「小さな政府」という誤解

「小さな政府」という誤解の二潮流

 

この連載では、これまでの三十年ほど、世界中でみんなが「大きな誤解」をしてきたという話をします。

 

「誤解」というのは何かと言うと、「小さな政府」というスローガンのことです。こないだ亡くなったイギリスのサッチャーさんから始まって、小泉さんとかブッシュさんとか、このかんずっと、世界中でいろんな政権が追求してきましたよね。

 

最初はいま名前をあげた人たちなんかが、大きな企業が自由におカネもうけできるようにしよう、もっと競争を激しくしようということで、「小さな政府」の路線を進めました。「新自由主義」政策と呼ばれています。

 

これが、格差だとか貧困だとか、地域の人々の絆の崩壊だとか、金融危機だとかをもたらしたというわけで、今度は、イギリスのブレア政権とか、アメリカのクリントン政権だとかが、もう少しマイルドにした路線をとりました。新自由主義でも、これまでの福祉国家でもない、「第三の道」だとかと自称していたものです。でもこれも結局、財政支出を抑えようとか、規制緩和をしようとかという点では新自由主義と似たようなものだったと言えます。

 

そこでは、それまでの福祉は一方的な「ほどこし」だった、バラマキで駄目だったと言って、ワークフェアとか「参加と包摂」とかのスローガンを打ち出しました。そして、NPOとか地域の人のつながり(コミュニティ)を重視すると謳って、国家財政でめんどうを見切れない分を担わせようとしました。でも結局こうした姿勢では、格差も貧困も解決できませんでした。

 

その究極のケースが日本の民主党政権で、財政削減、おカネ発行の引き締め、官僚批判、規制緩和、コミュニティやNPOによる公財政の身代わり、エコロジー志向といったこの路線の典型的な姿勢は、人々がモノやサービスを買おうとする力を停滞させ、デフレ不況を深刻化させました。結局、倒産や失業や不安定な雇用に苦しむたくさんの人々の期待を裏切って、破産してしまいました。どっちにしろ、「小さな政府」を目指すという、新自由主義と同じ誤解をしていたわけです。

 

このような二潮流のもたらしたものを見たら「そら見ろやっぱり小さな政府を目指すのがいけなかったのだ。自分は最初から反対していたぜ」とおっしゃる人たちもいらっしゃると思います。

 

ところが実はこれ、賛成する側も反対する側も両方とも誤解していました、というのが私の言いたいことです。

 

そう、反対する側もなんですよ。

 

 

1970年代までは政府が管理介入する体制

 

もともとどうしてこんなスローガンが持ち出されてきたのでしょうか。三十年以上前にもう物心ついていた人は思い出して下さい。「小さな政府」が大義名分として通用するようになった経緯です。

 

1970年代までは、おおかたの人たちの間では、「大きな政府」がいいと思われていました。そして実際、国の中央政府や地方政府が、経済のことにたくさんのおカネをかけて管理介入してくる体制が作られていました。

 

先進資本主義国では、ケインズ型国家介入体制がとられていました。「ケインズ」というのは戦前戦中頃に活躍したイギリスの経済学者です。資本主義経済は放っておいたら不況になって倒産や失業がひどくなることもあるので、そんなときには政府がおカネをかけて、いろんな商売の売れ行きがよくなるようにしてあげなさいということを唱えた人です。

 

第二次大戦後の先進資本主義国では、どこでも、その学説にしたがって、政府がいろんなことにおカネをかけて、景気をよくする政策をとってきました。道路やダムを作る公共事業とか、軍事とか、福祉とか、どこの国でもいろいろやってきましたが、とくに、アメリカでは軍事中心、ヨーロッパでは福祉中心、日本では、とりわけて70年代には、公共事業中心に政府支出してきたとされています。ちょっと図式化しすぎかもしれませんけどね。

 

中でも、スウェーデンなどの北ヨーロッパでは、主に社会民主主義系の政権によって、高度な福祉国家が建設されたのは有名です。

 

先進資本主義国でないところでは、ケインズ型よりも、もっと国家介入が強烈なシステムがとられていました。ソ連や東ヨーロッパでは、「共産党」など、マルクス=レーニン主義を看板に掲げる政党が独裁政党になって、企業は原則みんな国有で、政府の指令で運営する経済体制がとられていました。中国や北朝鮮やキューバ等、多くの発展途上国がこれをお手本にして国づくりをしていました。マルクス=レーニン主義を看板にかかげない政党が支配する発展途上国でも、多かれ少なかれ似たような体制がとられていたものです。

 

また、国全体の政策でなくても、1970年代の日本では、東京都、大阪府、京都府、神奈川県、埼玉県などの主要都府県、横浜市、京都市はじめ、全国いたるところの市区町村で、社会党(現社民党)や共産党が応援する首長が行政を担い、手厚い福祉を目玉政策に掲げるようになりました。こういう自治体は「革新自治体」と呼ばれました。

 

 

 

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