特定秘密保護法施行までになにを考えるか

2013年10月25日に国会に提出され、12月6日に成立、13日に公布された特定秘密保護法。さまざまな懸念が呈され、反対の声も根強かった本法律の懸念材料とはなにか。本法律の施行は、公布日から一年以内と決められている。いまなにを考えるべきか、論点の整理と社会における望ましい情報のあり方について、ジャーナリストの江川紹子氏と情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子氏が話し合った。(構成/金子昂)

 

 

きっかけはセンター試験

 

江川 今日は、特定秘密保護法の成立を受けて、特定秘密保護法だけでなく広く情報のあり方について三木さんとお話したいと思っています。最初にお聞きしたいんですけど、そもそも三木さんはいつからこういった分野に関わりを持つようになったのでしょうか?

 

三木 大学受験のときに受けるセンター試験って、私が受験生だったころは本人に得点を教えてくれなかったんですよね。それはおかしいと思ったことがきっかけです。

 

当時通っていた予備校の先生が情報公開についての活動をされていて、いろいろとアドバイスしてくれたんですね。結果的に、進学した大学に対して情報開示請求を行って。

 

江川 へー!

 

三木 そのあと、不開示決定に対して不服申し立てをして、それも通らなかったので、在学中に裁判を行って。そうするうちに、いま私が理事長を務めている「特定非営利活動法人 情報公開クリアリングハウス」の前身である「情報公開法を求める市民運動」と関わるようになったんです。そのうちに大学の専攻よりも情報公開のほうが詳しくなっていました(笑)。

 

江川 (笑)。

 

三木 そのままお手伝いをしているうちに、いろいろなものが委ねられて、いまに至っています。

 

 

アメリカよりも韓国よりも遅れている日本

 

江川 いままでどんなことをされてきたのでしょうか?

 

三木 私たちはなにか特定の専門家ではなくて情報公開制度を多くの人が利用しやすくすることが主たる目的なので、私たち自身が、環境・福祉といった特定の課題について深く情報開示請求をすることはあまりありません。当事者やそれに近い人が制度を使うことが良いので、個別の相談に応じて支援をすることをしています。

 

例えば2004年の沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した事件では、情報開示請求自体は現地の方にしていただきました。訴訟になったので、私たちは実費や弁護士などを手当てなどのサポートをしています。それから日韓条約の終結過程に関する情報の公開請求をされている方がいらっしゃるので、そういう人のお手伝いをしたり。

 

江川 まさにいま注目されている問題ですね。

 

三木 ええ、日韓条約については、これまでも断片的な情報は出てきているのですが、それではお互いに有利な情報を抽出して使ってしまうので、全体の文脈で考えられるようにまとめて情報を取ろうとしているんです。

 

江川 いままで公にされてこなかった情報って請求すればでてくるものなのですか?

 

三木 ものによります。日韓条約関係は、韓国が先に記録を公開しているんですよね。その記録を官民による委員会で検証をして、日韓条約終結と共に放棄されている部分とされていない部分をわけたんです。例えば慰安婦問題や抑留者の賠償権は消滅していない、とか。一方、日本でも情報公開請求は行われているものの、全然出てこないんですね。裁判も行って、かなりの部分は勝訴して公開されてきていますが、国は一部を控訴していて、いまでも継続中です。

 

江川 アメリカとの関係の場合、アメリカから情報が先に出てくることが多いことは知っていましたが、日本は韓国よりも遅れているんですね……。

 

三木 韓国の場合は軍事政権時代の問題もあって、いろいろな意味で微妙な問題があるという話は耳にするものの、歴史的に記録を残していくことを体系的に始めたのは韓国が先です。記録物管理法ができたのは韓国の方が早いですし、公文書館である大韓民国国家記録院も日本に比べて大規模です。

 

 

記録を残す文化が失われた官僚組織

 

江川 日本はちゃんと記録を残していないんですか?

 

三木 日本の場合、記録の残し方が省ごとに違うんですよね。外務省は残っている方なんですよ。

 

以前、沖縄返還のときに大蔵省がかなり口出しをしたんじゃないかという話があったので、情報開示を請求したことがあるんです。賠償など財政出動が必要になるときは必ず大蔵省が関与するので。

 

大蔵省は『昭和財政史』という刊行物を出しているのですが、沖縄返還の章のなかに、繰り返し引用されているファイルがあります。他の引用文は誰が書いたのか、年月日、タイトルなど書いてあるのに、そのファイルは、管理のためのファイル番号しか書かれていない。「これは絶対になにかある」ということで情報開示請求をしたら、「そのファイルはすでに廃棄されている」と。だから沖縄返還時の記録って、外務省のものは残っているけど、大蔵省のものはほとんど残っていないんです。

 

江川 うーん……。日本の省庁は記録を残すことへの意識が希薄だということなのかしら。

 

三木 200、300年前の記録も、それこそ飛鳥時代の記録だって発見されることがありますよね。だからもともと官僚文化の中に、記録を残すという文化はあったはずだと考える人もいます。ところがそういう文化が、どこかのタイミングで変質してしまっているみたいで。

 

江川 敗戦のときなのかなあ。

 

三木 それから記録の残し方も違っていますね。昔は政策を決める際に行われる会議の一連の経緯も、メモベースも含めて、かなり細かい審議内容も記録されていました。たぶん当時は外部に情報公開するという前提がなくて、自己完結した組織の内部で、記録を残してきたからなのだと思います。

 

ところがいまは、外部も意識して記録を作るようになった。官僚組織が前提として外部からの批判や検証をもっていないために、それらが行えないように記録を残していないのかもしれません。本来であれば、記録を残して、公開をして、痛い思いも受け入れながら、責任を果たして行くという政策サイクルが必要だと思うのですが。

 

 

 

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無題

 

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