若者と高齢者、2世代間の絆を育む――フランスの異世代ホームシェア

2011年公開のフランス映画「みんなで一緒に暮らしたら」(Et si on vivait tous ensemble?)を覚えていらっしゃる方も多いのではないだろうか。人生最後の過ごし方を模索していた長年の友人5人は、世話係の学生を雇い入れ、共同生活を始める。一緒に暮らす中で生じる数々のトラブルを軽妙なタッチでコミカルに描く、心温まる作品である。しかし一方で、社会的に孤立しがちな高齢者の現実を浮き彫りにする。

 

シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)がお届けする、「世界の市民活動」シリーズ第3回。今回は、学生に住居を提供するともに高齢者の孤独を解消しようとする、フランスにおける異世代ホームシェアの試みを取り上げる。

 

 

新しい共生のかたち

 

2003年夏、フランスは異常熱波に襲われる。特にパリでは酷暑が続き、1人暮らしの高齢者を中心に約1万5000人が熱中症で亡くなった。そこでNPOのLa Paris Solidaireが発足し、シニアと若者のホームシェアを推進。市も補助金を出すようになった。現在は30以上の団体が異世代ホームシェアの運営を行っており、大都市から地方中小都市までフランス全土に広がりを見せている。今回はそのうちの1つ、ensemble2générations(以下、E2G)を紹介する。

 

 

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2006年6月に発足したE2Gはキリスト教系のNPO。福音書の教えが基礎となっており、ホームページには、「慈善は永遠に創造的である」という16~17世紀のフランスに生きたカトリック教会の司祭Vincent de Paulの言葉が引用されている。高齢者の孤独を解消し、学生に住居を提供する。共同生活を通じて他者への心遣いの中に喜びを見出してもらい、2世代間の絆を育むことが目的である。もちろん、信仰を問わず誰でも利用することができる。

 

E2Gはこれまで、約2400人の学生に無料、または相場より低い家賃で住居を提供してきた。シニアの側は、日常生活の中で小さな手伝いをしてもらい、大切な時間を誰かと共有したいと望んでおり、部屋を借りる学生はその期待に好意的に応えることが求められる。創立者のTyphaine de Penfentenyo氏は、2012年11月、欧州委員会の雇用・社会問題・統合総局が推進する欧州世代間連帯年の大賞を受賞した。

 

対象となる学生の条件は、18~30歳で住居を探しており、慎み深く熱心な性格で、進んで手伝いをし、お年寄りに親近感を持っていることである。一方、対象となるシニアの条件は、60歳以上で家に空き部屋があり、日常生活の中で誰かの存在と手助けを必要とし、学生に居住先を提供する意欲があることとなっている。

 

学生は申し込みをする際に、自分の経歴、学校の場所、入居希望の期日などに合わせて、候補となっている受け入れ先の中から希望を出すことができる。その後、E2Gのスタッフがシニア宅を訪問し、推薦する学生の経歴を一緒に確認し、どのような手伝いをしてもらいたいかを決める。一緒に住む上で、調和的かつ持続的な関係を作ることができるよう、シニアが学生に何を期待しているのか明確にすることが重要である。

 

最適なマッチングが決まったら、両当事者に契約書、家屋の現状明細書、手伝いのリストが送られる。契約書は毎年9月に更新される。入居前に対面することも可能である。また入居後もE2Gは定期的に追跡調査を行う。学生の態度があまりにも悪い場合、告知がなされてから8日後に契約が解除される。また、契約を自発的に解除したい場合、その1ヶ月前に予告しなければならない。

 

E2Gに特徴的なのは、シニアの希望に応じて、「無料住居」、「経済的住居」、「連帯住居」の3つの形式を用意している点である。共同作業の程度に合わせて、家賃に差を付けることで、学生にとっても選択肢が広がった。

 

まず「無料住居」の場合、基本的に学生はシニアと一緒に夕食をとる。キッチンに自分の料理ができるスペースは確保されているため、食事はそれぞれ用意してもよい。1週間に1回は自由に夜を過ごすことができる。また、月に2回は自由に週末(金曜日の夜から月曜日の朝)を過ごすことが許され、1年の間に3週間の休暇を取ってよい。なお、これらは学生が享受できる最低限の自由時間であり、シニアとの合意の上、増やしても構わないとされる。

 

 

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次に「経済的住居」の場合、学生は定期的に何らかの用事に付き添うことになっている。例えば、庭仕事、芝刈り、パソコン指導、買い物、ペットの世話、病院への付き添い、日曜大工、郵便物の受け取り、戸締まり、ゴミ出し、留守番などである。具体的な内容については契約書に示されている。イル・ド・フランス地方の場合は月80~100ユーロ、プロヴァンス地方の場合は月50~90ユーロの家賃を払う。

 

そして「連帯住居」の場合、学生は勉強優先で構わないが、シニアへの気配りは欠かさず、自発的に手伝いをすることとされる。あくまで孤独を解消することが目的なので、礼儀をわきまえ、敬意と思いやりに満ちた関係の中で同居することが望まれる。パリの場合は月400~450ユーロ(市場相場は月550~600ユーロ)、イル・ド・フランス地方の場合は月250~350ユーロ、プロヴァンス地方の場合は月250~300ユーロの家賃を払う。

 

なお、学生は、会費として「無料住居」と「経済的住居」の場合は390ユーロ、「連帯住居」の場合は300ユーロを毎年9月に支払う。シニアは、住居訪問の費用40ユーロに加え、会費として「無料住居」と「経済的住居」の場合は350ユーロ、「連帯住居」の場合は200ユーロを毎年9月に支払う。入居が1月以降になった場合、会費は減額される。

 

E2Gのプログラムでは、シニアとの共同生活において、学生が何をどれだけ負担するのかということについて明確に決められている。お互いの役割をはっきりさせることは、不要な衝突の回避につながる。私個人もルームシェアの経験があるが、誰がゴミを出し、部屋を掃除するのかということについてよくルームメイトと口喧嘩をしたものである。ただし、「それ以外のことはしなくなってしまう」との配慮から、交流や手伝いに関する条件を定めない団体もある。

 

もちろん、E2Gが定めているのは最低限の仕事であり、時間が経つとより関係が深まり、一緒に過ごす時間も自然と増える。73歳の女性は、部屋を貸している学生が自分を映画に誘ってくれることが「とても嬉しい」と語っている。また、シニアは若者から手伝い以上のものも得られる。学生とのホームシェアを経験した85歳の男性は、共同作業を通じて「自分が若返った」ように感じたという。(http://www.ensemble2generations.fr/seniors_temoignages.php#

 

若者がシニアから学ぶことも多い。ある学生は、「自分にとって素晴らしい経験で、将来に希望が持てるようになった。礼儀作法も学ぶことができた。」と、ホームシェアを振り返っている。また、86歳の女性と共同生活をした学生は、「彼女は自分をとても信頼してくれるようになり、これまでの長い人生経験を語ってくれた。彼女を1人の指導者として、自分は成長することができた。」と感想を述べている。(http://www.ensemble2generations.fr/etudiants_temoignages.php

 

 

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異世代ホームシェアは1999年にスペインのバルセロナで始められた。それ以降、ヨーロッパ各国では、ホームシェア団体が活発な活動を行っている。イギリスでは1999年にHomeshare Interationalが設立され、世界各国のホームシェア団体と連携し、情報共有を図っている。Homeshare International は2年ごとに世界ホームシェア会議も開催しており、今年(2017年)は5月25~26日にスペインのマドリッドで行われた。

 

 

「居場所」をつくる

 

日本はどうか。内閣府が発表した平成29年版高齢社会白書によると、平成 27(2015)年現在、65歳以上の高齢者がいる世帯数は 2372万4千世帯と、全世帯(5036万1千世帯)の47.1%を占める。65歳以上の1人暮らし高齢者の増加は顕著であり、昭和 55(1980)年には男性約19万人、女性約69万人、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、平成27(2015)年には男性約192万人、女性約400万人となっている。

 

核家族化と地域コミュニティの空洞化に伴う高齢者の孤立は深刻な社会問題となっている。東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京23区内における一人暮らしで 65歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成15年(2003年)には1451人であったが、平成27(2015)年には3127人となっており、増加傾向にある。1人暮らしの高齢者が振り込め詐欺や消費者被害にあう、または自ら犯罪に手を染めてしまうケースも目立つ。

 

このような状況を受け、日本でも異世代ホームシェアの試みが見られるようになった。2008年に設立されたNPO「ハートウォーミング・ハウス」は、東京・世田谷を中心に、空き部屋のあるシニアと手頃な家賃の住居を探す若者をコーディネートしている。

 

また、2012年設立のNPO「リブ&リブ」は、E2Gの協力を受けて実施データの分析や現地調査を行い、その上で、大都市に住む1人暮らしの高齢者と、地方から出てきた大学生とを仲介する。東京都では他に、NPO街ing本郷が2015年に「一つ屋根の下プロジェクト」を始動。大学生とシニアのホームシェアを推進するだけでなく、様々な交流の場を設けて、それぞれが地域と結びつくきっかけづくりに励んでいる。

 

行政も少しずつ動き出している。2011年には京都府が、高齢者宅の空き部屋に低廉な負担で若者が同居し、交流する次世代下宿「京都ソリデール」事業を開始。府は地域創生戦略の一貫として、高齢者と若者の情報収集、マッチングおよび同居後のアフターフォローを行う6つの事業者に業務を委託している。また、福井大学と福井県社会福祉協議会が協働して異世代ホームシェアを行っている事例もある。

 

日本における異世代ホームシェアの試みでは、シニアが過度に若者の面倒を見てしまい、本人にとって負担になってしまうというケースもあった。あくまで手伝いであり、介護ではない。お互いに依存することなく、付かず離れずの関係を作っていくことが望ましい。団体がしっかり管理・運営する仕組みが必要だ。

 

小さなことでも時間を共有することが相互の理解と孤独の解消において重要だ。お年寄りは、一緒にご飯を食べ、お茶を飲む相手がいるというだけでも、毎日を楽しみに生きていけるようになる。さらに、若者から新しいアイディアやエネルギーを吸収し、生きがいを取り戻すこともできるだろう。もちろん、誰か家にいるという安心感を得られることも大きい。

 

 

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一方、1人じゃないから安心だと言うのは高齢者だけではない。特に見知らぬ土地で大学生活を始める若者にとって、帰る家があるのとないのとでは大きな違いだ。異世代ホームシェアはお年寄りの孤立解消に主眼を置く一方、若者に居場所を与えることにも貢献する。普段接することのないお年寄りから、人生の知恵や経験を学ぶことができるまたとない機会でもある。

 

人は1人では生きていけない。戦後、ナショナリズムに対する反省と経済発展の中で、個人はコミュニティから解放された。しかし、自由な個人は孤独である。そして、何かに帰属することを求める。異世代ホームシェアは、高齢者の自立支援や学生の住宅負担軽減という側面だけでなく、コミュニティの再構築を図る上で示唆的な試みである。特定の価値観に縛られることなく、誰もが帰属できる、帰属したいと思える社会をつくる。そのためには、世代を超えた人間のつながりが欠かせない。

 

 

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