和解だけが救いの形ではない――『聲の形』作者・大今良時氏の目指すもの

完璧を求められないのはくやしい

 

荻上 原作のある前作『マルドゥック・スクランブル』と今回の作品では、やはり勝手が違いますよね?

 

大今 違いますね。どっちも楽しいです。『マルドゥック・スクランブル』は、小説の中にモチーフがたくさん出ているので、そこに引っ張られて描けるので描きやすかったです。でも難しかったです。主人公の女の子にモノローグがないし、発する言葉が「~なの?」みたいに質問か疑問ばかりだから人格がなかなか見えなくて。私が描いた「マルドゥック」が完璧だったのか、いまでもわからないです。

 

荻上 自信はあまりない?

 

大今 いやあ、もう、自信ないですよー。どのシーンも「なんでここをこんな風に描いたんだ?」って聞かれたらいちいち解説できますけど、それは面白いかどうかと関係がないので。「わかんねえよ、面白くねえよ」って言われたら、「すいません……」と言うしかないです。

 

荻上 『聲の形』もそうですけど、大今さんの画は、キャラクター同士の遠近感から、その関係性を一コマで説明する絶妙さがありますよね。「この構図やアングルでしか描けないだろうな」といつも思わされる。自然と描けてしまうものなんですか?

 

大今 うーん、わからないです。編集者さんにもらったアドバイスは常々思い出しながら描いていますね。場面転換したときは、なるべく俯瞰したコマを描くとか。パラパラっと適当に読む読者もいるので、ページをめくったときに最初に目につく左上には、派手な絵とか良い絵を持っていくとか。

 

荻上 かなりテクニカルな面を意識されているんですね。

 

大今 それはできればできるほどいいですね。どうあがいてもできないってときもありますけど。

 

荻上 週刊だとすぐ締切りが来ますから。無限に描き直すことができない。どこかで折り合いをつけないといけませんよね。

 

大今 いやあ、完璧を求められないのは、くやしくてしょうがないです。

 

荻上 大今さんにとって完璧ってどういうイメージですか?

 

大今 気にくわないところ、理解できないところがゼロの状態です。本当にこの表情は、セリフは正しいのか。自分で疑問に答えられないと駄目ですね。

 

荻上 すべてが緻密に構成されたと自分が確信できたとき。

 

大今 そうですね。それができなかったときは作画が崩れています。キャラがなにを考えているのかわからない状態で描いているので、変な顔していますよ。

 

荻上 完璧、というのは他の漫画家の方でも判断できなそうですね。他の方の作品は読みますか?

 

大今 あまり漫画は読まないんです。マガジンでも。いや、マガジンは面白いですよ(笑)。でも「引き寄せられたらいけない。自分が好きなものを見失ってはいけない。危険だ!」と思うため、読まないようにしています。影響されるのはわかっているので。頭の中のイメージが逃げてしまうかもしれない、と。

 

ただ自分の漫画とは遠い、ギャグ漫画とか、エロ漫画は読んでいますね。あとは映像作品とか。

 

 

大今良時さん

大今良時さん

 

 

アンチコメントで成長する

 

荻上 ネットでいろいろ議論されているじゃないですか。2ちゃんねるのスレッドとかの書き込みってみますか?

 

大今 がっつり見ますね。「見てるよ」とも言っているので。書き込みしている人も、大今に見られているのはわかっているんじゃないでしょうか。話題にされること自体は嬉しいですけど、読者のいち考察が、いつのまにか「公式」になる現象は嫌です。

 

荻上 それはどの漫画にも、映画にも小説にもありますね。読者には解釈の自由がありますが、裏を取らないままで作者の心情を決めつけたりは、やはり嫌ですね。そうした書き込みを見るときは、作品に反映しないように意識するものなんですか?

 

大今 私の中にあるものは曲げずに描きますし、逆に導かれることもあります。私よりもうまく文章にしてくれているものを見るのは嬉しいですね。でも、心に残るのって、アンチのほうなんですよね。

 

荻上 ああ、わかります(笑)。100のlike!よりもひとつのdisのほうが気になるし、何気に参考になる場合もある。

 

大今 そうなんですよ。絶賛コメントよりもアンチのほうが感情が伝わってきて気持ちがいい。「大今って漫画家は聴覚障害者が面白いと思ったから漫画にしたんだ」といった書き込みがあるのは、私がどうして書いたのかなにも言っていないのに好き勝手に書いているわけです。そういうもので埋め尽くされている世界は人を傷つけることもあると思いますが、書き込みをみるたびに、この漫画を描いていて幸せだと思うんです。

 

荻上 その読者にとっては、「障害はこうやって描くべきだ」という考えが強固だからこそ、そうしたものが作品に反映されていないことへの怒りを覚えるのかもしれない。その様々な反応にどうこたえるか。

 

大今 そうですね。「自分、育っているな!」って感じがします(笑)。【次ページにつづく】

 

 

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