何のために学ぶのか、何のために考えるのか?

『考える生き方 空しさを希望に変えるために』(ダイヤモンド社)は、月間30万PVのアクセスを誇る「極東ブログ」と「finalventの日記」を主宰するアルファブロガーで、1日1冊の読書を30年以上もつづけているfinalvent氏の第1作。シノドス・マネジングディレクターで経済学者の飯田泰之が、大きな話題を呼んでいる処女作への想いを聞いた。(構成/乙丸益伸・編集集団 WawW ! Publishing、宮崎康二)

 

 

人生が与えてくれるものそのものを空っぽになって受け止めていい

 

飯田 『極東ブログ』で色々ぼくの本を取り上げていただきありがとうございます。いまでこそアベノミクスが盛り上がっていていますが、かつてはリフレ派の論客の議論を正面切って取り上げて下さる方はかなりかぎられていました。そんななかで、すでに3年前からリフレ政策に注目していたという点で、finalventさんにはとても興味を持っていたんですよ。

 

『考える生き方』はfinalventさんの処女作なわけですが、内容はかなり意外でした。もう少し理屈っぽい話が中心なのかと思ってましたから。読んでみたらほぼ正面切って人生論。もともとどういったきっかけで、こういった本を書こうと思われたのですか?

 

finalvent とくにブログで若い人の世界を見ていると、自分と似ているんじゃなかろうかという人を沢山見るんです。職が見つからないとか、派遣になったとか、会社でひどい目にあわされたとか。ぼくも皆さんと同じように、10年前か15年前かにそうした道を歩んできました。また、皆さん、なかなか結婚できないなといった悩みにも直面されています。ぼくもそうでした。現在の20代、30代の人が自分と似ている共通項部分があるだろうなと思ったのです。

 

そんなふうに、色々悩んできた人生だったんですが、自分はなんとかやってきたし、結婚もしたんです。これは多分偶然の出来事にすぎませんでしたし、偉いことでもなんでもないと思うんですけど、「アレっ」という感じがあったんですよ。その突然訪れた「アレっ」によって、今の自分は大きく変わってしまった。

 

なんていうんでしょう。ちょっと言い方をかえると、自分のように職が見つからずふらふらしていて、結婚もできないと思っている人であっても、「人生はこうあるべきだ」という世間の常識にあわせて、自らを縛り、必要以上に悲観する必要はないんじゃないか。もっと言えば、「人生が与えてくれるものそのものを空っぽになって受け止めていいんじゃないかな」ということを、40歳ぐらいになってから考えるようになりました。

 

自分の人生を振り返ると「なんか平凡だな、おれ」と思うんですけど、「平凡だな、おれ」というのは、多くの人が同じような経験をしているだろうなということです。そのなかで、30年くらいかけて見えてきたこと、考えてきたことを、ありのままに自分の内側から書いてみようかなと思いました。それによって本を読んでくれる方に、普通の人生って思いがけないことがあるし、考えればなんとか生きられる、ということを感じてもらえるのではないかと考えました。

 

 

自分の人生を見失ってしまわないために

 

飯田 この本の特徴は全部の章が断絶されているところ。全部の章が完全に繋がりを持っているわけではなく、各章それぞれに、それぞれの読み方もできる本だと思ったんですね。ぼくは「極東ブログ」や「finalventの日記」の熱心な読者とは決して言えないのですが、そんなこと全然問題じゃなくて、すーっと心のなかに文章が流れ込んできたという印象でした。Twitter上で「涙が止まらなくなった」という感想も数多く見ました。

 

そう考えた場合に、この本は各章それぞれに、それぞれの想いを込めてお書きになられた本だと思うのですが、あえて言っていただくとしたら、各章はどういった目的でお書きになられたものなのでしょうか。

 

finalvent そこまで深く読み取っていただきありがとうございます。たとえば最初の「社会に出て考えた」については、職を得るとはどういうことかというのを、この55年の人生を振り返って、自分が考えてきたことを書いてみたという部分になります。

 

社会人というのは職を得るわけですから、職を得るというのはどういうことかがこの章のテーマです。「職を得る」ということこそ、人生に非常に大きな影響を与えるものなのに、これこそ相当偶然的要素が高いものです。

 

だから、普通の人が、自分を社会的に実現しようとすると失敗する可能性が非常に高くなる。そうである以上は、自分の理想とする職業に就けなかったとしても、その誰もが抱えて生きているであろう、失敗した空しさというものを、市民倫理で補うかたちでもってやってっいったほうが、人生に納得できるというのがぼくの考え方です。この章では読者に職業を通した普通の市民の生き方ということを感じてもらえればと思って書いた部分です。

 

全体を通しては、本の副題にしている ――これは後からつけたのですが―― 「空しさを希望に変えるために」というテーマは念頭にありました。

 

普通の平凡な人生を55年間送ってきた自分が、何をどう考えて生きてきたかを描くことで、読んで下さる方に、「自分の人生を自分で了解し、どう自分の人生に希望の火を灯すか」「自分の人生を自分で理解しよう」と、あるいは「生きるということの使命」について考える場合のひとつのヒントにしていただけるのではないかと考えました。

 

 

自由七技芸 ――リベラル・アーツ―― を人生に取り込むということ

 

飯田 この本全体に通底しているテーマとしては、リベラルアーツ(一般教養)の重要性ということになるのでしょうか。

 

 

「リベラル・アーツ」は、奴隷の芸妓である「メカニカル・アーツ」(機械的技芸)の対義語で、自由市民の技芸だ。欧米の知識人は、「自由七学芸」として次のラテン語のフレーズで覚えさせられる。

 

Gram. loquitur, Dia. vera docet, Rhet. verba colorat. Mus. cadit, Ar. numerat, Geo. ponderat, Ast. colit astra(文法は語り、弁証は真理を教え、修辞は言葉を飾る 音楽は歌い、算術は数え、幾何は測り、天文は星を学ぶ)

 

リベラル・アーツを学んでも、仕事の面では一銭の得にならないかもしれない。しかし、人生や宇宙が見せる壮大なドラマを可能な限り堪能できるようになる。それが、自由に生きるということだ。どのような貧困も、若い日に培ったリベラル・アーツを奪うことはできない。

 

 

と書かれてのがすごく興味深かったです。

 

finalvent リベラル・アーツ ――一般教養―― というものの、世間での一番簡単な受け止め方ですが、とくに大学生に求めれているもので言えば、現代は、即効的な能力を求めすぎているように思います。伊賀泰代さんの『採用基準』(ダイヤモンド社)という本がよく読まれているようですが、その採用基準を満たすよう人材 ――human resources―― を生み出そうと。そのための育成期間が大学であるという面は当然必要で、各人それぞれがそういった能力を伸ばすのも当然に必要なことですが、それが通用するのはせいぜい40歳までだと思います。

 

この本にも書いたのですが、「後生畏るべし」と孔子が言っています。あれは古代人ですから現在の年齢の感じとはちょっと違うかもしれないですが、40歳くらいになると、自分より若い20代や30代に、ものすごい優れたやつがいるなというのが見えてきて、自分が追いやられていく。誰にもそういう時期がくると思うんですね。

 

そのころには大学で勉強したような知識や能力のようなものが、自分の人生のなかで、いわば賞味期限切れになる時期がきます。「後生畏るべし」という状況が必ず自分の人生に訪れるわけです。

 

そういう事態に直面したときに、それから生きていくにあたっての原動力というのが、リベラル・アーツであろうと思うのです。だから若い日の人生の基礎固めで必要なのは、老いを迎えて行くなかで、真の意味で、自分の意志で、自分の人生をかたちづくっていくときの、一番のつるはしを貰うのがリベラル・アーツであるという風に考えています。

 

飯田 たしかに、大学で学ぶことが役に立つか立たないかとか言い始めると、大学自体がいらないという話になりかねない。たとえばプログラマーをされていたからお分かりになると思うんですけど、プログラマーを即戦力として養成すれば、専門学校2年間でほどほどのところまではいけると思います。

 

finalvent できます。

 

飯田 そうやって促成栽培されてなったプログラマーさんって、30歳限界説が完全に当てはまる人になってしまうんじゃないかな。

 

finalvent そこが、30代、40代の、ちょうどロスジェネとよばれている人たちが現在直面している危機じゃないのかと思います。恐らく今、ロスジェネと呼ばれている人たちは、 ――日本経済自体はこれから持ちかえすかもしれないんですけど―― 、現状では成功というヴィジョンを思い描きづらい世の中になっていると思うんです。

 

恐らく、このままいけば、その大半がぼくと同じような生き方になる。そうすると自分の人生のなかで生きる意味を見つけていくには、遠回りのようだけど教養みたいなものがあるといいだろうなと。ただ教養というとちょっと上から目線のようで鼻につく感じがするかもしれませんが。

 

 

 

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