2020.07.24
コロナウィルス再流行――「重症が少ない」「インフルと同じ」は戯言だ
辛抱治郎氏の「軽症説」は間違い
昨今のコロナウイルス再流行に関して、「心配ない」という論調を張る人がいる。その論拠は以下の二つとなる。
① 重症者が少ない。死亡者はさらに少ない。
② 他の疾患、たとえばインフルエンザや肺炎などでも多数の死者が出ている。そこまで神経質になる必要もない。
上記のうち、①の論調を広めた有名人としては、辛抱治郎氏が上げられるだろう。私も氏のズバリ直言ファンでもあるために、最近までこの論調に対して好意的な反応を示していた。
ただ、直近の傾向を見る限り、この話は明らかに間違いであり、現在の流行は4月以上に厄介な状況だと気づいた。その第一報は「GOTOキャンペーンの無理筋と、ボルソナ脳の失敗」に記した通りだ。
その後の情報も交えて、以下に前稿の主旨をなぞっておきたい。
まず、現在重症者や死亡者が一見少なく見える理由は、以下の4つとなる。
①6月時点では、4・5月に入院した大量の重症患者が退院することで人数減となるため、なかなか増加とならなかった。
② 4月は高齢の感染者が非常に多かったが、6月は少なかった。東京都の実数で6⓪歳以上の新規感染者数を比較すると、4月1100人に対して、6月は107人と10分の1以下となっている。
③ 4月よりも重症化にタイムラグが発生している。記憶にある方も多いと思うが、4月時点では「37.5℃以上の発熱が4日続いた場合」にPCR検査を受ける、という人が多かった。現在ではこうした制約は取っ払われ、またPCR検査体制の拡充から、追跡調査などで「発症前」に陽性判明する人も増えている。つまり、4月と比べて4~5日程度、早期で感染がわかっており、その分、重症化までの日数が伸びている。
④PCR検査数の増加により感染者が増えただけ、という見方もできるが、検査を増やせば市中感染が変わらないなら陽性率は下がる。ところが、陽性率は5月のボトム時の0.6%から現在は7%超へと10倍以上に跳ね上がり、さらに上昇基調にある。
今回の流行は夜の街クラスターがその発端となったため、そこに集う就業者や顧客の年代を中心に、まずは20~30代に感染が蔓延した。ただし、日が経てば市中感染が増え、職場や家庭での罹患比率が上がる。こうしたことから、7月に入ると40・50代、及び60代以上の感染者が増えだした。
とりわけ、60代以上の週当たりの新規感染者数は、下記に示す通り、6月のボトム時と直近を比べると6倍近くにまで増え、増加の勢いは増している。結果、東京都の重傷者数は急上昇し21名となり、日に3名程度の増加となっている。
ちなみに、陽性判明から10日程度で症状が悪化する人が多いため、現状の新規重症者は7月10~15日の新規感染者と思われる。その後、60歳以上の新規感染者数は倍増しているので、7月末には日に5名程度の新規重症者が現れると思われる。
こうしたトレンドを見ていると、東京都の重症者用ベッド数(100床)は、お盆には満床となる可能性が高い。辛抱さんがいう「軽症が多いから大丈夫」というのは、もう完全に過去の話だとお分かりいただけただろう。
インフルや肺炎の死亡者と比較することの過誤
続いて、「インフルエンザや肺炎なども多数死者を出しているが、別に社会的な問題にはなっていない」という論調について考えてみたい。この2つの病以外にも、癌や循環器系、脳などの疾患で毎年多数の方がお亡くなりになっていることは知らない人はいないだろう。
ただ、こうした疾患に比べて、新型コロナは急性症状が長く続く、という大きな問題がある。さらに、それに対処するためには、大量の医療リソースを必要とするという厄介さが加わる。結果、ある程度以上の感染者数となると、医療崩壊に至り、新型コロナだけでなく、あらゆる疾病への対応が難しくなっていくのだ。この「医療崩壊の影響」はインフルエンザや肺炎とは比較にならない。
たとえば、2月の調査では人工呼吸器は全国に2万2254台あり、うち、小児用に8695台が確保されていたため、待機数は全国で1万3437台といわれた。4~5月のコロナ第一次流行期ではピーク時にこのうちの1万1000台が用いられたという。余力がかなり小さくなっているのがわかるだろう。
同様に人工心肺機(ECMO)はピーク時に120機ほどが新型コロナ患者に用いられた。こちらは全国保有台数の1割程度でしかないが、ECMOの操作には熟練技師・医師が4~5名でチームを組んで当たらねばならない。こうした人的リソース面で逼迫が起きたという。
その他にも、軽症にカウントされてしまう人の中にも、通常の呼吸では酸欠状態になってしまう人たちが多数おり、彼らには高濃度酸素吸入機が装着される。こうした人を俗に「中等症」と呼ぶが、4~5月期には感染者の2割近くになったという。この割合で今回も中等症者が出現したら、やはり医療崩壊は近いだろう。(何より、ここまでの症状でも“軽症”扱いになってしまうことが、事の重大さを見失わせる原因とも思われる)。
病院だけではない。保健所ももう限界まで来ている。都内の多くの保健所職員が、毎日午後10時まで勤務しても仕事が終わらず、交代で休日出勤までして対応の当たっているという。毎日新聞の調査では回答のあった18区のうち、4月の段階で常勤職員の平均残業時間が100時間を超えたのが12区と3分の2にもなっている。品川(174時間)、北(173時間)、港(169時間)、板橋(157時間)と4区が150時間を超えている。これは「残業だけ」の数字でここまで行っているのだ。まさに、所定時間の2倍働いているということだろう。結果、多くの基礎自治体で、通常の保険サービスを縮小しなければならなくなった。
こうした状態が起きていても、「インフルエンザと同じ」と言えるだろうか?
ウイルス弱体説も数字ほどのものではない
新型コロナウイルスが、4月の時よりも弱体化して、致死率や重症化率が下がっているというデータを多々見かける。ただ、これも注意してみてほしい。
実際、アメリカの致死率を見てみよう。陽性判明から死亡まで2週ほどのタイムラグがあると想定して、新規感染者数と死亡数を2週ずらしで出した、致死率概算は以下の通りとなる。
4月8.9%(新規感染63万249名、死亡者5万5828名)
直近1カ月2.0%(新規感染105万4540名、死亡者2万1211名)
死亡率は4分の1以下に大幅低下しているように見える。掛け値なくこの数字通りなら安心もできるのだろうが、アメリカも日本と同様に、感染者に占める若年割合が直近、高くなっているために、こうしたことが起きているといわれている。
感染者が10万人を超え、次の感染拡大の中心地になるのではと懸念されているのがフロリダ州では、3月初めに65歳だった感染者年齢の中央値が、6月下旬には36歳になった
カリフォルニア州では、新規感染者のうち35歳未満が占める割合は5月には29%だったが、6月下旬には44%にまで増加したそうだ。同じ年齢で比べた時の重症化率はせいぜい、半分にも低下していないのだろう。
マスクや衝い立てが効かない、感染力は強化している可能性大
それよりもっと不気味な事実を挙げておかなければならない。
それは、4・5月の感染防御策が今回の流行ではあまり効いていないのではないか、ということだ。前回は、3月下旬以降の新規感染者急増に伴い、緊急事態宣言に先んじて、東京・大阪府知事の旗振りにより、自粛強化が進んだ。その結果、マスクやソーシャルディスタンスの確保、会食の自粛などが行われ、感染拡大は早期に収束していった。6月12日にお開かれた大阪府の専門家会議では、自粛により感染は食い止められていたので、緊急事態宣言自体、不要だったのではないか、という意見が出ていた。
さて、その当時と比べて現在はどうだろうか?
まず、マスクの着用率は実感値ベースでいえば相変わらず高く、電車内などでは「着けていないと気まずい」と感じることが多い。実際に新聞報道などでは「夏季もマスクを着用する」人の割合が75%となっている。
繁華街の人ではどうだろうか。確かに緊急事態宣言時と比べると非常に多くなったように感じるが、宣言発令直前と今を比べてみよう。観測13拠点中、4月7日よりも人出が減っているのが5拠点、増えているのが8拠点で、増加拠点が多いが、ただ、圧倒的多数とも言えない状況だ。さらに、前年同日との比較を見ると、全地域で30%以上のマイナスを記録し、9拠点が40%以上の減少を示している。緩み切っている、というほどではない。
一方、飲食店やホテルなどを見てみれば、対策が整っている事業者が多くなっているのは明らかだ。ビニールシートなどでフロントやレジと敷居を作り、客席の間にはクリアの衝立を入れ、さらに席を離すという対応をしているところが非常に多い。入り口にアルコールのサニタイザーを設置している店舗も圧倒的多数だろう。店員はマスクだけでなく、フェイスシールドをしているところも見かける。
こうした厳戒態勢を敷いているにもかかわらず、感染拡大は全く止められていないのだ。
つまり、それだけ感染伝播力が強くなっているのではないか?
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ここまでの状況を踏まえると、今のままでは感染拡大はとまらず、しかも、高齢世代の比率は全国で徐々に高まり出し、遠からず、医療崩壊が起きる。5日前に書いた前々稿では、「全国では1000名を超えるレベルにまでは必ず達する」と書いたが、このレベルには今日明日にも到達しそうだ。
にもかかわらず、政府・自治体は目立った対策は全く打っておらず、せいぜい「自粛」と「注意」の呼びかけに留まる程度だ。ここに、Gotoキャンペーンまで加わる。お盆のころには、日本全体が地獄絵図になっているというのが、現時点での最も妥当な見立てとなる。
願わくば、この予想が外れてほしいところだ。
それでも「大丈夫」と言い張って夜の街を徘徊する人たちに言いたい。自ら罹患して自ら苦しむ自由は確かにある。ただ、他人を巻き添えにすることだけは慎んでほしい。そうした意味でも、最低限のマナーとして接触管理アプリCOCOAを利用して、罹患の折は濃厚接触者への連絡だけは怠らないでほしいところだ。
プロフィール
海老原嗣生
株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長。