2014.04.15

生命はゴロゴロいるのか、いるとしてもマレな存在なのか――宇宙から生命の起源を考える

アストロバイオロジー・小林憲正氏インタビュー

情報 #アストロバイオロジー#教養入門#地球生物学

宇宙には生命がいるの? 生命ってどうやってできたの? そんな疑問をもったことが誰にでもあるでしょう。今回の「高校生のための教養入門」は、宇宙から生命の起源を考える、「アストロバイオロジー」についてお話を伺いました。(聞き手・構成/山本菜々子)

アストロバイオロジーとはなにか

―― 小林先生のご専門はなんですか

生命の起源を中心としたアストロバイオロジーです。大学では、理工学部の化学生命系学科で分析化学の分野を担当しています。

―― アストロバイオロジーというのは、どのような学問なのでしょうか。直訳すると「宇宙生命学」ですよね。宇宙生命を探す学問なのですか?

「アストロバイオロジー」は1998年にできた新しい言葉です。NASAがつくった造語で、似たような分野は、1960年ごろからありました。「圏外生物学(exobiology)」といいます。当時は、宇宙開発がはじまった時期でした。宇宙開発をしていく中で、地球の生物を宇宙にもっていったり、宇宙から生命を持ち込んでしまう可能性がありますよね。宇宙と生命の関係をしっかり勉強しないと困ったことになるという危機感からはじまった学問でした。

1996年にNASAのグループが火星から飛んできた石の中に、生命の痕跡があったと発表しました。それをきっかけに、宇宙と生命の関係が注目されるようになります。NASAとしても深く研究するために、新しい看板が欲しい。それで「アストロバイオロジー」という言葉ができました。「圏外生物学」と研究のテーマ自体は一緒です。

アストロバイオロジーは、簡単に言うと、生命はどのようにして誕生し進化してきたのか、生命とは何か、生命の将来はどうなるのか、に応える学問です。

―― 宇宙の生命についてやると思っていたのですが、地球生命の起源までやるのはなぜですか。

大きく考えれば、地球とはあくまでも宇宙の一部です。「生物学」は宇宙規模でみると「地球生物学」なんです。ですから、生物学を一般化した場合に、地球の生物もその一つだし、仮に火星人がいても生物の一つです。地球に関わらず生物のことを考えるのが、アストロバイオロジーです。

生命は地球以外にもいるのだろうか。ゴロゴロいるのか。いるとしてもマレな存在なのか。ゴロゴロいるなら、生命は簡単にできる。地球だけが幸運に恵まれて生物がいるのであれば、生命ができるのはマレなことになります。

実は、科学者の間でもこの問題は意見が分かれています。天文学者は、「ゴロゴロいる」と言う人が多いし、地球の生物学者は「こんな素晴らしいものそんな簡単にできるものか」と思っていると。私は、天文学者の方に立ち、ゴロゴロいるのではないかと思っています。

「負のエントロピーを食べるもの」

―― 火星人の話が出てきましたが、火星の生命は、地球の生命とは違うしくみである可能性が高いですよね。その場合、なにをもって「生命」と認めるのでしょうか。

生命の定義は人によっていろいろと違います。ここでは、シュレーディンガーの定義を考えてしましょう。

―― 「シュレーディンガーの猫」というのを聞いたことがあります。

そのシュレーディンガーです。彼は、『生命とはなにか』という本の中で、生命とは「負のエントロピーを食べるものである」と言っています。

―― 「負のエントロピーを食べる」? うーん。難しい表現です。

かみ砕いて言えば、モノはそのままだと壊れていきます。ですが、生命は周りからいろんなものを集めて体を作っていきますよね。それが「負のエントロピー」ということです。

地球の生命の場合、タンパク質と核酸をつかって、それを袋の中に詰め込んでいます。袋は脂質でできています。これらがうまく働くと生命になります。

しかし、これはあくまでも地球限定の話です。地球という枠をはずしたら、また違った生命の形がある可能性があります。

タンパク質や核酸を、機能で置き換えてみましょう。タンパク質は、触媒作用をしていて、化学反応によって自分の体をつくったりエネルギーを作り出したりします。核酸は自分と同じコピーをつくり、増えていきます。ですから、代謝しながら増えていき、かつ袋に入っているようなものが生命だと言えます。

―― 袋は大事なんですか?

SF小説などでよく、海全体が一つの生命であるといった話がありますよね。まぁ、でもそこまで行くと、無限の可能性を考えなければいけません。ですから、中身が生命で外は生命でないという仕切りが必要です。

IMG_9937

生命の材料

―― では、地球外に生命がいるとしたら、どのようなものでできているのでしょうか。

生命の起源を考えるときに、核酸やタンパク質はどうやってできたのかを考えることが多いのですが、それはあくまでも地球の場合です。宇宙の生命を考える場合、必ずしもタンパク質と核酸にこだわる必要はありません。

とはいえ、タンパク質の基であるアミノ酸は、実は簡単にできるのです。私もいろんな実験をしてきて、アミノ酸なら宇宙空間の中でもちょっとした条件ですぐできることがわかりました。宇宙空間でできると、いろんな星に流れ着く可能性も高い。宇宙に生命がゴロゴロいた場合に、代謝の機能をアミノ酸がつながったタンパク質のようなものが担っているのは、あり得ることだと思っています。

一方、核酸が自然にできるのは難しいですね。仮に、火星に生命がいたとして、地球生命と全く同じ構造をした核酸をつかっている可能性はほとんどないでしょう。もし、同じ核酸を使っているなら、たぶん起源は一つで、地球でできたものがはずみで火星に行ったか、またはその逆か。ですから、宇宙の生命は違った材料の、自己複製システムをつかっているのではと思います。

―― 地球外の生命を考えたとき、タンパク質は似たようなものである可能性が高いけど、核酸はどんな構造かわからないということですね。  

その可能性が高いですね。地球の生命を見ていると、核酸はすごく素晴らしいし、これを使わないなんて生命じゃない! と思い込んでしまいます。しかし、違ったタイプの自己複製機能を持った生命も可能性として考えられます。

そもそも、今の地球では、核酸を持った生命しかいませんが、こんな完成度の高いものが一気にできたはずがありません。長い間、いろんな試みが繰り返され、様々なタイプの生命や生命もどきが出来ては消えを繰りかえし、たまたま核酸を使いだした生命がその時の地球環境で一番すぐれていたので、それがはびこって他のものを駆逐したのではと考えています。

「がらくた」たち

―― 先生は具体的にどのような研究をされているのでしょうか。

地球でどうやって有機物ができたか、宇宙ではどうできたかを並行して研究しています。最近は宇宙の方が中心ですね。

先ほど、宇宙空間でアミノ酸ができるという話をしましたね。より正確にいうとアミノ酸のもとになる分子ができます。もとになると言っても、すごく大きな分子です。

教科書では、アミノ酸はタンパク質になってはじめて機能が生じることになっています。太陽系が生まれる前も、比較的濃い濃度で物質がある。主なものは小さな分子で、一酸化炭素やアンモニアが氷になって浮いています。

これに、宇宙線のような大きなエネルギーをもつものが当たったら、どうなるのだろうと調べています。加速器を使って宇宙線と同じような高エネルギー粒子をぶつける。すると、分子量が1000をこす分子ができて、その一部にアミノ酸の元になるものも含まれているのです。

―― 宇宙に浮いている氷に、すごい勢いで何かがビューと通ったら、できたものの中に、アミノ酸の元になるものが含まれているわけですね。

全部の構造はわかりませんが、一部にアミノ酸が出来ていることはわかっています。このできた塊の分子をぼくは「がらくた分子」と呼んでいます。タンパク質はアミノ酸だけを綺麗につなげたものです。がらくた分子はアミノ酸が一部と、あとはどうでもいい、がらくたで繋がっています。非常に優れているわけではないですが、使おうと思えば使えるものなんです

(がらくた分子の模型 写真の分子模型の分子量は約1000.左下の小さい分子模型はグリシン(分子量75):小林氏提供)
(がらくた分子の模型 写真の分子模型の分子量は約1000.左下の小さい分子模型はグリシン(分子量75):小林氏提供)

―― 「がらくた分子」ですか。分子にもがらくたがあるんですね。そのがらくたが整理されて、タンパク質になっていったのでしょうか。

まだ、どうやってタンパク質になったのか、よくわかっていません。そこも興味深い研究です。がらくた分子ができて、海に溶け込んで、タンパク質ができるまでいろんな形があったはずです。ですが、それは残っていません。生命がいったんできてしまうと、自分よりも機能の劣るものを食べてしまいます。

―― がらくた分子というのは今の地球に存在しないんですね

今の地球にあるのはほとんど生命由来のものです。探すとしたら、タイタンのような衛星などに残っているかもしれないと期待しています。

現在の地球上にはいろんな生命がいますが、実はコモノートという共通の祖先から全部分かれていったことがわかっています。コモノート以降はタンパク質や核酸をつかっています。生命をレベルで置き換えてみましょう。コモノート以降の地球生命を1とします。石ころのような無生物を0とします。

今の地球には0と1しかいません。(ウイルスがどうかという議論はありますが、そこはおいておきます)0.1や0.5の半生命はいないわけです。

仮にそういうものができたとしても、地球上には1の完成した生物がいます。太刀打ちできずに、あっという間に食べられてしまいます。1というのはすごく立派なものです。いきなり、0から1できたとしたら、神様や奇跡を持ち出さないといけない。

ですから、1の誕生以前には、0.1や0.5の生命がいたと私は考えています。今日の目からみたら、機能の低い、いい加減な生命だったかもしれません。しかし、0.1でも、周りがそれ以下だったらお山の大将ですので、生きていけたはずです。たまたま、自分より強いものが出来てしまったからいなくなってしまった。ぼくは、そういった生命のことを「がらくた生命」と呼んでいます。有機物は放っておいたらどんどん壊れていきますが、自分でも修理できる機能をもった生命もどきは生きていけます。がらくた分子を集めて、がらくた生命ができている。

まぁ、がらくた生命ばかりの世界では、自分のことを「がらくた」だとは思わないでしょうね(笑)。

(無生物から生物への科学進化:小林氏提供)
(無生物から生物への科学進化:小林氏提供)

―― 先生はがらくた分子をつくっているんですね。

そうです。アミノ酸だけであれば、単に0です。ですが、アミノ酸以外にいろんなものがくっついているがらくた分子だと、ちょっとの機能があります。0.000000001より小さいかもしれないが、0ではない。

生物学者からすると、0.1でも生命とみてくれないかもしれませんね。でも、天文学者はアミノ酸があったらすぐ「生物だ!」という傾向があります(笑)。私もそっちの肩を持ちたいと思います。

―― もしかしたら、いま、私たちは自分たちが1の生命だと思っていますけど、もっと強い生命がいて、そこから見ると私たちは0.5のがらくた生命かもしれない。そんな可能性がありますよね。

そうですね。少なくとも、核酸は素晴らしいように見えますが、放射線にあたったり、温度があがったりしたら壊れてしまいます。すごく不安定なものなので、極めて過酷な環境でも生きていけるような生命もいるのかもしれません。まさにSF映画に出てくるエイリアンですよね。ああいう強い生命がいるかもしれません。

―― 先生は、がらくた分子を集めて、最終的にはがらくた生命をつくろうと考えているのですか。

そうですね。生命のちょっとした機能をもった分子を、ちょっとした袋に詰め込むくらいのことまでは実験室でできるのではと思っています。今は、分子をつくったり、塊をつくったりしている段階で、出来た分子にいろんな機能がありそうというところまではわかっています。

―― がらくた生命ができたらすごいですね! ノーベル賞ものではないでしょうか。

ふふ、これが生命のもとだと、うまく証明できればいいのですけどね。「そんなのただのゴミじゃない」と地球の生物学者には言われちゃうでしょうが(笑)。

表の顔と裏の顔

―― 先生はそもそも、なぜアストロバイオロジーの道に進まれたんですか。

もともとは、分析化学を専攻していました。海水中の酵素というテーマでやっていまして、地球科学と生命科学の接点を化学でみようと思っていました。いろんな本を読んでいたのですが、そこで『生命の起源』(ポナンペルマ著)という本に出合います。その本がすごく気に入ったのです。

「生命の起源」と聞くと、生物学がテーマのようですが、著者のポナンペルマは化学者でありながら、NASAで宇宙のことを研究していた人でした。宇宙も子供のころから好きだったので、宇宙の視点から生命の起源を研究しているのがとても新鮮で、自分もこの分野を目指そうと思いました。

とはいえ、日本では、そんな研究はほとんどされていませんでした。大学院の先生に『生命の起源』を訳した大島泰郎先生を紹介していただきました。大島先生もその分野での第一人者です。話を聞きにいくと、「日本で研究できるところは、ほぼないだろう」と言われてしまいました。どうしたものかと思っていたら、大島先生から「アメリカで研究しないか」と連絡をいただきました。本の著者であるポナンペルマが研究員をちょうど探していたのです。渡米してそこで4年ほど研究をしました。

―― 憧れの先生の元で研究をしたのですね。

そうです。偶然が重なりました。日本に帰ってきてから、さらにポスドクを続けたのち、今の横浜国大に来ました。ここでは、分析化学を教えています。分析化学はものを測る学問ですので、対象は何でもいいわけですから、間口の広い分野です。測る対象として生命ができるために必要な物質を選びました。今まで運よく、アストロバイオロジーの研究を26年近く続けてきたのです。

とはいえ、アストロバイオロジーの研究を日本で表だってやっている人は少ないですね。なかなか、研究費が取れません。「何の役に立つの?」と言われてしまいます。だから、それぞれ本業をお持ちです。たとえば、大島先生の本業は生化学です。

―― 裏の顔と表の顔を使い分けながらやっているのですね。

私はそんなに器用ではないので、表も裏も生命の起源の研究をしています。

深く掘れる武器を

―― 高校のころは、理科系の科目に興味があったのですか。

そうですね。ですが、高校のクラブは歴史研究部でした。

―― 天文部や、科学部じゃないんですね(笑)。

歴史も好きだし、生物も化学も宇宙も好きだったので。でも、文系と理系だったら理系かなと、大学に入りました。大学に入ってから理学部の化学を選びました。その中でも、少しでも地球化学に近い分野に興味があり、大学の授業もそういった授業を多く取っていました。生物化学も好きで、その変がうまい具合にからんだのですね。

―― あらゆるものに興味があって、その行きつく先がアストロバイオロジーだったと。アストロバイオロジーは世の中のどんな役にたちますか。

いろんな観点から大事だと思います。科学の進む道で考えてみましょう。今までの科学の傾向って、生物や物理や化学に分かれ、その中でも様々な分野に分かれ……と、どんどん細かくなっていきます。狭く深く穴を掘っているような状態です。それが最先端の科学だと思われていたわけです。

しかし、それでは出来ないこともあります。どんどん深く掘っていますが、隣の穴とつながりがない。もしかしたら、その間にすごい宝物があるかもしれません。本当に他の人が見つけていないようなものを見つけるためには、横を掘らないといけないのです。

「学際的な学問が必要だ」と、少し前から盛んに言われています。ですが、本当に学際的なものって、そんなにありません。似たようなものを寄せ集めただけだったりします(笑)。

ですが、アストロバイオロジーとは、化学も物理学も生物学も天文学も全部動員しないと話ができない分野です。そんな分野なかなかありません。すべての自然科学の分野が必要です。場合によっては哲学や倫理学のような分野にも足を延ばさないといけないのかもしれませんね。今後の科学を考えるうえで、モデルケースになると思います。

―― 今、アストロバイオジーをやりたいと思っている高校生は、どのような学科にいけばいいのでしょうか。

アストロバイオロジーそのものを学部で研究できることはほとんどありません。ですので、自分がその時、一番興味のある分野にいけばいいと思います。化学・物理学・生物学・天文学、なんでもいいです。そこで基礎をしっかり勉強して欲しい。

アストロバイオロジーは言ってみれば幅広い知識が必要な「なんでも屋」です。でも、本当に「なんでも屋」だと困るわけです。穴を深く掘る技術をもってこその、「なんでも屋」。私の場合は分析化学を道具にやってきました。

自分が得意な分野を磨き、深く掘る道具を持ってほしい。そのうえで、いろんなことに興味を持ち、それを組み合わせて「自分が新しいことをやっていくんだ!」という気概をもって学問に取り組んでもらえればと思います。

高校生にオススメの3冊!

アストロバイオロジーの入門書として、岩波科学ライブラリーの「アストロバイオロジー」(小林憲正,2008)をあげたいところですが、版元品切れだそうですので、代わりにブルーバックス(講談社)の「地球外生命9の論点」(立花隆・佐藤勝彦他著,2012)をあげておきます。

アストロバイオロジーの中で、特に生命の起源に興味がありましたら、「生命の起源 宇宙・地球における化学進化」(小林憲正,2013)でしたら、理系好きの高校生ならば十分に理解できると思います。

少し背伸びして、大学生向けのアストロバイロジーの教科書に挑戦してみるのでしたら、値段が高いのが難点ですが、化学同人から出ている「アストロバイオロジー」(山岸明彦編,2013)があります。

プロフィール

小林憲正アストロバイオロジー

横浜国立大学大学院工学研究院教授、自然科学研究機構新分野創成センター客員教授。1954年岡崎市生まれ。1977年東京大学理学部化学科卒業、1982年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、1982-86年米国メリーランド大学化学進化研究所研究員などを経て、2003年より横浜国立大学大学院教授、2013年より自然科学研究機構客員教授を兼任。研究テーマは、化学進化・生命の起源の実験的研究と、極限環境生命の検出法の研究。著書は「アストロバイオロジー 宇宙が語る生命の起源」(岩波書店,2008年)「生命の起源 宇宙・地球における化学進化」(講談社,2013年)など。

この執筆者の記事