この保守政権は「日本の家族」を守るのか?

「家族を守らねばならない」という無難な主張

 

6年ぶりの投票が行われた自民党総裁選は大きな波乱もなく、現職の安倍晋三総裁が3選を果たすという結果になった。今後の国政選挙で自民党が敗北するといった事態が起きない限り、これからまた3年の間、安倍政権が続くことが想定される。

 

言うまでもなく、自民党は保守政党であることを標榜しており、安倍も自らが保守の立場に立つ政治家であることを公言してきたわけだが、この保守政権を構成する政治家やその支持者たちが守る必要性を主張してきたものの1つが家族である。

 

「家族を守る」という言葉は、多くの人にとって、耳ざわりのよい響きをもつものだろう。統計数理研究所が1953年から5年ごとに実施している「日本人の国民性調査」には、「あなたにとって一番大切と思うもの」を1つだけ挙げるという設問があるが、これに「家族」と回答する者は1983年には31%と、「生命・健康・自分」(22%)、「愛情・精神」(19%)などを抑えて最多となり、その後も1993年には42%と4割を超えるなど、直近の2013年の調査まで首位の座をキープし続けている(注1)。「家族を守らねばならない」という主張がとても無難で、多くの人に受け入れられやすいものであろうことは、このような調査結果からもうかがい知ることができる。

 

 

(注1)http://www.ism.ac.jp/kokuminsei/table/data/html/ss2/2_7/2_7_all.htm なお、「家族」とは別に、「子ども」というカテゴリーが常に10%前後を占めていることにも注意されたい。

 

しかし、問題は「家族を守らねばならない」というこの非常に受け入れられやすい主張のもとで、具体的には何が行われるのか、つまりは、それがどのような政策や制度として現実化するのかということだろう。言い換えれば、この政権が家族の何をどのように守ろうとしているのかということが見定められなければならない。

 

 

現政権がもつ2つの方向性と「家族を守る」ことの2つの意味

 

この点に着目すると、この自民党・安倍政権には、2つの異なる方向性が同時に存在することに気づく。まず、一方では、特定の家族のありかたやかたちのみを守ろうとする方向性がある。

 

昨年から今年にかけて、『国家がなぜ家族に干渉するのか――法案・政策の背後にあるもの』、『右派はなぜ家族に介入したがるのか――憲法24条と9条』、『まぼろしの「日本的家族」』など、現政権の家族をめぐる動向を批判的に検討する書籍があいついで刊行されている(注2)。

 

(注2)本田由紀・伊藤公雄編(2017)『国家がなぜ家族に干渉するのか――法案・政策の背後にあるもの』青弓社、中里見博・能川元一・打越さく良・立石直子・笹沼弘志・清末愛砂  (2018)『右派はなぜ家族に介入したがるのか――憲法24条と9条』大月書店、早川タダノリ編(2018)『まぼろしの「日本的家族」』青弓社

 

これらの書籍による批判点は、野党時代の自民党が2012年に公表した改憲草案に「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文があること、同じく自民党が2016年にとりまとめた「家庭教育支援法案」で教育における保護者の責任が強調されていること、少子化対策の名のもとに国や自治体による婚活支援事業が結婚して子どもを産み育てるという生きかたを奨励していることなど多岐にわたるが、重要なポイントは、結婚して家族をつくることや相互に助け合うなどの特定の家族のありかたに価値が置かれており、個人のライフスタイルの選択の自由が必ずしも尊重されていないことである。

 

また、一部で報道されたところによると、配偶者と離婚あるいは死別したひとり親の所得税や住民税を軽減する「寡婦(寡夫)控除」の対象に未婚のケースを加えるという税制改正の動きに対して、自民党内では反対論も根強かったようである(注3)。いわゆる「未婚の母」を離別・死別者と平等に扱おうとするこのような動きに反対することは、「未婚の母」とその子どもがつくる家族に対する「それは正しい家族のかたちではない」という価値判断があるからこそなされるものだろう。

 

(注3)https://digital.asahi.com/articles/ASL8X55KHL8XULFA01P.html?rm=725

 

これらの動向を見ていると、現政権にとって、「家族を守る」こととは、特定の家族のありかたやかたちを守ることを意味しているのであって、裏返せば、それとは異なる家族のありかたやかたちは守るに値すると見なされていないのではないかという危惧を抱かざるをえない。家庭科の教科書には「典型的な家族のモデル」が示されておらず、「家族には多様なかたちがあっていい」と説明されていることへの「批判」を安部が自著で行っていたことなどを思い起こすと、その危惧はさらに深まる(注4)。

 

(注4)安倍晋三(2013)『新しい国へ――美しい国へ 完全版』文藝春秋

 

しかし、他方で、特定の家族のありかたやかたちを守ろうとするこの方向性とはやや折り合いが悪いように思われる方向性も、現政権には顕著である。よく知られているように、民主党から政権を奪還して以降の安倍政権は、「女性活躍」をキャッチフレーズにして、その成長戦略のなかに位置づけてきた。そのねらいは、少子高齢化の進行に伴う労働者不足への対策として、これまで最も「活用」されてこなかった人材である女性の就労を促進することによって、経済成長をもたらすことにある。たとえば、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」は、25~44歳の女性就業率73%、第1子出産前後の女性の継続就業率55%など、2020年までの実現を目指す数値目標を民主党の野田政権から引き継ぐかたちで掲げていた。

 

その後も、2017年10月の衆議院選挙で自民党は「保育・教育の無償化」を公約に掲げ、2019年10月からは、すべての3歳から5歳の子どもと住民税非課税世帯の0歳から2歳の子どもを対象として、幼稚園・保育園・認定こども園の「無償化」が予定されている(注5)。また、待機児童の解消を目的として、経験年数が3年以上の保育士の給与に月5000円、7年以上の保育士の給与に月40000円を上乗せする処遇改善も2017年4月から実施している。

 

(注5)正確には、幼稚園の利用については、月額25700円を上限とした補助がなされる予定である。

 

社会学者の皆川満寿美や政治学者の堀江孝司も指摘するように、これらの政策のねらいは、あくまで経済成長にあって、ジェンダー平等を実現することにはない(注6)。とはいえ、女性の就労を促進したり、そのために子どものケアを家族だけではなく社会全体で担う「子育ての社会化」を進めたりすることは、自民党や安倍政権を支持する者が好む傾向のある「女性が家庭で家事や育児に専念する」という家族のありかたとは正反対の方向を目指すものである(注7)。

 

 

(注6)皆川満寿美(2014)「政策を読み解く(1) 新自公政権の「女性政策」」『女性展望』668: 2-7、堀江孝司(2016)「成長戦略としての「女性」――安倍政権の女性政策を読み解く」『SYNODOS』(https://synodos.jp/politics/17400

 

(注7)性別分業を肯定する価値観が自民党支持者のあいだで強いことについては、以下の論文を参照されたい。田辺俊介(2018)「政党支持と社会階層の関連構造――価値意識の媒介効果も含めた検討」小林大祐編『2015年SSM調査報告書9 意識II』。

 

そんな彼らにとって、「家族は、互いに助け合わなければならない」と憲法に書きこむことや保護者の家庭教育の責任を法律で規定することは自らの価値観と整合的であっても、女性の就労や「子育ての社会化」を促進することなど、それこそ「家族を壊す」政策ということになるだろう。

 

しかし、このような政策もまた、安心して子どもを産み、子育てと仕事を両立するという人々の家族生活についての希望を実現する条件の整備を目的としているという意味で、家族を守ろうとするものではないだろうか。この場合、「家族を守る」とは、家族のありかたをめぐる人々の希望を実現することを意味する。たとえば、多くの女性にとって、保育園に子どもを預けることができなければ、子どもをもちながら働くという家族生活を実現することは実質的には不可能なのであるから、保育サービスを拡充する政策は、家族のありかたについての個人による自由な選択を可能にするうえで不可欠である。

 

要するに、現政権の動向には、特定の家族のありかたやかたちを守るという方向性と、家族のありかたをめぐる人々の希望を実現するという方向性とが併存している。そして、家族のありかたをめぐる人々の希望に一定のヴァリエーションがあり、特に現政権が女性の就労や「子育ての社会化」の促進によってそれに対する希望を実現しようとする家族のありかたが、現政権の支持者が守ろうとする特定の家族のありかたと乖離していることを考えれば、両者の折り合いは決してよいとは言えないのである。【次ページにつづく】

 

 

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