「韓国人学校は優遇されている」は本当か?――都有地貸し出しをめぐる誤認

3月16日、舛添都知事は、旧都立市ヶ谷商業高等学校の都有地を、生徒数が増え手狭になっている韓国人学校に貸し出す方針を発表した。

 

この方針について、都議会議員を含む人々から問題視する声が多く上がっている。彼らの反対理由は、このようなものだ。

 

・保育園などの「都民のための施設」を優先すべき

・定員割れしていて必要もないのに、増設を希望している

・韓国人学校だけ優遇されている

・外国人学校の整備は都の長期ビジョンに掲載されていない。都はもともと課題として認識していなかったにも関わらず、韓国人学校の建設が進められている

・学校のために特別支援学校の建設が中止になった

・増設は韓国の高額な接待によって決まった

 

結論からいうと、これらの根拠は非常に薄弱である。さらに、この件で韓国人学校に強く反対する人々は、インターネット上でヘイトスピーチをしたり、都心部で在日コリアンの排斥を目的とするヘイトデモなどを行っている人々と重なっている。

 

取材の結果得た学校の定員に関する情報もふくめ、反対派の主張の問題点をまとめたのでご紹介したい。

 

 

韓国人学校に「都民のためではない」と反対する都議たち

 

おりしも2月から「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログにより待機児童の問題が盛り上がっていたこともあり、柳ヶ瀬裕文都議とおときた駿都議がブログやtwitterなどで、保育園なども不足しているので「都民のための施設」を優先するべきという理由で韓国人学校に反対した。

 

柳ヶ瀬都議は「舛添知事の反論。韓国人学校より保育所をつくれ!その2」(2016年3月18日)と題したブログにて、

 

つまり、「都民の子どもや老人が困難な状況にある」にもかかわらず、韓国の子どもを優先するのかということです。優先順位が違う!のです。

 

おときた都議も自身のブログ「保育所より、障害児支援よりも韓国人学校?海外に熱心なあまり、都民が見えない舛添知事」(2016年3月18日)にて、

 

韓国人学校への都有地貸与で、われわれ都民が得られるものは何でしょうか?

 

とそれぞれが書いている。

 

まず問題なのは、両議員が、都内に韓国人学校を建てることは、韓国政府に対するサービスでしかなく、都民の利益に反するという主張をしていることだ。都民は日本人だけではない。韓国政府から依頼されたとはいえ、東京にある韓国人学校から便益を受けるのは地元の韓国系の家庭であり、都内に住んでいれば彼らも都民だ(外国人学校は東京にひとつしかない場合が多く、生徒は周辺の県からも通ってくる)。

 

都議らが韓国人学校のかわりに建設を求めている、保育園、老人ホーム、特別支援学校などの福祉施設にも、利用対象となる人とならない人がいる。それなのに、韓国人学校に対してだけ「韓国政府のためであり『都民』のためではない」という理由で反対するのは差別であると言われても仕方がないだろう。

 

 

「定員割れ」説は本当なのか、東京韓国学校に確認した

 

「韓国人学校(新宿区にある東京韓国学校)は定員割れで、本来不必要な増設をしている」というのが、反対する根拠のひとつとなっている。これはどういうことだろうか。

 

夕刊フジの記事および柳ヶ瀬都議のブログが元となっているようだ。

 

5月19日付けの夕刊フジによる「舛添都知事“韓国優遇”内部資料 都有地貸し出しで新事実 夕刊フジ独自入手」という記事では、2015年5月1日時点の生徒数と定員について、東京韓国学校(新宿区)の初等部(=小学校)は定員720人に対し、実際の児童数は707人で充足率は98%。同学校中・高等部も定員720人で、実際の生徒数は582人、充足率は81%だったと説明している。

 

それ以前から、柳ヶ瀬都議はブログで、この学校は定員割れしていると主張している。

 

東京新聞の取材では、増設が必要だと依頼を受けた「東京韓国学校」の現在の在籍数は約1300人となっています。定員総数の1440人には満たない状況です。

「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」2016年3月22日)

 

これらの主張が各種の2chまとめサイトなどに転載されていき、「実際には定員割れしているのに増設をもくろむ韓国人学校」という論調で語られていた。

 

この件について、筆者は、東京韓国学校中高等部副校長のジョン・テドゥン氏に取材を行った。すると、彼らの主張とは異なる事実が分かった。

 

まず、この学校に在籍している生徒の内訳は、永住者が40~50%、二重国籍などが10%で、残る40~50%が駐在員や大使館関連の家族など、滞在は数年程度の生徒である。特に最後のカテゴリの生徒は、日本語もあまりできず、日本の学校に通うのも難しいという。

 

今年の4月には、初等部は定員120名のところ、150名以上の応募があり、中等部には同じく定員120名のところ129名の応募があったという。

 

現在、この学校が東京都に許可されている定員は、初等部720名、中等部と高等部が各360名の合計1440名である。筆者の電話取材によると、現在(2016年4月時点)在籍しているのは1348名ということで、確かに定員よりは少ない。

 

実は、2012年に東京韓国学校は、初等部を300人から720人に、中・高等部を500人から720人に定員を増やし、これが都から認可されている(注)。

 

(注)平成23年度第11回東京都私立学校審議会(第707回)答申(2012年3月19日)

 

この時点で、すでに入学希望者が多すぎる状態が続いており、将来的に第二の学校をつくることも見こんで定員を多めに申請したと、テドゥン氏は言う。現在の敷地内で建物の増設をしたわけではない。現在の敷地では狭すぎるからだ。

 

このため、もともと各学年2クラスの予定だったが、現在は高校2年生以下の学年は3クラスになっている。そのため教室が足りず、図書館も部分的に一般教室にしているくらいだという。当初想定していた生徒数よりも増えて、調理室の規模も足りないので給食も出せない状況であるようだ。

 

夕刊フジの記事では、日本で唯一の英国人学校である「ブリティッシュ・スクール・イン・東京」および分校の「ブリティッシュ・スクール・イン・トウキョウ昭和」2校の充足率(在籍児童・生徒数を定員で割った値)は120〜130%に達しているともあるが、東京韓国学校の現在の在籍児童・生徒(1348人)と申請前の定員(800人)で同様に充足率を計算すると、169%となる。

 

 

「韓国人学校だけ優遇」のウソ

 

このほか、両都議はブログで、各種の外国人学校のなかでも韓国人学校だけが優遇されていると述べている。

 

柳ヶ瀬都議は、

 

韓国人学校だけ優遇される理由はなにかという点です。都内には認可された外国人学校が26校ありますが、そのほとんどは自前で土地を確保し、校舎を建設しています。

(「舛添知事は、韓国人学校より保育所をつくれ!」2016年3月17日)

 

おときた都議は、桐島ローランド氏の「そもそもこういった優遇をするからヘイトスピーチが生まれる。」というツイートを引用しながら

 

なぜ数ある外国の中で、「韓国」なのかという理由の説明ができないからです。舛添知事の理不尽で不可解とも言える韓国優遇策は逆に都民からの反発を招き、桐島氏が指摘するように、いわゆる「ヘイトスピーチ」などの行為を助長させる可能性すらも否定できません。

「保育所より、障害児支援よりも韓国人学校?海外に熱心なあまり、都民が見えない舛添知事」2016年3月18日より)

 

とそれぞれブログに書いた。

 

東京都は過去にフランス人学校の建設のため、フランス政府に都立高校の跡地を売却している。この件について議論したのは2010年10月4日の東京都財政委員会である。複数の議題を扱う長い議事録なので、今回の問題に関連する部分を(a)〜(c)に分けて引用する。

 

(a) 斉藤委員「先日、二十三区の特別区長会のご要望も伺う機会がございましたが、例えば特別養護老人ホームは各地域では絶対的に不足しているという指摘の中で、ネックになっているのが非常に高い土地であると。そういった観点から、都有地を安く地元に提供していただけないかという、そういう各区長の訴えもあって、上がっているわけでございます。

第一回定例会で、当委員会におきましても、私、施策実現のための財産利活用につきましてお伺いをしたわけでございます。そのやりとりの中で、財務局長からは、保有財産に対する施策方針について、売却を含めた財源確保から、保持したままでの有効活用に転換をしていくという、東京都の施策の連動や貢献を進めていくことに軸足を移していると。そのため、今後、一層都有地の有効活用を進めていくという、そういうご答弁をいただいております。

そのような利活用の基本的な考え方を展開する中で、都財務局は、〇四年に閉校になった旧都立池袋商業高等学校の建物、土地を、今般、フランス政府に売却する議案を定例会に提出しております。」

 

(b) 菅委員「このたびの売却については、フランス政府からの強い要請によって、在日フランス人学校として活用されるということであり、現在のフランス人学校が二つに分かれていて、かつ手狭となった、こういうために、この広い敷地を活用して新しい学校をつくるということであります。」

 

(c) 松本財産運用部長「旧池袋商業高校の跡地につきましては、フランス政府からの強い購入希望があり、日仏友好関係への配慮をすべきこと、在日フランス人子弟の教育充実という公益性のある、公共性のある事業目的であることなどから、フランス政府に対し売却を行うものであり、このことは地元区も歓迎をしてございます。」

 

要約すると、ここも同じく都立高校(池袋商業高校)の跡地である。各区から特別養護老人ホームを作りたいが地価が高くて作れず、都有地を安く使わせてほしいという要望もあるので、都は基本的には都有地を売らずに保有したまま活用していく方針である。ただし今回はフランス政府の強い要望もあり、同政府に土地を売却する。これは日仏の友好関係に配慮すべきこと、在日フランス人子弟の教育のためという公共性のある目的なので問題はない、という内容だ。

 

この土地を福祉目的で使いたいという区からの要望はあるが、外国との友好関係および外国人の子どもたちの教育のために用地を提供する――用地を有償で貸与するのか売却かという点を除けば、今回の韓国人学校をめぐる議論と同じである。しかしこの件でフランス人がヘイトスピーチの対象になっただろうか?

 

したがって、両議員および桐島ローランド氏が主張している、各種外国人学校のなかで韓国人学校だけが優遇されており、このような優遇があるからヘイトスピーチの対象にもなる、という意見は間違っている。むしろ、都議という立場で過去の事例を調べもせず、韓国のみが不当に優遇されているという主張そのものが「在日特権」デマにも似たヘイトスピーチだと筆者は考える。

 

なお、柳ケ瀬都議は、ブログで以下のような主張もしている。

 

都は「外国人学校の整備」について、どの計画(長期ビジョン等)にも位置づけをしていません。これまで「どうぞ各国で整備してください。都は認可だけやります」というスタンスで、都の課題として存在していないのです。」

(「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」(2016年3月22日))

 

しかし、インターネットに公開されている「東京都長期ビジョン」には「都市戦略6 世界をリードするグローバル都市の実現」内に「外国人対応の医療施設やインターナショナルスクールの整備促進、ワンストップでの相談対応など、外国企業の従業員やその家族が安心して暮らせる環境の充実を図る。」と書かれている。

 

つまり「世界をリードするグローバル都市」であるために、外国人学校などの外国人家族の生活環境を整備するのは東京都の課題として設定されており、こちらも事実とは異なる。【次ページにつづく】

 

「ポピュリズムはなぜややこしいのか?」

 

「日本社会は本当に右傾化しているのか?――”ネットとレイシズム”から読み解く」

α-synodos03-2

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.224 特集:分断を乗り越える

・吉田徹氏インタビュー 「ポピュリズムはなぜややこしいのか?」

・【ヘイトスピーチQ&A】 明戸隆浩(解説)「ヘイトスピーチ解消法施行後の現状と課題」

・【今月のポジ出し!】 荻上チキ 「今からでも遅くない!メディアを鍛える15の提言」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文) 「Yeah! めっちゃ平日」第七回