消費税増税で財政再建は可能か

景気への影響は? 消費税ってどんな税? そもそも増税しないと財政再建できないのでは? 消費税率10%への引き上げが議論されている中、疑問は膨らんでいくばかり。そんな素朴な疑問を、消費税再増税をめぐる集中点検会合に参加する経済学者・若田部昌澄教授に伺った。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

景気悪化は天候のせい?

 

―― 今回は、消費税増税について若田部昌澄さんにお話を伺いたいと思います。今年4月に消費税が8%に上昇しましたよね。その影響はどのように出ているのでしょうか。

 

景気が悪くなっています。内閣府が9月8日に発表した4~6月期の四半期別GDP 速報によれば、実質経済成長率が年率換算でマイナス7・1%と大きく落ち込んでいます。

 

 

―― 「今夏の天候不順が実体経済に影響を及ぼした」という甘利大臣の発言がありましたね。消費税増税ではなく、天候のせいであるという話もあると思います。

 

だいぶ言い訳が苦しくなってきたなと感じましたね。天候の話をしたら、不順の年はいくらでもあるわけですが、こんなに落ち込むことはほとんど無いです。実質消費支出を見ても、2011年3月に東日本大震災の時に落ちた時に次ぐ減少具合です。かりに天候不順のせいでこんなに落ち込むのならば、ますます増税をする時期ではないでしょう。

 

 

―― 消費税は景気に影響を及ぼしているということですね。若田部さんは消費税増税について反対されていますが、「国際公約」だから実行しなければいけないのではないでしょうか。

 

これは、明らかな認識違いです。野田前首相が、2011年11月7日、衆議院本会議で「国際公約なのか」と自民党の議員から聞かれて、「いや違います。それができなかったらあなた責任を取るの、という話はやっていません。『国際公約』という話ではなく、国内で方針として示していることを国際社会にも説明した」と言っています。

 

それなのに、増税をしないと国際社会からの信認が失われるというのはおかしな話です。海外の要人が日本の財政政策について様々な発言をしていますが、クルーグマンだけではなく、米国の財務長官ジェイコブ・ルーも内需拡大を維持しなさい、財政再建には気を付けなさい、と言っている。

 

8月9日のフィナンシャル・タイムズも社説で消費税増税を引き延ばせと言及していましたし、ニューヨーク・タイムスや英エコノミストも同様です。外国の格付け会社であるS&Pの小川隆平ディレクターからも増税が必ずしも必要ではないという発言が出ました。

 

そう考えると、「国際公約」という言い方は非常に怪しいのではないかと思います。極めつけは、安倍首相の発言です。10月30日の衆議院予算委員会で、「国際公約とは違う。何が何でも絶対という約束は果たせない」と述べています。

 

 

wakatabe

 

 

均衡解はあるのか

 

―― 若田部さんはなぜ消費税増税に反対しているのでしょうか。財政再建のために、増税は仕方ないと思ってしまうのですが。

 

財政再建は目標として正しいとしても、このタイミングでの増税には反対です。

 

アベノミクスの第一の矢による金融緩和で、景気が良くなったとはいえ、まだまだ長年の不況を吹き飛ばすほど解決しているとは言い難い状況です。そんな中、増税すると、景気が悪くなり、成長が鈍化し、税収が上がらなくなってしまう可能性があります。

 

実際に、景気の悪い時に増税して、財政再建が成功した例は世界的にみてもありません。仮に、消費税収が上がっても、他の部分の税収が下がってしまったら本末転倒です。

 

 

―― 景気の悪い時には増税すべきではないということですね。

 

一方で、景気が良い時の増税は、成功する可能性があります。日本における1989年の消費税導入時は景気が良かったですから、それに近い状況だったと言えます。

 

1989年、97年、今回の2014年と導入と3回の消費税増税がありました。3回の経験の中で、景気の良かった1989年は置いといて、景気が悪かった1997年、2014年は明らかに失敗でした。

 

仮に増税することで財政再建を図ろうとする人を「増税再建派」と呼ぶとするならば、彼らが本当に、均衡解があってやっているのか、と疑問に思っています。めどもつかないまま、それこそ「見果てぬ夢」のようなことをやっている印象です。

 

 

―― 中期財政フレームでは、均衡解を示しているのではないでしょうか。

 

中期財政フレームは、2015年度までに、基礎的財政収支の赤字をGDP比でもって半減するという目標ですよね。2010年の段階で6.6%、2015年の段階で3.3%を達成すると。でも、それを達成することはまさに消費税増税によってほとんど不可能になってきました。

 

増税再建派の人の一番の問題点は、彼らの言う増税再建路線は現状で破綻しているということです。その大元には、そもそも均衡解があってやっているのか、ということに尽きると思います。歴史的にも、名目GDPが増えない限り、財政再建には成功しません。日本でもかつて2005年から2008年くらいまで、名目GDPが多少増えた時には、基礎的財政収支の対GDP比が減りました。

 

 

変な独創性

 

―― 消費税という手段そのものについてはどう思いますか。「消費税収は安定しているので、福祉の財源に優れている」という声もあります。

 

今、アベノミクスで伸びているのは消費です。設備投資はほとんど増えていないですし、純輸出はマイナスです。最大のエンジンである消費に直撃する税を導入する必要はあるのかと感じてしまいます。

 

消費税そのものが悪いか、といわれると、ものの使いようによっては、悪くないと思います。ただ、何を目的にするのかですよね。社会保障の目的税として消費税を使うのは、あまり適していないですね。

 

消費税は薄く広くとる性質があります。負担は広範に薄くなっているのに、社会保障は限られた人たちに行くわけです。負担と給付のバランスが崩れています。

 

実際に、他国で消費税だけを社会保障の目的税にしているところはありません。社会保険料のような形でやっていて、足りない分を他の税金で補充するのはまれです。やろうとしていることが出来なくなったから、税金で補おうとしている。そこにねじれがあります。本来ならば税制の改正や社会保障改革をやってからやるべきですよね。

 

日本の政策全体に言えるんですが、海外で成功していることはあまりやらないで、海外でやっていないことをあえてやる。変な独創性があるんですよね。たいがいそれは裏目に出ています。【次ページへつづく】

 

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」