この夏を乗り切るために私たちがすべき10のこと

昨年から予想されていた通りではあるのだろうが、点検のため停止している原子力発電所の再稼働問題が大きな論点となってきた。日本に全部で50基ある商用原子力発電所(4月19日に福島第一原発1~4号機が廃止になったため54基から減少した)のうち、現在、稼働しているのは北海道電力泊原子力発電所の3号機だけとなっている。3号機の定期点検入りは当初の予定から延期され5月上旬になった。政府としては、電力需要のピークとなる夏を控え、また「原発ゼロ」の状態は避けたいとの思惑もあるのだろう。ここへきて、関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働へ向けた動きを加速させているようにみえる。

 

 

「経産相 大飯原発再稼動、福井に要請」(読売新聞2012年4月15日)

http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120415-OYO1T00119.htm

 

枝野経済産業相は14日、福井県庁で西川一誠知事や時岡忍・同県おおい町長らと会談し、関西電力大飯原子力発電所3、4号機(おおい町)の再稼働への同意を要請した。西川知事は、有識者でつくる県原子力安全専門委員会に諮り、県議会やおおい町の意見を聞くなど、再稼働の是非を判断する手続きに入ることを伝えた。近畿の知事らから再稼働に慎重な意見が出ていることを踏まえ、政府には「ぶれることなく、電力消費地から理解が得られるよう責任を持って対応することが必要だ」と求めた。

 

 

対立する意見、深まる混迷

 

この問題自体、どうなるかまだ不透明な状況のように私にはみえるが、仮にどうにかしてこの2機の再稼働にこぎつけたとしても、他の原発の再稼働にはそれぞれの地元の了承が必要だ。大飯原発再稼働問題をめぐるこのところの政府の動きに対しては、最初から再稼働ありきではないか、拙速である等の批判も強い。政府の意図に反して、今回のことでかえって原発全体への反発が高まってしまったようにもみえるから、これがきっかけになって今後どんどん再稼働が進んでいくとは正直考えにくい。その意味でいえば、少なくとも短期的には、日本はすでに事実上の「脱原発依存」を「達成」していることになるのかもしれない。

 

もちろん、これをどうみるかは、人によってちがうだろう。再稼働させないことを恒久的な脱原発への一歩とみる立場からは、このところの政府の動きは不安に、あるいはいらだたしく思われるにちがいない。実際のところ、再稼働やむなしとのムードづくりとしか思えない動きもちらほらみられるし、再稼働を認める前提との位置づけで行われている安全確認のための一連の手続きも杜撰としかいえず、これなら安心できると心から思える人などまずいないだろう。

 

中長期的に原発への依存度を減らしていくという「方針」もその本気度を疑われていて、2022年までに原発を全廃することを表明したドイツと比べて彼我の差を嘆く声はいろいろなところで聞かれる。産官学をまたぐ「原子力ムラ」は未だ健在であり、いわばこの「悪の枢軸」の面々がさまざまな手練手管に札ビラまで使って、原発「全面復活」の機会を虎視眈々と狙っているのではないか、というわけだ。

 

 

「社説:大飯原発再稼働 理解に苦しむ政治判断」(毎日新聞2012年4月15日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20120415k0000m070101000c.html

 

これで国民に納得してくれというのは到底無理な相談である。再稼働に必要な条件は整っていない。それなのに、なぜ政府は、これほど関西電力大飯原発の再稼働を急ぐのか、理解に苦しむ。

 

 安全性については、再稼働の基準の決め方にも、中身にも、問題がある。本来なら、福島第1原発のような放射能汚染を二度と起こさないという決心のもとに、精査して作らねばならない。にもかかわらず、政府はたった3日間で基準を決め、その後1週間で大飯原発が適合すると判断した。あまりに拙速だ。

 

 

一方、電力需給を気にする人にとっては、この夏への不安はいや増すばかりだろう。この立場からみれば、反対派がいうほど再稼働は既定路線ではなさそうだし、そもそもこの夏に関していえば、仮に大飯原発が再稼働しても、稼働中の原発がほとんどないことは変わりない。2010年並みの猛暑でもし原発再稼働がなければ関西電力ではピーク需要に対して19.6%電力が不足するとの報道があったが、仮にそれほどでなかったとしても、程度の差こそあれ需給の逼迫は全国共通であり、電力会社間の融通などもあまり期待できないだろう。一瞬たりとも電力を止められない業種の企業、料金値上げにとどまらず再び休日操業や変則シフトなど無理を強いられるであろう企業などからすれば、いったいどうなるのだと不安に思うのは当然だ。

 

 

「関電、猛暑なら電力2割不足 官民で大飯再稼働急ぐ」(日本経済新聞2012年4月10日)

http://www.nikkei.com/news/headline/related-article/g=96958A9C93819481E2EBE2E6E78DE2EBE2E6E0E2E3E09C9CEAE2E2E2

 

野田佳彦首相らが関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を急ぐのは、今夏の電力需給への不安解消が最大の狙いだ。政府は大飯原発が再稼働しないと、今夏の関電管内の電力は一昨年並みの猛暑だと19.6%不足、昨年並みでも7.6%不足する見通しを提示。官民協調で再稼働を急ぐ構えだ。

 

 

これは、どちらが正義か、という話ではない。いずれか片方がすべて正しくてもう片方がすべてまちがっている、という類の話でもない。どちらの側にも理由があり、問題点がある。どちらに転んでも、問題は残るのだ。たとえ再稼働がなくても、原発には電力を使って冷却し続けなければならない核燃料が残っているから、地震や津波に対して脆弱な状況は続いていて、再稼働の有無はリスク減少にはあまり寄与していない。一方、原発が運転停止した穴を埋めるために酷使されている火力発電所の故障リスクも高まっているだろうから、当面懸案の大飯原発3、4号機が再稼働しても電力供給は綱渡りのままであって、再稼働さえすれば電力安定供給は万全というわけでもない。いかに見ないふりをしても低く見積もっても、多少上下はするだろうが、リスクそのものが消えてなくなるわけではない。

 

こうした現状は、客観的なよしあしや個々人の好みはどうあれ、私たちがこれまでの間に社会全体の総意として選択してきたことだ。今後私たちがどうするかによっていろいろ変わっていく部分はあるはずだが、少なくともこの夏についていえば、今から状況を抜本的に変えることは難しい。大飯原発のある福井県の近隣自治体である京都府と滋賀県の知事が第三者委員会の設置などを盛り込んだ要望を出したと報道されたが、それ自体の是非はともかく、もし実現すれば、それなりに時間がかかるであろうことはまちがいない(それを狙っているふしもある)。そうやってあれこれ議論しているうちに時間切れとなって、概ね現状のまま夏に突入することになるのだろう。

 

 

「「脱原発依存」へ共同提言=工程表、第三者委設置要望-政府に迫る・京都、滋賀知事」(時事通信2012年4月17日)

http://www.jiji.com/jc/c?g=eco&rel=j7&k=2012041700183

 

関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり、京都府の山田啓二知事と滋賀県の嘉田由紀子知事は17日午前、京都市内で記者会見し、「国民的理解のための原発政策への提言」と題した政府への要望を発表した。老朽化した原発の廃炉計画など「脱原発依存」へ向けた工程表の提示や、今夏の電力需給を検証するための第三者委員会の設置など7項目を求めた。

 

 

 

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