あなたは医療的ケア児の家族が置かれている状況を知っていますか?

課題の解決に向けた活動

 

上記の課題に対して、ウイングスでは以下のような活動を行っています。

 

 

(1)気軽に相談できる場所を作る

 

上記の「相談する相手がいない」という課題に対して、ウイングスでは、医療的ケア児等の家族と支援者、地域住民が集まって、家族の悩みや困り事を語り合い、解決について情報交換するイベント「ウイングス・カフェ」を年に2、3回のペースで、東京と大阪で開催しています。

 

公的な支援制度が整っていない中でも、当事者同士の情報交換や、支援者や地域住民からの情報提供で解決できることもあります。たとえば、嚥下障害の子どもに対する食事メニューの工夫方法、医療的ケアに対応したレスパイト(休養)施設の情報等があります。(注10)

 

 

(2)全国の当事者・家族会の所在を可視化する

 

ウイングスでは、全国の当事者・家族会の所在を可視化するため、全国の家族会マップを作成するプロジェクトを始めました。地域に家族会の存在が分かれば、新しく当事者家族となった方、新たに引越した当事者家族がすぐに相談する場所を見つけることができ、孤立することがなくなります。

 

また、当事者が地域にいることが明確になれば、NPOや民間企業が医療的ケア児向けサービスの提供に参入しやすくなると考えます。さらに、家族会同士の横の繋がりができることで、行政や政治家に法制度に関する改善要望を伝えやすくなるでしょう。(注11)

 

 

提言

 

前章で述べてきたように、医療的ケア児の家族は、公的な支援制度が十分でないことで様々な困難に直面しており、周囲に気軽に相談や支援を頼める人がいないと、社会的に孤立しています。このような状況に対して、読者にできることは何かを提言します。

 

 

(1)医療的ケア児を地域で受け入れよう

 

社会インフラや制度はマジョリティの健常児者に合わせて設計されています。きちんと税金を納め社会に貢献してきた人でも、子どもが病気や事故で障害が残り、医療的ケアが必要になると、途端に住みにくい社会になってしまいます。当たり前の生活を送るだけで、社会からつまはじきされてしまいます。(注12)

 

たとえば、子どもを連れて映画館に幼児向けの映画を観に行った際に、他の子どもたちは映画で歓声を上げている中でも、人工呼吸器やたんの吸引の音に対して、罵声や差別的なことを言われることがあります。

 

また、医療的ケアが必要な子どもを連れて役所などに行く場合、人工呼吸器や喀痰吸引の機器などを積んだバギーカー(子ども用車いす)に子どもを乗せることがあります。移動の最中にベビーカーと間違われてトラブルになったり、奇異の目で見られたり、差別的な発言を受けたりすることもあります。(注13)

 

医療的ケアやバギーカーが必要な子どもの社会的な認知を高め、皆で受け入れるような空気を作っていく必要があるのではないでしょうか。

 

また、医療的ケア児もいろいろな体験をして成長できるよう、家族と思い出づくりができるような取組みも求められます。たとえば、「ドリーム・ナイト・アット・ザ・ズー」という取組みがあります。閉園後の動物園に、障害児と家族を招待するイベントで、家族は周囲に気兼ねなく楽しむことができます。(注14)

 

脳性まひの小児科医で東大准教授の熊谷晋一郎氏は「自立とは依存先を増やすこと」と言います。当事者が地域の中でさまざまな人間関係を築くことができるように環境を整えることが、当事者の自立に繋がります。大掛かりなことでなくても、地域のお祭りや行事に、医療的ケア児等が参加しやすいような配慮をしてください。そのようなことだけでも、大きな支えになります。

(注15)

 

 

(2)医療的ケア児の家族のサービスを提供する施設や団体を支援しよう

 

医療的ケア児やその家族にサービスを提供する民間の施設や団体がありますが、公的な制度が実態に即さず不十分であるため、多くが財政難となっています。都内で障害児保育所等を展開するNPO法人フローレンスも、病児保育事業で得た資金と寄付によって障害児保育事業を運営しているそうです。また、レスパイト施設であるTSURUMIこどもホスピスや、もみじの家は、企業や民間からの寄付によって運営されています。これら社会的に必要な施設を資金面で支援することが、医療的ケア児と家族を支援することに繋がります。(注16)

 

 

(3)公平性と合理性を欠く制度の見直しを訴えよう

 

(2)については、そもそも合理性を欠き、公平性を欠く制度の変革が求められます。

 

国の保育・幼児教育の無償化の対象に、実質的に医療的ケア児を含む障害児等は含まれていません。保育所や幼稚園に入所・入園できる子どものみを優遇するのではなく、医療的ケア児を含むすべての子どもを対象とした子育て支援制度を設計するよう、訴えていく必要があります。国の制度の課題は他にもあります。たとえば、現在の居宅訪問型保育制度は、日割算定のため病気がちの医療的ケア児を受け入れることが経済的に難しく民間事業者の参入を阻んでいます。(注17)

 

国の制度が整っても、制度を運用する地方自治体に問題がある場合があります。たとえば、障害者手帳が交付されていない医療的ケアが必要な子どもに対して障害者福祉の手引きを配布しない等、従来の障害児や難病児と同様の福祉サービスが提供されていない自治体があります。医療的ケア児の存在を把握せず、公的な支援がほとんどなされていない自治体もあります。

 

地方自治体は、地域の一員である医療的ケア児と保護者を育成する義務と責任があります。最低限の支援施策が実施されるよう、先進的な制度運用を行っている自治体の事例を横展開すべく、医療的ケア児の家族と支援者とが一緒に声を上げて、行政職員や地方議員向けに現状を訴える他、勉強会やシンポジウム等を各地で開催し、現状を改善するための世論を形成していくことが必要です。

 

 

■参考

児童福祉法第1条

「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」

 

児童福祉法第2条第3項

「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」

 

 

さいごに

 

2016年7月、19人が亡くなった相模原障害者施設殺傷事件は日本中に衝撃を与えました。殺害犯は取り調べで「障害者を生かすことは税金の無駄」という趣旨の発言をし、インターネット上の掲示板でこの発言に賛同する書き込みをする人が少なからずいたことも、多くの人に衝撃を与えました。はたして医療的ケア児を含む障害児者や難病児者は社会のお荷物なのでしょうか。

 

一説によると、現在日本にメガネやコンタクトレンズを装着する人は6000万人いるそうです。メガネやコンタクトレンズも厳密に言えば視力機能を補助する医療用具であり、厚生労働省の定義に厳密に沿えば、視覚障害者は日本に6000万人もいることになります。(注18)

 

しかし、現実的に日本人の2人に1人が視覚障害者であると考えることはないでしょう。それは、メガネやコンタクトレンズが一般化しており、視力が低下しても、メガネやコンタクトレンズを装着すれば多くの人が、日常生活を送ることができ、社会的に障害を感じることが無いからです。もし現代において、メガネやコンタクトレンズが無ければ、この6000万人は社会的に障害を感じる視覚障害者になっているはずです。

 

つまり、ある時代において「障害者」であると捉えられている人々も、人類の進歩、テクノロジーの進歩によって、日常生活にほとんど不便を感じずに暮らすことができる「健常者」になります。

 

東田直樹という作家をご存知でしょうか。彼は重度の自閉症者であり、奇声を発したり、飛び跳ねたりと、口頭でのコミュニケーションが困難です。しかし、彼がパソコンと文字盤を手にすると、それまでの様子からは想像できないような豊かな言葉で、考えを文字に表現できるようになります。テクノロジーと彼を支える人々によって、彼の中にはとても豊かな世界があることが明らかになったのです。(注19)

 

佐藤仙務という実業家をご存知でしょうか。彼はほぼ寝たきりの重度障害者であり、左手の親指がわずかに動く他には、口だけが動く状態です。しかし、自らを「寝たきり社長」と名乗り、ホームページや名刺の作成等を請け負う会社を立ち上げ、8人を雇用しています。従業員には筋ジストロフィー患者で親指しか動かないウェブ解析者も活躍しています。(注20)

 

今後、テクノロジーの進歩で、超小型の人工呼吸器や喀痰吸引器をつけて日常生活を送る「健常者」が出てくるでしょう。また、遺伝子治療や再生医療などによって、治らなかった病気も治るようになるでしょう。人類の歴史は、人がどのような障害や病気があっても、その人らしく人生を謳歌できるようにテクノロジーや社会制度を進化させてきた歴史であると筆者は考えます。

 

医療技術の進歩によって救われた命は、さらなるテクノロジーと社会制度の進歩発展によって、豊かな人生が送れるようにしていくべきではないでしょうか。社会の側が、勝手に「障害者」の枠に閉じ込め、不幸な人とレッテルを貼り、厄介者扱いしてはいないでしょうか。

 

筆者の妹は、ウイングスが活動を始めた際にフェイスブックに次のようなコメントを書き込みました。

 

「私たちは不幸じゃなく不便」

 

この記事を読んだ方の心が動き、少しでも医療的ケア児と家族のために何か実行してくだされば幸いです。

 

 

 

 

■出典等

 

(注1)総務省「平成25年度統計法施行状況に関する審議結果報告書(未諮問基幹統計確認関連分)(資料編)」

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/report/25followup/25followup_5p.pdf

 

(注2)厚生労働省「「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」の中間報告 (平成28年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業)」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000147259.pdf

 

(注3)NHK「医療的ケア児 第2回 「医療的ケア」とは何か」

https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3400/247363.html

 

(注4)文部科学省「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議(第1回)資料3「学校における医療的ケアへの対応について」」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/01/22/1399834_001.pdf

 

(注5)厚生労働省「喀痰吸引等制度について」

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/tannokyuuin/01_seido_01.html

 

(注6)厚生労働省「社会保障審議会障害者部会ヒアリング資料(2008.8.20) 重症心身障害児施設に関連する説明資料および要望事項」

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/08/dl/s0820-2a.pdf

 

(注7)厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の 一部を改正する法律案(概要)」

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/190-21.pdf

 

(注8)厚生労働省、内閣府、文部科学省「医療的ケア児の支援に関する保健、医療、福祉、教育等の連携の一層の推進について(通知)」

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/law/kodomo3houan/pdf/h280603/renkei_suishin.pdf

 

(注9)NHK「医療的ケア児 受け入れが進まない教育現場のいま」

https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/61/

 

(注10)ウイングス公式サイト

https://wings-japan.jimdo.com

 

(注11)家族会全国マップ作成プロジェクト

http://bit.ly/2JKdG1Y

 

(注12)はてな匿名ダイアリー「追記有)障害児産んだら人生終わったから、日本死ねっつーか死にたい」

https://anond.hatelabo.jp/20160229202916

 

(注13)バギーマークは子ども用車いすのマークです

http://buggymark.jp

 

(注14)ドリーム・ナイト・アット・ザ・ズー

http://www.gib-life.co.jp/st/about/kouken/kodomo/zoo.html

 

(注15)東京都人権啓発センター「自立は、依存先を増やすこと 希望は、絶望を分かち合うこと」

https://www.tokyo-jinken.or.jp/publication/tj_56_interview.html

 

(注16)NHK「“医療的ケア”家族を支える施設はできたけど…」

https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/01/0121.html

 

(注17)駒崎弘樹「医療的ケア児は、保育の制度において差別されている」

https://www.komazaki.net/activity/2018/06/post8148/

 

(注18)厚生労働省「障害者の範囲(参考資料)」

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf

 

(注19)東田直樹「自閉症の僕が跳びはねる理由」

https://naoki-higashida.jp

 

(注20)ACジャパン「2017年度支援キャンペーン:「ありがとう」を言えた」

https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_08.html

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.256 

・熊坂元大「「道徳教育」はこうすれば良くなる」
・穂鷹知美「終の住処としての外国――スイスの老人ホームにおける 「地中海クラブ」の試み」
・徳山豪「アルゴリズムが社会を動かす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(1)――シンクタンク創設への思いとその戦い」