コンゴの紛争下における性暴力、紛争鉱物とグローバル経済――ドキュメンタリー映画『女を修理する男』上映会

シリーズ「等身大のアフリカ/最前線のアフリカ」では、マスメディアが伝えてこなかったアフリカ、とくに等身大の日常生活や最前線の現地情報を気鋭の研究者、 熟練のフィールドワーカーがお伝えします。今月は「最前線のアフリカ」です。

 

 

コンゴの紛争状態とムクウェゲ氏の活動

 

1996年に、ルワンダ虐殺の首謀者の掃討、コンゴのモブツ独裁政権の打倒などの理由から、ルワンダをはじめとする周辺諸国が介入して以降、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部では20年にわたって「紛争状態」が続いている(注1)。

 

(注1)「紛争状態」とは、公式には外国軍が撤退し、コンゴ政府と反政府武装勢力との和解が成立しているものの、残存する外国とコンゴの武装勢力が活動を続け、住民に暴力をふるう状態をさす。

 

1996~1997年の第一次コンゴ紛争においては、「ジェノサイド」とも特徴づけられる非人道的行為が行われ(国連報告書、2010年)、また1998~2002年の第二次コンゴ紛争においては、周辺国をはじめとする約17カ国が軍事的や政治的に介入して「第一次アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な国際紛争に発展した。

 

2003年に公式には紛争が終結してもなお、コンゴ東部では複数の武装勢力による活動が継続し、累計で約600万人という、第二次世界大戦後、世界最悪の犠牲者を生んでいる。同時に、大規模な性暴力が紛争手段として行われ、コンゴ東部は「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」とも描写されている。

 

このコンゴ東部において、性暴力のサバイバーを治療してきたコンゴ人の婦人科医をご存知だろうか。

 

その名はデニ・ムクウェゲ(Denis Mukwege)氏。日本語で同氏について執筆しているのは、筆者(米川)を含めて数名であり日本ではほぼ無名だが、国際社会、特に欧米諸国では著名である。

 

2015年4月、このムクウェゲ氏の活動を描いたドキュメンタリー映画 ‘The Man Who Mends Women’(邦題『女を修理する男』)がティエリー・ミシェル&コレット・ブラックマン監督によって制作された。本作品は、ムクウェゲ氏が1998年にコンゴ東部のブカブにパンジー病院を設立して以降、暗殺未遂に遭いながらも、医療、心理ともに4万人以上のレイプ・サバイバーを治療してきた姿を映している。(注2)

 

(注2)2012年10月、自宅で暗殺未遂にあうが、犯人は未だに逮捕されていない。ムクウェゲ氏が狙われた理由は、彼がアドボカシー活動の際にコンゴ紛争と性暴力の責任者を強く非難し、コンゴ政府とルワンダ政府が怒りをあらわにしたため、それと関連していると言われている。

 

その上、コンゴ東部ではほとんどの加害者が処罰されることがないため、同氏は法律相談所を数カ所開設するなど、法の支配の確立にも力を入れてきた。加えて、サバイバーの衝撃的な証言、加害者の不処罰、希望に向かって活動する女性団体、そしてこの悲劇の背景にある「紛争鉱物」(注3)の実態も描いている。

 

(注3)「紛争鉱物」とは、当該鉱物の採掘・流通にともなう利益が政府、あるいは武装勢力によって紛争資金に利用されている鉱物をさす。

 

ムクウェゲ氏はコンゴの性暴力のサバイバーを治療した最初の婦人科医であり、またコンゴ東部における鉱物の略奪を目的に軍や反政府勢力が性暴力を犯し続けた事実について、国連本部をはじめ世界各地で声高に非難し、女性の人権尊重を訴えてきた最初の人物である。その活動が国際社会で評価され、これまで国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(2014年)、サハロフ賞(2014年)などを受賞し、ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも数回挙がっている。

 

 

映画『女を修理する男』のポスター、中央がデニ・ムクウェゲ氏

映画『女を修理する男』のポスター、中央がデニ・ムクウェゲ氏

同氏はコンゴ民主共和国東部のブカブを拠点に活動中

同氏はコンゴ民主共和国東部のブカブを拠点に活動中

 

 

紛争下における性暴力への取り組み

 

紛争下における性暴力が国際的に注目を浴びたのは、1990年代に入ってからである。それ以降今日にかけて、国際社会ではさまざまな取り組みが行われている。例えば、国連が設置した1990年代初めの旧ユーゴスラビア内戦における戦争犯罪を裁く旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)と、やはり1990年代初めに起こったルワンダのジェノサイドでの戦争犯罪を裁くルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)では、紛争下の組織的性暴力が罪に問われた。1998年の国際刑事裁判所(ICC)のローマ規程では、人道に対する罪や戦争犯罪に「性奴隷制」や組織的性暴力が含められている。

 

2000年には国連安保理において、紛争下での性暴力から女性・少女を保護する重要性を謳い、また加害者を確実に処罰し、性暴力に関する「不処罰」の連鎖を終えるために各国政府や国際機関が責任を果たすように要請する決議1325号「女性・平和・安全保障」が採択された。日本政府もその決議1325号等の履行に関する行動計画を2015年に策定している。そして、2014年には「紛争における性暴力停止のためのグローバルサミット」がイギリスで開催された。

 

このように紛争下での性暴力撲滅に向けた取り組みが少しずつ立ち上がっているものの、コンゴ東部においては、1996年以降、女性の3人に2人が性暴力の犠牲になり、その数は計40万人以上とも言われる。男性のサバイバーもいる。

 

なぜこんなにも性暴力が蔓延してしまったのだろうか。【次ページにつづく】

 

 

現地の会合で、性暴力の問題について話し合う女性たち

現地の会合で、性暴力の問題について話し合う女性たち


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