入管法改正の論点――言及されたこと、されていないこと

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1.平成の30年間でもっとも注目度が高まった外国人労働者受入れの議論

 

日本の外国人/移民政策が変革期を迎えている。昨年10月末に召集された第197回国会では、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」(以下、改正法案)が議論され、最終的に12月8日深夜に法案可決、12月25日に詳細な「基本方針」や「分野別運用方針」が閣議決定された。2019年4月には、労働力不足に対応するために在留資格「特定技能」での外国人労働者の受入れが始まる予定である。

 

改めて、改正法案の可決・各種方針の閣議決定に至るまでの昨年1年間の流れを図表1にまとめている。

 

図表1 改正入管法及び法務省設置法制定に関わる経過

(資料)筆者作成。

 

 

図表1をみると、従来から日本政府が堅持してきた、「国民のコンセンサスを踏まえる必要性などの理由から、労働力不足への対応のための(高度人材ではない)外国人労働者の受入れは行わない」というスタンスは、昨年2月の総理大臣の指示により転換され、議論の着手からは10ヵ月、改正法案の国会提出からは1ヵ月で法案可決まで至ったことがわかる。

 

1年に満たない短期間で議論が進んだこともあり、昨年1年間は、改正法案に関わる関係閣僚会議の設置や関連資料の公表が矢継ぎ早に行われ、とくに11月以降の臨時国会会期中は、各種メディアでも本テーマが連日取り上げられた。

 

実際、本テーマに関する全国紙5紙の「報道量」を経年変化で可視化してみると、日本における外国人労働者の受入れについて、(議論の成熟度は別として)平成の30年間で突出して注目度(ニュースバリュー)が高まった1年間だったことがわかる。日系人の受入れや技能実習制度が始まった1990年前後と比べても約2倍の報道量であった。

 

 

図表 2 「外国人労働者」と「日本」の両方を含む見出しと本文記事件数推移

(資料)各社、記事検索サイト(読売新聞:ヨミダス歴史館、朝日新聞:聞蔵Ⅱビジュアル、毎日新聞:毎索、日本経済新聞:日経テレコン、産経新聞:産経新聞データベース)をもとに筆者作成。なお、産経新聞は1992年9月以降のみデータベース化されているため、1993年以降から集計対象としている。

 

 

2.関連団体からも論点の提示

 

昨年末の国会にあわせ、経済団体、労働者団体、外国人支援団体、学会等からも、改正法案に対する意見書や要請書が提示され、多岐にわたる論点が言及された(筆者が確認しただけでも14文書)。本稿では、当該文書(図表3-1)を概観し、挙げられているおもな論点を整理した(図表3-2)。

 

 

図表 3-1 改正法案に対する意見書一覧

 

図表 3-2 改正法案に対する意見書・要請書で挙げられているおもな論点

(資料)図表3-1の資料をもとに筆者作成。なお、資料によって用いている言葉や表現が若干異なるために留意が必要。改正法案に直接的な関わりが弱いと考えられる論点は掲載していない(例:高度人材の受入れ促進(文書No.2)、収容制度の改革(文書No.13)など)。

 

 

当該文書で挙げられている論点は、大項目として、1)新たに受け入れるにあたってどのような要件設定をするか等の内容と、2)受け入れた後の対応に関する内容の2つに分けられる。それぞれの論点ごと、言及がある該当文書の番号を図表3-2の一番右の列に記載している。

 

中項目レベルをみると、1)では、受入れ分野・人数、労働・滞在条件、賃金、技能・言語要件や試験など、2)では、社会統合(多文化共生)政策の推進体制、職場・生活環境整備、日本語学習・教育支援などのテーマに区分できる。

 

小項目レベルは多岐にわたる論点があるが、1)では、(日本人労働者の)労働環境や処遇の改善、(悪質な)仲介事業者の管理・排除、家族帯同の権利付与、2)では、日本語教育や差別禁止等を含む社会統合に関する基本法の制定、日本語教育の質的保障といった内容が比較的多く言及されていた(なお、言及している文書数が少ない論点は重要度が低いということを意味していない)。

 

列挙された論点と昨年末の国会審議との関係を照らせば、議論されていない内容(例:受け入れた後の対応についてはほとんど議論がなされなかった)がある一方で、当該意見書・要請書では挙げられなかったものの新たに国会で言及された点(例:労働力が大都市圏に偏重する懸念への対応など)もあった。

 

 

3.今後継続的な議論が求められる論点

 

可決成立した改正入管法第18条には、改正法施行から2年経過後に在留資格「特定技能」に関わる制度の在り方について検討を行うことが盛り込まれたように、本件については、今後も継続的な議論が求められている。

 

そうしたなかで、昨年出された各種意見書や国会の場では十分に言及されなかったものの、議論すべき重要な論点は残されていると考える。

 

そこで、本稿の以下では、(1)受入れを進めていくために、(2)受け入れた後の労働市場・社会生活での統合・共生を進めていくために、という2つの観点から今後の論点を整理したい。

 

 

1.受入れを進めていくために

 

1-1 将来ビジョンの設計:部分最適の蓄積による全体「不」最適の回避

 

第二次安倍政権以降の外国人/移民政策の特徴は、受入れルートの多様化による受入れ規模の拡大といわれる(明石 2017)。近年、技能実習対象職種の拡大や、技能実習法制定による優良な機関での受入れ人数枠の拡大、在留資格「特定活動」を用いた複数業種での受入れルートの新設などがなされてきた。

 

以下の図表4では、いわゆる高度人材の在留資格や技能実習とは別に、法務大臣が個別に認める在留資格「特定活動」の枠組みを用いた外国人労働者の受入れルートをまとめている。経済連携協定にもとづく介護人材、建設・造船分野の受入れ措置、国家戦略特区を用いた農業等での受入れなど、さまざまな業種・分野で門戸を広げてきたことがわかる。

 

これらの受入れ制度を始めた目的は、表向きには経済成長・生産性の拡大等とされているが、実際には、労働力不足が逼迫する現場の声に応じてきたともいえる。

 

 

図表 4 近年、在留資格「特定活動」により受け入れ始めた外国人

(資料)所管省庁資料にもとづき筆者作成。正確には、日系四世は労働者としての受入れではないが、在留資格「特定活動」で受け入れているため掲載している。

 

 

こうした、日本において近年実施されてきた政策と、今回の改正法制定の動きを照らし合わせると、いくつか不整合な点が浮かび上がる。たとえば、つい1年前に成立させた技能実習法で、技能実習生は「労働力需給の手段」とせず「帰国後の技能移転」が目的とされたが、今回の改正法では、「労働力不足に対応」するための戦力として「日本で継続就労する」ことを認める内容になっている。

 

また図表5で示したように、今回の改正法により、受入れルートは介護分野で4本目、建設・造船・製造(一部)・農業分野では3本目ができたことになり、全体として受入れルートが乱立する結果となっている(図表5)。

 

 

図表 5  特定業種の外国人労働者受入れルート・在留資格

(資料)筆者作成。

 

 

とくに農業では、「小さく産んで大きく育てる」という国家戦略特区の趣旨のもと、愛知県や沖縄県など一部地域で新たな在留資格「特定技能」の対象と類似する人材層を受け入れていたものの、今回の改正法により、特区事業の綿密な効果検証や課題の整理が行われずして、一気に全国展開されたともいえる。

 

このような状況をみると、近年の日本の外国人/移民政策は、その場その場で部分最適と考えられる対応を重ねてきたものの、長期的なビジョンが欠落していたために、結果として全体「不」最適に陥っているといえないだろうか。

 

この事態への対応案を考えると、改めて国は、将来外国人とともにどのような国・地域をつくっていくのかについて、総論として中長期的なビジョンを策定し、それにもとづいた政策立案・執行を行うことが求められる。

 

各論としては、1)特区事業から得られた示唆を(改正法成立後の今からでも)新制度の運用に反映していくこと、2)段階的に受入れルートを統合し、シンプルな分かりやすい制度に集約させていくこと、などが望まれる。2)に関しては、制度の趣旨が異なるとはいえ、受入れルートが複数あることにより、外国人労働者・受入れ事業者双方にとって分かりづらくなる結果、制度が十分に活用されない可能性や、複雑な制度設計により不正や人権侵害の温床になる可能性もあり、これらは避けるべき事態と考える。

 

 

1-2 国内労働環境の改善

 

昨年の国会審議では、失踪した技能実習生を対象とする調査結果が明らかになり、技能実習生が働く職場環境や労働条件の厳しさが指摘された。そこでは、技能実習生を雇用する事業場の70.8%(調査件数5,966件中4,226件:2017年)で、労働基準関係法令違反があったという厚生労働省の調査結果が引き合いに出され(厚生労働省2018a)、劣悪な労働条件を問題視する論調が目立った。

 

だが、労働環境の改善が求められるのは、技能実習生を雇用する事業者だけに限らず、多くの日本企業に当てはまることを看過してはならない。厚生労働省(労働基準監督署)が、昨年度、長時間労働が疑われる事業場25,676件に対して行った監督結果では、70.3%の事業場で労働基準関係法令違反であった。同じく労働基準監督署による昨年度の監督の結果、100万円以上の未払賃金があった企業数が1,870件、対象労働者数は20万5千人、是正支払額は446億4千万円以上に達し、いずれも過去10年でワースト1位となっている実態もある(厚生労働省2018b, 2018c)。

 

また、厚生労働省の各種統計(雇用動向調査、労働経済動向調査、賃金動向基本統計調査、労働災害動向調査)をみると、新たな在留資格「特定技能」の対象業種である宿泊業、外食業、介護などは、高離職率・高欠員率・低賃金・高労災率といった特徴が読み取れる。

 

こうした実態を鑑みると、本件は外国人/移民政策(とくに入管政策)としての議論だけでは不十分であり、いかに日本人を含む労働者の労働条件を見直し、日本全体の雇用環境を適正化していくかといった議論が重要になる。改正入管法第2条及び基本方針には、「外国人の報酬額が日本人と同等額以上であること」が定められているが、同等とするレベル自体を底上げしていく取組みが求められる。

 

労働環境の改善に向けた一つの観点として、国連(2011)やILO(2015)が求めるように、発注側企業がサプライチェーン(製品供給網)全体の労働環境にまで配慮し、適正な商取引環境の構築を目指すことが挙げられる。昨秋、衣料品メーカーのワコールが、技能実習生への人権侵害を行う企業と取引を行わない方針を打ち出したが、今後、技能実習生に限らず日本人労働者も含め、人権の軽視や労働基準関連法違反を犯す企業との取引は経営上リスクと判断される動きが広がっていくことで、労働市場全体の適正化が促されることを期待したい(注1)。

 

(注1)連合(2018)は、2019年春闘方針として、「取引の適正化の推進」を掲げている。また、2019年1月24日には、ILO(国際労働機関)とスウェーデンのアパレルメーカーH&Mが、繊維・衣料産業のサプライチェーンにおける労働条件の向上を推進するパートナーシップを拡充提携したことが発表された。

 

 

1-3 諸外国がライバルに:ミドルスキル人材受入れの潮流

 

少子高齢化や労働力不足は、日本だけが直面している課題ではない。国連統計をもとに、日本を含めた近隣6ヶ国の将来人口推計を整理したものが図表6である。若年生産年齢人口は、ベトナムを除き中国やタイでもすでに減少局面に入っており、高齢化率は6ヶ国すべてで上昇局面に突入している(注2)。

 

(注2)こうした状況は、「アジアの老化」(Hateley・Tan 2003)、「老いていくアジア」(Lee ed 2008)、「東アジア・太平洋における高齢化の到来」(World Bank Group 2016)と指摘されている。

 

 

図表 6 日本及び近隣諸国の将来人口推計

(資料)United Nations(2017)‘World Population Prospects: The 2017 Revision‘ をもとに筆者作成。

※若年生産年人口は15歳から34歳の人口。各国左軸の目盛幅が異なるため留意が必要。

 

 

このように、近隣諸国でも少子高齢化・労働力不足が今後ますます顕著になることが見込まれるなか、その対処方法として外国人労働者の受入れ・定着促進のための制度設計を各国も進めている。図表7では、主要国の直近の大きな政策動向についてまとめている(注3)。

 

(注3)図表7中ではタイの動きを掲載しているが、世界銀行は、労働力の送出し国とみられてきたASEAN諸国に対して域内の経済統合等のために外国人労働者受入れの促進を提起している(World Bank Group 2017)

 

図表 7 ミドルスキルの外国人労働者獲得に向けた諸外国の政策動向

(資料)各国政府HP等をもとに筆者作成。

 

図表7で示した各国の動きからは、従来から獲得競争が行われてきた高度人材ではない、ミドルスキルの外国人労働者へも門戸を開く潮流がみてとれる。ミドルスキルの外国人労働者は、在留資格「特定技能」の対象人材層とも重なる部分であり、たとえばドイツでも高齢化に伴う介護人材の送出し国としてフィリピンやベトナムが想定されている(ドイツでは、過去数年間、フィリピンやベトナムの看護師を二国間協定で受け入れてきた)。こうした動きからは、韓国、台湾はもちろんのこと、アジア圏内にとどまらず、ミドルスキルレベルの外国人労働者の受入れ競争が今後本格化することも見込まれる。

 

ミドルスキル人材獲得競争時代の到来に対応するためにも、上述したような将来ビジョンにもとづく政策形成、シンプルで分かりやすい受入れ制度の構築、魅力的な労働環境づくりなどが求められる。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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