円高が好きな人たちの「正体」とは?

「あと、28・8兆円――」

 

今年の1月に発売され、早くも4刷が決定するほどの反響を呼んでいる『円高の正体 』(光文社新書)の冒頭、扉にはこう記されている。この金額の意味はぜひ同書を繙いていただくとして、そもそもなぜいま、この本は書かれなければならなかったのか。著者である安達誠司氏に飯田泰之が鋭く迫る、『円高の正体』シノドスジャーナルver.をお送りします。(構成/柳瀬徹)

 

 

強い企業と弱い政府

 

飯田 安達さんの書かれた『円高の正体』は、タイトルが「ある本」を思い起こさせてくれる点がとても良いと思います(笑)。

 

まず前半では、教科書的な解説がすごく丁寧に書かれていますよね。それは「新書」という形式に相応しいものだと思いました。最近の新書の多くは、かつては論壇誌が担っていたものの代替メディアになっている。

 

新書ブームの起こる前、十年以上前の新書の多くは、むしろこの本に近かったと思うんです。さすがにハードカバーの体裁で出すには入門的にすぎるかな、という語り方で難しいことをじっくりと伝える、それが新書のイメージだった。『円高の正体』を読んで、ブームの前の新書ってこうだったよなあ、いいなあ、と思いました。

 

安達 ありがとうございます。

 

飯田 内容について話を進めていきますと、ここ一年間の動向の特徴は、四つの主要通貨であるドル、ポンド、ユーロ、円のなかで、円の独歩高となったことと、ユーロのズルズルとした下落にあると思うのですが、証券会社のエコノミストとして安達さんは、どの動きに注意していらっしゃいましたか?

 

安達 いまおっしゃられたように、特に大震災直後からの円高というのが、いちばん大きなトピックですね。大震災でサプライチェーンが壊れてインフレになるかもしれないということと、円、株、債券がすべて大暴落するだろうということがさかんに言われ、金利も上昇するだろうと囁かれたりもしました。

 

でも蓋を開けてみると、株は確かに下がりましたけれども金利は非常に低位安定で、今もまだ1%を割っています。為替も、ここにきてようやく日銀の金融緩和があり1ドル80円前後まで戻しましたが、ずっと76円後半、一時は75円台までの円高となっていました。これは阪神淡路大震災の時も同じようなパターンで、1月の震災後、円高のピークは6~7月でした。大震災で円高になってしまって、政府が右往左往している間に株が下がっていった。私は職場では日本経済担当なのですが、ここ1年の日本経済の最大のトピックは、復興需要というよりも、むしろ円高でした。

 

円高の1つの要因としてユーロの財政危機によるユーロ安があるといわれています。ユーロ安に関しては、ぼく自身は財政の問題ではないと思っていますが、ユーロという通貨を中心にした経済圏に対してNOが突きつけられた、ということになっています。1999年にユーロが始まって、98年あたりからすべての国の国債利回りがドイツの利回りに収斂していくというわけのわからない動きがあり、それにより一種のユーロバブル、ユーロブームができあがった。アイルランドなどでも不動産バブルが発生したわけですが、その反動でいま苦しんでいるのがスペインやギリシャなのかな、と思っています。バブルが崩れてしまって、ユーロは大丈夫なのかと懸念されている。

 

飯田 東日本大震災直後に『統計月報』(東洋経済新報社)の「エコノミスト・コンセンサス」を読んでいると、サプライチェーンへのダメージに関するもの一色だったんですね。ぼく自身も「サプライチェーンは切れた」「これはかなり深刻だ」と思っていました。でも、あっという間にある程度の水準まで回復した。日本の企業セクターはすごい、と本当にびっくりしました。

 

その後はタイの洪水まであったわけです。天変地異だけでオシャカになっていてもおかしくないほどの外的ショックを食らっている。それでも企業は大丈夫で、対照的に政府はどうしようもない、これが大きな特徴だと思うんですね。

 

そんななかで、円とユーロは対照的な動きをしました。でもこの一年の日本経済では、そこまで円が高くなる要因が揃っていたのでしょうか?

 

安達 それは、そもそも為替をどう見るかということに尽きますね。多くの方が「円安になる」と経済学的な意味での「期待」をしたのは、一つには日本の経済が壊れるだろうという予想もあったわけですが、もう一つは大規模な財政出動が行われ、それを金融政策がサポートする形での一種の緩和ポリシーミックスが早い段階であるだろうという予想があったと思います。一部の海外投資家などでも、大震災をきっかけに日本でもついにリフレ政策がなされるだろうという期待が、非常に大きくあったんですね。

 

実際は、たしかに最初はボーンと金融緩和しましたけども、いつも通りにボーンと出したあとにじわじわとお金の量を戻す、その繰り返しに終止してしまったので、いつものデフレのパターンにやっぱり入ってしまった。それが円高の最大の原因だと思っています。

 

 

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