もうひとつの新型コロナウイルス最前線――訪問看護領域のヒアリングから

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により厚生労働省は、4月2日、医療リソースを重症者・重症ハイリスク者に割くため、軽症者の宿泊施設や自宅療養を進める方針を打ち出しました(1)。

 

2020年4月16日現在、対策病床の使用率は全国で100%を超え、最大の感染者数となっている東京都においては、患者数2300人以上に対して入院可能な病床は1000床と、病床数は患者数の半分以下となっています(2)。

 

多くのメディアで取り上げられる医療崩壊の現状は、主に感染症指定医療機関、三次救急医療機関で重症者の対応に当たる医療従事者です。しかし今後多くの患者が自宅療養となる中、訪問診療や訪問看護といった在宅医療領域でもCOVID-19の対応が必須であることは想像に難くないでしょう。

 

在宅医療領域において、患者と直接接触する機会が多く、かつ医療行為を実施する必要のあるのが訪問看護です。看護師が在宅療養患者の自宅に訪問し、その患者の病気や障害に応じた看護を行うこの業態は、主治医の指示を受け、病院と同じような医療処置も行い、健康状態の観察から服薬管理、在宅での看取りまで幅広い業務を行います。

 

4月初旬、看護師の知人から、「訪問看護が困窮している。物品買い占めで衛生材料が手に入らない、差別心情で利用拒否が続いて倒産しそうなところもある、発熱患者の受け入れ先もない」という連絡を受けました。在宅医療領域は今後大丈夫だろうか、と考え始めた矢先のことでした。

 

連絡を受けた後、4月初旬~中旬にかけて、東京都を中心に、訪問看護ステーションに勤務する看護師約10名に電話とメール(およびLINE、Messenger等)で現状の聞き取りを実施しました。その結果、COVID-19のもうひとつの最前線とでもいうべき状況が明らかになりました。

 

聞き取りから判明した、COVID-19の訪問看護への影響は、大きく分けて①陽性者、濃厚接触者、発熱者対応、②著しい物品不足、③利用者、市民からの差別言動、利用拒否、④事業所の過剰業務および利用拒否による経営困難、の4つのカテゴリーに分類されました。

 

 

①陽性者、濃厚接触者、発熱者対応

 

訪問看護が直面している大きな課題のひとつは、発熱のある患者への対応です。

 

COVID-19はその多くが無症状か軽症であることから、厚生労働省は一般市民に向けた受診の目安として、風邪症状や37.5℃以上の発熱が4日(糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患の既往、透析、免疫抑制剤使用や抗がん剤使用をしている方は2日)以上続き、呼吸困難感や倦怠感があることを基準としています(3)。

 

訪問看護事業所向けのマニュアル類はほとんどなく、現在は事業所ごとに対応を検討、実施しています。患者に対し、発熱した場合は訪問前に電話連絡するようあらかじめ伝えているところもありますが、訪問した際に患者が突発的な発熱をしている場合も多く、聞き取りを行った全ての看護師から、発熱対応に苦慮しているとの報告を受けました。

 

誤嚥性肺炎や肺炎球菌感染症等、とくに高齢者は肺炎を起こしやすく、平時から「訪問して体温を計ったら発熱していた」という場面は日常的です。今の局面においてそれがCOVID-19によるものなのか他の原因によるものなのか、一見での判別は困難な上、すべての訪問に個人防護具を着用するのは資材的に不可能です。

 

「基礎疾患があって、発熱のある高齢者の場合、明らかにCOVID-19陽性の場合は感染症指定医療機関が受け入れることとなっていますが、『疑い』段階では、指定医療機関では受け入れられず、その上指定医療機関以外の病院では『COVID-19かもしれないから』と受け入れられず、在宅生活が困難な状態でも在宅療養の継続を余儀なくされています」と、東京都内の訪問看護ステーションに勤務する看護師は話します。

 

命に関わる肺炎はCOVID-19だけではなく、肺炎以外でも発熱を伴う疾患は数多く存在するにも関わらず、入院先がなく、在宅関係者だけで対応しなくてはならない状況に、訪問看護師も、在宅療養患者本人も疲弊している現状です。

 

聞き取りを行った中で、自宅療養をしているCOVIID-19陽性者の対応を行う訪問看護ステーションで取られている対応は、

 

・個人防護具着用の徹底

・基礎疾患のない若いひとり暮らしの者ひとりあるいはごく少人数に絞っての対応

・事業所内感染予防として、訪問前後に事業所に立ち入らない、現場への直行直帰

・長時間の接触を避けるため、必要最低限の処置やケアにとどめる

・看護師本人のメンタルケアのため、訪問前後に電話やZoomで管理者から状況確認を行う

 

上記が基本となっているステーションが7割以上でした。しかし著しい物品不足(詳細は後述します)により個人防護具の着用が十分に実施できない上、ケアの性質上長時間の接触が必須となる場合も多く、感染予防策はきわめて困難な状況に置かれています。

 

訪問看護ステーションの管理者は以下のように話します。

 

「看護師が感染した時のことを考えれば、感染者の対応をするスタッフを絞るのは妥当だとは思います。ですが、十分な防護資材も持たせられない中で特定のスタッフに感染リスクを負わせることが本当に正しいのか、ひとりが抱えるリスクと恐怖が大きすぎるのではないか、本人が潰れてしまうのではないかと心配でたまりません」

 

訪問看護師の多くは、ひとりで患者への訪問を行います。個人防護具の着脱に熟達しているわけでもない(防護具の着脱はスキルが必要で、正しく行わなければ無意味です)看護師が、感染管理の専門家のアドバイスも受けられずに、未知の感染症と向き合わなくてはいけない。事業所に戻ることもできずに、ひとりで、ひとりきりの家に帰るその心情を、どう想像したら良いのか。あまりにも過酷で、感染症の中に生身で放り出されていると言わざるを得ません。

 

 

②著しい物品不足

 

聞き取りを行った10名中全員が最初に訴えていたことが、マスク、手袋、エプロンといった衛生用品の不足です。

 

サージカルマスクをはじめとする物品不足は在宅医療領域に限ったことではなく、マスク支給が3日に1枚、あるいは支給自体が途絶えたため自前で確保しなければいけない状況は病院も変わりませんが、在宅医療領域では、マスクの他にもディスポーザブルエプロン、在宅人工呼吸器用の精製水、アルコール綿といった医療物資が著しく不足しており、看護師自身の安全も守られず、また在宅療養患者本人にとっても被害が出ています。

 

病院と比べて事業所規模が格段に小さい訪問看護ステーションでは平時から物品をストックすることが難しいため、在庫が切れるのが速い事業所が多く、訪問途中にドラッグストアをはしごしてマスクを探す、スタッフが開店前からドラッグストアに並ぶ(この行為自体感染リスクを高めるものではありますが、そうしなければならないのが現状です)といった対策を取るしかなく、また医療用のグローブが入手できずに一般家庭の掃除や園芸用の手袋を使用している、ごみ袋をエプロンの代わりにしているといった話も多く聞きました。厚生労働省からマスクが届いたと話していた看護師は10名中1名で、「50名のスタッフに対して20枚の配布だった」と、必要数には及ばない状況です。

 

陽性者対応をしているステーションでも、防護服をホームセンターで購入する、レインコートで代用するといった対応が取られています。

 

「物品は病院も足りていないし、急性期で対応している人の方が大変だから仕方ない」と彼ら彼女らは口々に話します。しかし聞いていて感じるのは、明らかな感染リスクを前に、「仕方ない」と諦めるのが本当に妥当なのか、ということです。

 

筆者自身は病院の急性期病棟に看護師として勤務しており、確かにマスクもガウンも足りない環境で、どうしてこんなに身が守られないのかと恐怖を覚える瞬間は多々ありますが、それは決して「こっちが大変なんだからあなたたちは我慢してくれ」という思いではありません。感染者、感染疑い者の対応を行う訪問看護師までもが、同じ業種の別の場所の人間に遠慮して自らの命を危険に晒す状況に、途方もないやるせなさを感じます。

 

今後、行政や民間から物資の援助が行われる際には、在宅医療領域への支給の優先順位も医療機関と同様に上位であって当然ですし、そのためには、在宅医療領域の物品不足の現状も知られていかなければいけません。誰も現状を知らないのなら、支給なんてできない。物品は、ケアを提供する者-される者双方にとって最低限の安全を守るために必須であり、その重要性と窮状は、広く周知されるべきものです。

 

 

③利用者、市民からの差別言動、利用拒否

 

日本看護協会が4月15日に内閣府と厚生労働省に対して提出した、看護職者への危険手当支給を要請する書面(4)の中には、「新型コロナウイルス感染症に対応している医療機関の看護職は、『感染するから保育を拒否される』『感染するからタクシーから乗車拒否される』などの謂れのない誹謗中傷を受けています」という1文が入っています。

 

また、日本看護倫理学会が4月2日に提示した声明文(5)の中にも、「人類が直面している脅威の最前線で働く医療従事者が報われないどころか、その家族ともども理不尽な扱いを受け、差別されている実態があります。最前線で働く医療機関の職員は、自身の健康が危険にさらされるような過酷な状況で頑張っているにもかかわらずです」という記載があり、医療従事者が直面する差別への抵抗が強く表されています。

 

COVID-19への対応を行っていない医療機関を含め、医療従事者への差別言動や、保育、タクシー、引っ越し業者等の利用拒否は相次いで起きており、聞き取りをした訪問看護師からは、「訪問看護ステーションの文字とロゴが入った社用車から降りた瞬間に知らない人から、『ウイルスをばら撒くな』と言われた」という報告を受けました。

 

今回行った聞き取りでは、業務の中で明らかな差別に晒された事業所は1件のみでしたが、「直接的な差別言動はないけれど、遠回しに、『このご時世だから看護師さんは来ない方が』という利用のお休みはあります」という旨の話は7件、その中のひとりは、「どうしようもないですね。看護の手の届かないところです。利用お休みの連絡を受けた時、士気は下がりますよ。やるせない。落ち込みます」と話します。

 

一方で、感染者との濃厚接触者として自宅待機中の訪問看護師は、「私たちは1日中街を移動する身なので、ウイルスの『運び屋』にもなります。にもかかわらず、取ってつけたような防護服しか持たされずにお宅に乗り込みますので、お互い恐怖しかありません」と話しており、患者の心情も理解できないものではないと口にします。

 

無論、仕事の中での感染リスクがいくら高くても、街中でいきなりウイルス扱いされて良い理由にも、保育や教育、交通機関の利用を拒否されても仕方のない理由にもなりません。どんな状況下であっても差別は差別です。しかし身の安全を守る物資がなく、感染予防策が適切に取れていると自信を持って言えない中で、差別すらも受け入れなくてはいけないような思いを持ちつつある、これは在宅医療領域でも医療機関に勤める私自身も同様です。

 

そして、そのような気持ちへの傾倒は、非常に危険です。劣悪な環境下に身を置きながら社会から排除され、医療従事者であることが恥である状況が続けば確実にモチベーションは下がり、医療従事者の離職に繋がります。平時から人員不足に疲弊する医療の中でさらに離職が進めば、その割を食うのは確実にすべての患者と潜在的な患者、つまりすべての国民です。

 

恐怖心や差別心を消すことは不可能でしょう。重要なのは、心情をそのまま医療従事者に投げつけることなく、医療従事者が委縮しないよう言動や行動への配慮を行うことです。このような状況だからこそ、一般の方々に対してはより一層の配慮を、そして行政に対しては医療従事者の心身と身分の保障を望みます。

 

 

④事業所の過剰業務および利用拒否による経営困難

 

ある訪問看護師は、「訪問看護ステーションは、利用者さんが溢れて過剰業務になっているか、利用のお休みで訪問件数が減って経営難に陥っているかに二極化しているようだ」と話します。

 

まず事業所の過剰業務については、

 

・デイサービスの休業、あるいは集団感染を恐れて自主的に利用を止める利用者の増加により、それを埋める役割として訪問看護への依頼が殺到している。

・病院から在宅生活への調整ができていないままに訪問看護のみ導入して退院となるケースが増えており、調整、指導、管理まで訪問看護で行わなければいけない。

 

の2つのパターンの報告を受けました。

 

前者に関しては、「訪問に行ったら利用者さんが汚物まみれで放置されていました。もともと同居の家族が介護に積極的でなく、デイサービスがライフラインだった方なので、デイが休業になったことで家族負担が増え、ネグレクトに至ったようです」「家族が仕事で日中独居のため、もともと日曜日以外はデイサービスを使用している利用者さんがいます。自力ではトイレにも行けず、ご飯の準備もできず、電話で話をすることもできない方で、家でひとりになり、家族が昼休みに一瞬帰ってきてご飯やトイレをしたそうですが、もともと訪問ヘルパーも使っていない方なので、突然のデイサービス休業に対応できていません」「デイサービスでお風呂に入っていた方の入浴方法が途絶え、福祉用具的にも訪問サービス的にも迅速な対応が必要となっていますが、ケースが多すぎて調整がつきません」等、デイサービスの利用困難により、通常業務に加えて通所で担っていた業務まで訪問看護に圧し掛かっている現状がうかがえます。

 

また後者に関しては、「病院の面会禁止に耐えられなくなった患者家族や、おそらくCOVID-19対策のため病床を空けたい病院側の事情から、喀痰吸引やストマ(人工肛門。袋状の装具を腹部に貼付し便を受け止めるため、定期的な交換が必要)管理等、在宅療養を送る上で患者家族が取得すべき手技を確立しないままに退院となるケースが増えています」「お看取りだけ自宅で行う予定で、訪問看護のみ導入して退院した患者が予想外に長く持っており、家族に喀痰吸引やオムツ交換の指導をしていなかったため昼夜を問わず看護師が訪問を行っています」といった報告を受けました。

 

訪問看護事業所の急な利用増加により、看護師の業務負担がパンクしている一方、「事業所の地域で新型コロナウイルス感染者が出たせいか、利用拒否が相次いでいます。先月で約20万、今月で約40万円の減収が見込まれており、このままでは破綻の可能性もあります」「職員の感染者が出て事業所閉鎖になれば、うちは小規模なので経営破綻待ったなしです。一度廃業になれば持ち直す力もありません」という声も聞かれます。医療機関に患者が溢れている現状、今後退院して在宅復帰する患者が増えていくことや、COVID-19軽症患者の自宅療養増加が見込まれるにも関わらず、地域の中で受け止める力がない、患者本人がどんなに家に帰りたくても帰れない事態に陥りつつあります。

 

過剰業務となっている事業所と経営難に陥っている事業所の何が違うのか。要介護度・医療依存度の高い患者を多く受け入れる事業所では、「訪問看護がなければ生活が成り立たない」との理由で過剰業務に、逆にある程度ADL(Activities of Daily Living,日常生活動作)が自立している患者を多く受け入れている事業所では、「看護師が来なくてもすぐには困らないから」と利用拒否に繋がっている印象を受けますが、定かではありません。いずれにせよ事業所の疲弊に繋がっていることには間違いなく、通所サービス休業に伴う訪問サービスの拡充と経済的支援の両方が求められていると考えます。

 

 

おわりに

 

聞き取りから、訪問看護が資源的にも人員的にも極度に困窮している中で、在宅療養者の生活の基盤を担う存在として、感染者や感染疑い者を含むあらゆるケースへの対応を行っている現状が明らかになりました。

 

今回の聞き取りは、調査方法が一定しているわけでも地域を厳密に指定して実施したわけでもなく、いわば「看護師同士のおしゃべりの延長線上」といったところです。しかしながらこの領域におけるCOVID-19の課題がまとめられた公式資料は、筆者の知る限りいまのところひとつも出されていません。小規模の事業所が多いため、発信力を持ち辛い領域でもあります。また今回は訪問看護に焦点を当てて聞き取りを行いましたが、訪問介護やヘルパー職も同様の状況にあると推測されます。

 

治療における最後の砦が集中治療である一方、生活における最後の砦が在宅医療です。病院で提供する医療と在宅で提供する医療、双方は地続きであり、どんな状況の中でも人が人として生活していくために、どちらも同等に守られなくてはいけないはずだと強く感じます。

 

今後日本看護協会や全国訪問看護事業協会、日本訪問看護財団といった組織力のある職能団体からの、質的・量的いずれもカバーされる実態調査が待たれると同時に、行政による訪問看護事業所への物資的・経済的支援、COVID-19対策情報の徹底周知、医療従事者の心身及び身分保障のための支援が早急に望まれます。

 

 

(1)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部.新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について

https://www.mhlw.go.jp/content/000618525.pdf

(2) COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード

https://www.stopcovid19.jp/

(3)厚生労働省.新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596905.pdf

(4)公益社団法人日本看護協会.新型コロナウイルス感染症対応している看護職に対する危険手当の支給等について

https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20200415161006_f.pdf

https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20200415160616_f.pdf

(5)新型コロナウイルスと闘う医療従事者に敬意を―日本看護倫理学会声明―

http://jnea.net/pdf/200403-covid.pdf?fbclid=IwAR1TUHqdXM3dkyEZbs1fWTfnMSxPTDFt-Iiz8Gy2xWupUHap0c-L3qXJuBc

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

・坂口緑「生涯学習論にたどり着くまで──人はいかにして市民になるのか」
・平井和也「ジョージ・フロイド殺害事件から考える米国の人種差別問題」
・野村浩子「日本の女性リーダーたち」
・安達智史「「特殊」を通じて「普遍」を実現する現代イギリスの若者ムスリム」
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