入門!カジノ合法化と統合型リゾート

近年たびたび話題にあがる、カジノ合法化と統合型リゾート(カジノを含んだ複合観光施設)だが、なぜいま「カジノ」が盛んに語られているのか、疑問を抱いている人も少なくないだろう。国際カジノ研究所・所長の木曽崇氏による『日本版カジノのすべて』は、決して親しみ深いとは言えないカジノの基礎知識を、初心者にもわかりやすく網羅的に記した入門書だ。カジノの抱えるリスク、そして観光振興としての可能性など、著者初の著作となる本書についてお話を伺った。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

カジノはカジノ

 

―― 本書は「カジノ」および「統合型リゾート」に関する基本的な知識が網羅されている、初学者が手に取るのにうってつけのものだと思いました。「カジノ合法化」の議論が注目を集めていますが、人びとの反応も変わりつつあるのでしょうか?

 

変わりましたね。以前は「国際カジノ研究所」というと「プロギャンブラーですか?」「ギャンブルの研究をしている人なんですね」と聞かれることが多かったんですよ。解説するのも面倒くさいので、「そうです、プロギャンブラーですよ」と答えていました(笑)。

 

それが国政で語られ始め、とくに安倍政権になって注目を集めるようになったことで、最近は「日本もカジノ合法化を考えているんですよね」という反応が返ってくるようになりました。社会的認知はかなり高まったと思います。

 

 

―― 認知度は高くなってきたとはいえ、「カジノ」と聞くと、パチンコや競馬といったギャンブルを思い浮かべて抵抗感を覚える方も多いのではないかと思います。

 

そうですね。確かに抵抗感を覚えている方は少なくないようです。

 

とはいえ、カジノである限りギャンブルの要素があることは否定できませんからそこを包み隠してはいけないと思います。世の中では「統合型リゾート」という言葉が好まれて使われるのですが、本書に『日本型カジノのすべて』という名前をつけたのは、私が「カジノはカジノですからね」というスタンスだからなんです。

 

 

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カジノ合法化がもたらすもの

 

―― おそらく、「カジノ合法化」と「統合型リゾート」がなぜセットで語られるのか疑問に思っている方も多いと思います。両者の関係について教えてください。

 

統合型リゾートの法律上の定義としてはカジノ、ホテル、レストラン、その他アミューズメント施設が複合的に開発されている観光施設である、というものです。つまり統合型リゾートは、カジノを前提としているものであり、カジノが合法化されない限り作られることがない。だからセットで語られるわけです。

 

 

―― そもそもなぜ統合型リゾートを導入しようとしているのでしょうか?

 

統合型リゾートの導入によって、観光開発投資や観光振興、そして経済効果が期待されているためです。カジノのない複合商業施設、観光施設はすでに存在しています。しかしそこにカジノが加わると別のものになるんです。

 

 

―― 別のものになるとは?

 

カジノを付加することによって、一般の商業開発では実現できないような、収入の出にくい施設やその地域にとって必要な施設が付随して開発できるようになります。カジノのない普通の商業開発の場合、利益の最適化をはからなくてはいけませんから、原則的には無駄な施設は作られません。しかし、統合型リゾートの場合、カジノの高い収益性があるので、それを他の開発に割り当てることができるわけです。

 

つまり、行政側がカジノを運営する権利を民間側に認める代わりに、地域にとって必要なものや国が求めるものを付随して開発しなさいと言っているものをわれわれは「統合型リゾート」と呼んでいるんです。

 

 

―― 実際にカジノの売り上げはどの程度見込まれているのでしょうか?

 

試算する人によって幅があるのですが、だいたい1兆円から1兆5000億円くらいの粗利益が生まれると言われています。それに加えて、ホテルやレストラン、アミューズメント施設の利用、周囲の観光など、さまざまな経済効果が考えられています。

 

 

カジノ合法化をめぐるイデオロギーの問題

 

―― 国内ではいま、どのような議論がなされているのでしょうか?

 

いま審議されているIR推進法案という法律は、統合型リゾートを導入するために、国会の立場から政府に対して、「実施法の整備を行うこと」を義務付ける法案です。なので、この法案が通っても、まだカジノ合法化は行われません。

 

 

―― 国会内ではどのような反応がみられていますか?

 

まだ審議は一回しか行われていないので……どうなんでしょうね。共産党を中心として反対派の人がたくさんいるのは事実です。

 

 

―― 反対派が懸念しているのは、本書にも書かれている、依存症や犯罪、青少年の影響といった、さまざまなリスクなのでしょうか?

 

そうですね、多くの人が依存症を問題としています。ただし私の立場から言うと、彼らは本当をいうと依存症を問題視しているのではない、本当はイデオロギーの問題、賭博そのものに対する評価なんだと思っています。

 

依存症に関して言えば、「カジノができたから依存症が増える」という言い方は間違っているんですよ。いま日本国内には1万5,000の宝くじ売り場と1万のパチンコ店、100件の公営競技所があります。それに加えて、これは違法ですが、ネット環境さえあれば誰もがアクセスすることのできるオンライン賭博もあります。さらにFXや商品先物取引など、賭博に類似したサービスだって存在している。現在、我が国の統合型リゾートは、全国で2から3程度の導入が検討されているわけですが、こうした現状に2から3の施設が加わったからといって、今すでに存在している依存症が急増するようなものではないんですよ。

 

だからこれはイデオロギー的な問題なんだと思うんです。「観光振興にギャンブルなんて頼りたくない」「ギャンブルで生み出された経済効果なんて嫌だ」そういう人たちが、依存症や犯罪を具体的な反対の事由として持ち出している。私はそう感じています。

 

 

―― イデオロギーの問題だとすると、説得は難しいですね。

 

そうですね、イデオロギーでカジノ合法化を反対している方は説得できないと思います。でもね、私はそういう価値観を持った方がいるということ自体は、それはそれで正常な社会の姿だと思っています。われわれがどんな対策を出しても、やはりギャンブルが嫌いで、合法化に納得できない人がいても、その人の価値観そのものは否定する気はありません。

 

 

ギャンブル依存症の発生率

 

―― ギャンブルを嫌う人たちがいる。そして、ギャンブルにはネガティブな要素も確かにある。それらを認めた上で議論を進めていかなければいけない。

 

ええ、それを隠してはいけないんですよ。むしろそうした社会コストへの対策はしっかりとやらなくてはいけませんから、リスクがあるという前提で議論をしなくてはいけないんです。

 

 

―― 例えば、ギャンブル依存症はどの程度発生しているのでしょうか?

 

諸外国でカジノを合法化している国の多くで、ギャンブル依存症が成人口中1~2%発生しているという報告があります。日本の場合、それが5%弱もあると先日、厚生労働省研究班が発表していましたね。その発表が出てから風向きが変わりました。新聞各社の調査をみると、反対派がいまは圧倒的に多いです。

 

 

―― アルコールやドラッグと比較して、ギャンブルの依存性は高いものなのでしょうか?

 

依存性についてはあまり比較対象することがないので、どっちが強いか、弱いかはいまいちよくわかっていないんです。カジノは行為に対する依存なので、その他の物質依存とくらべて動物実験が非常に難しい。アルコール、ニチコン、麻薬の依存性については、ラットを使った比較実験はあるのですが……。

 

 

―― ラットにパチンコは打てないし、ポーカーも出来ない。

 

そうです。そういった比較実験の中にギャンブルの要素をいれるのは非常に難しい。並列で研究できない分野なんですね。

 

 

ギャンブル依存症対策と犯罪

 

―― 諸外国はギャンブル依存症にどのような対策を打っているのでしょうか?

 

ギャンブル依存症は確かに存在するのだから、それを最小化するための施策は打たなければいけないというのが世界全体の流れですね。

 

具体的に実行力があると言われているのは、本書でも紹介していますが、入退場を全コントロールして依存症になった人は、本人や家族の申請などに基づいてカジノにいれないように制度設計することです。2000年代にスタンダードな制度になり、同様のものが欧米やシンガポールなど世界中で一気に普及しています。

 

 

―― 入退場を禁止された人が他の何かに依存してしまう可能性は……?

 

あるかもしれませんね。依存症の人たちはカジノへの入退場を禁止されても、別のギャンブルやそれに類似するものをすることはできますから、入退場のコントロールも究極的にいえばカジノだけじゃ意味がありません。ただ、我々はあくまでカジノ産業の人間ですから、少なくとも新たに合法化されるカジノにおいてはそのような制度を採用しようと議論をしているんですね。

 

一方、依存症のリスクについて社会に問うことは必要ですが、本来はこの論議がカジノの話だけで終わってしまっては意味がない。これは前段の、「カジノは無くとも、今の日本に賭博はすでにたくさん存在している」というお話に通ずる部分なのですが、依存症というのはもうちょっと大きな枠組みの中で論議をしなければなりません。

 

 

―― 依存症以外にも、カジノ合法化によって犯罪が増えるのではないかという心配もありますね。

 

その懸念についても、イギリス、アメリカ、オーストラリアなど、カジノ合法化を先行している世界各国の公的な調査のほぼすべてが「カジノ導入と地域の犯罪発生に関する直接的な因果関係は見当たらない」という結論を出しています。

 

観光客が増えると、それに伴って犯罪者、あるいはその土地や人をターゲットとした犯罪が起きるんですね。観光客を狙ったすりや置き引き、車上荒らし、もっといえば売買春や違法薬物事犯なども増えてしまう。これらは「カジノだから起きる犯罪」というよりは、観光振興そのものに犯罪を引き起こしてしまう作用があるということで、カジノがない観光地でも同様の問題を抱えている場所はたくさんあります。

 

 

大きな経済循環を生み出すこと

 

―― メリットもデメリットも正しく理解した上で、統合型リゾートを導入するかを考えなくてはいけない。

 

社会にとってマイナスになるコストは最少化し、一方で経済効果を中心としたプラスの効果を最大化した上で、施策そのものが、我が国あるいは導入を検討している地域にとって意味があるものかを考えようと推進派は言っているわけです。

 

 

―― 実際に観光資源として統合型リゾートを導入するとして、需要は国内と国外どちらにあるのでしょう?

 

圧倒的に国内です。ただ、これは誤解されがちなのですが、統合型リゾートは、観光振興を目的としたものでなくてはいけないという点が制度上決められているだけで、国内あるいは国外に限定されているものではありません。

 

統合型リゾートを前提としたカジノ施設がパチンコなど他のギャンブルと何が違うかというと、地域のお客様を顧客とするのではなく、域外から観光客を呼び寄せることにあるんですね。もし地域の人がお客様になるのであれば、地域の消費がその地域に落ちるだけの非常に小さな循環になってしまう。統合型リゾートは、国外であろうが国内であろうが、よその地域から消費を呼び起こして、地域に大きな経済循環を生み出していくことを目的としているんです。

 

その上で、プレイヤーの頭数で考えれば、やはり国内の需要が高いのは仕方ないことでしょう。1億2000万人の日本人が住んでいる一方で、外国人観光客は年間1000万人しか日本に来ないんですから。【次ページにつづく】

 

 

 

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