動き始めた「生活支援戦略」をひも解く

1月25日、厚生労働省は社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」(以下特別部会)の報告書を公表した。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002tpzu-att/2r9852000002tq1b.pdf

 

この特別部会は、生活困窮者や社会的に孤立した方の抱える問題、生活保護制度の課題等について、全体的かつ包括的な議論を行うために2012年4月に発足した。そして、社会保障・税一体改革大綱(平成24年2月17日に閣議決定)に盛り込まれた「生活支援戦略」の策定を念頭に、全12回にわたって、研究者や支援者、地方自治体の首長など、官民の専門家を中心にさまざまな議論がなされた。

 

ここでまとめられた「生活支援戦略」は、平成25~31年の7カ年を対象期間とし、生活困窮者への支援体制の底上げ・強化や体制整備を計画的に進めるための、国の中期プランとしての役割を担うことになっている。じつは今、この「生活支援戦略」を中心に、この国のセーフティネットのあり方そのものが一大転換点を迎えようとしている。

 

生活困窮者対策というと「生活保護」をめぐる動きがクローズアップされがちだ。実際に政府は8月以降から段階的に「生活保護の引き下げ」を開始すると発表している。

 

「生活保護」については拙稿『生活保護の「引き下げ」は何をもたらすのか』;https://synodos.jp/welfare/743

 

しかし一方で、同時期に並行して議論されてきた「生活支援戦略」については、その役割の大きさや内容の斬新さにも関わらず、各所で議論される機会を得てきたとは言い難い。本稿では、粛々とかつ着実に準備が進められ、今後の生活困窮者支援体系の行方を大きく左右するであろう「生活支援戦略」について、その一部を簡単に紹介する。

 

 

生活支援戦略の両輪

 

生活支援戦略は既存の生活支援制度の見直しとアップデートをその大きな役割として掲げている。具体的には「新たな生活困窮者支援制度の構築」と「生活保護制度の見直し」を両輪としている。以下に、提起されているいくつかの案を列記する。

 

~新たな生活困窮者支援制度(7つの柱)~

 

★総合相談支援事業

地方自治体と民間の協働によるワンストップの総合相談窓口を設置し、切れ目のない伴走型・よりそい型支援の実施。

(生活支援戦略の根幹の事業。ここから以下の各事業につなげていく)

 

★就労準備支援事業

すぐさま一般就労が難しい方に対して、就労のための訓練や生活習慣、社会的能力を身につけるための訓練をおこなう。

 

★中間的就労

就労体験を通じたステップアップを目指して「労働」というより「ケア」や「社会参加」の機会としての軽作業などをおこなう事業。

 

★ハローワークと一体となった就労支援の抜本強化

地方自治体とハローワークの連携によるワンストップの就労支援の窓口の設置。

 

★家計再建に向けた支援

支出の適正化の指導や、必要に応じて貸付や金銭管理等により、家計再建をおこなう事業。

 

★居住の確保のための支援

家賃補助の制度(住宅手当)の恒久化や、必要に応じて一時的な居住等の支援、空き室情報の提供事業など。

 

★貧困の連鎖の防止(子ども・若者)

生活困窮家庭の子ども達に対する学習支援や、ニート・ひきこもりへの支援等。

 

~生活保護の見直し(3つの柱)~

 

★就労自立支援の強化

就労可能な生活保護利用者への集中的な就労支援と就労収入積立制度の導入など。

 

★健康生活面での支援

生活保護利用者の健康管理(保健指導等)や家計管理(領収書の保存や家計簿の作成等)、居住支援(代理納付の促進や見守り等)など。

 

★不正受給対策

調査・指導権限の強化(扶養照会の調査対象の拡大等)、返還金と保護費との調整や差し押さえ(本人の了承を得て天引きや差し押さえを可能にするか検討)、稼働能力があるのに就労の意欲のないものへの審査の厳格化など。

 

生活保護の見直しに関しては拙稿『「生活支援戦略に関する主な論点(案)」における「生活保護の適正化」についての私見』;https://synodos.jp/welfare/1449

 

 

「ワークファースト」という禁断の果実

 

以上の案はまだ「案」の段階である。しかし、それぞれの項目において明らかに見えてくる「生活支援戦略」のコンセプトは、いわゆる「ワークファースト型」の社会保障を構築していこうとするものに見える。

 

つまり、可能な限り「就労支援」をベースにして、生活困窮者は生活保護に至る前に支援し、生活保護利用者は生活保護からの脱却を目指していくということ。すぐさま就労が難しい方に関しても、その「前提」のもと就労準備支援や中間的就労などを拡充し、また家計再建という名のもとに金銭管理や家計簿の作成の指導なども行うということを提起している。

 

もちろん、就労可能な方やその準備ができている方にはワンストップでの就労支援は魅力的なものだろう。しかし、生活困窮に陥る方の中には、高齢であったり、病気や障がいをお持ちの方が多いのは事実で、そんな彼ら・彼女らにとって「ワークファースト型」のセーフティネットは「北風と太陽」でいうところの「北風」でしかない。

 

「就労」には「雇用主」がいなければならないし、就労する人の労働環境や労働条件が守られなければならない。また、そもそも働くことが難しい方への支援が手薄くなってしまう可能性も高いし、福祉事務所側の権限強化などにより、就職活動がうまくいかなかった場合、制度そのものへの「受給抑制」につながってしまう可能性も見過ごせない。

 

ただ、「就労」を前提としておこなう支援は非常に分かりやすい。なぜなら「ゴール」が明確だからだ。「何人相談に来て何人就職して自立した」という数字はシンプルで実績にもなる。しかし、逆に言うと、そういった「数字」を求められ、支援する対象を無意識に「ゴールへのたどりやすさ」を基準に「選別」させやすくしてしまう危険性を孕んでいる。

 

実際に支援によって「就労」に結びつけば社会保障費の削減にもつながるだろう。しかし、「ゴール」の設定により無意識化され、画一化されたメニューの提供が行われるのであれば、それは利用者・当事者目線のものでは決してなくなる。

 

すなわち、そもそもの前提がワークファースト(就労支援が優先)と決められていると、その人その人の本来の意味での「個別支援」に目が向かなくなってしまう可能性を否定できない。

 

「ワークファースト」は禁断の果実である。禁断の果実を齧ることによって得られるものと、失われるものについて、「後悔」する前に丁寧に考えていかなければならない。

 

 

 

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