インドネシア大虐殺はなぜ起こったのか

当時のインドネシア駐在アメリカ大使は本省への報告のなかで、「インドネシア共産党の罪、裏切り、残虐性についての物語を流布する秘密の宣伝活動こそが、今一番必要とされている(インドネシアへの)緊急援助だ」と述べており、自分たちも共産党についてのネガティブな噂を流布させることに協力していたようである。こういったメディアの報道を多くのインドネシア人は鵜呑みにし、共産主義者への憎しみを募らせていったのだった。

 

こうして、主としてもともと共産主義者に反感を持っていたイスラーム組織のメンバー、あるいは、日本の暴力団にも似た、プレマンと呼ばれる、チンピラ集団が実際の殺戮に手を染めた。その殺し方は、目をえぐったり、耳を刃物で削いだり、体を切り刻んだり、信じられないような苦痛を与えることが多かったという。

 

いったん治安当局が逮捕した者たちを、拘束先から連れ出して集団殺戮を行うというケースもあった。これらの行為は国軍や警察に黙認されていた、というより奨励されていた。

 

1965年12月にバリに視察に行った日本の領事は、「軍警は・・・これら国民党系分子の行動に対しては傍観的というより好意的支援を与えているかの観がある」と本省へ報告している。

 

 

沈黙していた諸外国

 

狂気の嵐のように続いたこの虐殺を諸外国はどう見ていたのであろうか?不思議なことに人権侵害として非難声明を出したのは中国政府くらいであって、その他は日本を含む西側諸国もあるいはソ連や東欧諸国も沈黙を保った。

 

東南アジアで共産主義勢力が拡大することを恐れていた西側諸国は、このままじっと静観していて国内勢力によって共産党が一掃されるのを持っているのが賢明だと考えた。

 

安全保障問題顧問のロストウは、「われわれの政策は沈黙である」と大統領あてに書いていた。それにとどまらず、当時ジャカルタのアメリカ大使館は、インドネシア共産党一掃作戦をたやすくするために、自分たちが作成していた党員五〇〇〇名の名簿を、インドネシア国軍に提供したとさえ言われる。

 

中ソ論争で中国とイデオロギー的に対立していたソ連や東欧諸国は、中国共産党寄りのインドネシア共産党を擁護しようとはせず、型通りの非難声明を出しただけで強い態度はとらなかった。

 

政府はともかくも、諸外国の国内世論もまた共産主義者に味方することはなかった。そもそも欧米諸国のメディアは、自国の諜報機関等によってかなりマインド・コントロールされており、真実を把握することができなかった。

 

たとえばイギリス政府は、駐インドネシア大使ギルクリストの勧めで、外務省情報調査局の高官で宣伝工作の専門家であった ノーマン・レッダウェイを、9・30事件後ただちに派遣し任務にあたらせたが、その活動の中には諸外国のメディアを反スカルノの方向へ誘導するという情報操作も含まれていた。

 

その場合情報が政府から出たものではないように装うために、「ザ・タイムス(The Times)」「デーリー・メール(Daily Mail)」などの新聞やBBCを活用した。彼は、朝ジャカルタから出てきた自分たちに好都合の情報を、夕方までにはこれらの大手のメディアの記者に伝え、彼らを通じて各地のメディアに報道させたという。

 

このように政府もメディアも沈黙を保ち、そのことによって虐殺行為がさらにエスカレートしていったのだとすれば、日本を含む欧米諸国にも大きな責任があるといえるだろう。

 

「アクト・オブ・キリング」に続いて制作され、現在上映されている、同じくオッペンハイマー監督の「ルック・オブ・サイレンス」は、兄を虐殺された弟が、虐殺に手を貸した人々を訪ね歩き、「なぜあなたは兄を殺したのですか」と問い詰めていく姿を記録したものである。

 

 

 

 

主人公アディは、「過ちを認めることは恥ずかしいことではない。しかもいつでも遅すぎるということはないのです」と筆者に語った。

 

沈黙を保ったことにより一翼を担った日本も、その言葉の重みを考えてみる良い機会ではないかと思う。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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