「生活保護通報条例」に反論する 

「生活保護通報条例」とは

 

2013年3月27日、兵庫県小野市議会にて「福祉給付制度適正化条例」が可決され、4月1日から施行されることになった。すでにメディアによる報道などでご存じの方も多いと思われるが、「生活保護通報条例」「パチンコ通報条例」などとも呼ばれ、各地で議論を呼び起こしている。実際に2月27日にこの条例案が提出されてから約1カ月の間に、市内/市外を含めて、1700件以上もの意見がよせられたという(うち賛成が約6割とのこと)。

 

小野市は兵庫県の内陸部にある人口5万人程の小さな町だ。正直、報道等でクローズアップされるまでその存在を知らなかった方も多いだろう。大阪の西成区のような生活困窮者が密集する「特殊」な地域ではなく、保護世帯が120世帯(人口の0.29%)しかいない自治体でこのような取り組みが提起されたことに、驚きとともに大きな重みを感じる。厚労省によると、生活保護等の給付に関する「通報」ともとれる取り組みを行う自治体は史上初(前例がない)だそうだ。

 

今回、小野市で提起されているこの条例は、たんに地方の小都市における独自の新しい取り組みという域を超えて、いま各所で議論されている今後の社会保障制度のあり方や、見直しや引き下げが叫ばれている生活保護制度、他のさまざまな福祉制度全体への、わたしたちの「立ち位置」についての問題提起と見ることができる。

 

いま、この小さな町でいったい何が起こっているのだろうか。ここでは、新たに施行されるこの条例について、その内容を紐解きながら、社会保障の「前提」や「立ち位置」に触れつつ、拙速に議論がおこなわれ着実に進みつつある「流れ」について考えたい。

 

 

条例の「目的」

 

2月27日に小野市議会に提出された「福祉給付制度適正化条例」は、プリントアウトしてもA4で4ページ、全部で10条からなるシンプルなものだ(条例案の詳細は小野市HPのご参照を)。

 

この条例の目的は、福祉制度に基づく「公的な給付金」について、その「適正な運用」をおこなうために、

 

 

(1)不正受給を防止すること

(2)その給付金をパチンコなどのギャンブルに浪費してしまい生活が成り立たなくなってしまうことを防ぐこと

 

 

である。

 

ここでいう公的な給付金とは、生活保護制度や児童扶養手当のことであり、条例でいうところの「受給者(対象者)」は、失業や病気・障がいなどさまざまな事情により、生活保護によって生活を支えている方と、同じくさまざまな事情があって一人親家庭(シングルマザー/ファザー)として地域のなかで生活をやりくりしている方のことだ。

 

そして、その「受給者」に対して、上記の「適正な運用」を求めるのはもちろんのこと、市民や地域社会の構成員に対しても、

 

 

(1)要保護者(保護が必要な生活困窮者)を発見した場合、

(2)不正受給の疑いのある受給者を発見した場合、

(3)ギャンブル等の浪費で生活が成り立たない受給者を発見した場合、

 

 

市に情報提供を行うことを「責務」であると明記している。

 

もちろん、市民の「責務」に対しての罰則規定は設けられていない。しかし、「適正化協議会(専門家の委員会)の設置」や「推進員(警察官OBなどを予定)」を配置し、市民からの情報提供を受ければ疑わしき受給者への「調査」をし、実態を把握した上で必要ならば指示指導等をおこなっていくという。

 

分かりやすく言うと、生活保護世帯や児童扶養手当受給世帯(一人親家庭)に対して、不正受給やギャンブル等による浪費をしていないか市民もチェックして、疑わしければ通報することを求める条例と言える。

 

ここからは、この条例において「通報」の対象となっている「生活保護利用者」「一人親家庭(シングルマザー/ファザー)」「要保護者(生活困窮して保護は必要な方)」の3者それぞれの状況から「通報」の実効性について見てみたい。

 

 

 

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