婚外子差別問題をより広い視点でみてみよう

婚外子相続差別の廃止

 

2013年9月、最高裁において、婚外子の相続分を婚内子の半分とする民法の条文に対して違憲判決が下された。これを受けて安倍内閣では11月、相続分差別を削除した民法改正案を閣議決定し、同案は12月5日に国会で可決され、成立した。他方で出生届の婚外子記載を義務付けた戸籍法については、自民党内の反対もあり提出が見送られるとみられている。

 

この一連の流れに伴い、メディア(掲示板やSNS等を含む)でもさまざまな意見が飛び交っている。そのなかには、根拠がよくわからない主張もしばしば聞かれる。婚外子言説の混乱の背景には、人々が意見を述べる際にどういった婚外子が念頭に置かれているのかが異なっている、という事実がある。

 

この論考では、現在世界的に見られる婚外子の増加や歴史的な経緯を視野に入れつつ、どういった場合に婚外子についての「コンフリクト」が生じうるのかについて整理していきたい。

 

 

世界的な婚外子比率の増加

 

現在の日本では多くの子どもは婚姻関係にある有配偶の男女の間で生まれてくる婚内子であり、婚外子の割合はまだかなり小さく、婚外子出生割合は最低レベルで、最近の統計でも2%前後である。

 

統計が得られた国について、図Aに5つの国の婚外子出生の割合の推移を、図Bに一人当たりGDPとの散布図を示した。米国、フランス、スウェーデンといった国では1970年代以降急激に婚外子出生の割合が高くなっている。しかし日本ではわずかに上昇しているもの、依然として低いままである。

 

 

extramarital

 

 

 

図Bのグラフ左上(経済的にあまり豊かではない国で婚外子出生割合が高い国)には中米諸国が多く含まれており、右側(経済的に恵まれており、婚外子出生割合が中位の国)には北欧・西欧・北米諸国が含まれている。日本(JPN)は韓国(KOR)と並び、比較的経済的に恵まれつつも婚外子出生割合が極端に低いグループに入っている。逆に出生に占める婚外子割合が高いのは一部途上国(特に中米諸国)、経済先進国の中では北欧、西欧、北米である。たとえばジャマイカ(JAM)は国連の統計によれば2006年の婚外子割合が85.2%と、きわめて高い数値となっている。他方、ノルウェイ(NOR)では55.0%(2008年)、スウェーデン(SWE)で54.7%(2008年)とこれも比較的高い値を示している。

 

途上国の一部で婚外子比率が高いのは、主に低所得者層において貧困のために結婚が成立しにくく、都市化による親族やコミュニティの統制の弛緩が生じているような場合である。米国の貧困層でもある程度そうだが、こういった地域では、経済的に不安定な同棲カップル(なかには父親が子どもの実父ではないカップルもいる)が、あるいは未婚の母がその親と同居しつつ、不本意に婚外子を育てているということが生じる。

 

北欧を始めとした福祉先進国あるいは米国の中産階級でも婚外子が増えているが、この場合はほとんどが安定した同棲カップルの子どもの増加で説明できる。その背景要因は社会によって異なるが、結婚規範の弛緩、女性の経済的自立、婚外子を差別しない法制度などが考えられる。

 

日本の婚外子に関する言説では、諸外国では婚外子差別がないことが同棲カップルからの婚外子の誕生を後押ししていることが強調されることがあるが、上記のように婚外子が社会問題として認識されている国も少なくない。そしてその問題はいわゆる(婚内子に対する婚外子の)「差別問題」というよりは、不安定な環境で育っていく子どもの問題、もう少しいえば「貧困問題」である。米国でも、婚外子が貧困と結び付けられて語られることは少なくない。

 

このように、婚外子や同棲はそれが置かれた状況によって異なった意味を持つということは、最初に認識しておく必要はあるだろう。他方で、婚外子をめぐる世界の状況からは、子どもを婚内子としてもうけることが子どものためだ、シングルマザーは単純に抑制されるべきだ、という考え方が筋違いであることも読み取るべきだ。婚外子が貧困と結び付けられてしまうのは、その社会において福祉が家族頼みになってしまっていること、性・出生に関する知識や制度がその社会で未発達であることの現れであり、(同棲を含めて)家族形成に対する制度的サポートが得られる環境では、同棲や婚外子はそもそも社会問題になりにくい。

 

 

 

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