OECD諸国との教育支出の比較から見る日本の教育課題

近年、経済開発協力機構(OECD)からEducation at a Glanceが出版されるたびに、日本のGDP比の公教育支出がOECD諸国の中で最下位レベルである事が話題となっている。下の図が示すように、確かに日本のGDP比の公教育支出はOECD最下位レベルであるが、OECDの中でもトップレベルに多い私教育支出がこれを補い、日本の総教育支出はOECD平均以下ではあるもののOECD最下位レベルではない状態となっている。

 

 

(図1)

(図1)

このGDP比の公教育支出の低さに対する反応からも分かるように、教育問題がメディアを賑わしている割には、日本の教育支出の特徴と課題はそれほど認知されていない印象を受ける。しかし、これらはしっかりと把握しておく必要がある。なぜなら、留年制度の導入・子ども園の設置・高校教育の無償化といった教育政策を論じる際に、その政策のコストとベネフィットを考えるだけではなく、そもそも教育分野への支出増は他分野とのバランスがとれているのか、さらに特定の教育段階への支出増はその他の教育段階とのバランスがとれているのか、これらの事も含めて考える事が重要だからである。

 

そこで、本記事では日本の教育支出を高所得国に分類されるOECD諸国の教育支出と比較し、今後の教育議論の土台となりうるような日本の教育支出の特徴と課題を提示したいと思う。

 

今回は、世界銀行の世界開発指標(World Development Indicators)とEdStatsのデータを用いて議論を進めていく。基準年は、基本的に2009年であるが、各国で最も新しい有効データを用いている。本記事で言及する教育支出とは、各教育段階の教育機関・行政に使用されている支出を指し、塾・家庭教師といった家庭教育に関するものへの教育支出は含まれていない。また、教育支出は主に、公教育支出・私教育支出・外国からの教育支出の3つに分類される。公教育支出は中央・地方問わず公的セクターが支出した教育支出を指す。私教育支出については、OECDの中で数カ国、私教育支出と外国からの教育支出の区別がついていない国がある。私教育支出に比べて外国からの教育支出はかなり小さいため、そのような国については総教育支出から公教育支出を引いたものを私教育支出として掲載し、本記事では総・公・私教育支出について言及することとする。

 

以下では、まず2章でGDP比の公教育支出という指標の特徴に触れつつ、OECD諸国と比べて日本の公教育投資は本当に少ないのか検討する。次に、3章で教育段階別に日本のGDP比教育支出をOECD諸国と比較し、日本はどの教育段階に対して公教育支出が少ない/多いのかを検討する。注意しておきたいことは、公教育支出額が少ない事それ自体は問題ではないということである。なぜなら、教育の質と量に問題がなければ、それは少ない教育資源で効率的に教育が行われている事になる。そこで、教育段階別に日本の教育の質と量をOECD諸国と比較することも試みる。最後に4章で日本の公教育支出の特徴と課題について考察する事とする。

 

 

日本の公教育支出は本当に少ないのか?

 

日本のGDP比の公教育支出の少なさから政府の教育に対するあり方が問題視されがちだが、これには2つの問題がある。まず、この指標は全人口に占める学齢人口の割合が小さければ小さくなりがちであるし、学齢人口の割合が大きければ大きくなる傾向がある。そして、学齢年齢であると考えられる5-24歳人口の全人口に占める割合が、日本は男女ともOECD諸国中最下位で、それぞれ18.1%、20.0%となっている。

 

さらに、GDP比の公教育支出は政府の大きさにも依存する。GDP比で大きな政府であれば、その予算のわずかな割合を教育へと支出するだけでGDP比の公教育支出は大きくなるし、GDP比で極めて小さな政府であれば、予算の大半を教育へ支出したとしてもGDP比の公教育支出は大きくならない。そして、日本のGDP比の政府の大きさはOECDの中でも小さい方に分類される。

 

このように、日本は全人口に占める就学年齢人口の割合が低く、かつ決して大きな政府ではないため、政府の努力とは関係なしにGDP比公教育支出は小さくなってしまう。政府が教育に力を入れているか、政府が生徒一人一人に充分な教育投資を行っているか、を考察するためにはGDP比の公教育支出だけではなく、政府支出に占める教育支出の割合・学生一人当たりGDP比の公教育支出、という二つの指標を用いる必要がある。

 

まず、前者の政府支出に占める教育支出の割合を下記の図2に示した。さらに下に図3に後者の学生一人当たりGDP比における公教育支出を示した。

 

 

(図2)

(図2)

 

 

(図3)

(図3)

日本はOECD諸国と比較して、学齢人口が少ない事も相まってか政府は教育分野よりも他の分野を優先しており、かつ学生一人一人に対する政府による投資額もかなり少ない事が分かる。しかし、OECD諸国と比較して日本は効率的に教育投資を行っているのか、それとも教育投資が過少なのか、これだけでは判断できない。そこで、次章では教育段階毎に、教育支出と教育の質・量に関するデータの国際比較を試みる。

 

 

 

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