特集:大人の学習

1.関本保孝氏インタビュー 棺桶に夜間中学の卒業証書を入れてほしい――夜間中学における大人の学習とは

 

さまざまな目的を持った大人の学びの場でもある夜間中学についてお話しを伺いました。

 

◇夜間中学は時代を映す鏡

 

――夜間中学の利用者はどのような人々なのでしょうか。

 

全国に夜間中学校は31校あり、集約できた30校の生徒数は1825人になります。現在一番多いのは、新渡日外国人(ニューカマー)で59.2%です。昔からいる在日朝鮮人の方とは違い、主に1990年以降に日本に来た外国人の方たちですね。日本でお店を出している外国人のコックさんの奥さんや子どもや、最近は国際結婚での連れ子が増えています。

 

2番目に多いのは中国等からの帰国者で16%です。中国在留孤児やその配偶者や2世・3世の方々です。私が、夜間中学に関わりはじめた1978年当時は、圧倒的に中国帰国者が多かったのですが、今は年々減少しています。

 

日本人は16.7%です。かつて戦争や貧しさで勉強ができなかった方、不登校や引きこもりの若者、障がいを持っている方など、様々な理由で学びを求めてきますそのほかにも、在日韓国・朝鮮人の方、難民、日系移民、脱北者など様々です。

 

出身国は日本、中国、フィリピン、韓国・朝鮮などアジアが中心です。特に東京ではネパールの人たちが増えています。今までは中国の方が多くなっているのですが、経済発展し中国での雇用先が増えたせいか、少しずつ減っています。その国の経済状況を反映していると言えるでしょう。

 

関本氏

関本氏

 

――どのような年代の方が多いのですか。

 

10代~80代までまんべんなくいます。特に高齢の方には、かつて勉強できず、勉強したい気持ちが一生続いているのです。札幌の自主夜間中学では「死んだら棺桶に夜間中学の卒業証書を入れてほしい」という方がいたと言います。死ぬまで勉強したいという方が多いんです。

 

私が世田谷の三宿中にいたにときも、80代の方が練馬から通っていました。ヘルパーの資格を取りたいから、英語を勉強したいと言うんです。都バスを片道2時間のりついで、通学する熱心な方でした。その後、定時制の高校に行き、卒業したようです。最高、93歳の方もいました。かつて勉強できなかった方にとっては、自分の命のような感じがするのでしょうね。……つづきはα-Synodos vol.198で!

 

 

2.舞田敏彦 成人にも開かれた教育機会を――求められる「リカレント教育」とは

 

「教育大国」と呼ばれる日本の生涯学習の実態と、再び学校に戻って学び直す「リカレント教育」についてご執筆いただきました。

 

日本は、教育が普及した「教育大国」といわれるが、2つの問題が横たわっている。まずは、教育費の負担を家庭に負わせる「私依存型」の教育であることだ。初等中等教育はともかく、高等教育(大学)の学費はべらぼうに高い。奨学金は返済義務のある実質ローンで、借金は追いたくないと、学生は利用をためらう。そこでやむなく過重なアルバイトに従事し、学業が疎かになる。大学進学率50%超といっても、ただ籍を置いているだけの「形式的就学」も多い。こうした弊は、国が教育にカネを使わないことからきている。日本の公的教育支出額の対GDP比は3.5%で、OECD加盟国の中では最下位である(2012年)。

 

あと一つは、教育機会が成人に開かれていないことだ。人生80年の時代であるが、わが国では、教育を受ける(受けられる)時期が最初の20年ほどの間に集中してしまっている。むろん学校は子どもや若者の占有物ではなく、制度の上では、就学の門戸は成人にも開かれている。しかし後に述べる事情から、日本では学校に通う成人が著しく少ない。教育大国といっても人生の初期に限った話であって、生涯という長いスパンで見たら、その名に値する社会ではないのである。

 

この小論では、後者の問題に焦点を当てる。

 

◇成人の通学率の国際比較

 

日本では学校に通う成人が著しく少ないと述べたが、そのデータを示そう。OECDが2012年に実施した国際成人力調査(PIAAC 2012)では、「現在、何らかの学位や卒業資格取得のために学習しているか」と尋ねている。要するに「学校に通っているか」という質問だが、「イエス」の回答割合(通学率)をみると、日本の10代後半では90.5%、20代前半では39.2%だが、20代後半では5.1%、30代前半になると2.2%まで低下する。

 

われわれの感覚からすると何の違和感もないが、他国では様相が異なる。北欧のフィンランドとの比較をしてみよう。両国について、年齢層別の通学率を線でつないだグラフを描くと、図1のようになる。

 

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日本は10代の通学率は高いが、その後ガクン、ガクンと低下し、20代後半以降は地を這うような推移になる「L字」型だ。対してフィンランドは、曲線の傾斜が緩やかである。この国では、30代でも2割(5人に1人)が何らかの形で学校に通っている。色の面積によって、生涯学習の実現度の差が可視化されているといってよい。……つづきはα-Synodos vol.198で!

 

 

3.福田一彦 朝活学習は効果的なのか?

 

いつからか朝活がブームですが、早起きしての学習は本当に効果的なのでしょうか。そもそも睡眠や生物時計の仕組みはどうなっているのか? 私たち自身が朝の時間を有効に活用するにはどうすれば良いのか、解説していただきました。

 

◇そもそも朝早く起きられるのか?

 

朝活が効果的かどうかを議論する前に、朝、ちゃんと起きられるかどうかについて考える必要があります。朝に何か新しい活動を組み入れるためには、その分だけ早く起きなければならないのですから……。社会人で、朝早く起きている人は、すでに、その時間を有効に使っている人が殆どでしょう。ごく普通の人は、朝に起きるのに苦労してなんとか仕事に向かっているという状態ではないですか。そんな状態で、さらに普段より早く(無理して)起きて、その寝ぼけた頭で何か意味のあることをしようとしてもそれは全くの無駄ですし、行う活動の種類によっては危険でさえあります。

 

朝活が取り上げられたり、推奨されたりする背景には、朝の時間がうまく活用されていない、それどころか、朝にちゃんと起きられない人が多いという実態があると考えられます。多くの人が朝の活動を活発に行っていれば、そもそも話題にも上らないでしょう。そのような状況の中で、朝活は効果的だと言われて、なんとなく、その流行(はやり)に飛びつくなどというのは無駄なことです。それよりも、何で朝に起きられないのかについて、じっくり真面目に考えてみましょう。朝活が「万人」にとって効果的かどうかなどというあやふやな情報に振り回されず、あなた自身がちゃんと朝起きて有意義な「朝活」ができるようになることを考えましょう。

 

 

◇起きられないのはなぜなのか?

 

睡眠は、自由自在にとれるものではありません。もし、いつでもどこでも眠れてしまうのなら、それは、症状だけみれば睡眠障害と呼んでもおかしくありません。本来ならば、日中は眠ろうとしてもなかなか寝付くことが出来ず、夜は起きていようと頑張っても、ついつい眠ってしまうという状態が正しいのです。もし貴方が、日中、ついつい眠ってしまう、夜になってもなかなか寝付けない、という状態だとしたら、それは異常のサインです。

 

よく言われるように、日本人は世界的に見て非常に夜更かしで睡眠時間が短い国民です。周りの日本人と比べて「普通」だとしても、日本人全体が世界的な基準で見ると「異常」なので、逆に日本人として「普通」であることは、世界的には「異常」だということを示しています。周りの日本人が会議中や電車に乗って居眠りし、そして、夜更かしと、朝の寝覚めが悪いことが「普通」だとしても、それと同じだからといって安心はしないでください。これらの状態は睡眠を本来あるべき姿にすれば、すべて解消します。……つづきはα-Synodos vol.198で!

 

 

4.石村源生 サイエンスカフェの拓く未来――市民が互いの学習環境を能動的にデザインしあう社会を目指して

 

参加者全員が双方向に学び合い、“分からないことを楽しむ”大人の学習の場としてのサイエンスカフェのあり方について考えます。

 

筆者の所属する北海道大学CoSTEP(科学技術コミュニケーション教育研究部門)では、2005年の組織発足以来、科学技術コミュニケーションの教育・研究・実践を行っている。本稿では、その中心的な活動の一つである「サイエンスカフェ」について、「大人の学び」という観点から紹介したい。

 

そもそも「科学技術コミュニケーション」とは何だろうか。簡潔に伝えるのは難しいが、たとえば小林(2007)は「科学技術の専門家集団が自分たち以外の社会の様々な集団や組織と科学技術に関して意思疎通をはかる活動」としている。

 

これを筆者の言葉であらためて言い換えると「科学技術の専門家と市民、市民同士、あるいは異なる分野の専門家同士、行政関係者、マスメディア、教育関係者、特定の問題の当事者、その他、あらゆる立場の人々が、専門家/非専門家、文系/理系、特定の政策への賛成/反対、利害関係の差異、といった境界を越えて、科学技術、あるいは科学技術と社会の関係についてのそれぞれの主張や価値観、世界観、個人的体験などを伝え合い、議論と熟慮を重ねて、科学技術と社会のより良い関係を探究していく活動」ということになろう。

 

CoSTEPでは、この科学技術コミュニケーションの担い手を養成するために「科学技術コミュニケーター養成プログラム」(この略称も“CoSTEP”)という一ヶ年の教育プログラムを運営しており、プログラムは「大学卒業かそれと同等以上の者であれば誰でも」、つまり、「大人の学習者」を受講対象としている。

 

プログラムを設計するにあたり我々は、この「大人の学習者」である受講生の学びを実現するために特に以下の点に留意してきた。

 

・受講生の各々がすでに取り組んでいる(あるいは取り組もうとしている)実践そのものを「教材」として学び合うことを可能にすること。

・個々の受講生の特質や多様性を活かしつつ(これらを単に制約条件としてだけではなく資源・機会としても捉え)、実践の現場において実効性のある学びを提供すること。

 

こういった学びの機会を提供する目的で、CoSTEPでは教員の指導のもとに受講生自らが「サイエンスカフェ」という、科学技術の話題について街中でコーヒーを片手に気軽に語り合う双方向のイベントを企画・準備・実施・評価する教育活動を行っている。……つづきはα-Synodos vol.198で!

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

新しい政治を生み出すために、シノドス国際社会動向研究所をつくりたい!

 

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vol.214 特集:資源

・岡田勇「持続可能な資源開発への課題――カハマルカの事例から」

・三浦綾希子「ニューカマーの親子を支える地域の教育資源」

・宮本結佳「現代アートと地域の出会い――新たな資源創出の過程」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第2回:人生をしみじみする時