タックス・ヘイブン問題の本質と「グローバル・タックス」の可能性とは

今、世界の注目を集めているパナマ文書。これによって、世界各国の首脳や著名人がタックスヘイブンを使い、マネーロンダリングや脱税をしていたのではと、一大スキャンダルに発展している。タックスヘイブンの実態とは何なのか、そしてグローバルな税逃れにどう対応していけば良いのか。横浜市立大学教授・上村雄彦氏が解説する。2016年04月05日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「パナマ文書の衝撃!タックス・ヘイブンの実態〜そしてグローバル・タックスの可能性とは」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

税は水際まで

 

荻上 ゲストをご紹介します。横浜市立大学教授の上村雄彦さんです。よろしくお願いします。

 

上村 よろしくお願いします。

 

荻上 さっそくですが今回流出したパナマ文書(パナマペーパー)について、どのようにご覧になっていますか。

 

上村 実は2013年に国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が同じようなタックスヘイブンのリストを暴露しています。今回は二回目なのでさほど驚きはなかったというのが第一印象です。

 

荻上 前回と今回の文書で質的な違いはあるのですか。

 

上村 やはり今回は、アイスランドの首相やプーチン大統領の側近の人であったり、サッカーのメッシ選手、ジャッキー・チェンなど、具体的な有名人の名前が出てきたので、そこが大きな違いかと思います。それから、タックスヘイブンの当事者から、膨大な量の生の情報が出てきたということも大きな違いですね。

 

荻上 なるほど。そもそもタックスヘイブン、「ヘブン(天国)」と勘違いされている方も多いかもしれませんが、これは租税天国という意味ではないんですよね。

 

上村 はい。「タックス」は税、「ヘイブン」は回避地ですから、租税回避地という意味です。法人税や所得税などの税金がゼロか極めて低い地域で、そこにだれがお金を移したかも明かされません。ですから、お金持ちの人やたくさん儲けている企業など、本来ならば税金を多く払わなければいけない人たちが、各地のタックスヘイブンにペーパーカンパニーをつくっています。そこに上手くお金を流すことによって自分の国に税金を納めずに済み、どこの企業がやった、どこの個人がやったということもわからずに済んでしまう。それが大きな問題となっています。

 

荻上 つまり、もともと税制を著しく安くしていたり、無税にしている地域が存在していたということですか?

 

上村 はい。タックスヘイブンといえば、カリブ海のヤシの木がそよぐような島々をイメージする人が多いと思います。たしかに、そうしたところも多いですが、専門家の間で一番のタックスヘイブンといえばロンドンです。あるいはニューヨークのマンハッタン。さらにルクセンブルクやスイスにような国々を挙げる人もいます。全世界でタックスヘイブンは約60箇所あると言われています。

 

荻上 なぜ先進国のど真ん中にタックスヘイブンができているのですか。

 

上村 ロンドンは、かつては工業で日の沈まない帝国でしたがだんだんと落ちぶれてきた街です。だから次はどうやって儲けようかと考えたときに、金融でなるべく多くのお金を呼び込もうとしたわけです。取引の手数料などで売り上げを上げていくためには、ここにお金を預けると得をすると思われるような仕組みが必要です。ですから税金を軽くするとか、さまざまな優遇策をつくりました。それがある意味、究極化していったのがタックスヘイブンなのだと考えています。

 

荻上 とくにイギリスの場合は地域の自治権が認められているので、大胆な金融事業を行う地域もあるということなのでしょうか。

 

上村 はい、そうです。特にシティはロンドンにありながら、昔から自治権が認められている地域です。また、タックスヘイブンとして知られるケイマン諸島、あるいはヴァージン諸島にしても、もともとはイギリスの植民地でした。言ってみればタックスヘイブン・ネットワークの中心にロンドンがあるといったイメージです。

 

荻上 なるほど。それではタックスヘイブンと呼ばれる場所は、概ねどこも税制を下げることによって地域の活性化をはかる目論見があったということでしょうか。

 

上村 はい。ただ、単独ではなくイギリスと手を組みながら進めていったのだと考えられます。税金を取らなくても手数料や免許料は入ってきますし、ペーパーカンパニーなので建物はほとんどありませんが、ある程度は人が入ってきます。その地域の経済を成り立たせる一つの方策としてタックスヘイブンがあるというわけです。

 

荻上 なぜイギリスと連携しながらタックスヘイブン化を図っていったのですか。

 

上村 もともとタックスヘイブンの起源は、イギリスの王家が巨額の財産を王領である近隣のガンジー島やジャージー島などの小さな島に移していたのが始まりです。こうした場所は、陸からは離れた場所という意味で「オフショア」と呼ばれます。よく「税は水際まで」と言われるように、国境あるいは陸を越えたところでは法の手が届きません。ですから税金を払わない、さらにはオフショア同士が取引することでお金の流れを不透明にしてしまうということが拡大してきたのだと考えられます。

 

荻上 イギリスの貴族文化のなかでタックスヘイブンを求める声がもともとあり、それも複数ある方が便利だということで各地に広がっていったわけですね。

 

上村 はい。また、タックスヘイブンが複数存在することによってマネーロンダリングの温床にもなりえます。要するにお金の流れが不透明ですので、武器を売ったとか人を殺したとか、いわゆる「汚れたお金」をタックスヘイブンに持っていけば、洗浄してまた綺麗なお金として戻すということが可能になるわけです。

 

荻上 そうした地域が複数あることは、マネーロンダリングだけではなくタックスヘイブンを利用する側にとって非常にうまみがあるので、複数のタックスヘイブンが連携して育ってきたわけですね。

 

上村 もう一点だけいうと、タックスヘイブンが各地域に生まれた要因としてあるのは、その地域に金融業あるいは企業を呼び込むために法人税を下げるという動きが広がっていったことです。それがエスカレートして各地が競い合うように税金を下げ、タックスヘイブン化していった面もあります。

 

 

上村氏

上村氏

 

 

税の根幹を揺るがす行為

 

荻上 そもそも、タックスヘイブンの問題点とは何なのでしょうか。

 

上村 多くの方は、真面目に税金を納められていますよね。日本の場合はとくに、源泉徴収という形で逃れようもなく取られています。億単位のお金を持っているようなお金持ちの人も、正々堂々と儲けたお金で税金を払い、社会に貢献しているのだったら何も問題はありません。しかし、そのお金をタックスヘイブンに持っていき、払うべく税金を払わないという状況はどう見ても不公正ですし、真面目に働いて税金を納めている人たちがバカを見る世の中になってしまいます。

 

もう一つ言うと、税とは社会を良くするために人類が生みだした究極の道具だと思うんです。社会にはうまくいく人とそうでない人がいますが、うまくいく人がうまくいかない人に対してバックアップできるような仕組みが税なんです。

 

「税なくして国家なし」です。みんなが税を納めるから、教育も福祉も医療サービスも提供でき、社会が安定する。だからこそお金持ちも企業も活動ができて、お金を儲けることができている。タックスヘイブンを利用する人はこうした根幹の部分が抜けているし、その根幹を揺るがせることをしていると思います。そこが最大の問題なんです。

 

荻上 税とは余裕のあるところからお金をとって、みんなで合意して必要なところで使いましょうという仕組みです。けれども自分だけは払わない、でも税金で作られた道路は堂々と利用するなんてことをお金持ちにされてしまうと、社会の公平から逸脱してしまいますよね。

 

しかし、これは厳密に言えば違法ではないのですか?

 

上村 非常に難しいのは、タックスヘイブンは国境を越えた取引だということです。「税は水際まで」、国境を越えてしまうと課税できませんから、その隙間をうまくついているんです。やっている行為は明らかに違法なのに、取り締まる法がうまく合致しないから、違法にならないんですよね。

 

荻上 法的にはグレーだが、倫理的な問題としては論点化されているわけですね。【次ページにつづく】

 

 

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