シノドス・トークラウンジ

2024.09.03

2024年10月16日(水)開催

【レクチャー】ハーバーマス『公共性の構造転換』をいま読む――市民的公共性の展開と新しい時代に向けて(全4回)

田畑真一 ホスト:坂本かがり

開催日時
2024年10月16日(水)20:00~21:30
講師
田畑真一
ホスト
坂本かがり
場所
Zoom【後日、アーカイブ動画での視聴も可能です】※本レクチャーは10/16、10/30、11/16、11/27の全4回です。
料金
9800円(税込)

シノドス・トークラウンジ、今回はユルゲン・ハーバーマス『公共性の構造転換』をじっくりと再読するレクチャーを開催します。本レクチャーでは、現代社会においてもなお強い影響をもち続ける名著の核心部分を読み解くとともに、ハーバーマスの思想全体の中での本書の位置づけ、そしてその後の思想の変遷についても探っていきます。

講師には、ハーバーマスの政治理論をご研究されている田畑真一さんをお迎えします。田畑さんの講義を通じて、現代社会における公共性のあり方を一緒に考えてみませんか。

【イベント概要】
日程  全4回 20:00〜21:30

10月16日(水)第1回 社会の成立と市民的公共性(同書1・2章)

10月30日(水)第2回 市民的公共性:理念とイデオロギー(同書3・4章)

11月16日(土)第3回 公共性の構造転換(同書5〜7章)

11月27日(水)第4回 「新版への序言」と「新しい公共性の構造転換」(「1990年新版への序言」)

形式  Zoomを使用したオンラインレクチャー

講師  田畑真一

レベル 教養編

▼ 講義シラバス

このレクチャーでは4回に分けて、ユルゲン・ハーバーマス『公共性の構造転換』について解説していきます。『公共性の構造転換』は、1962年に出版された彼にとって最初の著作で、出版されてから60年以上たった今でもさまざまな分野で参照される現代の古典と言える著作です。今なおこの分野で絶大な影響をもつこの著作の核心にある主張を示し、解説することがこのレクチャーの第一の目的です。

これに加えて、『公共性の構造転換』をその後のハーバーマスの思想の内に位置づけることも試みます。『公共性の構造転換』は、ハーバーマス自身が定期的に立ち返る著作でもあります。約30年後に出された新版には有名な「1990年新版への序言」が付され、そこには当時彼が展開していた熟議デモクラシー論との関係が示されています。60年後の2022年には『新しい公共性の構造転換と熟議の政治』が公刊されました。そこでは、現在のデジタル化した状況を踏まえ、『公共性の構造転換』での分析が改めて問い直されています。これらの著者自身による評価を検討することで、『公共性の構造転換』を彼の公刊以後の思想展開の中に位置づけると共に、その後の彼の思想展開についても概説できればと思います。これが第二の目的です。

以上二つの目的から、このレクチャーでは『公共性の構造転換』の内容を最初の3回で順に紹介し、その上で最後の4回目で「1990年新版への序言」と『新しい公共性の構造転換と熟議の政治』を取り上げることにします。基本的には、それぞれの著作内容の解説となりますが、みなさんとの質疑応答の中で、この著作が現在もつ意義、そしてハーバーマスの思想の面白さを問い直させられればと思います。

第1回 社会の成立と市民的公共性(『公共性の構造転換』1・2章)[10/16]

1回目は、近代における「社会」という新た領域の成立、そしてそこから市民的公共性の登場について扱います。ここで「社会」とは、資本主義が発展したことで生まれた私的な経済領域が営まれる場を指します。近代に登場した社会は、アーレントが『人間の条件』で指摘したように、古代以来の公私という二元的区別に収まらない、新しい領域です。この社会が国家から自律していくにつれて、『公共性の構造転換』で主題となる市民的公共性が成立していくことになります。初回のレクチャーでは、近代以前の公共性との違いを踏まえつつ、市民的公共性がどのように生まれたのかを明らかにしていきます。

第2回 市民的公共性:理念とイデオロギー(同書3・4章)[10/30]

2回目は、初期近代に成立した市民的公共性がひとつの理念を示すものであった一方、それが同時にイデオロギーとしての機能を果たしたというハーバーマスの分析を取り上げます。ここでの理念として市民的公共性とは、そこでの議論を通じて生み出される公論(世論)を介した政治を意味しています。初期近代に、市民的公共性は、議論する私人たちの空間として成立し、公権力を批判する場となりました。そうした中で、そこでの生み出された公論こそが支配の正統性を保証する唯一の源泉とみなされるようになります。しかし、こうした市民的公共性は、私人のだれもが参加できるという市民的公共性の理念が、実質的に保障されていないことが顕になるにつれ、イデオロギーに過ぎなかったとされます。こうした市民的公共性がもつ二つの側面についてそれぞれ検討していきます。

第3回 公共性の構造転換(同書5〜7章)[11/16]

3回目は、市民的公共性が、社会の領域が国家と区別されなくなるにつれて失われていき、再封建化していく過程を扱います。先にイデオロギーであることが暴露された市民的公共性は、その内にある矛盾に苦しみ、最終的には国家が再び社会に干渉するようになります。このことで、社会は自律的でなくなり、市民的公共性はかつての輝きを失います。ハーバーマスが、公共性の再封建化と呼んだこうした事態の進展を明らかにします。そこでは、単に市民的公共性が失われるだけでなく、それが反転して市民を操作するための場として働くとされ、メディアやそこで生み出される公論の変容も伴います。こうした分析を確認し、『公共性の構造転換』で示された最終診断を検討します。

第4回 「新版への序言」と「新しい公共性の構造転換」(「1990年新版への序言」)[11/27]

4回目は、『公共性の構造転換』の約30年後と60年後にそれぞれ発表された「1990年新版への序言」と『新しい公共性の構造転換と熟議の政治』を取り上げます。ハーバーマスの思想の内で『公共性の構造転換』の議論が、公刊以後どのように位置づけられ、またどのように修正されたのかをみていきます。このことを通じて、熟議デモクラシー論、デジタル化した公共圏といった新しいテーマについて、ハーバーマスがどのように考えているのかについても紹介します。

【受講者のみなさんへ】

ハーバーマスの『公共性の構造転換』は、とても豊かなテキストです。私は、主に政治思想・政治理論の観点から読んできましたが、哲学、社会学、歴史学などの異なる分野でも参照軸となるテキストであり続けています。レクチャーで私はこのテキストについての一つの理解を提示しますが、それとは違う読みや異なる理解可能性にも開かれています(それが「豊かな」テキストの意味です)。受講者のみなさんとこのテキストがもついろいろな可能性を発見できればと思います。

▼ 講師プロフィール

田畑 真一(たばた しんいち) 

1982年生まれ。北海道教育大学准教授。専門は政治理論、民主主義論。博士(政治学)。論文に、「正統な権威としてのデモクラシー──認識的価値と平等からのデモクラシー擁護論の検討」(『政治思想研究 』第21号,2021年)、「ハーバーマスにおける公共」(『思想』2019年3月号)ほか。共編著書に、『政治において正しいとはどういうことか:ポスト基礎付け主義と規範の行方』(勁草書房、2019年)。訳書に、ヤン=ヴェルナー・ミュラー『憲法パトリオティズム』(共監訳, 法政大学出版局, 2017年)ほか。

【参考文献】

ユルゲン・ハーバーマス(細谷貞雄、山田正行訳)『〔第2版〕公共性の構造転換――市民社会の一カテゴリーについての探究』未來社、1994年。

Jürgen Habermas, Ein neuer Strukturwandel der Öffentlichkeit und die deliberative Politik. Suhrkamp, 2022.

田村哲樹・加藤哲理編『ハーバーマスを読む』ナカニシヤ出版、2020年。

ジェームズ・ゴードン・フィンリースン(村岡晋一訳)『ハーバーマス』岩波書店、2007年。