ひきこもりはロスジェネ世代に多いのか――ロスジェネ仮説を検証する

朝日新聞がひきこもりは40代が多いという趣旨の記事を出した(2019.11.19)。

 

・ひきこもり、40代が最多 支援先は若年層が中心 https://www.asahi.com/articles/ASMB954RDMB9UUPI00C.html

 

最近、行政や新聞記者の人とひきこもり関係の話をすると、「ひきこもりは40代が多いんですよね?」と話題になることが多かったので、気になっていたトピックである。

 

一部を引用しよう。

 

朝日新聞が47都道府県と20政令指定市にアンケート。32自治体が「実態調査がある」と答えた。

このうち17自治体は、民生委員などが地域で把握している当事者の数をまとめる形式で2013~19年に調査。詳細を取材に明らかにした16自治体のうち、14自治体で40代が最多だった。

また、16自治体すべてで40代以上の割合が30代以下より多く、今年2月現在で調査した長野県では年齢不明者を除いた当事者2237人の63.1%が40代以上だった。

判明分の16自治体の調査のうち14自治体で40代が多かったようだ。

 

確かにこのニュースを読むと、40代が多いと書かれてある。しかし、この結果は正しいのだろうか? まず、疑問に感じるのは、朝日新聞が利用した調査である。これらの調査は民生委員など、見聞きして知っている範囲の事例を集めたものである。地域のことをよく知る民生委員でも、正確に把握できているとは考えづらいし、偏りがあってもおかしくはない。

 

正確な値を知るには、ランダムサンプリングされた調査からひきこもりを推定する必要がある。対象年齢の全国民を対象にランダムサンプリングされたひきこもりの調査は、内閣府がすでに3回実施している。その調査を利用することによって、今回の報道の正誤が確認できる。

 

 

内閣府ひきこもり調査

 

内閣府によるひきこもり調査は3回行われている。いずれも5000票が郵送され、いずれも65%程度の回収率である。日本国民の該当年齢者全員が調査対象になっている。したがって、日本全体のひきこもりの趨勢を見るには、内閣府調査が最も適した調査ということになる。各調査の概要は下記のものである。

 

 

各調査を以下では、2010年調査、2015年調査、2018年調査と、調査年で略称としたい。2010年調査、2015年調査が若年(15~39歳)で、2018年調査が中高年(40~64歳)の調査である。

 

 

世代別ひきこもり割合

 

まずは割合(比率)から見てみよう。それぞれの年齢階級別の95%区間を計算した。15~39歳は2015年調査、40~64歳は2018年調査のデータを使用している。

 

 

薄いグレーの点が比率で、左右が95%信頼区間である。95%信頼区間とは一般的な言葉でいうと誤差に近い。40代が科学的に(統計学的に)多いといったようなことを言おうとすると、それぞれの95%信頼区間が重なってはいけない。95%信頼区間が重なっていると、統計学的に有意な差ではないということになる。

 

いずれの年代も95%信頼区間が重なっているので、統計学的に差は認められない。

 

統計学的な差はないと確認して上で、それぞれの数値をみると、もっとも比率の高いのは20代だ。新聞が報道するように40代が特別高いという結果はではなかった。

 

注:agresti-coull法を用いているため、比率は95%信頼区間の中央値ではない。

 

 

年齢階級ごとのひきこもり者数

 

割合と共に検討しなければならないのは人数である。40代は団塊ジュニア世代を含むので、20代よりも人口がそもそも多い。

 

そこで、ひきこもりの「数」で推定してみよう。内閣府調査では、10代は15~19歳という階級と、60~64歳という階級があり、10歳単位での比較はできないため、5歳単位での比較となる。

 

人口は2015年の国勢調査を基にしている。2018年調査は2015年の国勢調査の37~61歳の人口を割り当てた。

 

 

もっとも多いのは40代前半であることがわかる。この年齢階級が多いのは、人口がそもそも多いからである。

 

こちらのグラフでも95%信頼区間がいずれも重なっているため、統計学的に有意な差はない。

 

ただ20代と40代という比較であれば、20代の方がやや多い。40代がもっとも多いわけではない。

 

 

20代が27.2万人、40代が26.1万人と、40代は人口が多いにもかかわらず、20代と人数で比べても、それほど違わないことが確認できるだろう。

 

結果をまとめると以下のようになる。

 

(1)割合で多いのは20代である

(2)人数で多いのは40代前半である

(3)10年単位だと40代よりも20代の方が多い【次ページにつづく】

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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