特集:交渉/ネゴシエーション

1.松浦正浩氏インタビュー「『交渉学』とは?――誰もが幸せになる問題解決のために」

 

「交渉学」とは、身の回りの交渉からビジネス交渉、外交政治や社会的合意形成まで、幅広く適用される理論だ。交渉で失敗しないためにはどうすれば良いのか? みんなが納得する合意形成とは? 『実践!交渉学――いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)の著者である、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授の松浦正浩氏にお話を伺った。(聞き手・山本菜々子/構成・大谷佳名)

  

◇当事者全員にメリットのある解決策を

 

――今日は、『実践!交渉学』の著者の松浦正浩さんにお話を伺います。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

 

――「交渉術」のビジネス書は数多く出版されていますが、「交渉学」と「交渉術」の違いは何なのでしょうか。

 

まず、学問かどうかという違いですね。ある個人の属人的な経験に基づいて論じられているものなのか、それとも科学的に導かれる根拠があるのか。また「交渉術」の特徴は自分自身が交渉の当事者ということで、どうすれば自分が得する結果になるのかという視点から論じられることがほとんどです。一方、「交渉学」では、より客観的な立場から分析する、交渉の外から交渉を捉えるという違いがあります。

 

ですから、交渉学を学んでも自分の交渉が上達するとは限りません。むしろ、自分自身が置かれている立場を見つめることで、「なぜ交渉が上手くいかないのか」という説明が得られるかもしれませんね。

 

――交渉の必勝法ではなく、客観的に分析をする学問なんですね。

 

はい。交渉学では小手先のテクニックではなく、いろいろな場面で応用できる体系的な枠組みが作られています。たとえば今夜の食事は何にするか、家事の分担はどうするか、あるいはビジネスの取引や国家間の紛争の調停まで、様々な交渉がありますよね。これらの問題をすべて共通のフレームワークで分析しようというのが、交渉学という学問なのです。

 

――交渉学の考え方の特徴などはありますか。

 

交渉学はもともと経済学の影響が強く、参加者はみな自由な存在と考えられます。規制はすべて存在しないものとして、自由な話し合いで物事を決定する。社会的便益や倫理的観点はひとまず置いておいて、個人の効用をいかに最大化するかを目指します。

 

しかし、自分だけが利益を得て相手が不幸になるような結果は、交渉学では「失敗」と考えられます。重要なのは、当事者全員にメリットがある解決策を見つけることです。お互いに利益をもたらす物々交換、取引を探し出す。「相互利益交渉」「Win/Win(ウィン・ウィン)交渉」とも言われますが、これこそが交渉学におけるゴールです。……つづきはα-Synodos vol.209で!

 

 

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2.国境なき医師団・村田慎二郎氏インタビュー「人道援助と交渉――『中立・独立・公正』の実践で信頼関係を築く」

 

紛争地域での人道援助において、交渉は重要な役割を果たす。現地政府やその対立勢力、またコミュニティにその活動の意義を認められて初めて、効果的な援助が可能となるからだ。しかし近年、紛争の対立構造が複雑化し、人道援助団体の交渉は困難を極めている。さまざまな利害関係者が活動し、複雑化する環境下で、彼らはいかにしてその交渉を成功させるのか。国境なき医師団で現地の活動責任者をされている、村田慎二郎さんに伺った(聞き手・構成/増田穂)。

 

◇徹底した中立性・独立性・公平性を伝える

 

――村田さんはこれまで、どのような地域で活動されてきたのですか。また、活動責任者の仕事などについても教えてください。

 

2005年に国境なき医師団のメンバーになって以来、南スーダンやシリアを中心として、さまざまな紛争地域で活動してきました。活動責任者になったのは2012年です。同年5月から2013年の6月までと、2014年1月から2015年2月までの合計約2年をシリアで活動し、2015年7月から2016年7月までの1年ほどは南スーダンで活動しました。

 

「活動責任者」とは、その名の通り、支援国での活動の責任者です。支援国ひとつにつき1人しかいないポジションです。1番重要な仕事は医療援助をどう執り行っていくか、活動の継続・中断も含め判断をします。紛争地域では、情勢が不安な中での活動が多いので、安全面でのマネジメントが重要になってきます。人道援助は援助側のスタッフの安全確保なくして成り立ちません。かといって、ある程度のリスクを覚悟しなければ、本当に援助を必要としている人々を援助できない。スタッフの安全を考慮しつつ、どれだけ効率的に、必要な場所で、必要な人に確実に医療援助を届けられるか、バランスの見極めが重要な仕事です。

 

――現地で活動する上で、交渉が担う役割とはなんなのでしょうか。

 

先ほども申し上げたように、紛争地での人道援助活動における最重要課題は安全確保です。海外からの派遣スタッフ、現地スタッフ、患者などさまざまな人の安全を考慮しますが、これが確保されない状態で、援助活動は不可能です。この安全を確保するため、現地のさまざまな関係者と交渉し、活動の承認を得ていくことになります。

 

とはいえ相手が活動を認め攻撃はしないといっても、本当にその約束を守るのかは別問題です。お互いの信頼関係が重要になる。シリアでは多数の組織が活動しており、情勢が不安定な中で団体がいかに信頼を勝ち得ていくのかが1番の課題でした。

 

――安全確保のため、国境なき医師団ではどのように交渉を行っているのですか。

 

現地の武装組織や政治勢力との実質的な交渉の場では、国境なき医師団が、彼らにとって無害で、地域にとって有益な存在であることを伝えます。国境なき医師団の活動は「中立・独立・公平」な立場で、人道的医療援助を行うことを理念としています。この活動理念を、ひたすら説明し、理解してもらう。

 

例えば、国境なき医師団では活動資金のほとんどが、個人や民間企業からの支援で成り立っています。公的機関からの寄付が占める割合は1割程度です。特にシリアでは内戦の政治的な複雑性から、活動予算の100%を、全世界に500万人いる個人からの寄付で行っていました。ワクチンなども欧州諸国からは輸入しない。こうした資金面、物資面での独立性を説明し、運営面の中立性を理解してもらうように努めました。財政、物流の面で多くの制限を自ら課すことになり、やりくりが厳しくなりますが、それを実行することが我々の中立性を証明し、信頼を得ることにつながるので、この部分は徹底しています。……つづきはα-Synodos vol.209で!

 

People walk down a street in Bustan Al Kasr neighbourhood after it was hit by airstrikes in mid-October 2016.© KARAM ALMASRI/MSF

People walk down a street in Bustan Al Kasr neighbourhood after it was hit by airstrikes in mid-October 2016.©KARAM ALMASRI/MSF

 

3.幡谷則子「コロンビア和平プロセスの課題――新和平合意をめぐって」

 

10月に行われた、南米コロンビア政府と同国最大の左翼ゲリラ組織「FARC」との和平合意をめぐる国民投票は、日本でも大きく報道されました。その後、現地では新しい合意文書をめぐる審議が続いています。長年にわたる国内紛争の歴史を振り返り、和平合意が国民にとってどのような意味を持つのか、今後の展開について考えます。

 

◇はじめに

 

南米コロンビア政府と左翼ゲリラ、「コロンビア革命軍-人民軍(FARC-EP)」(以下FARC)の和平合意が僅差で否決された国民投票(10月2日)から2ヶ月が過ぎようとしている。停戦協定は年末まで延長されたものの、この間、宙に浮いた和平合意とその後のFARC兵の身の処し方をめぐって、国民全体が不安に苛まされている。そのような中、12月10日にはサントス大統領に、これまでの和平合意への努力を評価するものとして、ノーベル平和賞が授与される。

 

和平合意文書の国民投票での否決は、衝撃的な出来事として国際メディアに取り上げられた。しかし、その後平和賞受賞のニュースでコロンビアの和平プロセスに一条の光がさしたと理解され、国際メディアにはほとんどこのテーマは登場しなくなった。一方で、現地では政府とウリベ上院議員を筆頭とする「合意内容に対する反対派」(以下、反対派)との合意形成が難渋した。これまでも「クリスマス停戦」は幾度となく宣言されてはその後決裂し、紛争が再燃した。特に近年紛争地として苦しんできた周辺県—チョコ、ナリーニョ、カウカなどでは住民の不安が高まった。

 

出口が見えなくなった和平プロセスを前に、政府は反対派の意見を吸い上げる姿勢をみせ、これを踏まえて政府交渉団とFARC代表との間で11月12日に新合意文書が作成され、同24日にボゴタのコロン劇場で歴代大統領をはじめ、政府要人を含む750名が臨席の上、調印式が行われた。(注1)El Tiempo紙の11月24日記事参照。

 

こののちすみやかに新合意文書は国会に提出され、翌11月29日には上院で、30日に下院で特別総会が開かれ、そこで本新合意文書の承認審議にかけられることとなった。だがこの「新合意文書」内容の履行には課題が多く、必ずしもこれをもって現状打開のめどがたったと楽観視することはできない。

 

以下では、今回の政府——FARCとの和平合意の意味と、それが宙に浮いてしまった背景、今後の行方と課題について、コロンビアの国内紛争の歴史とその背景にある社会的政治的構造も考察しながら、読み解いてみたい。……つづきはα-Synodos vol.209で!

 

 

4.橋本努「南仏エクス・アン・プロヴァンス滞在とハン・サンジンの社会学」

 

橋本さんが今年、南フランスの古都エクス・アン・プロヴァンスに滞在された体験をもとに、エッセイをご執筆いただきました。現地で交流された韓国の社会学者ハン・サンジン氏の「中民理論」は、日本の政治状況においても示唆に富む内容です。

 

◇はじめに

 

2016年の夏から秋にかけての約二か月半、私は南フランスの小さな古都、エクス・アン・プロヴァンスで過ごすことになった。とくにフランスに行く必然性はなかったのだけれども、滞在先では思わぬ出会いがあった。韓国の社会学者ハン・サンジン(韓相震)先生と、その妻で研究仲間でもあるシム・ヨンヒ先生にお会いしたのである。

 

とりわけハン・サンジン先生は世界的に著名な社会学者であり、韓国では金大中のブレインとして活躍、また最近では第三の政党「国民の党」の設立にも尽力した政治的経験をもっている。日本ではこれほどスケールの大きな社会学者はおそらくいないだろう。

 

お二人との出会いは、これまでの自分の人生に照らしても大きな出来事になったように思う。正確に言えば、出会ったというよりも、正面が全面ガラス張りのアパートで、私は二人の部屋のあいだに挟まれながら、なかば監視状態で生活していた。人口約14万人のフランスの小さな町で、これがどんな体験になったのか。振り返ってみたいと思う。

 

◇自由主義の研究プロジェクト

 

もうだいぶ前になるけれども、私は大学の学部時代にフランス語を履修して、三年次にはシャンパーニュ地方のランスで二週間ほど語学研修をしたこともあった。ところがその後はフランス語に触れる機会もあまりなく、かれこれ30年の年月が経ってしまった。今回、フランス語をそれなりに勉強していったとはいえ、これといってフランスに研究テーマを求めていたわけではなく、ただ西洋世界に対する全般的な関心から赴いた。

 

機会を与えてくれたのは、フランス人のジル・カンパニョーロ先生。たまたま京都の日文研で数年前に知り合った方で、昨年度は北海道大学に客員研究員として滞在してもいた。彼の所属先が、エクス・マルセイユ大学連合のなかのエクス・アン・プロヴァンス・キャンパスにあったので、私はその近くにある学生寮の一部を借りて、この地に滞在することができた。

 

カンパニョーロ先生は、三年前からEUの研究資金を得て、リベラリズムと中国に関するテーマで研究プロジェクトを運営していた。LIBEAC(リベアック)と呼ばれるこのプロジェクトは、すでに最終段階に入っていた。2016年9月には最後のワークショップを残すのみで、プロジェクト全体の成果はすでにルートッレッジ社から書物として刊行されていた。私は最後のワークショップのみ、このプロジェクトに参加したことになる。

 

プロジェクトはそもそも、中国と自由主義の関係がテーマであり、私の専門とする事柄ではなかったのであるが、ただこのプロジェクトでは、中国を代表する研究者として、韓国人のハン・サンジン先生とシム・ヨンヒ先生を迎えていた点が興味深い。ハン・サンジン先生は北京大学の客員教授であり、中国の研究者を代表する立場にあった。二人の研究関心には当然、韓国社会も射程に入っており、二人の研究成果となった論文は、東京とソウルと北京におけるアンケート調査をもとに、東アジアにおける家族意識の違いを分析するという興味深いものだった。

 

むろんこの論文は実証分析であり、「リベラリズム」の定義については「家族の縛りがない個人主義の文化」という具合に、簡単に規定されていた。そのような個人主義の文化は、ハイエクの観点から見れば「大陸型」の個人主義であり、「偽りの個人主義」にすぎないといわれるだろう。むしろ家族ベースの個人主義の方が「真の個人主義」であるというのが、ハイエクの立場であるだろう。

 

いずれにせよ、北京とソウルと東京を比較した場合、このハイエクの考え方に一番近い個人主義文化は、どうも東京にありそうである。とはいっても日本人の家族観は、別の意味で集団主義的な特徴を示しているので、日本における個人主義をどのように解釈すべきなのかということが問題になる。また日本では、家族そのものがリベラルな関係に変化している可能性もある。さらなる関心をかき立てられた。……つづきはα-Synodos vol.209で!

 

 

5.片岡剛士「経済ニュースの基礎知識TOP5」

 

日々大量に配信される経済ニュースから厳選して毎月5つのニュースを取り上げ、そのニュースをどう見ればいいかを紹介するコーナー。今回は、失業給付期間延長、税制改正論議本格化、国民年金法改正案衆院通過、2016年7~9月期GDP一次速報値、トランプ氏の財政政策について。

 

◇第5位 失業給付期間延長(2016年11月29日)

 

今月の第5位のニュースは、厚生労働省がまとめた2017年度の雇用保険制度改正案についてです。報道によれば、12月2日に開催する厚労省の雇用保険部会で素案として示すとのことです。

 

雇用保険改正案のポイントは、大きく給付拡充と負担軽減に分かれます。こうした給付拡充と負担軽減の背景には、雇用保険の積立金額が過去最高になっていることも影響しているでしょう。

 

給付拡充は、倒産や解雇により離職した30~44歳の失業給付期間を30~60日延長すること、給付額を最低賃金が引き上げられた事を受けて数十円から数百円増額すること、専門的な教育訓練費用の助成率の引き上げ、雇い止めで離職した人の給付延長措置の継続、就職に伴う転居費用の助成を拡充することが含まれています。30~44歳の失業給付期間の延長は他の年齢層と比べ受給期間中の就職率が低いことが理由です。

 

負担軽減策については、雇用保険料率を0.8%から0.6%に引き下げ、また失業手当の国庫負担を13.75%から2.5%に圧縮することが盛り込まれています。雇用環境が改善する中では、雇用保険の積立金を減らして労使に還元すること、離職している人への援助をより手厚くすることが可能となります。能力やスキルの向上につなげる取組みが引き続き求められます。……つづきはα-Synodos vol.209で!

 

 

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