特集:安全のはかり方

1.内田良氏インタビュー 「教育リスク」をどうはかるのか――巨大化・高層化する組体操

 

「感動」と「教育」の裏に隠された、組体操のリスクと問題点についてお話を伺いました

 

◇組体操の危険性

 

――今年の2月には馳文科相が中止について言及するなど、組体操の危険性が大きな注目を浴びています。組体操の問題点はどこにあるのでしょうか。

 

問題なのは花形種目である「人間ピラミッド」です。ここ10年で巨大化、高層化、しています。

 

 

――膝をついて四つん這いになり、上に人がどんどん乗っていくやつですね。

 

それは、「俵型」と呼ばれるものです。おにぎりを立てたような形ですね。そして近年流行っているのが、「立体型」です。これは新しい組み方で、四つん這いの子どもの後ろに立ち、手だけその背中に付けるという方法で、後ろにも大きくなっていきます。

 

 

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正面からの図

 

 

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横からの断面図

 

 

――どのくらい巨大化、高層化しているのでしょうか。

 

たとえば、有名なある兵庫県の中学校のピラミッドは立体型の10段で、その高さは7mにも及びます。小学校においても、「7段くらいまで可能」(戸田克『徹底解説 組体操』)と組体操の指導書に書いてあります。巨大化、高層化することによって、生徒は危険な「高さ」と「重さ」にさらされることになります。

 

なお、私が確認した限りですと、小学校では最高が9段、中学校では10段、高校では11段です。そして、組み手の低年齢化も進んでいて、幼稚園では最高6段が2015年の秋に達成されました。

 

組体操の「高さ」がどのくらい危険なのか。厚生労働省が基準を定めた「労働安全衛生規則」では、床面からの高さ2m以上での作業について、「囲いや手すり覆い等を設けなければならない」また、その設置が困難なときには「防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等」と、安全性の配慮が求められています。大人でさえこれだけの配慮が必要なのですが、組体操の場合は囲いや手すりもなく、7mもの高さをよじ登っていくわけです。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

2.岸本充生 安全とは作法である――エビデンスを尋ねることから始まる新しい社会

 

私たちはなぜ科学で決められた基準値を疑わないのか、本当に安全は過去の実績で判断できるのか。リスクにまつわる誤解と安全の本質に迫ります。

 

◇安全に関する2つの神話

 

東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故は、私たちの安全に対する考え方を大きく揺さぶった。そして、安全に対する考え方を大きく改めることになる……はずだった。しかし、実際のところは、以前からあまり変わることなく、相変わらず2つの神話が広く行き渡っている。

 

神話というよりも、考え方や態度と呼んだ方が正確かもしれない。1つは、安全とは科学であるという神話である。これは、「安全/安心二分法」という形で、専門家の中にさえ強く根付いている。すなわち、安全は科学・客観であるのに対して、安心は心理・主観であるという二分法で、必然的に、安全は専門家がどこかで決めて私たち素人に与えてくれるものであるという意識につながる。後で述べるように、安全の判断は専門家に委ねるものだという前提が、御用学者か非御用学者かという不毛な議論の背景にある。

 

もう1つは、安全とは結果であるという神話である。安全を過去の実績で判断するというのは、例えば30年間無事故であることをもって安全であるとみなす態度である。確かに長期間事故を起こしていないことは素晴らしいことだろう。しかし、これは必ずしも安全であることを保証するものではないし、当たり前のことだが明日大事故が起きる可能性は排除できない。このことは原子力発電所事故で痛いほど学んだはずだ。

 

さらには、これも後で述べるが、安全を実績によってしか判断できないならば、新しいもの――新規材料や新規技術――はけっして安全であると判断されないことになってしまう。これらの神話は、様々な安全の問題に関する混乱を引き起こすだけでなく、日本社会に対する深刻な副作用をも併せ持っている。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

3.中谷内一也 災害への危機感と準備行動との乖離

 

リスクが高いと感じていても準備行動をとらないパラドクスに着目し、人間の社会的動物としての特徴を踏まえた新しい対処行動のあり方を提案します。

 

◇リスク認知パラドクス

 

災害のリスク管理やリスクコミュニケーションの研究領域では、近年、人々のリスク認知と実際の準備行動とが結びついていないことが問題となっている。これはリスク認知パラドクスとも呼ばれている(注)。なぜ、これが問題なのか?それは、リスク認知と行動との乖離が本当だとすると、政府や事業者が行っているリスク情報提供の意義が揺らぐからである。

 

(注)Wachinger, G. et al. (2013) The risk perception paradox -implications for governance and communication of natural hazards. Risk Analysis, Vol.33, 1049-1065, 2013.

 

素朴な考えからは、リスクについての情報を受け取った市民がその内容に応じたリスク認知を形成し、そのリスク認知に応じたリスク対応行動をとる、という図式が描かれる。たとえば、東南海地域を震源域とする巨大地震のリスクを伝えることによって地震リスクが高いことを住民が理解し、その結果、災害への備えが促進される、という構図である。

 

逆に、福島県が県産米の全量全袋調査を行い、放射性物質の基準値越えがまったくなかったことを強調するのは、その情報によって福島県産米のリスクが低いことを消費者が理解し、購買忌避が低下することを期待するからである。

 

ところが、リスク認知がリスクへの対応行動に結びつかないとなれば、そういった働きかけの効果は期待できなくなる。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

4. 美馬達哉 リスクへの先制攻撃

 

糖尿病、高血圧症など、健康リスクに病名をつけること(「医療化」)は、時には治療するのが当然という思考停止をもたらしてしまう、と指摘します。

 

◇リスクという論争の場

 

なぜ人は安全をはかろうとするのか。その理由は簡単だ。はかることで得た知識をもとにして、安全でない状態つまり危険なできごとが起きてしまうリスクから逃れる方法を探すためだ。だが、目に見える結果として現れた危害(ハザード)を理解することは容易いが、危害として現れる以前のリスクを見いだして評価することには困難とあいまいさがある。だから、安全性とリスクをめぐっては論争がつきものだ。

 

 

◇映画『コンカッション』にみるリスク

 

先日、機内で新作映画『コンカッション(脳しんとう)』をみた。ウィル・スミス主演で日本では公開未定のようだ。この映画は、元アメリカンフットボール選手たちが、現役時代のプレーによる頭部への繰り返される激しい衝撃の後遺症として、若くして脳障害(慢性外傷性脳症(CTE))となることを告発した病理医ベネット・オマルを主人公としている。選手・元選手が全米フットボールリーグ(NFL)を相手取った裁判は2011年には6000人以上の集団訴訟となった(のちに和解)。

 

引退後に性格変化して家庭内暴力を振るうようになったスタープレイヤーたちは、ひどい物忘れで認知症となり、ときには自殺して果てる。その一人の病理解剖によりアメフット後遺症の脳障害という事実を発見したオマルはヒーローとして、またそれを隠蔽しようとする巨大ビジネスNFLは悪役として描かれていることは、ハリウッドのお作法通りだ。

 

だが、安全とリスクの観点に立てば、それほど白黒が単純とはいえないさまざまな問題が見えてくる。NFLの肩を持つわけでもないが、NFLが主張したとおりフットボールのリスクの評価には難しさがあるからだ。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

5. 丸山康司 「社会的受容性」とは何なのか

 

再生可能エネルギーの社会的受容性をどう考えればよいのか、さまざまな事例とともにご解説いただきました。

 

◇科学技術と社会の関係を問う

 

エネルギー問題への注目度はここ20~30年の間に飛躍的に高まった。福島原発の事故を契機とした2011年以降の脱原発の動きだけではない。気候変動枠組み条約のパリ協定(COP21)では、初めて世界196カ国の国・地域すべてが温室効果ガス削減を約束した。

 

このような社会状況の中、再生可能エネルギーの導入量は全世界的に増加し続けている。世界全体の動きと比べれば緩やかではあるものの、日本でも同様の傾向はある。程度の差こそあれ再生可能エネルギーの利用拡大そのものには一定程度の社会的支持があると見なせるだろう。

 

ところが事業が行われる地元地域では様子が異なることがある。地域住民や自然保護団体などの合意が得られなかったり、場合によっては反対運動が起こることもある。このような問題への考え方を整理し、実効性のある対応策を考えるための枠組みが本稿で扱う「社会的受容性」である。

 

技術が普及する最低条件は経済的な合理性であるが、社会的受容性とは技術が社会に受け入れられる条件や程度を幅広く問う視点である。技術の妥当性を評価する通常の尺度は経済的な合理性であり、人々の欲求や要求を満たす機能に関する評価と価格が市場で折り合うかという視点が代表的なものであった。

 

つまりある要求を実現する商品やサービスとしての妥当性という視点から評価されてきたことになる。けれども技術は単なる商品ではなく、社会的存在でもある。例えば自動車の普及と渋滞の関係のように、様々な形で発生する第三者への影響が論点になる場合がある。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

6.若林良 ゴールデンウィークのための映画案内

 

ゴールデンウィークに楽しめるオススメの新作映画を5本紹介していただきました。

 

◇『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』(4月30日公開)

 

予告動画:https://www.youtube.com/watch?v=BXXgZjUfvr8

 

「赤塚不二夫という漫画家を知っていますか?」現在こうした問いには、おそらく多くの方が「はい」と答えるのではないかと思います。

 

赤塚の死からまもなく8年がたちますが、その作品のひとつである『おそ松くん』の再アニメ化(アニメ版タイトルは『おそ松さん』)、またそれが一代社会現象になるにともない、ふたたび作者である赤塚自身にも脚光が当たるようになりました。その生誕80周年をうけて製作された、彼の生涯や人間性、そして作品の「原点」に迫っていくドキュメンタリーがこの『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』です。

 

タイトルに「マンガをはみだした」とありますが、まさにこれまでの「マンガ」の既成概念を覆したのが赤塚不二夫と言えます。たとえば、立ち上がるというただそれだけの動作に何コマもかけたり、絵がないセリフだけのコマで話を構成したり、「悪は滅んで正義は勝つ」という単純な道徳主義に捉われない、バカポンやウナギイヌといった魅力的な登場人物(“人”のみではありませんが)を生みだしたり。

 

そんな彼のマンガには、どのような背景があったのでしょうか?本作は生前の赤塚へのインタビューや関係者への取材、アニメによる再現ドラマなどでその「原点」を浮き彫りにしていきます。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

 

7.飯田泰之×荻上チキ×芹沢一也 シノドス・ラウンジ開設!――より進化した言論のかたちへ

 

4月11日にはじまったシノドス・ラウンジへの意気込みを語り合いました。

 

◇小さなセミナーから

 

芹沢:久々のシノドス三人衆の鼎談なのですが、最初に言っておくと、DMMではじめた「シノドス・ラウンジ」(https://lounge.dmm.com/detail/98/)の宣伝です(笑)。もちろん、やる意義があると思ったのではじめたわけで、本日は三人でそのあたりのことを話したいと思います。

 

飯田:シノドス・ラウンジは有料会員制の仮想コミュニティです。そして、シノドスの活動そのものがこういうクローズドなサロンでの交流からはじまりました。昔話で恐縮ですが、シノドスの本流に回帰する試みでもある。

 

芹沢:2007年4月、もう10年近い前になるんですね、15畳くらいの小さなスペースで参加者も6人くらいの小さなサロンのようなセミナーをはじめたのが、シノドスの第一歩でした。その頃はまだぼくがひとりでやっていて、1年くらい経ったところでウェブを視野に入れて行きたいなと。そこで『ウェブ炎上』を出版したばかりの荻上チキに参加をお願いして、荻上が立ち上げたのがこの電子マガジン「αシノドス」です。

 

荻上:当時はまだ日本版twitterもない時期で、「ブログ論壇」が主流でした。セミナーについても、カルチャーセンターみたいなものにするのではなく、具体的に「論壇」と「政治」の距離を変えること、その「目次」を変えることを目的にしていました。

 

もともとぼくは、「成城トランスカレッジ!」という人文系ニュースサイトを運営していたので、その経験を活かして、企画やウェブ編集という役割でシノドスに参加したんですね。そしたらすぐに、セミナーでの司会を務めるようになった。

 

芹沢:飯田さんは、最初はセミナーの講師でお呼びしたんですよね。シノドスセミナーを最初に書籍化した『日本を変える「知」』(光文社)には、講師としての飯田さんのセミナーが収録されています。……つづきはα-Synodos vol.193+194で!

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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