官能的(センシュアス)な都市とは?――新しい「住みたい街ランキング」

あなたは次に住むとしたら、どんな街を選ぶだろうか。HOME’S総研が発表したレポート「 Sensuous City[官能都市] ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」では、「官能的(センシュアス)な街」という、住まい選びの新しい指標が提案されている。”職住接近”志向が高まり、ますます都心の人口集中が進む現代、人を惹きつける街の魅力とはどのようなものなのか? HOME’S総研所長の島原万丈氏と経済学者の飯田泰之が語り合う。(構成/大谷佳名)

 

 

効率性からは生まれない都市の魅力

 

飯田 このランキングをみた時、「やっと出た!」と思いました。僕自身も以前から、リチャード・フロリダの「ボヘミアン=ゲイ指数」のような指標を作って、住みたい街を評価すると面白いなと考えていたんです。

 

こういった研究をアカデミックな領域でやろうとすると、「学術的に正しい」データ処理を求めすぎてなかなか出来上がらないんですよね。だからこそ、こういう調査が必要とされている。まだ公式の統計がないテーマならなおさら、一度思い切って世に出して、批判を受けた上でまた次回の分析に活かしていくというプロセスが大事だと改めて感じました。

 

島原 そう言っていただけると嬉しいですね。私たちはもともとマーケティングの人間なので、アカデミックな厳密性よりも分かりやすさを意識して今回のレポートを作りました。もちろん調査としての一定以上の品質は確保したうえです。ランキング形式にしていますが、実は序列そのものはあまり目的とはしていなくて、考え方のものさしを提示することに挑戦したかったんです。

 

 センシュアスシティ上位 (1)

「センシュアス・シティ ランキング」上位1〜30位

出典:「 Sensuous City[官能都市] ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」

 

 

指標 

「センシュアス指標」

出典:「 Sensuous City[官能都市] ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」

 

 

飯田 島原さんは『本当に住んで幸せな街―全国「官能都市」ランキング (光文社新書)の中で、ル・コルビュジエ型の都市の考え方と、ジェイン・ジェイコブズ型の都市の考え方について触れられていましたよね。

 

コルビュジエ型の良い街の条件と言えば、高層ビルを中心として、店舗数が多く、駅へのアクセスが良い。例えば品川駅がそうで、オフィスとして利便性が高く、新幹線や京急があるので出張される方にとっては非常に便利な街です。しかし、これは数字で測れる便利さなので序列がつけやすいんですね。その一方で、ジェイコブス型の良い街というのは人によって違うんです。まさに、官能的な意味での良い街と言えます。

 

島原 コルビュジエの時代はまさに工業の時代で、工業の真価は規格統一によって均質な製品を効率的に量産することです。建築で言えば鉄とコンクリートとガラスを使い、機能的で合理的なビルを量産することになります。その意味では品川駅港南口は典型的な工業化都市ですよね。でも、よく品川駅の前では定期的に縁日のような催しが行われているんですよ。

 

縁日や屋台なんて、コルビュジエ的な都市計画では排除すべき存在で、ジェイコブズ的な雑多なストリートに似合います。あるいはジブリ映画に感じるような懐かしい風景とも言えます。結局、人間はこれだけの近代的ビル群の中で、あれをやりたくなるわけです。だったら最初から壊さなければいいじゃないか、と思いますね(笑)。

 

飯田 品川であれば、まだ日本国内での競争力があるので、このままの状態で残っていけるのだと思うのですが。問題なのは、地方がこれを真似してしまうことなんですね。その結果、すごく中途半端な、東京の劣化コピーにしかならない。

 

例えば、このランキングで意外と上位にきていた盛岡も、県庁と駅周辺のオフィス街にはあまり人はいなくて、むしろ盛岡城周辺のごちゃっとした下町に人が集まっている。品川のように駅前に高層ビルが立ち並んでいて、かつ夜間人口も多い街って、日本中を探してもなかなかないと思います。

 

 

盛岡市

品川区

出典:各都市の特徴〈センシュアス・シティ・レーダーチャート〉

 

 

島原 確かにそうですね。それで言うとやはり東京や大阪の都心は特別かもしれませんね。例えば六本木は、もともと駅周辺にあった小さなお店の商業集積がものすごく大きいので、高層ビルをたくさん作ったとしても街はなんとか持ちこたえることが出来ます。ただし、東京でも少し都心を離れると地方都市と事情は大きく変わらないかもしれません。六本木や渋谷と同じような大規模再開発を武蔵小山や三軒茶屋のような小さな街でやると街がおかしくなるんですね。ああいう小さな街は、むしろ駅前の商店街など、個人経営のお店が出店しやすいエリアに人が集まる傾向があり、それが街の個性になっています。それを根こそぎ高層ビルにしてしまうと、大手資本のチェーン店ばかりの街になって、どこも変わり映えがしなくなってしまいます。

 

飯田 起業しやすいという点は重要ですよね。アーケード商店街ですと未だにどこも賃料が高いけれど、そこからちょっと裏道に入ってみると、面白い店がちょこちょこ出来ていたりする。実際に20万人くらいの規模の街に行っても、そういう個人経営のお店が生きているところは楽しげな様子が伺えます。

 

島原 今、郊外型の住宅地ではショッピングモールがレジャーであり消費になっていますが、このままの形態を続けていっても、モノがどんどん売れなくなる時代には厳しいのではないでしょうか。その上、Amazonという強敵の前では、品揃えのバリエーションでもショッピングの利便性でも太刀打ちできないし、それを覆すほどの魅力がショッピングモールにあるとは言えない。近い将来にはモールがAmazonの倉庫になるんじゃないかという話も出ていますけど、そうなった時に地方都市の活性度は一気に下がってしまいます。

 

飯田 そもそも地方でコルビュジエ型の都市開発を真似たがるのは、予算さえつけば完成させることができるからなのではないでしょうか。やることが明確で、完成時の「絵」もすぐに思い浮かびますから。一方で、センシュアスな街の作り方は非常に属人的で、能力がある人じゃないとできない難しさがある。ただ、そういった人材に重点的に資源配分することが、行政主導でやっている限りはできないんですよね……。

 

島原 デベロッパーでもモールを作る際には、話題性のためのテナントとして「チャレンジ店」という枠は持っています。行政がやるとそれすらできなくて、誰もが知っているようなチェーン店だらけになってしまうんですね。商業ひとつとってもそんな調子で、とにかく公平性が求められる。意思を持ってどこかに重点的に、というのは行政がもっとも苦手とする方法ですね。

 

飯田 特定の店を優遇するわけにはいかないというわけですね。ところで、この「官能都市」というコンセプト自体はどうやって生まれたのですか。

 

島原 僕らは都市に関するレポートを出したのは今回が初めてで、もともとは住まいをテーマに研究をしていたんです。その中で、どうも工業化された新しい住宅は、生産性という作る側の論理で出来ていて、均質的なため、多様化したライフスタイルや価値観を受け止める魅力が足りないという感覚があったんです。それで、中古住宅を自分なりにリノベーションしたり、賃貸住宅をDIYでカスタマイズするような住まい方を提案してきました。

 

都市の魅力というのも同じような考え方で、ただ便利であることや効率性といった工業的な指標では推し量れないものではないかと感じていました。だからそういう指標で発表される既存の都市の評価ランキングに対する違和感がありました。もっと身体的な、五感に訴えかけるような魅力が重要なのではないかと。そういった意味で「官能、センシュアス」という言葉を使ったんです。

 

飯田 僕も全く同じ感想を持っていて、効率的な街ってすごく便利ではあるけれど、結局泊まるだけ、仕事をするだけという単一機能を目指して作られている。そういう街は、ある時にその機能性が求められなくなると一網打尽になくなってしまうんですよね。例えば、もし新宿がより利便性を携えるようになれば、もう誰も品川には来なくなるんじゃないかと思います。

 

また、今我々が消費しているものって、「倍あると倍嬉しい」というタイプのものではない。物質的に欠乏している時であれば多ければ多い分嬉しかったのですが、現在そういった消費行動をしている人は先進国ではほとんどいません。さらに言えば、その所得階層の人々を客にしても全然儲からないわけです。つまり、旧来型の目に見える効率性からは利益が生まれなくなってきているんだと思います。【次ページにつづく】

 

 

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