると面白いのは、仮に、憲法9条が改正されたらどうなるだろうかというシナリオである。

 

前述のように、9条と安保防衛政策についての意見の相違が、野党陣営に楔を打ち込んでいる。自民党をはじめとする政党が目指すようなかたちで9条に変更が加えられて、自衛隊の存在が明確に憲法上位置づけられるようになった場合、世論と政党の配置にどのような変化が起きるだろうか。

 

もちろん、これは推測の域を出ないわけだが、筆者の考えでは、その場合、野党陣営に統一的な強力政党が現れて自民党の一党優位体制が崩れることになるかもしれない。

 

まず、9条改憲が実現した場合、護憲勢力は大幅に勢力を減らすだろうと考えられる。

 

現在、9条改正に反対している人々のほとんどは、その条文自体を積極的に支持しているわけではなく、そのシンボル的価値や歯止め的効用などのための、いわば消極的な支持者である。そのような消極的護憲派の人々は、自衛隊の存在自体は必要と認めているのであるから、実際に9条改憲が成立した場合、短期的には落胆するだろうが、「元の条文に戻そう」という運動には加わらないだろう。「元の条文に戻そう」とする運動は、かなりの小規模なものになると思われる。

 

各種世論調査によると、自衛隊の存在を是認する人々は9割を超えているのだから、いったん憲法が改正されて自衛隊の存在が明記された場合、憲法で自衛権をどう規定するかという問題は大きな争点としては残らないだろう。右と左を分ける最大の争点は、これまでの憲法問題から他のものに移るのではないだろうか(たとえば経済的格差をめぐる問題や、選択的夫婦別姓の是非など)。

 

そして、それによって、野党勢力に打ち込まれてきた楔が消える(または、楔の位置が左に大きく移動する)。

 

「護憲」を強調することで護憲派の有権者からの支持を集めてきた左派政党は、目玉のセールスポイントを失うことで退潮し、これまでのように「憲法観の違い」のために野党陣営が2つに割れることがなくなる。野党側の候補乱立が自民党を助けてきたこれまでの構造が変わり、自民党のライバルとなれる大きな野党が現れるかもしれない。それはすなわち「一強多弱」体制の終焉であり、競争的な政党政治の出現である。

 

繰り返すが、このシナリオはあくまで筆者の推測である。しかし、もしこのシナリオが正しいならば、自民党が9条改憲を目指しているのは、選挙戦略上では自らに不利なことをしていることになる。

 

看板政策を実現することが党勢にマイナスになるというのはパラドックスのようだが、実はそのようなケースは現実に存在する。

 

たとえば英国のイギリス独立党(UKIP)は、EU離脱運動の先頭に立って支持を伸ばしたが、国民投票でEU離脱が決まって以降、党勢は大きく落ち込んだ。自らの存在意義が消滅したのだから、当然と言えば当然の結果である。UKIPの政治家たちにとっては、EU離脱は悲願だっただろうが、政治家としてのキャリアにはマイナスだったわけである。別の例を挙げると、脱原発を掲げる政党にとって、脱原発の実現も同じような効果を持つだろう。

 

もちろん、自民党はUKIPなどとは違って長い伝統と強力な組織を持っているため、UKIPのような党勢急落という道を辿ることはないだろう。しかし、筆者の考えるシナリオによると、9条改憲が成立した場合、「一強多弱」体制で絶対優位に立つ地位からは少なくとも落ちることになる。

 

それでも構わないから悲願を実現したいと思う自民党議員も多いだろうし、それよりも政治家生命を大事にしたいという人もいるだろう。野党側においても、競争的な政党政治を実現させるためなら、あえて自民党に協力して改憲を実現させてやった方が得策と考える政治家や支持者もいるだろうし、いや絶対にそれは認められないとする人もいるだろう。

 

憲法9条をどうするかという問題はそれ自体が重要であるから十分に議論されるべきだが、日本の政党政治への影響という側面からも議論されるべきだと筆者は主張したい。

 

謝辞

本稿の執筆にあたり、浅羽祐樹教授(新潟県立大学国際地域学部)と山田真裕教授(関西学院大学法学部)からいただいたご助言に対して記して謝意を表します。本稿と同じテーマについて筆者の考えを簡潔にまとめた英語の論説は、モーリーン&マイク・マンスフィールド財団のウェブサイトに掲載されています。

 

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