特集:分断を乗り越える

吉田徹氏インタビュー「ポピュリズムはなぜややこしいのか?」

 

近年、世界中で次々とポピュリズム政党が躍進している。ポピュリズムはなぜ生まれ、私たちに何を教えてくれるのか。民主主義である限り、その存在は避けては通れないものなのか。『ポピュリズムを考える 民主主義への再入門』(NHK出版)の著者である、北海道大学教授の吉田徹氏に伺った。(聞き手・構成/大谷佳名)

 

 

◇「敵」と「人々」を創出するポピュリズム

 

――「ポピュリズムは悪」というイメージがありますが、決まった定義はあるのでしょうか。

 

定義が時代や学者によって変わるところがポピュリズムの難しいところなんです。それがポピュリズムの分かりにくさに拍車をかけています。ただ、大前提として、ポピュリズムは分析のための概念でも記述するための概念でもなく、政治での侮蔑用語として流通してきたということを踏まえる必要があります。「あいつはポピュリストだ!」と相手を非難するための言葉であって、学術用語ではありません。

 

つまり、ポピュリストと呼ばれる政治家は自ら「私がポピュリストだ」、「私が掲げるポピュリズムとは……」などとは言わないんですね。一貫したイデオロギーではないので、時代や文脈によってその中身が変わるということ自体がポピュリズムの本質なんです。

 

 

――では、ポピュリズムと言われるものをどう捉えれば良いのでしょうか。

 

歴史的にポピュリズムとされる政治現象をみると、いくつか特徴があるのも事実です。一つは、エリートや既得権益層を敵として見なすことです。ポピュリズムの語源はラテン語の「人々」(ポプルス populus)にあります。ポピュリストたちは既存の政治家やエリートを「敵」と定め、「人々」の本来の意思を阻害したり、利益を奪っていると批判します。つまり、エリートと「人々」の二項対立的に政治や社会を捉えるという特徴を持っています。

 

また、ポピュリズムは、概ね、その運動を率いるリーダーの名前と対になっています。ポピュリストは「私こそが名もなき『人々』の代弁者だ」と主張し、一方でエリートに対しては、彼らの政策が正しいか・正しくないかではなく、「道徳的に腐敗している」「存在として許しがたい」と批判する。彼らの発するメッセージは、人々の感情に訴えかけるような単純で直接的なものも多い。専門家による理知的な議論を嫌い、むしろ庶民的なイメージや「素人っぽさ」を売りする。だから、このリーダーは「あの人は私たちの分身なんだ」という感覚を呼び起こすようなカリスマ性を持っています。

 

そして、その「人々」や「エリート」が具体的に誰なのか、予め決まったものではないというのが三つ目の特徴です。それは時々の文脈で変わります。「人々」と括られるのは、ときには農民や労働者など搾取されてきた階級であったり、男性であったり、文化的な正当性を持つとされる特定の民族であったり、主権者であるにも係らず排除されてきた人民であったりする。同じように、その「敵」として想定されるエリートの中身も変わっていきます。

 

日本の場合、ポピュリスト政治家は知事に多いことも特徴的ですね。それは、日本の地方政治は、「二元代表制」すなわち、知事と議員が別々の選挙で選ばれるため、知事は議会を敵にしやすい。まさに今の小池百合子都知事がそうですが、「議会は既得権益で凝り固まっている」「住民の利益を尊重していない」と批判する、という構図を採りやすいからです。

 

 

◇ポピュリズムはなぜ生まれるのか

 

――ポピュリズムと呼ばれるものが台頭してくる原因は何なのでしょうか。

 

よく「ポピュリズムが民主主義を危機にさらしている」と言われますよね。しかし因果関係はむしろ逆で、民主主義が危機にあるからこそポピュリズムが現れてくると考えた方が正しいのではないかと私は考えています。

 

代表する人々がいて、代表される人々がいて、両者の意思が常に一致しているというのが、代表制民主主義の基本的な論理です。しかしこれはフィクションであって、実際には代表する人々と代表される人々の間には、常にズレが生じてきます。すると、いたるところで利益や価値の配分が上手くいかなくなってしまう。たとえば男性と女性、エリートと労働者、正規労働者と非正規労働者など、社会の中でさまざまな分断線が走り始めます。

 

そうなってしまうと人々は、「民主主義なのに自分たちは正当に代表されていない」という不満を募らせていく。そこにポピュリズムはつけこむわけです。つまり代表民主主義をとる国である限り、ポピュリズムの火種は必ずあるんです。その中で、代表性が機能不全を来たし続けるとポピュリズムが爆発することになります。

 

アメリカのトランプ大統領が典型的ですが、メディアから批判されればされるほど、「やっぱりエリートは我々を批判する。なぜなら、あいつらは既得権益を守りたいからだ」と言って、これがますます説得力を持つようになる。うまくできているんですね。……つづきはα-Synodos vol.224で!

 

 

 

荻上チキ責任編集“α-Synodos”vol.224

 

 

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2017.07.15 vol.224 特集:分断を乗り越える

 

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