2019.12.12

ひきこもりはロスジェネ世代に多いのか――ロスジェネ仮説を検証する

井出草平 社会学

社会

朝日新聞がひきこもりは40代が多いという趣旨の記事を出した(2019.11.19)。

・ひきこもり、40代が最多 支援先は若年層が中心 https://www.asahi.com/articles/ASMB954RDMB9UUPI00C.html

最近、行政や新聞記者の人とひきこもり関係の話をすると、「ひきこもりは40代が多いんですよね?」と話題になることが多かったので、気になっていたトピックである。

一部を引用しよう。

朝日新聞が47都道府県と20政令指定市にアンケート。32自治体が「実態調査がある」と答えた。

このうち17自治体は、民生委員などが地域で把握している当事者の数をまとめる形式で2013~19年に調査。詳細を取材に明らかにした16自治体のうち、14自治体で40代が最多だった。

また、16自治体すべてで40代以上の割合が30代以下より多く、今年2月現在で調査した長野県では年齢不明者を除いた当事者2237人の63.1%が40代以上だった。

判明分の16自治体の調査のうち14自治体で40代が多かったようだ。

確かにこのニュースを読むと、40代が多いと書かれてある。しかし、この結果は正しいのだろうか? まず、疑問に感じるのは、朝日新聞が利用した調査である。これらの調査は民生委員など、見聞きして知っている範囲の事例を集めたものである。地域のことをよく知る民生委員でも、正確に把握できているとは考えづらいし、偏りがあってもおかしくはない。

正確な値を知るには、ランダムサンプリングされた調査からひきこもりを推定する必要がある。対象年齢の全国民を対象にランダムサンプリングされたひきこもりの調査は、内閣府がすでに3回実施している。その調査を利用することによって、今回の報道の正誤が確認できる。

内閣府ひきこもり調査

内閣府によるひきこもり調査は3回行われている。いずれも5000票が郵送され、いずれも65%程度の回収率である。日本国民の該当年齢者全員が調査対象になっている。したがって、日本全体のひきこもりの趨勢を見るには、内閣府調査が最も適した調査ということになる。各調査の概要は下記のものである。

各調査を以下では、2010年調査、2015年調査、2018年調査と、調査年で略称としたい。2010年調査、2015年調査が若年(15~39歳)で、2018年調査が中高年(40~64歳)の調査である。

世代別ひきこもり割合

まずは割合(比率)から見てみよう。それぞれの年齢階級別の95%区間を計算した。15~39歳は2015年調査、40~64歳は2018年調査のデータを使用している。

薄いグレーの点が比率で、左右が95%信頼区間である。95%信頼区間とは一般的な言葉でいうと誤差に近い。40代が科学的に(統計学的に)多いといったようなことを言おうとすると、それぞれの95%信頼区間が重なってはいけない。95%信頼区間が重なっていると、統計学的に有意な差ではないということになる。

いずれの年代も95%信頼区間が重なっているので、統計学的に差は認められない。

統計学的な差はないと確認して上で、それぞれの数値をみると、もっとも比率の高いのは20代だ。新聞が報道するように40代が特別高いという結果はではなかった。

注:agresti-coull法を用いているため、比率は95%信頼区間の中央値ではない。

年齢階級ごとのひきこもり者数

割合と共に検討しなければならないのは人数である。40代は団塊ジュニア世代を含むので、20代よりも人口がそもそも多い。

そこで、ひきこもりの「数」で推定してみよう。内閣府調査では、10代は15~19歳という階級と、60~64歳という階級があり、10歳単位での比較はできないため、5歳単位での比較となる。

人口は2015年の国勢調査を基にしている。2018年調査は2015年の国勢調査の37~61歳の人口を割り当てた。

もっとも多いのは40代前半であることがわかる。この年齢階級が多いのは、人口がそもそも多いからである。

こちらのグラフでも95%信頼区間がいずれも重なっているため、統計学的に有意な差はない。

ただ20代と40代という比較であれば、20代の方がやや多い。40代がもっとも多いわけではない。

20代が27.2万人、40代が26.1万人と、40代は人口が多いにもかかわらず、20代と人数で比べても、それほど違わないことが確認できるだろう。

結果をまとめると以下のようになる。

(1)割合で多いのは20代である

(2)人数で多いのは40代前半である

(3)10年単位だと40代よりも20代の方が多い

調査法の解釈

内閣府の調査と朝日新聞で取り上げた調査が一致していない理由は、先に述べたように、調査方法の違いから生まれていると考えられる。

実際に民生委員調査を検討している民選委員の会議に参加したことがあり、そのときに民選委員さんから偏る理由を直接聞いたことがある。その地域は都会ではなく地方の過疎地域を抱える市町村であり、民生委員による把握も比較的できている地域であった。

参加した民生委員の会議では、多くの民生委員は高齢化している。60代後半から70代の民生委員の方が多かったように思う。彼らと、40代のひきこもりの親がだいたい同世代なのだ。ひきこもりの親が同級生であったり、少し年齢が違っていても、地域でのつながりや、兄弟姉妹の同級生であったりと、何かと接点があり、40代のひきこもりは把握がしやすいと民生委員の方からは聞いていた。

しかし、その下の世代、つまり、子どもの年齢が30代、20代となると、親の年齢も10歳くらいは違っていて、つながりが少なく、把握できているケースも限られるということだった。

民生委員調査で40代のひきこもりが多く発見される理由は、民生委員と40代のひきこもりの親が同世代だからだと考えられる。

ロスジェネ仮説

新聞の落としどころとしては、現在の40代は就職氷河期・ロスジェネを経験していて就労環境に問題があり、ひきこもりの多さにつながっているという可能性を示唆している。明確に書いているわけではないが、社会世相の犠牲者、経済政策の失敗の犠牲者としてひきこもりを描く、というのは社会運動の好きなロジックでもある。

しかし、そのロジックが正しいのであれば、40代は他の世代よりも被害を受けているということだから、「割合」として40代のひきこもりが多くなければ支持はできない。よって、ロスジェネ仮説は棄却できる。ロスジェネを団塊世代と限定した場合、彼らは45歳から19歳と、40代後半にあたる。ひきこもり者数のグラフを見てわかるように、全世代を通して、統計学的な差はないものの、どちらかといえばひきこまりが少ない世代である。

割合で多いのは20代であり、本稿では示さなかったものの、2010年調査でも同様の傾向が見られる。20代のひきこもりが多いことは、構造的な問題と捉えた方がよいだろう。

ひきこもりの世代別の特徴は就職氷河期・ロスジェネといった時代効果(もしくは政治的な失敗)で説明するのではなく、日本社会に根強く構造化された現象だと捉えるのが妥当な捉え方である。

行政によるひきこもり支援は39歳まで

40代が多いという新聞の報道は行政施策の問題も視野に入れたものだと考えられる。あまり知られていないことかもしれないが、現在の行政施策では、基本的にひきこもり支援はおおむね39歳までが対象となっている。

ひきこもりの現在の所管官庁は内閣府で、「子ども・若者育成支援推進法」という法律の下、子供・若者育成支援として行われている。都道府県の管轄は青少年問題として位置づけ、青少年課などが担当している。

日本政府の若者の定義は39歳以下なので、青少年課が扱えるのも39歳までの問題となる。39歳までのひきこもりであれば青少年課でも問題ないが、40歳以上への支援を考えると、現在の担当部署では問題が生じる。

ひきこもりの家族会などもこの点は以前から批判してきた点であり、行政側も課題としてきた点である。そのような状況をうけて内閣府は、2018年に40~65歳までのひきこもり実態調査を実施した。この調査に基づくかたちで、これから行政側も40歳以上のひきこもり支援に手をつけるようになると考えられる。

行政のひきこもり支援の貧弱さ

ただ、行政のひきこもり支援の対象者が40歳以上になったとしても、支援が40歳以上にまで行きわたるわけではない。なぜなら、39歳以下の支援体制をとっている現在でも、支援がまったく足りないからである。

ひきこもり地域支援センターなど、国が予算を一部負担する部分はあるが、ひきこもり支援の予算はほとんどないと言ってよい。ひきこもり支援は自治体の裁量に任せるかたちになっている。ほとんどの自治体では支援体制を整えておらず、相談窓口を設置している自治体でも、年400万円程度を支出して非常勤職員を2名雇ったり、民間NPOに支援を委託するという形態が多く、決して支援にかけている予算が多いとはいえない。

15~65歳を対象とした調査から100万人程度のひきこもりが日本には存在していることがわかっている。その規模の社会現象に対して、一市町村年400万円程度の予算で、非常勤職員を2名が相談を受けるという支援体制はまったく足りていないと言えよう。行政が40歳以上の者もひきこもりとして支援対象にしたとしても、予算が用意されない限り、ひきこもり支援に大きな動きがあることは望めないだろう。

時代の影響で変動せず、構造的に数十万人から百万人規模で存在するひきこもりに対して、支援をする必要があるだろう。別稿でも書いたことだが、ひきこもりはただ一方的に援助の対象となる人たちではない。ひきこもり状態から抜け出せば、その人たちは働き、消費をし、税金を納める。彼らの援助をすることは一時的には出費にはなるだろうが、中長期的にみれば日本を支え、出費以上の利益を社会に還元してくれるはずである。

ひきこもり支援の予算を増やしていくには、福祉から投資へと支援を位置づけ直すことも必要になってくるだろう。

プロフィール

井出草平社会学

1980 年大阪生まれ。社会学。日本学術振興会特別研究員。大阪大学非常勤講師。大阪大学人間科学研究科課程単位取得退学。博士(人間科学)。大阪府子ども若者自立支援事業専門委員。著書に『ひきこもりの 社会学』(世界思想社)、共著に 『日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー』(光文社)。2010年度より大阪府のひきこもり支援事業に関わる。

この執筆者の記事