日本の気候変動政策の行方――石炭火力建設計画が急増する昨今の奇妙さ

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状況が一変したのが、福島第一原発事故後である。電力コスト低減という国からの命題と、改正「エネルギー基本計画」において重要なベースロード電源としての位置づけを新たに得て、完全に息を吹き返したのである。東京電力が行った初の火力電源入札 [1] で2基の石炭火力発電事業が落札されたのを機に、様子をうかがっていた他の電力会社及び新電力としての参入を狙う事業者が堰を切ったように石炭火力計画に乗り出したのだ。その背景には、政府が、規制改革の一環で石炭火力のリプレース(更新)の際に環境影響評価の迅速化を図るといった決定 [2] や、コスト低減のための火力電源入札制度を導入などの、政府による事業者の石炭火力の建設計画への強力なバックアップがある。

 

[1] 資源エネルギー庁「新しい火力電源入札の運用に係る指針」平成24年9月

[2] 規制改革会議「規制改革に関する答申」平成25年6月5日

 

そして今、建設計画は毎月増加を続けている。その規模は、2030年までに43基、計2120万kW(2015年4月15日時点)に上る。設備容量からも、古い発電所のリプレースの規模を大幅に超える石炭火力の大増設計画であることが見て取れよう(下図)。

 

 

作成:気候ネットワーク

作成:気候ネットワーク

 

 

昨今のエネルギー・ミックスの検討では、“低廉”で“安定”した「ベースロード電源」としての原発・石炭の重要性が強調され、その6割の維持が必要だと議論が聞かれる。このうち原発20%などといった実現性が見いだせない絵空事の数字が飛び交う中、実質的にベースロード電源として着実に進められているのがこの石炭火力ということである。

 

このままでいけば日本は石炭依存高めていくばかりであり、CO2削減どころではなくなる。なお、ベースロード電源6割を確保していた福島第一原発事故前には、CO2排出が減ってこなかった。このことを想起すれば、結局のところ、現在の体制派は、温室効果ガス削減などまともに考えてもいないのである。もし、真剣だというなら、石炭火力の建設の野放し状態に手をつけないことはあり得ないだろう。

 

米オバマ大統領は、国内排出の3割を占める発電部門対策として、実質的に石炭火力の抑制に乗り出した [3]。英国では、3党党首が国内の石炭火力のフェーズアウトに合意した [4]。EUは、石炭火力発電の新設の際には、CCS(二酸化炭素固定貯留技術)の準備ができていることの証明を求めている。「CO2を出さない手だてを準備しないと建設はしてはならない」というサインである。いずれも、石炭火力がCO2排出に最も大きなインパクトのあるインフラ設備であり、一度建設されると40年といった期間で運転を続けることの気候変動へ影響を緩和するための政治の対応だ。

 

[3] USEPA, Clean Power Plan

[4] 英国3党合意文書、2015年2月14日 

 

2050年まで運転を続ける技術でありながら、このような高炭素排出インフラへの投資の在り方が問われない日本は、気候変動対策に真剣であるとはお世辞にも言えない。

 

 

迷走日本の次の道

 

日本が今取ろうとしている道は、原発事故前と同様のロジックを採用し、原発・石炭を軸にベースロード電源を確保し、その上澄みとしてだけ再エネをわずかに位置づけ、肝心の省エネは、業界の言い値以上には想定しない、というこれまでたどってきた道へ戻ろうとするものである。気候変動の観点から言うと、従前と同じ、景気低迷、人口減少に依存するだけの無策に近い。これではCO2は決して減らない。

 

日本がこのように気候変動問題に対処できないシステムを構築しようとすることを、国際社会は許容することはないだろう。CO2排出制約は今後厳しくなることはあっても緩むことはない。炭素コストの上昇、環境規制強化、投資要件の厳格化、そして再生可能エネルギーのコスト低下など、今は低廉だとされる石炭火力にも様々な事業リスクが目前にある。ここ2〜3年の事業者の石炭火力への投資事業は、国際的にコスト低下が顕著な再生可能エネルギーに対する競争力の低下による経営難の可能性も高く、CO2排出への対策要請から、二重の投資を強いられる選択となる可能性も小さくない。今の方針は、変わらなければならないはずの産業構造を硬直化させ、グリーン経済の振興の芽を摘み、経済の先行きに閉塞感ある現在の状態が続くばかりだろう。

 

 

では、どうすべきか。

 

まず、「ベースロード電源」の呪縛を解き放つ必要がある。原発の問い直しが必須であることは言うまでもなく、その役割を終えていくのが日本の使命だ。また、累積排出量が問われる時代になり、石炭で電力を作る時代ももはや過去のものとなったのである。24時間稼働し続ける原発・石炭などの電源が“低廉”で“安定した”電源だと言うが、再生可能エネルギーは、燃料コストがかからないという意味で“より低廉”で、枯渇しないという意味で“より安定した”電源であると言える。そして、もちろんクリーンである。

 

再生可能エネルギー推進の必要性を疑う余地がない中では、今後は、供給可能な再生可能エネルギー電源を「ベースロード電源」という概念として新たに定義付けたらいいだろう。再生可能エネルギーから賄える電源を電力供給の基礎に位置づけ、さらに必要な部分を柔軟性・機動性の高い電源で補う。日本の社会経済的リスク・環境リスクを低減するには、この発想転換が政治及び政策の中で共有されることが肝要だろう。

 

第二に必要と考えられるのは、気候変動問題に対する最新の科学を踏まえた基本認識を共有することである。当たり前のことのようだが、そうでもない。気候変動対策が求められる中、100万kWで年300万トンものCO2を排出する石炭火力発電装置には問題がありそうなことは容易に想像できるはずだが、その排出は問題にされることなく、制約がないどころか、むしろ政府の後押しを受けて建設できるのが今の日本である。

 

このことは、日本において、気候変動問題は国家の課題としてもリスクとして認識されていないことに起因すると考えられる。実際、過去の日本の気候変動政策動向を振り返ると、政策検討や導入に動いたのは国際的な条約や議定書にけん引された場合に限られ、国内自らの問題として、自発的に動いたことはほとんどない。すなわち、国内政治では危機感はほとんど共有されず、むしろ気候変動対策は経済負担とぐらいにしかとらえられていない。

 

しかし現実には、気候変動は、国内経済、産業、インフラ、安全な暮らしを脅かす日本にとっての安全保障問題である。そしてこれに挑む経済産業システムを構築することにはビジネス機会も多く、新たな日本作りの好機でもあり、国を挙げて取り組むべき課題ではないだろうか。これまでの二十年来の変わらぬ議論を俯瞰していると、表面を取り繕うだけの気候変動対策を脱するには、日本にとっての気候変動リスクを一から捉えなおし、問題意識を持つことから始めないとならないかもしれないとも感じるのである。それは、電力問題に矮小化されるのではなく、産業のありかた、まちづくり、交通政策など将来を見据えた気候変動対策の構築の基盤としても不可避であろう。

 

 

エネルギーデモクラシー

 

 

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