風俗嬢の『社会復帰』は可能か?

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GROW AS PEOPLEの活動

 

具体的な活動内容についてお話しますと、大きくわけて「Crejyoプロジェクト」「夜の世界“後”のハローワーク」「夜の世界のwikipedia(仮)」「リバースシェアハウス」と4つの事業を行っています。

 

「夜の世界のwikipedia」は、先ほどもお話したように、夜の世界は現状把握が非常に困難で、統計が取りづらくなっていますから、より正確な情報を得るために、女性たちの声を集めて、まとめて、社会でシェアする試みです。

 

また「リバースシェアハウスの活動」ですが、夜の世界で働く女性はお金を稼ぐ術はある一方で社会的信用がありません。一人暮らしをしたくても、不動産屋に断られてしまう。生活基盤を得られず、ホテルや漫画喫茶を行き来すると体力的にも精神的にもつらい。そこでGROW AS PEOPLEを立ち上げる前は「まちたみ」という町づくりのNPOで活動していたこともあって、その縁で越谷市にある放置物件を借りて期間限定のシェアハウスを運営し始めました。

 

夜の世界で働いている女の子は、一般の人たちと少し距離を置くため、悩み事がある場合は同じ世界の女の子に相談をします。とはいえ一週間で20万円稼げる子もいる世界ですから、周囲の子と話しているうちに金銭感覚がマヒしてしまう。そのまま「40歳の壁」にぶつかると、就職も厳しいですし、貯金もほとんどない。4人に1人に子どもがいて、その子も夜の世界に入るようになる。「夜の世界“後”のハローワーク」はこの悪循環を終わらせるために、相談相手の不足と金銭感覚のマヒの解消を目指すプログラムです。

 

皆さんは、給料をもらったら、何にいくら使うか割り振ると思いますが、彼女たちの多くは、遊んでお金がなくなったら、働いて稼ぐ生活を繰り返しているので、自分の月収を把握していません。その金銭感覚を是正しなくちゃいけない。

 

そこで、お店と連携をして、自分が一ヵ月にどのくらい稼いでいるのかを知ってもらい、さらにレシートを全部残してもらって、どのくらい使っているのか把握してもらっています。無駄があるなら無駄を削り、貯金をし、余裕がでてきたら、連携している他の団体のもとに連れて行く。結果的に、社会参加の機会を増やすことでやりたいことが見つかればと思っています。

 

夜の世界で働く女性たちは、救済すべき対象として見られることを嫌がります。彼女たちにとって、福祉やケアはダサいことなんですね。そのため夜のハローワークを始めてもあまり人が集まりませんでした。彼女たちは、可愛かったり、イケてたり、素敵なものに集まるんです。じつは、夜のハローワークを始めたときも、あまり人は集まりませんでした。

 

わたしはもともとゼネコンや設計事務所で働いていたこともあり、GROW AS PEOPLE以外にも個人的に空間デザインなどの仕事を受けていました。ただ活動が忙しくなるにつれて、なかなかその方面の仕事をさばききれなくなってしまった。どうしたものかと思い、周りにたくさんいる女の子に手伝ってもらったんです。

 

早速、ある不動産会社の事務所を女の子にデザインしてもらったら、ふざけ半分でハンモックを吊るしたり、サーフボードを立てかけたり、いろいろなアイディアを持ち出してくれた。しかもそれをクライアントが気に入ってくれたんです。女の子も自分のアイディアが受け入れられて喜んでいて。そこから、女の子のしんどい経験や可愛い感性を使って、よりよい社会づくりに貢献してもらおうと思い、「Crejyoプロジェクト」を始めました。このプロジェクトに参加を希望する女の子が増加しています。やはり可愛いことをやれば女の子も集まってくれるんです。

 

 

泡となって消えないように

 

最後に、いただいている議題についてお話します。

 

まず「障害者とセックスワーカーの関係」ですが、残念ながらわたしたちの調査ではまだ把握できていません。ただ思うのは、お店も女の子を選ぶ権利がありますから、精神疾患を持っていそうな女の子を入れないこともあるでしょう。そういった子がセーフティーネットとして夜の世界に入ってくるというのはないのではないか、というのがわたしの実感です。

 

「先行事例とGROW AS PEOPLEの違い」としてあげられるのは、救済者や支援者の関係ではなく、身内として見ているという点でしょうか。先ほどもお話したように、彼女たちは支援される側として見られたくないと思っている。わたしたちも別に彼女たちを救済すべき対象だとは考えていません。わたしたちは「福祉」ではなく、可愛いことをやる団体なんです。それもあってわたしたちの事務所は鍵を掛けずに出入り自由にしているのですが、女の子たちのアイロンで一杯になってしまっています(笑)。

 

「社会復帰の困難性」であげられるのは、やはり「性」という文字は怖くて怪しいイメージがあるため、支援者が集まらないことですね。女性たちもあまり人に知られたくないと思っていますし、支援者が誰でもいいわけでもありません。

 

じつは初めは支援者集めとして、夜の世界のwikipediaを使って仕組み作りから始めようとしたのですが、それだけで疲れちゃって女の子に目がいかなくなっちゃいました。そこでGROW AS PEOPLEが可愛いことをしていると知っていただいて、参加してくれた女の子に、今度は支援者になってもらおうとスタンスを変えました。

 

冒頭で「21世紀のマーメイド」のお話をしましたが、人魚姫のように泡にならず、ずっときらきら輝いていて欲しいと思っています。今回このサミットに参加するにあたって、社会を変えること、セックスワーカーの人権など、いろいろなことを考えましたが、ぼくにはあわないと思いました。

 

今まで出会ってきた女の子はぼくにとって身内で、とにかく困っている。だったら「社会がうんぬん」ではなく、とにかく相談にのって、出来るかぎりのことをやりたい。彼女たちが泡にならないように、現場レベルで頑張っていきたいと思っています。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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・山本章子「誤解だらけの日米地位協定」
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