2016.05.18

五感で探る!環境汚染の法則性

環境汚染化学・高田秀重氏インタビュー

情報 #教養入門#高校生のための教養入門#マイクロプラスチック#環境汚染化学

進路を考える高校生にお届けする『高校生のための教育入門』。今回は、化学物質の環境汚染を調査研究されている高田秀重さんのインタビューをお送りします。私たちの生活に由来する化学物質はどのように環境へ広がり、影響を及ぼしていくのでしょうか。近年、関心が高まっている「マイクロプラスチック」による汚染の実態と生物への影響についても解説していただきました。(聞き手・構成/大谷佳名)

モットーは『現場百篇』

――高田先生のご専門の研究について教えてください。

合成洗剤や医薬品、抗生物質、そしてプラスチックなど、僕らが日常生活で使っているものの中には化学物質がたくさん含まれていますよね。そうしたものが下水に流され、雨で流されて川や海に入って行ったり、風に運ばれて環境に出て行くと、生物に有害な影響が及ぶ可能性があります。また、環境に出て行った後も一箇所に止まるわけではなく、空気の流れに乗って動いたり、海に入ってもずっと水の中を漂うものもあります。

僕らの研究は、それらがどれくらい環境に出てどのように広がっていくのか、そして生物の中にどう取り込まれていきどのように蓄積して影響するのか、その法則性をつかむことを目指しています。これまで人類が発見した(あるいは合成した)化学物質は全部で1億種類に達すると言われていますが、その中で主に僕らが調べているのは有機の汚染物質です。具体的には合成洗剤や医薬品、プラスチック、環境ホルモンなどです。また、石油流出事故などが起きたときの石油汚染なども調べたりしています。

――汚染物質の広がり方や影響にも法則性が潜んでいるのですね。

汚染物質にも光で分解されるものもあれば、川の底に沈殿して地下に沈んでいくものもあり、それぞれの性質によって分解や蓄積の程度も異なります。ですから、物質の性質と環境の中での動き方に法則性を見出すことを究極的な目標として研究しています。そうすることで、ある物質の汚染が問題となったときに物性と法則性が分かっていれば、東京湾まで行くのか行かないのか、生物にどのような影響があるのかを調べることができるのです。

僕らの研究の基本はフィールドワークです。海や川などでモニタリングをして、取ってきたサンプルの成分を分析し、どこにどれくらいの汚染物質があるのかを調べています。具体的には、溶剤を用いてサンプルから対象となる物質を分離し、機械にかけて汚染の濃度を測ります。一つのサンプルで分析結果が出るまでに1〜2週間かかり、地道な作業となります。ただ、それだけで終わるのではなくてきちんと法則性を見出せるように研究を行っています。

分析

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――モニタリングというのは、実際に現場に足を運んで調査をされるのですか?

はい。川や海に行って水を取ってきたり、底の泥を取ってきたり、海では貝や魚もとってきます。それを研究室に持ち帰って、成分を分析しています。フィールドで調査を行ったりサンプルを取ってくるという作業が、僕たちの研究の3分の1〜半分くらいを占めます。

やはり、その場に行って自分で見たり聞いたり、場合によっては匂いもしていますから、五感をもって現場を感じることが環境化学においては非常に重要となります。たとえば試料を分析してある汚染物質の濃度が高い・低いという結果が出たときに、その原因を考える上で現場の情報は重要なヒントになるのです。

僕のモットーは「現場百篇」、これは新聞記者の言葉ですが、現場にとにかく足を運んで、資料の背景にある情報を探る。それとデータを融合させ、解釈が生まれます。実は僕の父親は新聞記者で、「現場百篇」とは父の口癖だったのです。

――なるほど。現場の温度や湿度も関係してくるのですか?

そうですね。分析結果の解釈のときに大事になってきます。とくに僕らは東南アジアで調査を行うことが多いのですが、日本とは空港を一歩出たときの熱気と湿度から違っています。東南アジアの国は結構行っていますが、どこもそうですね。ベトナム、カンボジア、ラオス、マレーシア、インドネシア、タイ、インドなどです。

――東南アジアにはどのような汚染が進んでいるのでしょうか。

やはり自動車の走行など日常生活に由来する化学物質は人間活動が活発になればなるほど環境に多く出ていきます。僕らが行った調査からは、自動車のエンジンオイルによる汚染が見えてきました。東南アジアは豪雨(スコール)が降りますから、車から出て道路の上に積もったエンジンオイルはどんどん海へ流されていきます。つまり、陸上の汚染がすぐに海の汚染に反映されると。そういう解釈も、やはり現場に行って湿度や温度を感じたり、サンプリングの最中にスコールが多いことなど体験しておくと、割と容易に出てくるのです。

――豪雨によってゴミをまとめた場所から流れ出ていくという汚染もあるのですか?

はい。東南アジアは日本と違って燃えるゴミ・燃えないゴミと分けていないのです。ゴミは生ゴミも含めて全部一緒にしてゴミ処分場という埋立地に積んでいます。そのため生ゴミから染み出してきた水が雨と混ざって、それがいろいろなゴミを洗ってゴミ処分場の地下に入ったり、あるいは川に入って海に出て行く。

ゴミを分別していないので、どんどん積み立てていくとそこが腐った環境になっていきます。酸素が少ない環境になるとある種の汚染物質が発生しやすくなるのです。酸素があるところであれば起こらないような反応が起こり、物質の毒性が上がってしまうのです。それらがゴミから染み出してくる水にたくさん含まれていることも分かっています。これも、実際にゴミ処分場に行ってみないと分からないことです。

写真1

このゴミ処分場は1〜2Kmくらいの広さで、ゴミが山のように積もっています。煙が出ているのが分かるでしょうか。なぜ煙が出ているのだと思われますか?

――ゴミを焼いている煙ではないのですか?

意図的にではなく、自然に燃えているんです。この下に生ゴミがたくさん積もっているので、腐ってメタンが発生します。そこに火がつくとどんどん火が強まり、ゴミも一緒に燃えていく。ゴミが低温あるいは空気があまり供給されないで燃えると、ダイオキシンという有害な化学物質が発生するので非常に危険です。酸素のない環境で発生した有害物質が溶け込んでいくと水の有害性も上がります。これも現地に行って煙が出ている様子を目にすると、解釈をする段階で考えやすくなります。

「負の遺産」は今も残る

――日本の調査も行われているのですか?

日本でもやっています。日本と東南アジア、最近はアフリカでも調査しています。気候や社会的な状況が変われば違う汚染があるのではと考え、ここ5年ほど調べています。アフリカは雨が少なく、乾燥地帯なので水自体が非常に貴重です。地下水にかなり依存しているため、そこの汚染を調べているところです。日本は東北大震災後の汚染のプロジェクトなどにも関わっています。また、東京湾は30年くらい継続して調べています。

――震災後の汚染についてはどのような調査をされているのですか?

津波によって陸上にあった油のタンクや自動車が流されたので、燃料のガソリンやエンジンオイルによる汚染物質が確認されています。それらが震災後、どれくらい浄化されてきているのかを毎年調べています。震災の翌年まではいくつかの地点で汚染が見えていましたが、徐々に状況は良くなってきました。

また、下水処理場が震災でダメージを受けて働かなくなったので、下水処理場で取り除かれるはずのものが海に流れてしまっていることも2012年くらいには見えていました。それも大分良くなってきています。

――浄化は自然によるものなのでしょうか。

一回海に入った汚染については自然の浄化です。水中で分解されてなくなったものもありますし、上から泥が積もって出てこなくなったものもあります。その辺を切り分けていくことが本当にやりたいことなんですよね。どの作用が浄化にどれくらい寄与しているかが分かれば、かなり法則化は進むと思います。

高田氏
高田氏

――海の泥に積もったものについては、どのように調べているのですか?

海の底にパイプに錘をつけて落として、そこに入ってきたものを持ち上げて分析しています。これは被災地だけではなく、他の調査でもよく行っていることです。そして取ってきたサンプルを横にスライスしていくと、昔から今までの汚染の様子が分かります。地層と同じように、人間の汚染の歴史が泥の中に刻まれているのです。

たとえばプラスチックは使われるようになったのが最近なので、表面の方にだけ出てきます。東京湾の真ん中のように1年間に1センチずつ積もっていくものだと、1メートルで100年分。ですから、1メートル下にはプラスチックは見つかりません。また、皇居の堀で取った泥は90センチとると江戸時代までさかのぼることができます。

――そんなに前のものも!

もちろん江戸時代に対応する層からはプラスチックは出てきませんが、1950年くらいだと少し出てきて、2000年くらいだと10倍くらい増えることも分かってきています。

地層には年代の区分が決められていますよね。地質学的な区分でいうと今は第四紀の完新世という時代です。いま地質学者の間で議論になっているのは、人間の活動の影響が環境に強く出ているので、完新世が終わって「人新世」という時代に突入したのではないかということです。その理由として、温暖化の影響が北極や南極の氷の中に見つかっていることも大きいのですが、もう一つは地層の中にプラスチックなど人間の活動に由来するものが出てきていることが理由となっています。

――私たちの活動の影響がはっきりと蓄積されているんですね。

はい。また、使用をやめても汚染が消えないで環境中にずっと残留し続けるものもあります。たとえば、この図は東京湾で採取した泥の中に含まれているPCB(ポリ塩化ビフェニル)という物質の分布です。PCBは1950〜1960年代の高度経済成長期に工業用の油として広く使われていました。しかし、1970年代初頭に毒性を持っていることが明らかになり、今は使用が禁止されています。

図:PCBの濃度分布
図:PCBの濃度分布

図は濃度が横軸、縦軸が泥の深さになります。上から25センチくらいのところに濃度のピークがありますね。縦軸にはいつごろ堆積したかという年代が書かれていますが、これは放射能を使って別途測定したものです。これと合わせて見てみると、PCBは1950年代に現れてきて徐々に濃度が上がり、1970年代にピークになった後、減っていくことが分かります。PCBの使用の歴史をよく反映した形になっています。

注意すべきなのは、表面の濃度を見てもPCBがなかったころの状態には戻っていないということです。たしかに濃度は下がってきていますが、表面から25センチくらいのところに残留しているため、海底が撹乱されるとまた水の中に戻っていきます。ですからいつまでも汚染が続くと。これを「レガシー汚染」といいます。昔使っていたものが、今になっても負の遺産として残っている。世界中でPCBのレガシー汚染は明らかにされています。

見えない場所から流れついたもの

――今、私たちの生活の中から出る汚染とはどういったものがあるのですか?

一番量が多いのはプラスチックです。だいたい、一世帯でプラスチックのゴミが一日1Kgくらい出ると言われていますが、その一部が海に流れ出ています。また医薬品も多く、泥には蓄積しないで水に溶けています。あとは、自動車の排気ガス等に含まれるもの、暖房を焚いたときに発生するものでしょうか。

写真2

写真は東京湾でサンプリングした泥ですが、その中にアルキルベンゼンという物質が入っています。アルキルベンゼンは合成洗剤に含まれる分解されにくい成分です。合成洗剤の成分は比較的分解性が良いのですが、これだけは分解されずに泥の中にずっと留まっています。実は、アルキルベンゼンは僕がこういう仕事を始めるきっかけになった物質なのです。これが東京湾の底の泥に溜まっていることを見つけたのが僕の卒業論文でした。それからずっと40年くらいこの研究をしていることになります。

――それまでは環境を汚染していることも知られていなかったのですね。

はい。そもそも合成洗剤の中にその物質があるということも、それがまして海の中に出ているとは誰も知らなかったことなのです。その論文は僕が修士1年のとき1983年に「Nature」に掲載されましたが、ちょうど同時期、アメリカでもアルキルベンゼンを発見した人がいて、その人が先に書くか、僕らが先に書くかという競争になりました。当時自分では英文で書けなかったので、指導教官の先生が書いたのですが、こちらが先に論文ができたので「Nature」に載ることができたわけです。

――当時も今と同じような研究手法を用いていたのですか。

そうですね。もともと僕の卒論のテーマは、東京湾でとったサンプルから車の排気ガス等に由来する物質だけを取り出すことでした。数千〜数万種類の物質が混ざっているので、うまく他のものと選り分けていく作業をしていたのです。ところが、その選り分けたものを分析してみると、今まで見たことのないようなピークが出てきた。これは何だろうと調べていくと、アルキルベンゼンだったのです。ですから、たまたま見つかったことになります。

当時はちょうど、非常に細いチューブを使った測定法(キャピラリーガスクロ)が出来たころでした。このような技術的な進歩があると、誰かがそれを使って新しい発見をします。だから、同じ頃にアルキルベンゼンを僕らも見つけたし、アメリカの研究者も見つけたということになります。誰が見つけるのかは偶然ですが、進歩があるというのは技術的な積み上げの中での必然ということです。おそらく科学の発展はどの分野でも同じことが言えると思います。

今、「東京湾の泥の中にアルキルベンゼンがある」というと、なるほど陸から流れてきたのでしょうねと思いますが、実際に船で東京湾に行ったときに、さすがに真ん中ほどに行けば陸は見えないのです。それくらい陸から離れたところでも陸から来たはずのものがあるということに最初は非常に驚きました。ある種の科学的な意味での感動があり、それからずっとこういう研究を続けています。何ステップもかけて化学的な分析をすると初めて見えることがある。それが非常に面白いなと思っています。

海に漂う「マイクロプラスチック」

――近年、「マイクロプラスチック」の海洋汚染が問題となっています。これはどういうものなのですか?

もともと陸から流れてきたプラスチックごみが紫外線と波の力で細かくボロボロになり、5ミリ以下の大きさになったものが「マイクロプラスチック」です。

写真3: 太平洋、日本列島沖1000kmの海の表面に浮いているマイクロプラスチック
太平洋、日本列島沖1000kmの海の表面に浮いているマイクロプラスチック

プランクトンを集める網にかかっていたものがこれです。プランクトンと一緒にあるということは、魚がプランクトンと一緒に飲み込んでしまうことを意味しています。もっと大きければ魚は食べませんが、この大きさだとエサと区別せずに食べていきます。実際に、東京湾で捕れた魚の内臓からマイクロプラスチックが検出されています。

仮にその魚を私たちが食べたとしても、マイクロそのものは排泄されて抜けていくはずです。ただ問題は、もともとのプラスチックに化学物質が含まれているということです。一つは添加剤。色がついているなら何か化学物質が残っていることになりますが、着色料、酸化防止剤、燃えにくくするための添加剤、プラスチック同士をくっつきにくくする添加剤など、さまざまなものがこれくらい小さくなってもまだ残っています。それらは魚の脂肪に蓄積していくと考えられます。実際に僕らが海鳥の体内を調べたところ、プラスチックに由来する化学物質が蓄積していることが分かってきています。

もう一つは、プラスチックは一種の個体状の油ですので、水の中から油に溶けやすい汚染物質をくっつけていきます。さきほど泥にたまりやすい汚染物質と水中に残りやすいものがあるとお話ししました。汚染物質の中で有害なものの多くは泥に溜まりやすいです。つまり、水の中に比較的低い濃度で存在する有害物質がプラスチックに付着し、どんどん濃度が上がっていく。

それも、水との倍率でいうと100万倍くらいに集めていきますから、マイクロプラスチックは有害な化学物質の運び屋になっています。ただのプラごみのなれの果てではないのです。こういうものを魚が食べたときに脂肪に有害な物質が蓄積することも考えられます。マイクロプラスチックの量が増えればより深刻な問題となっていきます。

――その魚を人間が食べることで、どのような健康被害が生じると考えられるのでしょうか?

ゆっくりと慢性的な健康の度合いの低下として表れるのではないか、あるいは既に問題が起こっているのかもしれないと思っています。昔の水俣病やカネミ油症の問題のように急性毒性的に特定の人に問題が起こるのではなく、例えばガンになりやすいとか、免疫力が下がって風邪を引きやすくなるとか、全体の問題として人々の健康が損なわれることが考えられます。しかし、そうなるとなかなか因果関係をとりにくいので、この化学物質が影響していますと特定できない部分もあります。

今のところ、マイクロプラスチックに含まれている化学物質の影響が野外の生物で確認された例はないです。日本も含めて、他の国でも。ただ室内実験では、汚染物質が付着した小さなプラスチックを魚に食べさせると、肝機能が低下したり、腫瘍ができることが確かめられています。

――もともとマイクロプラスチックはどこから来たプラスチックなのですか。海水浴に来た人が持ち帰らなかったゴミが多いのでしょうか?

そうではないのです。そう考えられることが多いのですが、主には陸上からきたゴミです。街でポイ捨てしたゴミや、ゴミ箱が溢れて風に吹かれて運ばれたものが、雨に流されて水路に入り、やがて川から海に入ったと考えられています。海水浴場で置いていったゴミは逆に少ないです。あらためて僕らの陸上でのプラスチックの管理の仕方、使い方を考えていかなければならないと思います。

日本はわりとゴミが少なくて綺麗な国だと言われますが、それでも道を歩いていると1日1回位はレジ袋が舞っているのを見ると思います。そう考えると、結構な量が廃棄物の管理から漏れて環境に出て行っているので、それが最終的に海に集まって来ていると。大きなゴミが壊れていけばそれだけ数が増えていくので、無数のマイクロプラスチックが作られていると考えられます。

先日のダボス会議では、今世紀の後半になると海の中で魚の量よりもプラスチックの量の方が多くなってしまうという発表がありました。それはまさしく、陸上でのプラスチック使用の増加に管理体制が追いつかないということです。あるアメリカの研究者によれば、今後20年で海に入るプラスチックの量が10倍になるともいいます。そうなってしまうと、今は野生の生物に影響が出ていなくても、これからは目立つようになるとも考えられます。

また、プラスチックは非常に安定ですよね。さきほど東北の震災由来の汚染で、自然に分解されて良くなる場合もあるとお話ししましたが、プラスチックの場合は自然に分解することはありません。いくら時間が経過しても大きいものが小さくなるだけで、小さく回収不能になったものがたくさん海の中に漂うことになります。数十年経ってこれはいかんと気が付いても、もう環境に出たものを回収することはできないので、今のうちに手を打たなくてはいけません。

――このサイズになってしまうと、もともと何だったのかを特定することも難しそうですね。

そうですね。もし分かればそれを規制するという話になるのですが。プラスチックは製品によってさまざまな添加剤が入っているので、それぞれ非常に細かい分析を行い、同じ成分のマイクロプラスチックと結びつけることは、理論上は可能だと思います。ただ、今まで以上に精密な分析技術が必要になるので非常に難しい仕事だと思います。ただ、やらないといけないことだと思っています。

「昔に戻れ」ではなく

――マイクロプラスチックを増やさないために、どのようなことができるでしょうか。

ゴミの管理をしっかりすることも大事ですが、それ以前になるべく使い捨てのプラスチックを使わないように暮らしていくことを、特に若い人に言いたいですね。僕らの子どもの頃はペットボトルの飲み物などありませんでした。今の若い人たちはこれが自然だと思っているかもしれませんが、実はそうではないということを知っていただきたいです。あとはレジ袋でしょうか。僕の子どもの頃は、スーパーマーケットに行ってもプラスチックの袋ではなく厚手の紙袋でしたが、今はそうではないですよね。まずは、プラスチックの袋がなくてもやっていけるのだと知ってもらいたい。

そして、今の技術を使えばプラスチックがなくても便利にやっていける方法もあります。たとえば今は「セルロースナノファイバー」という技術があり、紙の分子と分子の間の密度を上げることによって、雨に濡れても破けにくい紙を作ることができます。また、海に出てもやがては分解されるので環境への負荷は少ないです。そのような技術開発を一緒にやっていければなと思います。

今の技術を取り入れながら、でも全体としてのシステムは循環型になるような仕組みを考えていくことが重要です。「昔に戻れ」ではなかなか進まないと思うので、ものの循環の仕方を理解した上で、それに上手く合うように新しい技術を使って、僕らがそれほど不便さを被らないでプラスチックに依存した社会から脱却する方法を探ること。それは環境の分析やモニタリングだけではなくて、技術開発するような人や、流通の仕組みを考えるような人、社会科学的な側面も含めて一緒にやっていかないと解決しない問題だなあと考えています。

――最後に、高校生へのメッセージをお願いします。

僕は高校では化学部に入っていて、多摩川の水質検査をしていました。そうした研究を大学でもやりたいなと思っていて、水の汚染の研究で第一人者だった当時の東京都立大学(現・首都大学東京)の先生のところで研究をしようと決めました。もし高校生でフィールドワークが好きな方がいたら、それを活かせる研究の道もあるということを知っていただきたいですし、一緒に研究をしていきたいと思います。

また、環境汚染の研究に限らず、フィールドワークが好きならその能力を活かした入試の仕組みもありますので、それも検討してもらえればと思います。僕らの大学も「ゼミナール入試」といって、授業を聞いて実験のレポートを書いてもらうような試験の形式も用意しています。実験やフィールドワークが好きな人には、是非それを活かせる分野に来てもらいたいです。

今の時代、高校生でなかなか進路を考えるのは難しいと思いますが、偏差値だけを気にするのではなく、自分の関心がある分野の専門家がいる大学を考えてもらいたいと思います。僕も高校は進学校で、当時の東京都立大学はみんなが東大や京大を受ける中では少しランクの落ちるところでしたが、それでも受験してこの道に行けて良かったなと感じています。

僕の担任の先生は「好きに選んだら」と言ってくれたので、感謝しています。とくに今は、高校の先生たちもレベルの高い大学にたくさん合格者が出る方向で指導されていますが、それだけではなかなか芽のある人の芽が出なくなってしまいます。ですから今興味のあるもの、将来やってみたいことがあるなら、試験の偏差値だけを考えずにそれを実現できる大学を考えて欲しいです。

高校生におすすめの三冊

合成洗剤、石油汚染、ダイオキシン、環境ホルモン、医薬品など様々な環境汚染物質について、それらの発生源、分布、環境動態を解説している。特に、これらの有機汚染物質の動態を物質の性質を基に法則的に理解することを目指して書かれている。東京農工大学農学部環境資源科学科2年生の教科書。

環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)について基礎からわかり易く解説している啓発書。環境ホルモンとは何か、どのように作用するのか、などについて専門的な事項もきちんとおさえつつ、物語風に書かれているので、大変読みやすい本である。

マイクロプラスチックとプランクトンが高密度で混在する海域(プラスチックスープの海)を世界で初めて発見したチャールズ・モアが、プラスチック汚染に警鐘を鳴らし、対策についても述べている啓発書。全体が物語り風に書かれており、読みやすい本である。高田が翻訳のお手伝いをして、巻末に解説文も寄せている。

プロフィール

高田秀重環境汚染化学

東京農工大学農学部環境資源科学科教授。理学博士。専門は環境中における人工化学物質の分布と輸送過程の解明。対象は地球表層全般。日本海洋学会、日本水環境学会、日本環境化学会より学会賞受賞。2015年に「マイクロプラスチックによる海洋汚染の研究及び海洋環境保全への貢献」で海洋立国推進功労者表彰内閣総理大臣表彰。1998年からプラスチックと環境ホルモンの研究を開始し、2005年以来International Pellet Watchを主宰している。2012年から、国連の海洋汚染専門家会議(GESAMP)のマイクロプラスチックのワーキンググループのメンバーとして、海洋プラスチック汚染の評価を行っている。信条は、現場百ぺん、予防原則、No-single use plastic!

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