2016.05.25

「韓国人学校は優遇されている」は本当か?――都有地貸し出しをめぐる誤認

吉田悠子 ライター

政治 #韓国人学校#都有地貸出

3月16日、舛添都知事は、旧都立市ヶ谷商業高等学校の都有地を、生徒数が増え手狭になっている韓国人学校に貸し出す方針を発表した。

この方針について、都議会議員を含む人々から問題視する声が多く上がっている。彼らの反対理由は、このようなものだ。

・保育園などの「都民のための施設」を優先すべき

・定員割れしていて必要もないのに、増設を希望している

・韓国人学校だけ優遇されている

・外国人学校の整備は都の長期ビジョンに掲載されていない。都はもともと課題として認識していなかったにも関わらず、韓国人学校の建設が進められている

・学校のために特別支援学校の建設が中止になった

・増設は韓国の高額な接待によって決まった

結論からいうと、これらの根拠は非常に薄弱である。さらに、この件で韓国人学校に強く反対する人々は、インターネット上でヘイトスピーチをしたり、都心部で在日コリアンの排斥を目的とするヘイトデモなどを行っている人々と重なっている。

取材の結果得た学校の定員に関する情報もふくめ、反対派の主張の問題点をまとめたのでご紹介したい。

韓国人学校に「都民のためではない」と反対する都議たち

おりしも2月から「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログにより待機児童の問題が盛り上がっていたこともあり、柳ヶ瀬裕文都議とおときた駿都議がブログやtwitterなどで、保育園なども不足しているので「都民のための施設」を優先するべきという理由で韓国人学校に反対した。

柳ヶ瀬都議は「舛添知事の反論。韓国人学校より保育所をつくれ!その2」(2016年3月18日)と題したブログにて、

つまり、「都民の子どもや老人が困難な状況にある」にもかかわらず、韓国の子どもを優先するのかということです。優先順位が違う!のです。

おときた都議も自身のブログ「保育所より、障害児支援よりも韓国人学校?海外に熱心なあまり、都民が見えない舛添知事」(2016年3月18日)にて、

韓国人学校への都有地貸与で、われわれ都民が得られるものは何でしょうか?

とそれぞれが書いている。

まず問題なのは、両議員が、都内に韓国人学校を建てることは、韓国政府に対するサービスでしかなく、都民の利益に反するという主張をしていることだ。都民は日本人だけではない。韓国政府から依頼されたとはいえ、東京にある韓国人学校から便益を受けるのは地元の韓国系の家庭であり、都内に住んでいれば彼らも都民だ(外国人学校は東京にひとつしかない場合が多く、生徒は周辺の県からも通ってくる)。

都議らが韓国人学校のかわりに建設を求めている、保育園、老人ホーム、特別支援学校などの福祉施設にも、利用対象となる人とならない人がいる。それなのに、韓国人学校に対してだけ「韓国政府のためであり『都民』のためではない」という理由で反対するのは差別であると言われても仕方がないだろう。

「定員割れ」説は本当なのか、東京韓国学校に確認した

「韓国人学校(新宿区にある東京韓国学校)は定員割れで、本来不必要な増設をしている」というのが、反対する根拠のひとつとなっている。これはどういうことだろうか。

夕刊フジの記事および柳ヶ瀬都議のブログが元となっているようだ。

5月19日付けの夕刊フジによる「舛添都知事“韓国優遇”内部資料 都有地貸し出しで新事実 夕刊フジ独自入手」という記事では、2015年5月1日時点の生徒数と定員について、東京韓国学校(新宿区)の初等部(=小学校)は定員720人に対し、実際の児童数は707人で充足率は98%。同学校中・高等部も定員720人で、実際の生徒数は582人、充足率は81%だったと説明している。

それ以前から、柳ヶ瀬都議はブログで、この学校は定員割れしていると主張している。

東京新聞の取材では、増設が必要だと依頼を受けた「東京韓国学校」の現在の在籍数は約1300人となっています。定員総数の1440人には満たない状況です。

「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」2016年3月22日)

これらの主張が各種の2chまとめサイトなどに転載されていき、「実際には定員割れしているのに増設をもくろむ韓国人学校」という論調で語られていた。

この件について、筆者は、東京韓国学校中高等部副校長のジョン・テドゥン氏に取材を行った。すると、彼らの主張とは異なる事実が分かった。

まず、この学校に在籍している生徒の内訳は、永住者が40~50%、二重国籍などが10%で、残る40~50%が駐在員や大使館関連の家族など、滞在は数年程度の生徒である。特に最後のカテゴリの生徒は、日本語もあまりできず、日本の学校に通うのも難しいという。

今年の4月には、初等部は定員120名のところ、150名以上の応募があり、中等部には同じく定員120名のところ129名の応募があったという。

現在、この学校が東京都に許可されている定員は、初等部720名、中等部と高等部が各360名の合計1440名である。筆者の電話取材によると、現在(2016年4月時点)在籍しているのは1348名ということで、確かに定員よりは少ない。

実は、2012年に東京韓国学校は、初等部を300人から720人に、中・高等部を500人から720人に定員を増やし、これが都から認可されている(注)。

(注)平成23年度第11回東京都私立学校審議会(第707回)答申(2012年3月19日)

この時点で、すでに入学希望者が多すぎる状態が続いており、将来的に第二の学校をつくることも見こんで定員を多めに申請したと、テドゥン氏は言う。現在の敷地内で建物の増設をしたわけではない。現在の敷地では狭すぎるからだ。

このため、もともと各学年2クラスの予定だったが、現在は高校2年生以下の学年は3クラスになっている。そのため教室が足りず、図書館も部分的に一般教室にしているくらいだという。当初想定していた生徒数よりも増えて、調理室の規模も足りないので給食も出せない状況であるようだ。

夕刊フジの記事では、日本で唯一の英国人学校である「ブリティッシュ・スクール・イン・東京」および分校の「ブリティッシュ・スクール・イン・トウキョウ昭和」2校の充足率(在籍児童・生徒数を定員で割った値)は120〜130%に達しているともあるが、東京韓国学校の現在の在籍児童・生徒(1348人)と申請前の定員(800人)で同様に充足率を計算すると、169%となる。

「韓国人学校だけ優遇」のウソ

このほか、両都議はブログで、各種の外国人学校のなかでも韓国人学校だけが優遇されていると述べている。

柳ヶ瀬都議は、

韓国人学校だけ優遇される理由はなにかという点です。都内には認可された外国人学校が26校ありますが、そのほとんどは自前で土地を確保し、校舎を建設しています。

(「舛添知事は、韓国人学校より保育所をつくれ!」2016年3月17日)

おときた都議は、桐島ローランド氏の「そもそもこういった優遇をするからヘイトスピーチが生まれる。」というツイートを引用しながら

なぜ数ある外国の中で、「韓国」なのかという理由の説明ができないからです。舛添知事の理不尽で不可解とも言える韓国優遇策は逆に都民からの反発を招き、桐島氏が指摘するように、いわゆる「ヘイトスピーチ」などの行為を助長させる可能性すらも否定できません。

「保育所より、障害児支援よりも韓国人学校?海外に熱心なあまり、都民が見えない舛添知事」2016年3月18日より)

とそれぞれブログに書いた。

東京都は過去にフランス人学校の建設のため、フランス政府に都立高校の跡地を売却している。この件について議論したのは2010年10月4日の東京都財政委員会である。複数の議題を扱う長い議事録なので、今回の問題に関連する部分を(a)〜(c)に分けて引用する。

(a) 斉藤委員「先日、二十三区の特別区長会のご要望も伺う機会がございましたが、例えば特別養護老人ホームは各地域では絶対的に不足しているという指摘の中で、ネックになっているのが非常に高い土地であると。そういった観点から、都有地を安く地元に提供していただけないかという、そういう各区長の訴えもあって、上がっているわけでございます。

第一回定例会で、当委員会におきましても、私、施策実現のための財産利活用につきましてお伺いをしたわけでございます。そのやりとりの中で、財務局長からは、保有財産に対する施策方針について、売却を含めた財源確保から、保持したままでの有効活用に転換をしていくという、東京都の施策の連動や貢献を進めていくことに軸足を移していると。そのため、今後、一層都有地の有効活用を進めていくという、そういうご答弁をいただいております。

そのような利活用の基本的な考え方を展開する中で、都財務局は、〇四年に閉校になった旧都立池袋商業高等学校の建物、土地を、今般、フランス政府に売却する議案を定例会に提出しております。」

(b) 菅委員「このたびの売却については、フランス政府からの強い要請によって、在日フランス人学校として活用されるということであり、現在のフランス人学校が二つに分かれていて、かつ手狭となった、こういうために、この広い敷地を活用して新しい学校をつくるということであります。」

(c) 松本財産運用部長「旧池袋商業高校の跡地につきましては、フランス政府からの強い購入希望があり、日仏友好関係への配慮をすべきこと、在日フランス人子弟の教育充実という公益性のある、公共性のある事業目的であることなどから、フランス政府に対し売却を行うものであり、このことは地元区も歓迎をしてございます。」

要約すると、ここも同じく都立高校(池袋商業高校)の跡地である。各区から特別養護老人ホームを作りたいが地価が高くて作れず、都有地を安く使わせてほしいという要望もあるので、都は基本的には都有地を売らずに保有したまま活用していく方針である。ただし今回はフランス政府の強い要望もあり、同政府に土地を売却する。これは日仏の友好関係に配慮すべきこと、在日フランス人子弟の教育のためという公共性のある目的なので問題はない、という内容だ。

この土地を福祉目的で使いたいという区からの要望はあるが、外国との友好関係および外国人の子どもたちの教育のために用地を提供する――用地を有償で貸与するのか売却かという点を除けば、今回の韓国人学校をめぐる議論と同じである。しかしこの件でフランス人がヘイトスピーチの対象になっただろうか?

したがって、両議員および桐島ローランド氏が主張している、各種外国人学校のなかで韓国人学校だけが優遇されており、このような優遇があるからヘイトスピーチの対象にもなる、という意見は間違っている。むしろ、都議という立場で過去の事例を調べもせず、韓国のみが不当に優遇されているという主張そのものが「在日特権」デマにも似たヘイトスピーチだと筆者は考える。

なお、柳ケ瀬都議は、ブログで以下のような主張もしている。

都は「外国人学校の整備」について、どの計画(長期ビジョン等)にも位置づけをしていません。これまで「どうぞ各国で整備してください。都は認可だけやります」というスタンスで、都の課題として存在していないのです。」

(「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」(2016年3月22日))

しかし、インターネットに公開されている「東京都長期ビジョン」には「都市戦略6 世界をリードするグローバル都市の実現」内に「外国人対応の医療施設やインターナショナルスクールの整備促進、ワンストップでの相談対応など、外国企業の従業員やその家族が安心して暮らせる環境の充実を図る。」と書かれている。

つまり「世界をリードするグローバル都市」であるために、外国人学校などの外国人家族の生活環境を整備するのは東京都の課題として設定されており、こちらも事実とは異なる。

排外主義的市民団体による反対運動

排外主義的市民団体による韓国人学校反対運動も行われている。もちろん、都有地を別の用途で利用してほしいから韓国人学校に反対したり、舛添知事の行う政策はよくないと考えリコールを求めたりすること自体は差別でもヘイトスピーチでもない。ただし、こうした抗議行動では「なぜ韓国人学校に反対か」という理由が述べられ、そこにはヘイトスピーチが多く含まれている。

産経新聞は、このような市民団体による韓国人学校反対運動を熱心に追いかけ記事にしている。まず3月20日に「なぜ韓国人学校に都有地貸し出し?批判1日で300件 「保育所整備に使って」「外交より都民優先を」」、そして同25日には「都庁前でデモ、批判3千件超が殺到 舛添知事は「撤回しない」」と題する記事を発表した。

上記の記事に紹介されている、保守系市民団体「頑張れ日本!全国行動委員会」が3月25日に都庁前で抗議を行った様子は「日本文化チャンネル桜」によりニコニコ動画にアップロードされている(注)。

(注)日本文化チャンネル桜 【都政の私物化を許すな】3.25 都有地『韓国人学校貸与』絶対反対!緊急抗議行動[桜H28/3/28] (2016年3月28日)

動画では、林立する日の丸の中で何人もがスピーチを行っている。多くのスピーチでは、上記の都議らと同じく「都民のための施設を優先せよ」と言っている。なかには「税金は都民が払っているのですよ、韓国ではありません」というスピーチもあるが、言うまでもなく外国籍の都民も税金を払っている。

時事通信の記事「【特集】「舛添批判」を考える」(2016年4月26日)およびodd_hatch氏のツイート(注)によると「頑張れ日本!全国行動委員会」は、さらに4月16日にも、新宿などの駅前で街宣をし、「都有地に保育所を!」「都有地 韓国学校 絶対反対!」と書かれたTシャツを着た人々がJR山手線に乗り込むという抗議行動をおこなった。

(注)odd_hatch氏のツイートを筆者がまとめたもの「2016/4/16 「頑張れ日本!全国行動委員会」による街宣と山手線乗り込みアピール」(2016年4月16日)

このほか同団体は数回にわたって現地周辺でビラ配りをしたほか、5月21日にも新宿駅前で抗議行動を行った。このときに配布されたチラシには、「定員割れの韓国人学校に貴重な都有地を貸与」「特別支援学校建設まで中止!」と書かれている。「定員割れ」の実態についてはすでに述べたが、特別支援学校は別の敷地に変更されており、中止になったというのは嘘である。

koreanschool

3月26日には、「行動する保守運動」のウェブサイトで告知された「舛添都知事リコールデモin新宿」と題したデモが新宿で行われた。このデモには「在日特権を許さない会」通称在特会の前会長である桜井誠氏も参加した。在特会は、民事裁判でおよそ1200万円の賠償を課された京都朝鮮学校襲撃事件など、ヘイトスピーチ、ヘイトデモを行う団体の代表格である。

このカレンダーで告知されるデモには、在特会と関係の深いメンバーが参加することが多い。このデモのプラカードとしては「都有地を反日国家韓国に貸与するな」「何故緊急性も無いのに 韓国学校を誘致するのか しかも防衛省の近くである 外患誘致罪に匹敵する」などというものがあった。

このような反対意見に対して、舛添知事は3月18日の記者会見で、産経新聞記者からの質問に答えて

いろいろな声があるのは当たり前なので、政策の判断ですから、私の判断でやって(中略)なぜ韓国ということだけにそんなにこだわられるのかということが、私はまだ分からないです。(中略)世界に開かれたまちとしてできるだけのことは、特に子供の教育の話ですから、努力をしたいと思っております。

舛添知事定例記者会見 2016年3月18日

と返答するなど、一貫して否定的な対応をしている。

「変更の可能性もある」と付記されていた特別支援学校

この土地は、以前は特別支援学校にする予定であったものが変更された。先にも述べたように、頑張れ日本は、この特別支援学校の計画が中止されたと主張しているが、これは誤りであり、同じ新宿区内のより広い別の敷地に変更されている。

柳ケ瀬都議は「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」(2016年3月22日)と題するブログ内でこの件を問題視している。同都議がブログに引用している「平成27年 第8回 東京都教育委員会定例会議事録」 (2015年5月21日)は、ブログからはリンクされていないが、インターネットで閲覧できる。

必要な部分を(a)〜(c)に分けて引用する。

(a)【特別支援教育推進担当部長】 (略)2の設置場所の課題にありますとおり、本地については、周囲の道路が狭あいということで、実際の設計に向けての調整に入ったところ、道路幅員が4メートル未満であること、近隣との調整が非常に困難であること、新宿区の拡幅事業を行う場合には相当期間の調整が必要だということ、更には、土地の面積が少なくて、立ち上がったところで延床面積もかなり少ないということもあり、調整が非常に困難であるという状況でした。

同時に、他に良い土地はないか探していたところ、その後、活用可能な都有地が新宿区内に、面積が広く、片側2車線の広い道路に面している土地が見つかり、そちらの方に変更を前提とした調整を進めさせていただきたいと考えています。

場所は、新宿区戸山3丁目にあります東京都心身障害者福祉センターが他の土地に移転をするということで、移転後に本校を設置したいと考えています。土地の状況ですが、面積は1万平米弱ですが、建ぺい率、容積率等を掛けて、延床面積として3万平米弱確保することができ、当初の計画に対しても、かなり広い場所を確保できる予定です。

(b)【竹花委員】 本計画は、平成22年11月に都教育委員会で決定したものですか。

【特別支援教育推進担当部長】 そうです。

【竹花委員】 本計画の中に、設置場所として新宿区矢来町と決めていたわけですね。

【特別支援教育推進担当部長】 はい。一覧表の中で決めていますが、調整を進める上で、変更になる可能性があるということを注意書きで付しています。

【竹花委員】 そういうこともあり得べしということを想定した上で計画を策定したわけですね。

【特別支援教育推進担当部長】 はい。

【竹花委員】 気になるのは、近隣住民等との事前調整の困難度が髙いと書いてありますが、何が理由で事前調整が難しいということですか。

【特別支援教育推進担当部長】 もともと道路が非常に狭いために、工事車両が通るに当たって、近隣の土地を隅切りで通らせていただくとか、そういったことまで発生するなど、通常の工事に比較しても困難だというところもあります。

(c)【特別支援教育推進担当部長】 (略)それから、増えていることへの対応ということで、新しい学校に来られる生徒は近隣の中野特別支援学校と王子特別支援学校に通っているわけですけれども、王子の方は既に計画上の増改築をする予定で、そちらの方でも吸収してまいりたいと思っています。

議事録には、もともとの旧都立高校の敷地への決定の際にも「変更になる可能性がある」と付記されていたこと、この敷地では周辺道路が狭いため工事車両の通行が難しく、近隣の土地を隅切りで通る必要もあること、特別支援学校の完成は遅れるものの、同じ新宿区内にある変更後の土地の方が面積が広く、予定よりもかなり広い施設にできること、現在増加中の生徒は王子と中野の2カ所の特別支援学校に通っているが、新しい施設ができるまでは王子の特別支援学校を増築し、そちらで増えた生徒を吸収することなどが記載されている。

計画変更により可能になる延床面積は、議事録によると、最初の予定であった、市ヶ谷商業高校の跡地の場合「土地面積が6,000平米余ということで、建ぺい率、容積率を掛けても、延床面積として1万平米弱」、変更後の東京都心身障害者福祉センター跡地の場合「面積は1万平米弱ですが、建ぺい率、容積率等を掛けて、延床面積として3万平米弱確保することができる」と、およそ3倍になる。

高額な外遊費と韓国人学校の増設に関係はあるか

舛添知事は2014年7月にソウルに外遊した際、朴大統領にこの件について依頼されたという。このときをふくめ、ロンドン・パリなどへの外遊の費用が高価すぎると、今年4月ごろから各週刊誌やおときた都議のブログなどによって話題となった。

特にこの記事で問題にしているソウル外遊と韓国人学校については、週刊ポスト 4月15日号で詳しく取り上げている。「<徹底追跡> 1泊7万円スイートだけじゃなく、高級料亭接待で上機嫌 都心の一等地を韓国人学校に差し出した舛添都知事『2泊3日1000万円ソウル出張』を検証する」というタイトルだ。

この記事によると、2014年7月23日から25日に2泊3日で、舛添知事とスタッフ計11名の出張費用として合計1007万円が使われた。滞在中にはソウル市から接待を受け、その費用は日韓合わせて14人の食事代として合計約25万円だという。ただし、この記事には朴大統領に韓国人学校について依頼されたが、ソウル市は韓国人学校には関与していないとも書かれている。

筆者は、舛添知事の外遊費が高額すぎるという問題は追及すればよいと思う。ただし、現時点では韓国政府など韓国人学校の増設を希望する側から法外な額の接待をされたという証拠はない。都側の使った金額が多いことは、韓国人学校の増設に関する知事の意思決定が歪んでいると主張する理由にはならないと考える。

結論:差別のない、事実にもとづいた調査と議論を

韓国人学校に強く反対している、柳ケ瀬・おときた両都議および排外主義的団体やメディアが述べている主な反対理由とその問題点を列挙する。

・「外国籍の都民」という存在を想定しておらず、「外国人学校は、都内に居住する外国人ではなくその本国政府へのサービスだから、その他の行政サービスより優先順位は低くて当然」という差別的な前提にもとづく

・「韓国人学校は定員割れしているのに、必要のない増設を希望している」という主張については、将来の増設を見越して多めに申請した定員を下回っているだけで、実際に現在の敷地だけでは手狭になっている

・「都は外国人学校の中でも韓国人学校だけを優遇している」という主張は誤りで、都は過去にフランス人学校にも同様な議論を経て土地を提供した

・「外国人学校の整備は都の長期ビジョンに掲載されておらず、都はもともと課題として認識していなかった」という主張も誤りで、実際には長期ビジョンに載っている

・もともとこの敷地に予定されていた特別支援学校は、最初に予定された際に変更もありうると付記されており、用地が変更になったことで完成は遅れるが、すでに用意されている新宿区内の別の土地に、およそ3倍の面積で建設される。また完成が遅れた期間中の増員は、既存の特別支援学校の増築で吸収する

今回、東京韓国学校に取材し、手狭になっている事情は理解できた。都は、この場所を韓国人学校に貸し出す理由として、旧高校の校舎や体育館をそのまま利用できるからと答弁しており(注)、このことからも韓国人学校に転用するのは妥当な選択だと思われる。

(注) 東京都生活文化局「都への提言、要望等の状況 月例報告(3月分)」(2016年4月25日)

しかし、この都有地は貴重な都心部のまとまった土地なので、よく検討して最もふさわしい目的に利用すればよく、結果として韓国人学校にならなくても問題ないと筆者は思う。この場所に要望されているという特別支援学校や保育園などの需要がどれほど逼迫しているのか、それぞれの施設がこの敷地にある必要性を調査してフラットに比較するのは筆者には手にあまるが、この場所をほかの施設にするべきだと思う人は、きちんと調べて議論の俎上に載せるのもよいだろう。一都民として、都議や各種メディアには差別のない、事実に基づいた調査と議論を期待する。

(編集部注)引用元のホームページは5月24日に最終確認したものです。

プロフィール

吉田悠子ライター

基本的には専業主婦として2歳児を育てている。ヘイトスピーチ問題に関心を持ち、2歳児が寝ているときおよび預かってもらえるときのみ、ほそぼそと執筆している。出版社やネット企業勤務などを経て現職。
ブログ: https://medium.com/@yuco twitterID:@yuco

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