なぜ教員を続けるのか――沖縄の非正規教員の語りからみえてきたもの

非正規から正規へ

 

非正規教員が増加している。

 

2014年7月6日付の読売新聞(朝刊)では、各地の公立小中学校で非正規教員が増加し、約12万人と全体のおよそ16%を占めていることが報じられた。まさに、6人に1人が非正規の教員である。

 

なぜ、非正規教員(注1)が増加しているのだろうか。詳細な説明については、拙稿「正規教員を目指すことはいかにして可能か——沖縄の非正規教員を事例に」(2016、『都市文化研究』Vol.18、pp.71-83)をご参照いただきたいが、ここでは、その問題を端的に言い表した次の金子真理子(2014:45)の指摘を引用しよう。

 

教員給与制度改革の経緯を振り返れば、地方の財政状況の悪化のなかで、予算を縮減しながら効率化を図ろうとする思惑が見えてくる。ここには、正規教員の仕事を非正規教員に代替させる搾取の構造が見え隠れする。

 

財政的な事情により生み出された非正規教員。となると、教員志望の若者のキャリアにも当然それは影響してくる。

 

舞田敏彦(2013)によれば、地域差はあるものの、全国的な傾向として

 

(1)教員の非正規化

(2)教員採用試験の難関化

(3)新規教員採用の高齢化

 

が確認できるという。その上で舞田は、「新卒」ですぐに採用されるのではなく、非正規教員として働きながら採用試験に複数回トライする「浪人組」の存在を指摘している(舞田 2013:275-6)。

 

それでは、「非正規から正規へ」というキャリアパターンを歩もうとする教員志望者は、具体的にどのような状況に置かれているのだろうか。本論では、沖縄の若者に対する聞き取り調査のデータをもとに、非正規教員の現状についてみていきたいと思う。

 

というのも、沖縄の学校現場で働く若年教員の多くが、卒業後しばらくの間、非正規教員として働きながら正規教員を目指すのだ。学校教員基本調査(2013年度)の最新のデータをみると、公立小学校の新規採用教諭の69.0%が「25〜34歳」であり、そのうちの77.7%が採用前の状況を「既卒」と回答している(全国はそれぞれ38.0%、48.9%)。また「既卒」の内訳をみると「非正規教員」(注2)が80.0%を占めている(全国79.9%)。

 

つまり、「非正規から正規へ」というキャリアパターンを考える上で、沖縄の若者はふさわしい事例であると言える。

 

 

非正規としての過酷さ

 

学卒後しばらくの期間、非正規教員として働きながら採用試験に挑み続ける沖縄の若者たち。調査対象者のなかには、大学在学中に民間企業への就職活動を行いつつ、採用試験に向けて勉強に励む者もいる。

 

しかし、どちらかといえば、民間企業への就職は考えず、就職先を教員一本に絞っている者が主流であった。以下のアキコさん(第1回目調査 当時23歳)の語りはその典型である。アキコさんは、県外の私立大学に進学したものの、卒業後は地元沖縄にUターンした(注3)。

 

――えっと、沖縄にはもう帰ろうって思った?

 

うーん……うん。なんだろう、もうふと思って…。実習終わってからかな。沖縄で教員になりたいなって思ったのが一番かな。

 

――民間に就職しようとは

 

就職は……みんな周りは就活してたけど、うん、全然悩まなかったかな。

 

――焦りもせず?

 

うん、焦りもせず。マイペースだね(笑)。

 

調査を通じて興味深かったのは、「新卒」採用への強いこだわりがほとんど語られなかった点である。対象者の若者たちは、卒業後の非正規雇用を見越した上で正規就職を考えていたのかもしれない。

 

むしろここで指摘しておかなければならないのは、沖縄という地域への強いこだわりだろう。「沖縄で教員になりたいな」というアキコさんの語りは、地元志向が強いとされる沖縄の若者のまさに典型的な語りである。加えて、中小零細企業中心の県内労働市場を背景に、沖縄出身の大卒者の多くが、教員や公務員といった職業に強いこだわりを示す傾向にある。

 

要するに、「地域」と「職業」の両方にこだわることで、沖縄の大卒者の多くが、狭隘な地元大卒労働市場に参入することになるのだ(上原 2014)。沖縄で教員を目指す若者のキャリアは、こうした地域的な文脈のなかで理解する必要がある。

 

さて、大学卒業後、教員志望者の多くは非正規教員として働くことになるわけだが、どのような手続きを経てそのキャリアをスタートさせるのだろうか。

 

自治体によって異なるだろうが、沖縄の場合、各地域を管轄する教育事務所や沖縄県教育庁に履歴書と教員免許証の写しを提出し、非正規教員希望者として登録することからそれは始まる。登録期間は4月1日から3月30日までの1年間。登録が済んだ者は、新年度採用の内定の連絡を待つことになる。2月下旬頃から採用通知が行われ、3月末に連絡があることも少なくない。つまり、登録者は、直前まで採用結果がわからない状況に置かれている。

 

採用が決まれば、4月以降の生活にある程度の見通しが立つことになる。とはいえ、非正規教員の採用期間は最長でも半年更新の一年間であるため、期間が終了すると直ちに生活の見通しが立たなくなる。同じ勤務先で非正規教員として継続勤務する者もいるが、それは、学校側や教育事務所がその非正規教員の継続勤務を希望し、また本人もそれを希望する場合に限る。

 

その場合でも、形式上はいったん雇用契約がきれるため、再度、非正規教員として願書を提出し、登録する必要がある。いずれにせよ、有期雇用であることに変わりはない。

 

非正規教員が有期雇用であるということは、同時に、さまざまな学校現場を転々とすることをも意味する。その点、次のユキエさん(当時26歳)の語りは興味深い。

 

――やりがい自体は感じる?

 

感じる……けど、やっぱり臨時は途中から切れてしまったり、実際に私はここは7月までなんですよ。また本務の先生が戻ってこられるので。そのあとのことはよくわからないんですけど、まだ。はっきり決まってなくて。

 

ユキエさんに対して筆者が調査を行なったのは2011年6月であった。彼女は翌月の7月に雇用契約が切れ、それ以降のスケジュールは未定だと話す。

 

ここで少し補足すると、彼女が現在の職場に非正規教員として赴任したのはちょうど2ヵ月前の4月であった。つまり、彼女は3ヵ月という短い雇用契約のもと、「本務の先生」の代わりに教壇に立っていたことになる。また、やりがいは「感じる…けど」のすぐ後に「在籍期間の短さ」について語っていることから、その「短さ」が否定的なニュアンスで語られていることがわかる。

 

次に、非正規教員として教壇に立つことについて考えてみよう。正規採用された1年目の教員には初任者研修という研修が義務づけられているが、非常勤講師であったアキコさん(第2回目調査 当時28歳)は、初任者研修の期間、初任者の代理としてクラスを任された。

 

非常勤とかも自分でやってみたら、けっこう辛かったりもあったり。担任じゃないから、なんていうの、担任だったらもっと(生徒に)言えるはずだけど。遠慮する。私が口出しするもんじゃないなと。初任者(正規教員1年目の人)のスタイルと自分のスタイルが全然違ってた。(…略…)この先生と同じようにはやりたくはないし、だけどこの先生には「こういう風にやってね」とも言われたりするし。なんていうの、「あいだ」というか。自分が担任だったらやっぱりできるけど。非常勤だから。

 

――ストレスたまるな

 

そう、けっこうストレスたまったこれは。

 

アキコさんは、正規の担任ではないという理由で、正規教員に対して「遠慮」していたと話し、思うように学級運営ができないことに「ストレス」を感じたという。

 

先の事例と合わせて考えてみると、非正規教員としての過酷な現状が浮かびあがってくる。それは、在籍期間の短さによる不安定さや、実際の学校現場において生じる、正規教員との非対称な関係である。そしていずれの場合も、非正規教員にとって、ネガティブな経験として意味づけられていた。

 

正規教員との非対称性という点で、次のヒロシさん(当時31歳)の語りも重要だ。

 

(正規教員の人は)「忙しい忙しい」って言いますけど、僕からしたら忙しくないだろって思ってます。なんで、早く学校に来て準備して17時になったら帰ったらいいんじゃないの?って。僕はそれから23時くらいまで勉強するので。(…略…)いやぁもう、ストレスとの闘いです。

 

ここですべてを紹介することはできないが、「試験勉強の時間が確保できない」という焦りや葛藤は、他の対象者からも異口同音に語られた。ここにも、非正規教員としての過酷な現状がみてとれる。【次ページにつづく】

 

 

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