インターネットと部落差別の現実――ネット上に晒される部落(出身者)

事務所や個人宅に刃物や差別投書が

 

2017年春頃から、解放同盟の事務所や役員個人の自宅などへ刃物入りの差別投書も送られはじめました。解放同盟三重県連の事務所には、アイスピック入りの差別投書が複数回届いています。

 

今年5月、組坂繁之・中央執行委員長の福岡県内の自宅には、カッターの芯が封筒内に貼り付けられ、開封時に手が切れるように仕組まれた差別投書が送り付けられてきました。組坂委員長は、開封時にカッターで手を負傷してしまいました。

 

 

 

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示現舎が掲載した「解放同盟関係人物一覧」や類似の「人物一覧」は多数作られています。この間、彼らを批判し、目立つ発言をする個人はターゲットにされ、匿名の何者かによってその個人情報が次口とネット上に晒され個人攻撃が行われ、二次被害が生じています。

 

 

問題点(4)被害者救済の課題

 

法務省は自力救済が基本

 

ネット上で人権侵害を受けて法務局に相談をしても、基本的に被害者本人がプロバイダ等へ削除依頼を行わなければなりません。自分で被害を回復する事が困難な事情がある場合や削除されない場合に、初めて法務局がプロバイダ等へ削除「要請」を実施する事になります。

 

2016年に法務局・地方法務局がネット上の人権侵犯事件として処理したのは1789件(全1909件)でした。しかし、法務局がプロバイダ等へ、削除「要請」をしたのは18.2%(326件)です。大半は被害者に削除要請の方法等を教える「援助」という対応です。

 

個人でプロバイダ等に削除要請するとしても、多くの人は、その方法すら知りません。しかも、個人で削除依頼をしても、なかなか削除をしてもらえません。海外サーバーだと削除対応はもっと困難になります。

 

また、名誉毀損や侮辱罪といった民事訴訟になると、裁判で勝ってもそれ以上に裁判費用がかかり、経済的にも精神的にも負担が大き過ぎます。行政や地方自治体などが、ネット上の人権侵害の被害者に対して、より積極的に支援することが必要です。

 

 

法整備の課題

 

被害者救済の課題としては、法制度の問題があります。「プロバイダ責任制限法」は、差別情報の発信者の個人情報の開示が可能となっています。しかし、損害賠償請求などで訴訟する場合にのみであり、人権侵害を受けていても訴訟をしなければ開示されません。

 

裁判となると費用も時間もかかりハードルが高く、訴訟でなくても開示出来るように法改正を求めていく必要があります。しかも、海外のプロバイダに対しては法的拘束力がありません。

 

ヘイトスピーチに関しては大阪市では事後規制の条例があり、川崎市では事前規制が審議会で提言されて進んでいます。各地の自治体の先駆的な取り組みを共有し、広げていく取り組みが求められています。

 

 

今後の課題

 

(1)国・地方自治体の取り組み

 

●「相談窓口」「通報窓口」の設置

 

「部落差別解消推進法」では「相談体制の充実」(第四条)が求められています。まずは、ネット上の人権侵害に対する相談窓口を設置し、市民へ周知する事が急務です。

 

そして、被害者の権利回復の支援が出来る相談員のスキルアップ、関係機関との連携体制の充実などに取り組む必要があります。

 

また、大阪府のようにホームページ上に、差別書き込みに対する通報窓口の専用フォームを設けて、市民からの通報による情報収集をする事も有効な手段の一つです。

 

 

●モニタリング(実態把握)と削除要請

 

行政はネット上での差別情報や人権侵害の実態把握につとめ、悪質な差別投稿などへの削除要請に取り組む必要があります。

 

すでに、三重県や広島県福山市や兵庫県尼崎市・伊丹市・姫路市、奈良県全市町村(「啓発連協」)、香川県(香川県人権啓発推進会議)などでは、自治体の人権担当課や民間団体等の協力を得て、モニタリングを行っています。

 

個人や同和地区に対する悪質な差別情報を発見した場合は、法務局などと連携し、サイト管理者へ削除要請をしています。

 

今後、ネット上の部落差別の実態把握に向けて、まずは各自治体でのモニタリングを実施していく必要があります。

 

 

●削除基準(ガイドライン)の作成

 

差別投稿などの削除要請をより効果的に実施するためにも、まずは国や地方自治体レベルで、どのような投稿の場合に削除要請を行うのかなど、基本方針(ガイドライン・削除基準)を作成する必要があります。どのようなケースを部落差別の削除対象とするのかの基準は、これまで現実社会で対応してきた人権侵害事例や差別事件を参考にして判断していくことです。

 

例えば、「部落地名総鑑」や差別身元調査、引越やマイホームの購入時に同和地区かを調べる土地差別調査などは、現実社会では完全にアウトなので、ネット上でもアウトとするなど。「エタ」や「ヨツ」など差別語などを使用した差別発言や差別落書きなども、現実社会ではアウトなので、ネット上でも削除対象にするなどです。これまで積み上げてきた、人権侵害、部落差別の事例をもとに、削除基準を作ることが求められています。

 

 

(2)企業の取り組み(「差別禁止」規定を!)

 

インターネットサービス提供業者は、企業の社会的責任として、差別問題の解決に向けて、主体的に取り組む必要があります。当面の取り組みとして、下記があげられます。

 

●サービス提供時に、利用者との契約約款(利用規約)に「差別投稿の禁止」事項を設け、人権ガイドライ ンを策定(削除基準)する事

 

●差別投稿に対する通報窓口を設置し、削除対応を行う事

 

●差別投稿の削除

 

 

プロバイダ業界団体が「差別禁止」規定を!

 

「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消推進法」施行を受けて2017年3月、プロバイダ・通信関係4団体は、「契約約款モデル」の「禁止事項」の解説を改訂しました。削除対象となる「違法・有害情報」に、「ヘイトスピーチ」と「差別を助長・誘発する同和地区を示す情報」が該当し、禁止事項に該当するとの認識を示しました。

 

今後の課題として、この「契約約款モデル」に準じて、各社が利用者との契約書を改訂していく取り組みを行っていく必要があります。

 

また、モニタリング(ネット上差別の実態把握)を実施し、違反を発見した場合は「契約約款モデル」の削除基準を根拠に、削除要請を実施していくことで、より削除率を上げていくことが予想されます。

 

 

ネット上の「部落地名総鑑」の規制

 

鳥取ループ・示現舎との裁判が決着をしても、すでにネット上に大量に拡散され、新たに作成され続けているネット版「部落地名総鑑」をすべて回収する事は難しいです。しかし、検索サイトでフィルタリングをかけて表示出来なくしたり、検索上位に表示されないようにしたりするなどの対応は現在のIT技術では現実的には可能です。

 

Yahoo!では、有害サイトフィルタリングサービスを無料で配信しています。専門スタッフが最新情報を収集管理し、フィルタリングをかけて「違法・有害情報」を表示できないようにしています。

 

また、欧州ではGoogle社も検索エンジンで、「ホロコースト」を否認するサイトなどは、検索上位にならないように検索エンジンの表示方針を見直しています。Facebook社もフェイクニュース対策にも取り組みはじめています。

 

今後、企業等の最新の技術を利用し、ネット版「部落地名総鑑」の公開・流布などに関する規制や、業界団体の自主ガイドライン等の作成に取り組むことが求められています。(参照「違法・有害情報相談センター」http://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/illegal_info/pdf/The_contract_article_model_Ver11.pdf

 

 

(3)反差別団体や市民の取り組み

 

●部落問題総合サイトと「正しい情報発信」

 

現状では、部落問題に関しての魅力的なサイトは圧倒的に不足しています。ネット対策、メディア戦略は大きな課題であり、今後、ヒト・モノ・カネを配置して、総力を挙げた取り組みを進める必要があります。

 

当面の課題の一つとして、ネット上に部落問題の国内総合情報サイトを作る必要があります。例えば、中高生や若い人たち向けの部落問題のサイトやネット版『部落問題・人権辞典』の作成などです。

 

すでに学校や地域、職場などでの人権教育では、多くの教材や研修資料、書籍があります。しかし、ネット上では、それらの教材がほとんど、活かされていません。

 

そのパワーを1割でもいいからネット上に注ぐだけでも、現状は変わってくると思っています。海外ではネット上で若者向けの人権教育のサイトや教材なども作成されており、ネット上での反差別・人権教育の本格的な取り組みが行われています。

 

国内においても、部落問題の総合サイト、正しく学べる総合サイトの作成にむけて、研究者や専門家、活動家など多様な人たちで総力をあげて作成してくことが求められています。

 

 

●「カウンター投稿」と「デマ情報」の否定

 

次に、差別投稿や質問サイトに、積極的にカウンター投稿をしていく事も重要です。差別サイト、差別投稿を無視していれば、新たな偏見と差別が拡散されていきます。

 

出来るだけ多くの個人がカウンター投稿や情報発信をしていく取り組みを促進したいです。その際に、基本的なマニュアル原稿(テンプレート)を作成しておく事で、誰でも気軽にカウンターしやすくなる取り組みなども必要です。

 

また、デマは「本人にとってはデマであると知るまでは、真実」であり、デマ情報に対してははっきりと否定し、正しい情報を提示する必要があります。

 

その意味でも、デマや偏見情報をネット上で無視し続ける事は、結果として差別・偏見を助長し続けることになります。しっかりとデマを否定する正しい投稿が必要となります。

 

ウィキペディアやヤフー知恵袋、通販サイトの書籍のレビューへの積極的な投稿も行う必要があります。現状では、一部の差別主義者たちにより、大量にヘイト情報やデマ・差別情報が投稿され続けている現状があります。

 

これらに対しても、無視することなく、各個人で出来る範囲で反差別情報をしっかりと投稿していく取り組みが決定的に重要となります。差別主義者たちは、それらをまめにやり続けることで、情報操作・印象操作を行い、差別扇動を効果的に行ってきました。それらに負けない取り組みが必要です。

 

すでに若手の活動家や研究者などの有志が、鳥取ループ・示現舎に対する裁判の支援サイト「ABDARC(アブダーク)」を立ち上げて、ネット上での部落問題の情報発信やイベントなどを開催して、新たなネット上での部落解放運動が展開されています。

 

そこには反ヘイトスピーチのカウンターやLGBT、障碍者差別、反差別運動などに取り組む若者たちも参画しています。他の社会運動での先駆的なネット上での闘いに学びながら、部落問題のカウンターの輪が広がり始めています。 

 

ネットが差別を強化している状況がある一方で、同時にネットは差別をなくしていく大きな力にもなります。ネットのマイナス面だけでなく、プラス面を活用し、「部落差別解消推進法」を活かした組みを進めていきたいと思います。

 

 

おわりに

 

これまで見てきたように、ネット上における部落差別の深刻な問題としては、

 

(1)ネット版「部落地名総鑑」の公開

(2)部落出身者の個人情報の公開(晒し)・攻撃

(3)デマ・差別的情報の蔓延

(4)被害者救済(現状は自力救済)

 

という点があります。そして、これらの課題に対して有効な対策が行われていない事が、事態をより深刻化させています。

 

今後、これらの課題に対する総合的な取り組みが求められています。部落問題解決のためにも、早急に国や地方自治体、企業、運動団体などの各組織でネット上における部落差別、人権問題の対策チームを立ち上げて、今後の対応を検討していく必要があります。

 

まだまだ、課題は多いですが、ネット上における人権侵害、差別扇動に対する取り組みは世界的に共通の課題です。先駆的な取り組みに学びながら、ネット上での人権確立に向けた取り組みを、今後も取り組んでいきたいと思います。

 

 

アブダーク フライヤー表

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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