2015.01.13

入門!カジノ合法化と統合型リゾート

『日本版カジノのすべて』著者・木曽崇氏インタビュー

情報 #日本版カジノのすべて#新刊インタビュー#カジノ合法化

近年たびたび話題にあがる、カジノ合法化と統合型リゾート(カジノを含んだ複合観光施設)だが、なぜいま「カジノ」が盛んに語られているのか、疑問を抱いている人も少なくないだろう。国際カジノ研究所・所長の木曽崇氏による『日本版カジノのすべて』は、決して親しみ深いとは言えないカジノの基礎知識を、初心者にもわかりやすく網羅的に記した入門書だ。カジノの抱えるリスク、そして観光振興としての可能性など、著者初の著作となる本書についてお話を伺った。(聞き手・構成/金子昂)

カジノはカジノ

―― 本書は「カジノ」および「統合型リゾート」に関する基本的な知識が網羅されている、初学者が手に取るのにうってつけのものだと思いました。「カジノ合法化」の議論が注目を集めていますが、人びとの反応も変わりつつあるのでしょうか?

変わりましたね。以前は「国際カジノ研究所」というと「プロギャンブラーですか?」「ギャンブルの研究をしている人なんですね」と聞かれることが多かったんですよ。解説するのも面倒くさいので、「そうです、プロギャンブラーですよ」と答えていました(笑)。

それが国政で語られ始め、とくに安倍政権になって注目を集めるようになったことで、最近は「日本もカジノ合法化を考えているんですよね」という反応が返ってくるようになりました。社会的認知はかなり高まったと思います。

―― 認知度は高くなってきたとはいえ、「カジノ」と聞くと、パチンコや競馬といったギャンブルを思い浮かべて抵抗感を覚える方も多いのではないかと思います。

そうですね。確かに抵抗感を覚えている方は少なくないようです。

とはいえ、カジノである限りギャンブルの要素があることは否定できませんからそこを包み隠してはいけないと思います。世の中では「統合型リゾート」という言葉が好まれて使われるのですが、本書に『日本型カジノのすべて』という名前をつけたのは、私が「カジノはカジノですからね」というスタンスだからなんです。

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カジノ合法化がもたらすもの

―― おそらく、「カジノ合法化」と「統合型リゾート」がなぜセットで語られるのか疑問に思っている方も多いと思います。両者の関係について教えてください。

統合型リゾートの法律上の定義としてはカジノ、ホテル、レストラン、その他アミューズメント施設が複合的に開発されている観光施設である、というものです。つまり統合型リゾートは、カジノを前提としているものであり、カジノが合法化されない限り作られることがない。だからセットで語られるわけです。

―― そもそもなぜ統合型リゾートを導入しようとしているのでしょうか?

統合型リゾートの導入によって、観光開発投資や観光振興、そして経済効果が期待されているためです。カジノのない複合商業施設、観光施設はすでに存在しています。しかしそこにカジノが加わると別のものになるんです。

―― 別のものになるとは?

カジノを付加することによって、一般の商業開発では実現できないような、収入の出にくい施設やその地域にとって必要な施設が付随して開発できるようになります。カジノのない普通の商業開発の場合、利益の最適化をはからなくてはいけませんから、原則的には無駄な施設は作られません。しかし、統合型リゾートの場合、カジノの高い収益性があるので、それを他の開発に割り当てることができるわけです。

つまり、行政側がカジノを運営する権利を民間側に認める代わりに、地域にとって必要なものや国が求めるものを付随して開発しなさいと言っているものをわれわれは「統合型リゾート」と呼んでいるんです。

―― 実際にカジノの売り上げはどの程度見込まれているのでしょうか?

試算する人によって幅があるのですが、だいたい1兆円から1兆5000億円くらいの粗利益が生まれると言われています。それに加えて、ホテルやレストラン、アミューズメント施設の利用、周囲の観光など、さまざまな経済効果が考えられています。

カジノ合法化をめぐるイデオロギーの問題

―― 国内ではいま、どのような議論がなされているのでしょうか?

いま審議されているIR推進法案という法律は、統合型リゾートを導入するために、国会の立場から政府に対して、「実施法の整備を行うこと」を義務付ける法案です。なので、この法案が通っても、まだカジノ合法化は行われません。

―― 国会内ではどのような反応がみられていますか?

まだ審議は一回しか行われていないので……どうなんでしょうね。共産党を中心として反対派の人がたくさんいるのは事実です。

―― 反対派が懸念しているのは、本書にも書かれている、依存症や犯罪、青少年の影響といった、さまざまなリスクなのでしょうか?

そうですね、多くの人が依存症を問題としています。ただし私の立場から言うと、彼らは本当をいうと依存症を問題視しているのではない、本当はイデオロギーの問題、賭博そのものに対する評価なんだと思っています。

依存症に関して言えば、「カジノができたから依存症が増える」という言い方は間違っているんですよ。いま日本国内には1万5,000の宝くじ売り場と1万のパチンコ店、100件の公営競技所があります。それに加えて、これは違法ですが、ネット環境さえあれば誰もがアクセスすることのできるオンライン賭博もあります。さらにFXや商品先物取引など、賭博に類似したサービスだって存在している。現在、我が国の統合型リゾートは、全国で2から3程度の導入が検討されているわけですが、こうした現状に2から3の施設が加わったからといって、今すでに存在している依存症が急増するようなものではないんですよ。

だからこれはイデオロギー的な問題なんだと思うんです。「観光振興にギャンブルなんて頼りたくない」「ギャンブルで生み出された経済効果なんて嫌だ」そういう人たちが、依存症や犯罪を具体的な反対の事由として持ち出している。私はそう感じています。

―― イデオロギーの問題だとすると、説得は難しいですね。

そうですね、イデオロギーでカジノ合法化を反対している方は説得できないと思います。でもね、私はそういう価値観を持った方がいるということ自体は、それはそれで正常な社会の姿だと思っています。われわれがどんな対策を出しても、やはりギャンブルが嫌いで、合法化に納得できない人がいても、その人の価値観そのものは否定する気はありません。

ギャンブル依存症の発生率

―― ギャンブルを嫌う人たちがいる。そして、ギャンブルにはネガティブな要素も確かにある。それらを認めた上で議論を進めていかなければいけない。

ええ、それを隠してはいけないんですよ。むしろそうした社会コストへの対策はしっかりとやらなくてはいけませんから、リスクがあるという前提で議論をしなくてはいけないんです。

―― 例えば、ギャンブル依存症はどの程度発生しているのでしょうか?

諸外国でカジノを合法化している国の多くで、ギャンブル依存症が成人口中1~2%発生しているという報告があります。日本の場合、それが5%弱もあると先日、厚生労働省研究班が発表していましたね。その発表が出てから風向きが変わりました。新聞各社の調査をみると、反対派がいまは圧倒的に多いです。

―― アルコールやドラッグと比較して、ギャンブルの依存性は高いものなのでしょうか?

依存性についてはあまり比較対象することがないので、どっちが強いか、弱いかはいまいちよくわかっていないんです。カジノは行為に対する依存なので、その他の物質依存とくらべて動物実験が非常に難しい。アルコール、ニチコン、麻薬の依存性については、ラットを使った比較実験はあるのですが……。

―― ラットにパチンコは打てないし、ポーカーも出来ない。

そうです。そういった比較実験の中にギャンブルの要素をいれるのは非常に難しい。並列で研究できない分野なんですね。

ギャンブル依存症対策と犯罪

―― 諸外国はギャンブル依存症にどのような対策を打っているのでしょうか?

ギャンブル依存症は確かに存在するのだから、それを最小化するための施策は打たなければいけないというのが世界全体の流れですね。

具体的に実行力があると言われているのは、本書でも紹介していますが、入退場を全コントロールして依存症になった人は、本人や家族の申請などに基づいてカジノにいれないように制度設計することです。2000年代にスタンダードな制度になり、同様のものが欧米やシンガポールなど世界中で一気に普及しています。

―― 入退場を禁止された人が他の何かに依存してしまう可能性は……?

あるかもしれませんね。依存症の人たちはカジノへの入退場を禁止されても、別のギャンブルやそれに類似するものをすることはできますから、入退場のコントロールも究極的にいえばカジノだけじゃ意味がありません。ただ、我々はあくまでカジノ産業の人間ですから、少なくとも新たに合法化されるカジノにおいてはそのような制度を採用しようと議論をしているんですね。

一方、依存症のリスクについて社会に問うことは必要ですが、本来はこの論議がカジノの話だけで終わってしまっては意味がない。これは前段の、「カジノは無くとも、今の日本に賭博はすでにたくさん存在している」というお話に通ずる部分なのですが、依存症というのはもうちょっと大きな枠組みの中で論議をしなければなりません。

―― 依存症以外にも、カジノ合法化によって犯罪が増えるのではないかという心配もありますね。

その懸念についても、イギリス、アメリカ、オーストラリアなど、カジノ合法化を先行している世界各国の公的な調査のほぼすべてが「カジノ導入と地域の犯罪発生に関する直接的な因果関係は見当たらない」という結論を出しています。

観光客が増えると、それに伴って犯罪者、あるいはその土地や人をターゲットとした犯罪が起きるんですね。観光客を狙ったすりや置き引き、車上荒らし、もっといえば売買春や違法薬物事犯なども増えてしまう。これらは「カジノだから起きる犯罪」というよりは、観光振興そのものに犯罪を引き起こしてしまう作用があるということで、カジノがない観光地でも同様の問題を抱えている場所はたくさんあります。

大きな経済循環を生み出すこと

―― メリットもデメリットも正しく理解した上で、統合型リゾートを導入するかを考えなくてはいけない。

社会にとってマイナスになるコストは最少化し、一方で経済効果を中心としたプラスの効果を最大化した上で、施策そのものが、我が国あるいは導入を検討している地域にとって意味があるものかを考えようと推進派は言っているわけです。

―― 実際に観光資源として統合型リゾートを導入するとして、需要は国内と国外どちらにあるのでしょう?

圧倒的に国内です。ただ、これは誤解されがちなのですが、統合型リゾートは、観光振興を目的としたものでなくてはいけないという点が制度上決められているだけで、国内あるいは国外に限定されているものではありません。

統合型リゾートを前提としたカジノ施設がパチンコなど他のギャンブルと何が違うかというと、地域のお客様を顧客とするのではなく、域外から観光客を呼び寄せることにあるんですね。もし地域の人がお客様になるのであれば、地域の消費がその地域に落ちるだけの非常に小さな循環になってしまう。統合型リゾートは、国外であろうが国内であろうが、よその地域から消費を呼び起こして、地域に大きな経済循環を生み出していくことを目的としているんです。

その上で、プレイヤーの頭数で考えれば、やはり国内の需要が高いのは仕方ないことでしょう。1億2000万人の日本人が住んでいる一方で、外国人観光客は年間1000万人しか日本に来ないんですから。

カジノ営業の成功と地域コミュニティの成功は違う

―― 日本では、統合型リゾートが成功した事例として、シンガポールがとくに参考にされていると本書にあります。

シンガポールでは2005年にカジノ合法化が閣議決定され、2010年に2つの統合型リゾートが作られました。2012年の統計では、2つの統合型リゾートのギャンブル総売り上げは41億米ドル(約4100億円)と単一年の市場規模としてはマカオ、ラスベガスに次ぐ世界3位の規模です。

もちろん宿泊や飲食など観光収入も増えていて、同じく2012年の国際観光収入は、231億シンガポールドル(約1兆8480億円)と、カジノ開業前の2009年の126億シンガポールドル(約1兆8億円)の1.8倍まで増加しています。シンガポールが成功をおさめた理由はシンガポール政府が観光政策の舵を大きく切ったためです。詳しくはぜひ本書をお読みください。

―― 反対に参考になるような失敗例はあるのでしょうか?

市場が成熟して企業間競争が生まれ、その中で「勝ち組」と「負け組」ができてしまうことはありますが、市場が新しくできたときに作られたカジノが営業的に失敗した例はあまり聞いたことがないですね。最近、アメリカでカジノがたくさん倒産しているという事が報じられ、反対派の人がこれらニュースを持ち出して反対論を打っているのですが、あれはあくまで市場淘汰の結果ですからね。それは仕方ないですよ、商業である限りは。

一方で統合型リゾートの成功/失敗は個別企業の営業結果だけで語られるものではありません。地域にとっては政策的に導入されるものですから、肝心の地域にとって利になっているかどうかをみなくてはいけない。例えその統合型リゾートが営業的に儲かっていても、結果的に地域にとって幸せなものでなかったら意味はないんです。

韓国のカンウォンランドはその代表的な事例として常にあげられます。営業としてはめちゃくちゃ儲かっているんですけど、地域コミュニティのためになっているかどうかで考えると世界的にみても最大の失敗でしょう。

カンウォンランドはソウルから高速道路にのって3時間ほどの場所にあります。麓の町までバスや電車で移動して、そこからさらに山の上に向けてタクシーに乗らないといけないような山奥にあるんですね。施設としては統合型リゾートの体はとっていて、国際会議場やゴルフ場、スキーリゾートが併設されています。でもゴルフをやりたい人にとっては、もっと近くにゴルフ場に良いゴルフ場がありますし、スキーをしたい人も便利なスキー場に行きますから、そこに3時間もかけて行く必要がない。その上、麓の街と立地的に分断され、その他観光資源との連携もされていないので、当然のことなんですけど、統合型リゾートにはギャンブラーしか行かないんですね。これでは地域コミュニティのためになっていない。

統合型リゾートの難しさはここにあります。どういう複合業態を作るかではなく、地域の観光資源とどういう風に複合させていくかが肝心なんですね。確かに法律上の定義上、統合型リゾートは「カジノ、ホテル、レストラン、その他アミューズメント施設が複合的に開発されている観光施設」というものですが、最も重要なことは、地域の既存観光資源との統合であって施設内統合は究極的に言ってしまえばどうでもいいんです。それは民間の業者が勝手に考えてくれる。とくに制度や誘致を考えている人は、統合型リゾートの中身ではなく、統合型リゾートという存在が、その外側にある既存の観光資源と相乗効果をどのように生み出すかを考えなければならないんですね。

―― 相乗効果を生み出すためのコツはありますか?

地方で講演をする際にはこういう話をします。

統合型リゾートの導入政策を考える前に、既存の観光資源を振り返ってみてください。そして、その中で地域にとって非常に大事なもので「守らなくてはいけないもの」を2つくらい決めてください。一方で、どんな地域も観光地としての課題が必ずありますから、「変わらなくてはいけないもの・変えなければいけないもの」も2つくらい考えてください。

そして、統合型リゾートが導入されたとき、変わらないといけないものに対して、導入される施設がなんらかの改善を提供する存在であれば、うまく連携がとれて、地域にとってプラスの効果を生み出すでしょう。一方、もし「守らなくてはいけないもの」を崩してしまうようなら、その導入は意味がありません。「変わらないといけないもの」を改善し、「守らなくてはいけないもの」を守れるとき、ひょっとしたら、あなたの地域にとって統合型リゾートの導入は意味があるものになるかもしれませんね。

……これこそが統合型リゾートの考え方の第一歩であり、最も必要な地域コミュニティの連携の姿なんです。

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「統合型リゾート」は新しい概念

―― 「カジノ」と聞くと、ラスベガスのような町並みをイメージしていたのですが、それとはまた違ったものなんですね。

これもはっきり言うようにしていますが、日本のカジノ合法化はラスベガスやマカオのようなものを念頭に置いていません。具体的にいえば、カジノだけの魅力でお客様を集めるモデルは想定されていないんです。もちろんそういうモデルの観光地はあります。ただそういう観光地は、域内に複数のカジノ施設があり、相乗効果で全体の魅力を高めているんですね。ところが日本のカジノ合法化の論議は、2から3の導入が検討されていて、いち開発地域に1つのみというイメージで進んでいます。ラスベガスやマカオにはなり得ない。

観光客は統合型リゾートという“点”を目当てにくるのではなく、観光地という“面”を目指してやってきます。統合型リゾートがどれだけ大きな開発施設であったとしても、観光客にとってはその観光地を形成する一つの要素、すなわち“点”でしかない。そういう意味では、我が国の統合型リゾートの導入は最初から全体を連携させて考えたモデルを作らなければなりませんし、そういう前提で最初から制度検討がなされているんです。

そもそも統合型リゾートという概念は、シンガポールが導入を検討し始めたころにできたので、ごく最近のものなんですね。それ以前は、複合カジノとかラスベガス型カジノとか呼ばれていました。それがシンガポールあたりから地域の既存の観光資源との連携の中で観光振興の「呼び水」としてカジノが資するかどうかという議論にかわってきた。そういう意味では日本は新しいことを考えていかなくてはいけない、とも言えますね。

―― 「本当にうまくいくのだろうか」と心配になってしまうのですが……。

うまくいくと思いますよ。そもそも、現在の論議では国内で2から3しか選ばれませんから、カジノ誘致を希望する自治体にとっては熾烈な競争です。質が悪い、間違った検討をしている人たちは、選考の過程で確実に淘汰されてゆきますから。

経済波及効果か、税収か

―― いまはまだ推進法を議論している段階ですが、統合型リゾートが導入されることになったとして、成功させるためにどういった政策が望ましいのでしょうか?

まず社会コストを最小化する施策の検討を行うべきですね。幸いにも日本はカジノ合法化の世界最後発国ですから、先行事例がたくさんあります。それをしっかりと研究すれば、ベストな施策が打てると思います。

一方でマーケットの視点でいえば、大前提として2つの考え方があります。統合型リゾートを導入することによって生まれる経済波及効果を重視するか、導入によって見込める税収に期待するか、です。どちらか一方というわけではないのですが、私はどちらかというと経済波及効果を重視すべきだと考えています。

政治家や行政の方と話をしていると、カジノ税の税率をどれだけ上げるかが彼らにとって重要な論議のようです。そりゃあ、彼らの立場とすれば取れるものは取りたいのが本音でしょうから、税率は上げられるだけ上げたいんでしょう。でもカジノに限らず投資の原則論として、投資は税金の高いところから低いところに向かって流れていきます。カジノ投資は国際投資ですから、十分な投資を呼び込みたいのであれば国際的な基準値を念頭に置いた上で、ベストな比率を選ばざるをえません。「何百億、何千億の税収が欲しいから○○%にする」という国内だけの論議だけではいけないんですね。

だからこそ、経済効果を十分に高めた上で、カジノ税、あるいはその他の観光消費を増やすことによる消費税の増収、地域の価値を高めることで固定資産税を増やすなど、さまざまな税項目で、トータルで増収したほうがいい。

―― 税率を上げすぎて投資を呼びこめない場合、統合型リゾートの意義自体が成立しなくなってしまうかもしれませんね。

そうですね。カジノで儲けさせて、他の複合商業施設では成り立たせることのできないものや地域に必要なものに投資しなさいという話なのに、ギャンブルにかかる税金を高くしてしまったら、儲からなくなってしまう。すると余計な施設にお金がまわせなくなり、統合型リゾートとしての機能も縮小し、最終的にはただのギャンブル場だけの施設に向かっていきます。それじゃ意味がない。

忘れてはいけないのは、カジノ税の税率をどのくらいに設定するかだけではなく、法人税率も含めたトータルな実効税率で比較しなくてはいけません。カジノ税率を考える場合、どうしてもマカオのカジノ税率40%が引き合いに出されるんですけど、マカオは実質法人税ゼロの国ですから日本とは環境が違う。税体系全体で比較して、真剣に考えないといけないと思います。

日本版カジノの入門書として

―― もともとあまり馴染みのないカジノの話だけでなく、観光振興としてのあり方も問われるとても大きなテーマなのだと改めて思いました。最後に、本書をどのような人に読んでもらいたいとお思いか教えてください。

もともと関心のなかった人にカジノ合法化、統合型リゾートに関連する知識をわかりやすく説明するための本として書いているので、これから興味を持ってくれる人たちに届いて欲しいと思っています。読んでいただけばわかると思いますが、賛成に触れすぎることも、反対に触れすぎることもないように書いています。

こういう本を出すと、反対派の人たちから「賛成ありきじゃないか!」と批判されることもあるのですが、今回はあまり聞かないんですよね。それはもともと私の論調が、「国際カジノ研究所・所長」というセンセーショナルな肩書の割には、国内の推進派の中では最もコンサバな人間だからかもしれない(笑)。よく地方講演なんかに呼ばれると、もっと機運を煽ってくれることを期待している人達からはガッカリされることがあります。

これは僕の持論ですが、統合型リゾートのコストもベネフィットも最大享受するのは導入する地域の人たちです。観光振興として統合型リゾートを導入したいと考えているのであれば、コストとベネフィットを考えて、その地域に意味があると思うならやればいい。私は、その考える材料を提供するのが仕事であって、地域にカジノを導入すべきか、すべきでないかを考えるのは皆さん自身です。本書は、そのような判断をするための基礎知識を得るものとして利用してもらえれば嬉しいです。

プロフィール

木曽崇国際カジノ研究所 所長

国際カジノ研究所 所長。エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員。日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。日本のカジノ合法化はもとより、ナイトライフ全般の振興に尽力する。

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