内部告発者を取り巻く社会環境――スキャンダリズム社会における勇気とは何か

告発者の人格ではなく、告発内容に関心を集中せよ

 

 

近年最も有名な内部告発は2013年、元CIA(米中央情報局)やNSA(米国家安全保障局)の職員であったエドワード・スノーデン(1983~)が行ったNSAの監視体制に関する暴露であろう。彼は顔を晒して事件を公表し、アメリカ政府の監視実態に対する問題を訴えたこ とで世界中から注目を浴びた。

 

ここで注目すべきは、彼がプライベートや告発の動機など、多くを語らなかったことにある。それが何か秘密を隠すためではないかと指摘される一方、スノーデンは語ることで報道が自分の人格に集中することを避けたためだと述べている。彼にとって重要なのは、自分のことではなく、アメリカの不正義の内容に集中してもらうことだった。

 

内部告発は一種のスキャンダルだ。故に人々は告発者の身元や人格について推測し、告発内容の正当性を人格から判断しようとする。それはある程度必要不可欠な要素であり、それ故にスノーデン自身も内容の正当性を訴えるために実名で告発を実行した。

 

しかし過剰に人格に着目すれば、内容についての議論に注目が及ばなくなってしまう。ここまで告発者が告発によってどのようなリスクを負ったかを述べてきたが、リスクを負いながらも行った告発が議論されず、告発者自身のプライベートな情報に議論が集中してしまう状況は、告発者というより告発を受け取る我々や社会の側に問題があるように思われる(昨今の日本社会をみれば、告発につきまとうスキャンダリズムがあちこちで確認できる。もちろん告発者側がその人格を意図的にアピールするような方法を取ることもある)。

 

この問題は重大なジレンマを孕んでいる。ある程度の人格が見えなければ告発が世間に注目されない一方、過度な人格への着目は告発内容そのものの議論を停滞させ、加えてスキャンダリズムによって不必要な混乱が生じてしまう。このバランスはメディアやそれを受け取る我々の意識の問題であるとは先ほど述べたが、その背後にはSNSやスマートフォンによって加速するアテンションエコノミー構造(注目する/されることで問題の本質より表面的な事象に人々の意識が奪われてしまうこと)など、現代の情報環境にも問題の一因が認められる。

 

我々は情報から距離を置いて思考する間を与えられることなく脊髄反射的にニュースに反応させられる、そのような社会を生きている。こうして告発とスキャンダリズムのふしだらな癒着が前景化する日本社会においては、倫理的覚悟をもって語った告発者にこれまで以上のリスクが生じてしまう。

 

 

告発者の勇気、市民の勇気とは

 

確かに内部告発には妬みや嫉みなど、一定の恣意性を孕んだ告発や、完全なガセネタもあるだろう。故に告発内容の精査に関しては細心の注意が払われなければならず、告発者の人格なども考慮の対象になる。しかし、優先順序は人格よりも告発内容だ。この点を我々は忘れてはならない。付言するならば、昨今のポストトゥルース(脱真実)と呼ばれる時代においては、ある内容が正しいか否かといった真偽に関心が払われなくなっており、「信じたいものを信じたい」人々が情報を自分の都合に合わせて消費する。したがってどれほど告発内容が正当なものであっても、「みたい事実だけをみて」告発内容を解釈されたりスキャンダリズムに巻き込まれるなど、告発者は大きなリスクを背負うことになる。

 

するとここでもまた告発はジレンマを帯びる。こうした状況に負けず、批判を覚悟で語る告発者の姿勢に賞賛の声が上がる一方、語れば語るほど告発者のリスク増大を意味してしまう、というものだ。そしてそのような状況を前に、我々は告発者の「勇気」に頼らざるをえない。だがこの勇気や「立派な告発者」という考えもまた一種の人格的な判断であるため、勇気や「立派さ」の評価をめぐってさらなる社会的混乱を招いてしまう恐れもある。それほどまでに、この社会は複雑で混乱した状況に陥っている。

 

勇気や覚悟が困難な時代にあって、それでも勇気を振り絞る告発者を我々はどのように受け止めるべきか。課題は尽きない。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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